駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

文字の大きさ
239 / 349
7.女王の奏でるラプソディー

08.騒乱②

しおりを挟む
「くそっ、面白くないぜ」

 よほど腹に据えかねたのか、いかつい身体を震わせた大柄の男の隣で、砲雷長であるアンソニーは内心で肩をすくめていた。

 隣に座る男の名前を、エリオット・スミスという。身長百九十センチ、体重も百キロを越す巨漢であり、ワインレッドの髪にダークブラウンの髪を持った二十一歳の男である。今回のQAクイーンアレキサンドリアの乗員補充に際して、紅家のメイソン・スミスがねじ込んできた男でもあり、現紅家頭首エリックの弟の嫡男であった。
 紅家の中でも、やや強引な性格と上昇志向を持つ事は知られており、彼を苦手とする係累の者は多い。他の一族の者と同様に、アンソニーも彼を忌避していたのだが、現当主であるエリックから直々に面倒を見る事を依頼されて、しかたなく付き合っている状態であった。

 右舷二番魔導砲の演習時の砲手を務めていたエリオットは、死角を突いて艦橋直前に現れたディランの操縦する飛空艇を発見し撃墜判定を与えた。
 撃墜判定を与えたことは問題はなかったが、エリオットの右舷二番魔導砲から、ディランの機体を撃墜するためには射線上に艦橋構造物が入るため、砲塔はその旋回角をえる事ができない。
 本来であれば、左舷の二番か三番の魔導砲に連絡し、艦橋構造物を射線に入れないように撃つべきである。しかし、エリオットは砲の安全装置を解除して射撃を敢行した事で、自分自身が撃墜の手柄をあげたのだ。

(……実際、砲手としての腕は良い。だが、この艦には致命的に向いていないな)

 アンソニーはそう考える。乗船して二日目という短期間で、艦載の魔導砲を使いこなしているのは、大したものであった。
 しかし身体的には、百九十センチを超える大柄で筋肉質な彼の身体は、艦内の各処を仕切る水密扉を通過するのには、徹底的に向いていないのである。実際に何度も頭をぶつけているが、これは彼ばかりのせいではない。クロエが設計した時に、自分自身が小柄である事で、大柄な人間がいる事に配慮を欠いたせいもある。
 だが、一番は性格的な問題であろう。紅家本流の家柄と能力の高さは、プライドの高さと上昇志向の強さを産み、自分自身が成果を上げるためならルールを無視する傾向が強い。
 アンソニーを始めとする、処女航海から乗艦した乗組員は、艦橋への被弾を受けたQAクイーンアレキサンドリアを忘れていない。その事もあって、他の乗組員のエリオットへの風当たりも強く、射撃後に一番及び三番魔導砲が射撃した事にも喝采を送る者も多かった(事実としては、いつものごとく砲が自動的に発砲したのだが、他の砲塔の砲術士たちがそれらを止めなかったのは事実である)。

 あおるようにエールを飲み干すと、エリオットは更にお代わりを要求したが、既に割り当ての量を飲み干していたため、展望デッキのスタッフにやんわりと拒否されてしまう。
 アレキサンドリア海軍でも、一人当たりの食事の量とエールなどの酒類は一日当たりの配給量が定まっており、食事は基本的にお代わりは出来ず、お酒類はエール一ガロン(四リットル半)である。
 QAクイーンアレキサンドリアでは、造水機があるために各区画内の給水所で補充ができ、乗組員は、革製の水袋や水筒などに入れて飲用するために、他の船と異なり水分代わりにエールを飲む必要はないのだが、男性乗組員から配給量を減らす事にクレームが付き、他の船と同量が支給されている。エリオットは配給量である四リットル半のエールを飲み干してしまっているのだから、更なるお代わりを断られるのは当然の事であった。
 アンソニーの様な士官であれば、多少の融通はきくが、それとて無理を言えばスタッフから補給科の班長に連絡されてしまう。無理を言えば、船務長のユイに連絡がいき、当然艦長であるクロエも知る事になってしまうため、そんな無理をする者はない。

「まったく、この船は俺を馬鹿にしてやがる。酒も飯も好きなだけ食えやしねぇ」

 口汚く喚くエリオットに対し、さすがに周囲の青家出身の乗組員から、複数の非難の声が上がった。

「おいおい、陸の上じゃないんだ。際限なく食えるわけがないだろ。これだから陸の奴らは使えないんだ」

「こいつ、砲雷科の奴だろ。例の左舷二番魔導砲の砲手じゃないか。艦橋を射線にいれて砲を撃つなんて、馬鹿じゃないか」

 新参の青家の乗組員からは、船乗りとしての素養をあげつらわれ、古参の乗組員からは艦を危険にさらした行為に非難の声があがった。酔ったエリオットが無言で立ち上がり周囲をにらむと、さすがにこれはまずいかとアンソニーも思った。その矢先に致命的な声がかかったのである。

「へぇ、こんな図体だけのでか物が僕の見せ場を台無しにしてくれたのかい? 砲雷長、これは貴方が、いやと考えて良いんですね?」

 最悪のタイミングで、ディランが展望デッキに現われてしまったのだ。機体の洗浄に時間がかかり、気分転換も兼ねていつもの艦内食堂ではなく、展望デッキで食事をとろうとしたディランの目の前に、彼を赤く染めた張本人が居る。一日中腹立たしい思いをしていたのは、エリオットばかりではなく、ディランもだったのだから、一気に険悪な雰囲気になった。
 増員された乗組員の中で、新規と古参、青家と紅家の確執が、ディランの自身を良く見せようとする演出のために表面化してしまったのだ。普通の船であれば、圧倒的多数の青家の系譜に連なる船員ばかりなので、問題は大きくなることは無い。
 しかしQAクイーンアレキサンドリアでは、普段は洋上にでない紅家の系譜の者が多数乗艦しており、人数比はほぼ同数である。人数差による抑制は効かず、歯止めが効かなかったことによって、艦内での騒乱が発生してしまったのである。

 とっさにエリオットを止めようと、ディランとの間に割って入ったアンソニーであったが、不幸にもディランの蹴りが背中に入ったところに、エリオットの右フックが顔面に決まってしまう。
 馬鹿力で跳ね飛ばされたアンソニーが、青家の新米乗組員を数名巻き込んで倒れこむと、一気に乱闘が始まってしまった。皿やグラスが飛び交い、料理や酒が床に散乱すると、古参の乗組員は即刻避難を決め込み、スタッフはカウンター内に避難し物理障壁をはる。当然のごとく、剣呑けんのんな雰囲気になった時点で、保安要員が駆けつけてくるだろうことから、無理に止めようとするスタッフはいなかった。
 紅家青家それぞれ数名づつの乱闘であったが、大本であるエリオットとディラン以外の乱闘は、あっという間に沈静化された。そこに現われたの小柄な少女によって……
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...