駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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6.楽園での休日

2.崩壊していくもの

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説明回です。

*****

 西洋社会で貴族制封建主義が崩壊した理由は、貨幣経済の導入と黒死病の流行による農村人口の激減が、きっかけの一つとされています。

 農産物などの現物経済から貨幣経済に切り替わる事によって、従来の賦役(領主に対する無償の労働など)や税として納めていた農産物に変わって、お金で税を納めるようになります。
 そして、貨幣というのは農産物とちがって腐る物ではありませんから、平民の中には節約することによって貯蓄し財を成す者の現れます。
 やがて富裕な商人や農民の中には、領主に多額の解放金を払うことによって、領主の奴隷的な身分から解放されるのです。これによって、領主と領民の関係が大きく変わり始めます。

 領主が王に納める税も貨幣になりますから、領地経営の上手い領主と下手な領主、やり繰りの上手い領主と浪費家の領主では、貴族としての位の高さと関係なく貧富の差ができてしまいます。
 多くの場合、古くから続く家柄の貴族よりも、新興貴族の方がお金を持っている場合も多くなるのです。古くから続く貴族は、対面を保つ為にお金を湯水のように使いますからね。
 貴族の格式や家柄と、持っている財の関係も変わり、上位貴族=裕福とは限らなくなり、場合によっては裕福な下位貴族の娘を、持参金目当てで伴侶とする上位貴族も現れるのです。
 王への喜捨によって貴族となった新興貴族は、財を持っている者が多いですから、貴族間の対立も生まれてしまいますね。

 また、黒死病の蔓延によって、農村の人口が減ってしまったので、人口が減ったままでは税収も上がりませんから、領主は当面の税収を下げて、多産を奨励するでしょう。
 そうなると当座の収入の減った領主の中には、王への税を納める為に、農民を開放することで解放金を手に入れる者もでますし、中には裕福な商人からお金を借りる領主もでます。

 これが続けば、領民=領主の奴隷ではなく、わずかな税を払うだけの自由民というが増えていきますし、借金の所為で商人に頭が上がらない領主も出ます。これによって身分=立場の関係が崩壊していくんですよね。
 自由農民の増加が、領主に入る収入を減らし、困窮した領主はやがて圧政を引いたりして農民の反発を招き、一揆や反乱につながりますが、兵も俸給で働いている為、以前ほど数を動員できなくなり、反乱の鎮圧に失敗するという流れですね。

 帝政エリクシアでも、貨幣経済は導入済みであり、東西エリクシアは黒死病によって人口を大きく減じました。特に西部エリクシアは、オルティアさんの政策により、多数の奴隷が投入され、一般市民・自由農民になる者が増えています。
 市民が増えても、各貴族家の兵は減ったままですから、反乱が起きれば鎮圧はできず、領主である貴族の多くは、戦いに敗れ死ぬことになるでしょう。既に封建制の崩壊の兆しは、起きているのです。

 さらに、地球と異なるのは、アレキサンドリアと解放都市の存在です。帝政エリクシアから来て、この地で自由を味わった人は、母国に戻った時どう思うでしょう。
 一度自由を味わった人々が、再び領主の奴隷となる事は恐らくないでしょうね。そして、戻った人々は多かれ少なかれ、知識を得ていますから、人々を奴隷的身分から解放する指導者になる可能性が高いと思います。

 僕は心の中で、冷ややかな恐怖を覚えてしまいます。アレキサンドリアと開放都市チッタ・アペルタの存在は、300~400年かけて緩やかに移り行く時代の流れを、加速させてしまったのかもしれません。
 開放都市チッタ・アペルタを建都したロンタノ辺境伯アレクシスは、どこまでこの事を想定しているのでしょうか? 彼の父や兄弟、友人であるオリバーたちの足元自体を崩壊させてしまう引き金は、意図的に引かれているのでしょうか?
 彼は、周辺各国からも、開放都市チッタ・アペルタに職人や商人を受け入れています。もともと富裕な彼らに、知識と身分差の無い生活を体験させています。母国に戻った彼らは、どう動くのでしょう?

 そして、エリーゼさんやオルティアさんは聡明ですが、彼女たちは自分が当然と考えていた社会体制が、農民や市民の力で崩壊していくと考え付くことができるでしょうか?
 もしもできなければ、オリバーを含めた彼女たちを待つ未来は、美しくても一般の人々の生活や思いを理解することもできなかった、フランスの王妃マリーアントワネットをなぞる事になるかもしれません。

 僕は開放都市チッタ・アペルタの生活を楽しんでいるエリーゼさんに、無理やり作った笑顔を浮かべながら会話しつつ、彼女の未来が不幸なものでないように、心から祈ったのでした。

*****

「クロエ、途中からおかしかったわね。エリーゼさんがどうかしたの?」

 エリーゼさんと別れて、アレキサンドリアへ帰る地下鉄の中で、僕はイリスさんに問質といただされました。ユイも僕のことをじっと見つめています。

「ん、オルティアさんが恐れているモノが解る気がしたんだ」

 僕はイリスさんとユイに説明します。アレキサンドリアと開放都市チッタ・アペルタの持つ自由な立場と空気、これが彼女が本当に恐れなければならないモノだと気づくか。そして、気づいた場合、どう出るかという事を考えていたことを。

「自由を知った領民が、知識と財貨をもって国を亡ぼすねぇ……」

 イリスさんは半信半疑なようですね。

「領民に重税を課すような一部の貴族はそれで倒されると思いますが、帝政エリクシアのような大国がそれで倒れてしまうものでしょうか?」

 ユイも懐疑的ですね。この二人がそう思うなら、なおさらエリーゼさんもオルティアさんも、知識と財を得た市民・領民の本当の力に気づくのは遅れるという事です。そして、それは致命的なものとなるでしょう。

「クロエ、さすがにそれは考えすぎじゃないかしら?」

「えぇ、幼いころに領民の一揆で、代官が死んで変わったりすることはありましたが、国そのものには変わりは在りませんでしたし」

 あぁ、ユイは元皇女ですから、身分制度のある国での体験はありますもんね。

「ん、まぁ僕の考えすぎなら良いんだけどね」

 さすがに、知り合いが断頭台ギロチンにかけられたり、市民に辱めを受ける想像は、僕にも精神的負担は大きいですからね。まだ杞憂の段階ですし、僕たちの代でそれが起きるとは限らない訳ですから。

「それで、『QAクイーンアレキサンドリア』はどうするの? 3月になれば、わたくしもユイも魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア(Scuola di tecnologia)】から手があきますし、アネル・デュプロに拠点をつくるのでしょう?」

 そうなんですよね。オスカー船長の船の改修も間もなく終わり、元の任地である南洋諸島海域に戻ります。テネリの港を拠点にすれば、その事を政治的に利用されかねないので、拠点の作成は急がないといけません。

「飛空艇の発着場と桟橋をつくれば、テネリで人を雇ったりできるんでしょうけど……」

「いま『QAクイーンアレキサンドリア』を動かすのもねぇ」

 ユイとイリスさんも思案顔です。DM2は速度が遅いので、アネル・デュプロに向かうには使えません。海賊船との戦いには、DM2は兵装がないですから使用できませんし、最小限の武装は必要かもしれませんね。

「『QAクイーンアレキサンドリア』を動かすにも、桟橋とかはあった方がいいしね。試作機をだしてみるしかないかなぁ」

 僕がつぶやくと、イリスさんとユイが呆れ顔です。どうしたんでしょうか?

「ねぇクロエ。貴女未来視のスキルでも持っているの? さっきのオルティアさんの事と言い、変に先回りして準備がいいのよね」

「そうですよ。まるで、これから起こる事を知ってるみたいに……」

 二人にじっと見つめられますが、本当のことなんて言えるわけもありません。ここはごまかすに限りますね。

「え、未来を知ってるなら怪我なんてしないですよ。そんな便利な能力があるなら、本当に欲しいですよ」

 二人にジト目で見られながら、僕たちはファロス島地下駅で下車し、それぞれの家へと向かうのでした。
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