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第40話 逃れざる魔の手(2)
堪らず目を瞑った私たちがようやく瞼を開いたとき、水車番のお爺様の姿はそこには無く、立っていたのは全身を黒い服に包んだべレフだった。
襲撃されたときと同じく、顔は仮面で覆われている。
(今のは……? まさか、べレフも精霊魔法をっ!?)
「あーあ、バレたか。毒を飲ませて苦しめたかったのに、惜しかったなぁ」
机の上に乗ったカップを見て、もしあれを口にしていたらとぞっとする。
「魔法で付けられた傷は簡単には治りませんのよ。上手く変装できていたのに残念ですわね」
「ははっ、本当にその通りだ。この国での仕事納めに、アイツはこの手で始末をつけないとな」
べレフは楽しそうに言うと、玩具で遊ぶように曲刀をくるくると回して見せた。
そして、刃先を私に向けてピタリと止める。
「ちゃんと獲物を連れてきたことは褒めてやるよ、嬢ちゃん」
「それはどうも。それで、男爵とカイルはどこですの?」
既に小屋の中に彼らの姿が無いことはわかっている。
固唾を飲んで答えを待つと、彼はニタリと笑った。
「言いにくいんだが……男爵もアンタの弟も、もうこの国には帰ってこないってよ。アンブローシアで爵位を手に入れて、のんびり暮らすんだと。こっちじゃ、たいして領地もないし、収入も低くてやっていけないって嘆いてたぜ。ま、しょうがないよなぁ?」
「なんですって……?」
男爵が本当にそんなことを言ったのか、べレフの嘘ではないか、一瞬で様々な考えが脳内を巡る。
(もし本当だとしたら、グレイ男爵は亡命したことになるけど……だったら、マリアは何のために……!)
ぎゅっと拳を握り締めたとき、彼は「そうそう」と思い出したかのように付け足す。
「男爵から聞いたぜ? お前、生まれる前に捨てられてるんだってなぁ? なのに、まーた親から捨てられて……ホント、可哀そうだよなぁ? あはははは!」
「…………」
下品な笑い声の中、隣にいるマリアの気配が明らかに変わったとき、私は居ても立っても居られずに湯気の立つカップを中身ごとべレフにぶちまけた。
「うおっ!? あっちちち!」
完全に油断していたのか、彼は熱湯にのたうち回る。
「可哀そうなのは貴方よ! マリアを侮辱することは許さない!」
そう叫んだ私に、マリアは弾かれたように顔を上げた。
「リ……リリーナ様……?」
「くそっ、せっかく用意してやったってのに……!」
熱湯が仮面の隙間から中に入ったのか、ベレフは仮面を外して掌で顔を拭った。
その素顔は幾つもの傷が生々しく痕になっていて、皮膚は爛れていた。
一目見て、それが拷問などで意図的につけられた傷だとわかる。
無数の傷は、彼の歩んできた人生の一端を感じさせるには充分だった。
「お前はあの晩、死ぬはずだったんだ! あの男さえ来なけりゃ、確実に仕留められたものをっ!」
曲刀が振るわれるよりも先に、迸る殺気が私の心臓を貫こうと放たれる。
襲撃されたときと同じく、顔は仮面で覆われている。
(今のは……? まさか、べレフも精霊魔法をっ!?)
「あーあ、バレたか。毒を飲ませて苦しめたかったのに、惜しかったなぁ」
机の上に乗ったカップを見て、もしあれを口にしていたらとぞっとする。
「魔法で付けられた傷は簡単には治りませんのよ。上手く変装できていたのに残念ですわね」
「ははっ、本当にその通りだ。この国での仕事納めに、アイツはこの手で始末をつけないとな」
べレフは楽しそうに言うと、玩具で遊ぶように曲刀をくるくると回して見せた。
そして、刃先を私に向けてピタリと止める。
「ちゃんと獲物を連れてきたことは褒めてやるよ、嬢ちゃん」
「それはどうも。それで、男爵とカイルはどこですの?」
既に小屋の中に彼らの姿が無いことはわかっている。
固唾を飲んで答えを待つと、彼はニタリと笑った。
「言いにくいんだが……男爵もアンタの弟も、もうこの国には帰ってこないってよ。アンブローシアで爵位を手に入れて、のんびり暮らすんだと。こっちじゃ、たいして領地もないし、収入も低くてやっていけないって嘆いてたぜ。ま、しょうがないよなぁ?」
「なんですって……?」
男爵が本当にそんなことを言ったのか、べレフの嘘ではないか、一瞬で様々な考えが脳内を巡る。
(もし本当だとしたら、グレイ男爵は亡命したことになるけど……だったら、マリアは何のために……!)
ぎゅっと拳を握り締めたとき、彼は「そうそう」と思い出したかのように付け足す。
「男爵から聞いたぜ? お前、生まれる前に捨てられてるんだってなぁ? なのに、まーた親から捨てられて……ホント、可哀そうだよなぁ? あはははは!」
「…………」
下品な笑い声の中、隣にいるマリアの気配が明らかに変わったとき、私は居ても立っても居られずに湯気の立つカップを中身ごとべレフにぶちまけた。
「うおっ!? あっちちち!」
完全に油断していたのか、彼は熱湯にのたうち回る。
「可哀そうなのは貴方よ! マリアを侮辱することは許さない!」
そう叫んだ私に、マリアは弾かれたように顔を上げた。
「リ……リリーナ様……?」
「くそっ、せっかく用意してやったってのに……!」
熱湯が仮面の隙間から中に入ったのか、ベレフは仮面を外して掌で顔を拭った。
その素顔は幾つもの傷が生々しく痕になっていて、皮膚は爛れていた。
一目見て、それが拷問などで意図的につけられた傷だとわかる。
無数の傷は、彼の歩んできた人生の一端を感じさせるには充分だった。
「お前はあの晩、死ぬはずだったんだ! あの男さえ来なけりゃ、確実に仕留められたものをっ!」
曲刀が振るわれるよりも先に、迸る殺気が私の心臓を貫こうと放たれる。
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