駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

09.騒乱③

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  左舷展望デッキに向かって歩いていたアルバートは、騒然とした物音に気付き、足を速めた。アルバートの目的は飲酒ではなく、スタッフにことわって置かせてもらっている、数種類の薬草のプランターの世話をする為であった。

 カレンやデーゲンハルトといった客人扱いの乗組員は、午前九時から午後六時までの八時間が拘束時間になり、その後翌朝までは特に予定は組まれていない。その間アルバートとデーゲンハルトは訓練や知識の習熟などに、それぞれ時間を費やしていた。
 ちなみに二人は同室を与えられており、ある意味二十四時間一緒であったから、お互いに別行動する時間を必要としていたのである。そして、アルバートが時間を当てるとすれば、薬草などの世話をすることになるのであった。
 日差しが当たる場所でありながら、プランター自体に悪意ある行動をとる事ができないように、常に人目のある展望デッキに置かせてもらったのだが、それが災いしたかもしれない。慌てて走り寄り、のぞきこんだ展望デッキの中は、今は静まり返っていた。

 最初に目に入ったのは、本来固定されているはずの、椅子やテーブルと共に倒れている人間と、真っ白な髪に白を基調にした士官服、ひざ丈の濃紺のスカートからのびる細い足は、黒を基調とした膝上までの『オーバー・ザ・ニー』、日本で言うニーハイに包まれている。小柄な後ろ姿は、本来左舷ではみる事のない姿のはずだった。

『僕を壊したり、汚す者は許さないよ……』

 無機質に響く声は、ささやくような大きさなのに、展望デッキにいる者全ての耳に響く。

「クロエ艦長……?」

「……違うっ、これは艦長じゃない!!」

 ディランと名前の知らないでかいやつが立ちすくむ中、周囲に倒れていた乗組員が叫ぶ。その瞬間、その場に居た者にははっきりとわかる、異質な雰囲気を放つモノの正体に、アルバートは気付いた。それは深い森の中、時を忘れて薬草などを採取していた時に時折感じるモノに似ている……

「ばかな……こんな鉄の塊の中に精霊だと……」

 アルバートのつぶやきと同時に、クロエに似た少女は右手をゆっくりと上げると、『パチン』と指を鳴らした。
 途端に漆黒の球体が周囲に現れ、乱闘をしていた者全員に向かって飛んでいく。
 とっさに避ける事が出来たのは、ディランとバカでかい大男だけだ。倒れていた乗組員は、黒い球体が命中した途端にガクリと力なくその場で昏倒していく。
 避ける事が出来たとはいえ、すぐにディランも彼らと運命を共にした。指を鳴らした直後に、少女は軽く跳躍して、ディランの懐にもぐりこんでいる。

『……お前、うざいよ……』

 澄んだ声でつぶやかれた言葉は、展望デッキにいたすべての人間に聞こえていただろうが、恐らくディランには聞く余裕はなかったろうと、アルバートは思う。
 至近距離で跳ね上げられた右脚は、ディランのあご先を蹴り上げて、身体を垂直に跳ね上げた。伸ばした足が円軌道を描いて蹴ったのではなく、上体と膝の位置をたくみに変えて、つま先があご先へと一直線で跳ねあがったのだ。
 頭部を蹴り上げられ、一瞬で無力化されたディランが、その場で崩れるのを無視して、少女は次の獲物を狙うように、そのまま背後へとトンボを切る。大男とはいえ、頭部に攻撃を受ければ倒せると踏んだのだろう。とはいえ、大男は二メートル近い体躯があり、天井との隙間も一メートルとない。
 アルバートには、少女の小柄な身体ゆえに、大男にダメージを与えられるほどの攻撃を与えられる様には見えなかった。
 大男の方も、黒い塊をかわしてバランスを崩していたとはいえ、目の前でディランが倒されるのを見ている。とっさに頭上で両腕をクロスして、頭部へのダメージを抑える方向のようだ。

『僕は暑苦しい奴は嫌いだ……』

 つぶやいた少女は、大男の左右の肩を両手で掴むと、その場で肩を支点に縦方向に大きな円を描き、逆立ちの状態になろうとしている。しかし、天井まで一メートルもない状態で、そんな真似をすれば、小柄な身体とは言え、身体が天井にぶつかってしまう。

 アルバートは、少女が天井にぶつかって落下する前に、大男からかばおうと駆け出そうとして……止まってしまった。

 少女の身体は、驚いた事に天井をすり抜けたのだ。腕を伸ばし、肩の上で逆立ち状態になるが、この時少女の胸から足にかけては天井の上にあるはずだ。だが、天井にさえぎられて当然アルバートには見えない。その後、腕の力だけで真上に跳んだのか、少女の姿は視界から掻き消える。
 大男も腕への衝撃もなく、肩にかかった体重が消えた事を怪訝に思ったのか、腕をクロスに上げたまま、上を見上げたその時である。

 天井から振り下ろされた右脚は、踵落としとなって大男の頭頂部を直撃した。鈍い音が室内に響き、大男の身体がグラリと揺れ……踏みとどまった。反射的に、大男の右手が少女の右足首を掴む。

『耐久値だけは高いのか……ならば、力の源を破壊するだけよ』

 再び聞こえるささやくような声に続いて、振り下ろされた左足での踵落としが、紫電を伴い、再度大男の頭頂部を襲う。再び響く鈍い音と共に、大男は鼻血を吹き出すとそのまま前のめりに倒れ伏した。

 猫のように身体をひねって着地した少女は、既に大男もディランの事も見ようともしない。周囲が沈黙に静まる中、とっさにアルバートは駆け出すと、倒れた乗組員の怪我の様子を確認する。幸い、ディランと大男以外は眠らされているだけであり、ディランと大男はどちらも脳震盪を起こして倒れているだけにみえる。とはいえ、大男は精密診断が必要であろう。

 直後に、艦内保安要員がやってきて、怪我人の搬送依頼や、目撃者の証言を取り始める中、アルバートは窓際であるものを見つけて、その場から駆け出して、傍らに膝をついていた。
 それは、アルバートが設置していたプランターであった。投げつけられた椅子が当たったのか、プランター自体も大きく破損しており、植えられていた薬草の葉は裂け、茎は折れた上に、食べ物や酒がかかったのか、かなり酷い状態であった。

「……くそっ、なんでだよ……」

 つぶやくアルバートに、ささやくような声がかる。

『それはお前が育てていたのか……』

 その声に振り向くことなく、アルバートは力なくうなづくと、こぼれた土をかき集め、無事な株を分け始めた。そんなアルバートを見て、少女は手折れた薬草へと手をかざすと、わずかに光が集まり、薬草が輝いたかにみえた。
 驚いたアルバートが振り向くと、クロエに似た少女は、碧の瞳を伏せてアルバートに話す。

『いまのでしばらくは持つはずじゃ。この後はそれをドーラに見せて伝えるが良い、《女王が許可した》とな』

 そういうと、アルバートと少女に話を聞こうと近寄ってきた保安要員の前で、ゆらりと空気が揺らいだかと思うと消え失せてしまったのである。

『ドーラに伝えるのを忘れぬようにな……』

 ささやくような声だけを残して……そして左舷展望デッキには、アルバート以外の男たちの悲鳴が響き渡ったのであった。
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