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7.女王の奏でるラプソディー
90.とある男の独り言……
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「……シエナ……もうすぐだ。もう少し待っていてくれ……」
男は一人つぶやいた。
男の視線の先に映るのは、青い海を背景に褐色の肌に赤味かかったブラウンの瞳の少女だ。視線の先の少女は、幸せそうに満面の笑みを浮かべている。
ただし、彼女がいるのは小さな銀のロケットの中。さほど大きくもない装飾品の中に過ぎない。
細く連ねた金の鎖の先には、銀をベースとした楕円形の台座の中に、小さな人物画が納められており、チャームを閉じると、青地のサファイアの表面を銀で精緻な彫刻で星と三日月の装飾が施されていた。
窓の外に視線を向けると、そこには岸壁に横付けされた白亜の巨艦の姿が見えている。
他国の船乗りからは、『白鯨』や『海賊狩り』と呼ばれ始めている、アレキサンドリア共和国が有する『QA』である。
エメラルド島を中心とする、ユニオンと呼ばれる商人の組合に属する帆船は、東西交易を担う観点からも大型の船が多い。
しかし、大型といっても木造船であり、全長は四十メートルに満たないし、全幅も十三メートルあまりの三本マストのキャラック船である。
コロンブスが大西洋横断航海の際しようしたサンタ・マリア号がハウスブリットを除いた全長が二十四メートル未満、全幅七メートル半に満たないのだから、ユニオンの船も十分巨大であるのだが、『QA』はそれすらも軽く凌駕しているのだ。
風を頼りに海を行く帆船と異なり、魔法技術で航行する『QA』は、単艦でも脅威である武装を誇るだけではなく、空からの攻撃手段も持っている。
しかも、乗組員は二十代前後の若い男女であり、一人一人が各国の宮廷魔術師に相当する魔術師でもある。
アレキサンドリア南方では、三十隻あまりの海賊船団との海戦で、無傷で完勝したとか、エメラルド島東方海域でクラーケンを撃退したなどの話もあり、今や船乗りだけでなく、各国の王族などからも注目を浴びているといってよい。
「……しかし、いくら白鯨とはいえ、腹の中に悪魔がいるのには対処できまい……」
『QA』の乗組員の中には、紅家の毒蛇と呼ばれたメイソン・スミスの嫡男、エリオットがいる。
QAの士官であるクロエを筆頭とした若者達は、魔力こそ高いとはいえ若輩に過ぎず、正面きっての戦いならまだしも、裏で暗躍するような戦いは不慣れであろう。
士官であるクロエたちを、毒物などにより行動不能にして、その間にエリオットがQAを掌握する計画だろう。
QAは士官といえど若いものが多い。特に今回の公開では、年長の士官はいない。
他の帆船と異なり、QAは多くの部署や組織に分かれているらしいが、エリオットが力ずくで掌握するのだろう。
その後は先が見えている。メイスンやエリオットの思考では、上に立てば物事が解決できると思っているのだろう。
好色で野蛮なメイソンやエリオットからすれば、黒家や白家の夫という立場は名誉職に近く、子を孕ませさえすれば役目は終わるのなら、一人の男がその役を占めても問題無いだろうという考え方でもある。
一部の男性には、そう言った声があるのも事実だが、特定の家系の血筋が強まることは、虚弱体質などの生まれてくる子供に障害が出やすいことは知られていることで、反対者が多いが、メイスンは既成事実を作ってでもそれを強行しようとしているのだ。
だが、現実にはそう簡単な話ではないだろう。今までできなかったことができているということは、従来と異なる何かがあるということだろう。
男は、あの巨大な船はたった一人の人間が、魔法で作ったという話を聞いたことはあった。
もし、それが本当であるのであれば、あの巨大な船は製作者がいるからこそ浮かんでいるとも考えられるのだが、紅家の人間は良くも悪くもある意味で現実的だ。
物としてできているのであれば、他者がそれを制御できないはずはないとかんがえているし、仮にエリオットの命令を聞かなくても、製作者を力づくでいうことを聞かせればいいと考えるだろう。
だが…… 今回の相手は黒家や白家などの始祖四家に加えて、新たに黄家として新設される家の次期頭首ばかりが相手である。
現実を見えないメイスンやエリオットはわからないであろうが、魔力にしても知力にしても、太刀打ちできる相手ではないのは明確だ。
ただ一度相対しただけで、男には小柄で白髪紅瞳の少女の異様さはわかったのだ。そして、同時に理解する。
この娘を屈服させることは、エリオットにはできないであろうと。今まで泣き寝入りさせられてきた、自分たちよりも格下と考えている子供たちとは訳が違う。
そして、男は考える。
これは最大のチャンスだと。始祖四家に牙をむくということは、今までと異なりごまかすことはできない。結果はどうあれ、最終的にはこの反乱は失敗する。
だが、失敗するとわかっていても、男は本気で反乱を起こさねばならないのだ。中途半端な行動は、メイスンやエリオットの言い逃れをするチャンスを与えてしまう。
他国からの移民であり、魔力もそれほど多いとは言えない、しかし高貴な娘は、メイスンたちの反乱に対しての、良い生贄となるであろう。
「……すまない、シエナ。だが、これが最後の犠牲者だ。事が終われば、あの娘も君と同じ場所に行くだろうが、優しく受け入れてやってくれ……」
自分は同じ場所には行けないだろうから……
男は一人つぶやいた。
男の視線の先に映るのは、青い海を背景に褐色の肌に赤味かかったブラウンの瞳の少女だ。視線の先の少女は、幸せそうに満面の笑みを浮かべている。
ただし、彼女がいるのは小さな銀のロケットの中。さほど大きくもない装飾品の中に過ぎない。
細く連ねた金の鎖の先には、銀をベースとした楕円形の台座の中に、小さな人物画が納められており、チャームを閉じると、青地のサファイアの表面を銀で精緻な彫刻で星と三日月の装飾が施されていた。
窓の外に視線を向けると、そこには岸壁に横付けされた白亜の巨艦の姿が見えている。
他国の船乗りからは、『白鯨』や『海賊狩り』と呼ばれ始めている、アレキサンドリア共和国が有する『QA』である。
エメラルド島を中心とする、ユニオンと呼ばれる商人の組合に属する帆船は、東西交易を担う観点からも大型の船が多い。
しかし、大型といっても木造船であり、全長は四十メートルに満たないし、全幅も十三メートルあまりの三本マストのキャラック船である。
コロンブスが大西洋横断航海の際しようしたサンタ・マリア号がハウスブリットを除いた全長が二十四メートル未満、全幅七メートル半に満たないのだから、ユニオンの船も十分巨大であるのだが、『QA』はそれすらも軽く凌駕しているのだ。
風を頼りに海を行く帆船と異なり、魔法技術で航行する『QA』は、単艦でも脅威である武装を誇るだけではなく、空からの攻撃手段も持っている。
しかも、乗組員は二十代前後の若い男女であり、一人一人が各国の宮廷魔術師に相当する魔術師でもある。
アレキサンドリア南方では、三十隻あまりの海賊船団との海戦で、無傷で完勝したとか、エメラルド島東方海域でクラーケンを撃退したなどの話もあり、今や船乗りだけでなく、各国の王族などからも注目を浴びているといってよい。
「……しかし、いくら白鯨とはいえ、腹の中に悪魔がいるのには対処できまい……」
『QA』の乗組員の中には、紅家の毒蛇と呼ばれたメイソン・スミスの嫡男、エリオットがいる。
QAの士官であるクロエを筆頭とした若者達は、魔力こそ高いとはいえ若輩に過ぎず、正面きっての戦いならまだしも、裏で暗躍するような戦いは不慣れであろう。
士官であるクロエたちを、毒物などにより行動不能にして、その間にエリオットがQAを掌握する計画だろう。
QAは士官といえど若いものが多い。特に今回の公開では、年長の士官はいない。
他の帆船と異なり、QAは多くの部署や組織に分かれているらしいが、エリオットが力ずくで掌握するのだろう。
その後は先が見えている。メイスンやエリオットの思考では、上に立てば物事が解決できると思っているのだろう。
好色で野蛮なメイソンやエリオットからすれば、黒家や白家の夫という立場は名誉職に近く、子を孕ませさえすれば役目は終わるのなら、一人の男がその役を占めても問題無いだろうという考え方でもある。
一部の男性には、そう言った声があるのも事実だが、特定の家系の血筋が強まることは、虚弱体質などの生まれてくる子供に障害が出やすいことは知られていることで、反対者が多いが、メイスンは既成事実を作ってでもそれを強行しようとしているのだ。
だが、現実にはそう簡単な話ではないだろう。今までできなかったことができているということは、従来と異なる何かがあるということだろう。
男は、あの巨大な船はたった一人の人間が、魔法で作ったという話を聞いたことはあった。
もし、それが本当であるのであれば、あの巨大な船は製作者がいるからこそ浮かんでいるとも考えられるのだが、紅家の人間は良くも悪くもある意味で現実的だ。
物としてできているのであれば、他者がそれを制御できないはずはないとかんがえているし、仮にエリオットの命令を聞かなくても、製作者を力づくでいうことを聞かせればいいと考えるだろう。
だが…… 今回の相手は黒家や白家などの始祖四家に加えて、新たに黄家として新設される家の次期頭首ばかりが相手である。
現実を見えないメイスンやエリオットはわからないであろうが、魔力にしても知力にしても、太刀打ちできる相手ではないのは明確だ。
ただ一度相対しただけで、男には小柄で白髪紅瞳の少女の異様さはわかったのだ。そして、同時に理解する。
この娘を屈服させることは、エリオットにはできないであろうと。今まで泣き寝入りさせられてきた、自分たちよりも格下と考えている子供たちとは訳が違う。
そして、男は考える。
これは最大のチャンスだと。始祖四家に牙をむくということは、今までと異なりごまかすことはできない。結果はどうあれ、最終的にはこの反乱は失敗する。
だが、失敗するとわかっていても、男は本気で反乱を起こさねばならないのだ。中途半端な行動は、メイスンやエリオットの言い逃れをするチャンスを与えてしまう。
他国からの移民であり、魔力もそれほど多いとは言えない、しかし高貴な娘は、メイスンたちの反乱に対しての、良い生贄となるであろう。
「……すまない、シエナ。だが、これが最後の犠牲者だ。事が終われば、あの娘も君と同じ場所に行くだろうが、優しく受け入れてやってくれ……」
自分は同じ場所には行けないだろうから……
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