上 下
6 / 299
第1章 ここから始まるDIY

三日目② 戦闘訓練という名のフルボッコ

しおりを挟む
 ギルド職員に連れられて、やってきました訓練場。
 訓練場に響き渡る、固い木と木がぶつかるような音。
 どうやら先客も居たらしく、数人が戦闘訓練を行っていた。
 ギルド職員に座って待っているよう言われたので、俺は観客席に腰を下ろしその様子を観察することにした。
 
 訓練内容は、一人のベテランらしき冒険者が若い冒険者に技術を教えているようだった。
 俺も受けたらよかったのだろうか?
 あのベテラン冒険者……すごくうまい。
 素人目に見てもそのすごさが伝わってくる。
 若い冒険者たちが代わる代わる斬りかかっても、すべて最小限でいなしていた。
 おそらく、若い冒険者たちはなぜ躱したりいなされたりしているのかわからない様子だ。
 上から見るとわかるけど、立ち位置が絶妙だった。
 一歩躱すごとの次の攻撃がしにくい位置に位置取りをしている。
 それを繰り返すことで、若い冒険者たちはどんどん動きづらくなっていった。
 そういった動き方もあるんだなって感心してしまった。

 しばらく訓練を眺めていると、さっきのおっさんがやってきた。

「待たせたなぁ。」

 渋い声だ……
 とある蛇の人みたいだ……
 おっと危ない、これ以上は危険だ。
 まあいいか。

「待ちました。で、何をするんです?」

 俺は若干挑発目に応えたら、おっさんに笑われてしまった。
 納得いかん。

「いやな、お前さんゴブリン討伐の依頼受けようとしていただろ?剣とか振れるのか?」
「とりあえず振れるんじゃない?」

 俺は一応剣道初段の武士だ。

 ……
 …………

 ごめんなさい弱いです、試合で勝てませんでした。
 それに使っていたのは竹刀だ。
 西洋剣なんて扱ったことあるわけはない。

「よし、じゃあいっちょ訓練してみるか。ほら、この木剣持って下に降りろ。」

 はいきました、テンプレ~。
 おっさんに急かされながら訓練場に降りた俺は、おっさんに相対して木剣を構えた。
 隙の無いおっさんを見て、いたずら心が沸々と沸き上がってきた。

 余裕をかました様子で、「いつでもどうぞ」と言われたので、とりあえず……

 木剣を投げてみた。

 まぁ、当たるわけはなかったんだけど、さすがにおっさんに怒られた。
 納得いかん。

 それから少し説教を受けて、改めておっさんと対峙した。
 俺はおっさんに剣先を向ける。
 剣道だったら中段の構えというやつだ。
 対するおっちゃんは……構えという構えではなかった。
 なめられてるのか?って思えるほどだらっとしていた。
 剣を片手で持ち、切っ先は俺の足元を向いていた。

 しかし、おっさんがゆっくりと動きその切っ先を俺の剣先に合わせたとたん、おっさんが急にでかく見えた。
 構えた手に汗が吹き出る。
 やばい……隙がない……

 正面から切りかかろうが、横薙ぎをしようが、切り上げしようが何をやっても当てられる気がしない。
 むしろその後に反撃が来るのが予想できるだけに攻め込めない。

「ほう、一応は警戒できるのか……だが、来ないならこっちから行くぞ!!」

 おっさんはそう言うと姿を消した。
 違う、俺が目で追えなかっただけだ。
 それほどまでに実力差があったのだろう。
 気が付いたときには、俺の首にはおっさんの剣が添えられていた。
 文字通り一歩も動けなかった。
 今のが実践だったら……
 俺の首は胴体と泣き別れていただろう……

「どうだった?」

 にやりと笑いながらおっさんが問いかけて来た。

「み、見えませんでした……」

 俺の頬には汗が流れている。
 今にも首が切り落とされるんじゃないかと思うほど、殺気が込められていた。

「だろうよ。で、どうするよ?」
「お願いします!!」

 俺は自分の弱さを認識することができた。
 一朝一夕で戦い方が身につくわけじゃないことはわかっている。
 それでもやるとやらないでは全く違うと思った。
 それからいったいどれほど打ち込んだのだろうか。
 気が付くと俺は訓練場の地面に寝ころんでいた。

「だいぶやるようになったじゃねぇか。これならゴブどもに後れを取ることはないだろうな。確かカイトとか言ったな?さっきも言った通り、後方の気配にだけは注意しろ。それができりゃ奇襲で死ぬことはまずないはずだ。」
「あ、ありがとう、ござい、ました……」

 おっちゃんは俺の返事を聞き終えると、満足そうにして頷くと颯爽と訓練場を後にしていった。
 その背中は何故かでかく見えた。
 あの背中がいつも誰かを守ってるんだろうな。
 俺もあんな背中になりたいと、そう思わせる背中だった。

 訓練が終わった後……
 俺は屍と化していた……

 体中めっちゃ痛いんですけど?!
 意識すればするほど痛みが増してきて、すぐには動けそうになかった。
 ゆっくりと壁際まで移動した俺は、腰を下ろして休憩することにした。
 その間おっちゃんがどう動いたか、どう攻撃を仕掛けてきたかをずっと考えていた。
 考えれば考えるほど、どう動いたかわからない部分が多すぎた。
 それがきっと経験の差なんだろうなと感じていた。

 

 それからある程度休息をとって動けるようになった俺は、訓練場を後にした。
 受付に戻るとすでに昼を過ぎているようだった。
 今から依頼を受けても今日中には終われないと思う。

 今日はもうやめておこう。
 時間もそうだけど、身体的に無理をしてはいけないと思った。
 俺は冒険者ギルドを後にして、隣の宿舎に戻った。

 思いのほか俺は疲れていたらしく、ベッドに横たわった瞬間に睡魔に襲われ、そのまま夢へといざなわれてしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:4,037

癌病棟二週間(予定)の人々

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:674pt お気に入り:0

【完結】白豚令嬢は婚約者から調教される?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:204

転生できませんでした。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:844pt お気に入り:0

カ・ル・マ! ~天王寺の変~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:313pt お気に入り:5

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,560pt お気に入り:1,886

お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:45

転生したら悪役令嬢だったので、ラスボスを手懐けてみました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:34

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,605pt お気に入り:6,665

処理中です...