勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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3巻

3-3

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 夕食を食べ終わったころ、エルダから質問があった。

「ねえ、なし崩し的にダンジョンとか行けてなかったけど、これからどうするの?」
「そうだな、そろそろ本格的にダンジョン探索をしてみたいし、他の国も見てみたい」
「そのためには、ギルドランクを上げないとね」

 エルダからの指摘はもっともだった。
 前から話にあがっていたギルドランク。
 せめてAランクにならないと、国外での行動に支障をきたしてしまう。
 そのためには、ギルドランクを上げる必要があるということだ。

「明日からはまた、鉱山跡地ダンジョンかな?」
「そうね、そうなるわね。ただ……」

 あれ? なんでそこでよどむのさ? 
 なんか問題でもあるのかな? 

「ただ……どうしたの?」
「カイトの装備が心もとないわ。できればもっといいものに替えていかないと。今カイトが作れる装備ってどんなものが?」

 来た……
 この質問が来てしまった……
 できれば装備したくないのだけれども……

「ええっと、その、あの~」
「はっきりなさい!!」

 ドンッという音とともに床が震えた。
 エルダが足で床を強く踏み鳴らしたのだ。

「はい!! ロックワーム――岩蠕虫がんぜんちゅうのシリーズ装備が作れるようになったであります!!」
「そう、ならそれをまず作りましょう。その後さらに奥のダンジョンに潜ります。いいですね!!」
「イエス、マアム!!」

 俺はつい敬礼をしながら答えてしまった。
 それを見たエルダはキョトンとしていたが、気にしたら負けだ。
 しかし、岩蠕虫がんぜんちゅうの装備には若干じゃっかんの抵抗がある。
 だって、岩ミミズだよ? あの巨大なミミズだよ? 
 誰が好き好んで着るものか。

「だけどエルダ……さすがにミミズ装備はその……ね?」
贅沢ぜいたくを言ってる場合じゃないでしょ?」

 た、確かにそうなんだよな……
 しかし、せめてミミズは勘弁かんべんしてほしい……

「じゃあ、虫系以外の素材ってないの?」
「たぶんあると思うわよ? 鍛冶かじギルドか魔道具ギルド、あとは錬金術ギルドかな? 素材を売ってもらえばいい話よ。でもそれでいいの? あなたは世界を見たいんじゃないの? 自分の手で集めて、自分の手で作る。そうしたいんじゃないの? 違う?」

 うぐっ。
 ほんと、エルダはよくわかっていらっしゃる。
 その通りなんだよね。
 買って作るのが一番早いっていうのはわかってるんだ。
 今回のポーションだって、素材を買って作ったんだから。
 でもやっぱり、何かが違う気がしてしまった。
 自分で集めて作るからいいのであって、俺は職人になりたいわけじゃないんだ……
 俺は『自由』に生きたいんだから……

「あ、ちなみになんだけど。鉱山跡地ダンジョンの第十一層以降に地底湖があるの。でね、その地底湖には亜竜人ありゅうじん……リザードマンが生息しているわよ。つまり、リザードマン系の装備が作成できる可能性があるってこと。どう? 行ってみたい?」
「マジで!? 行く行く!! 絶対行きたい!!」

 これはマジで頑張がんばんないとな。
 まずは岩蠕虫がんぜんちゅうの装備作って、強くなって……
 目指せリザードマン狩り!! 

「じゃあ、明日からは鉱山跡地ダンジョンってことでいいのか?」
「そうね、それでいいと思うわ」

 これで行動指針が決まった。
 明日朝一で冒険者ギルドへ行って、ギルマスに面倒事を全部ぶん投げる。
 その後に依頼を受けて、ダンジョン探索へ。
 徹底的にロックワームを倒しまくって、装備を作る。
 で、第十一階層以降のリザードマン狩り。
 素晴らしい!! これでなんとかなる!! 
 俺の計画は完璧すぎるほど完璧だ!! 

「あ、忘れてた。リザードマンがいる場所って地底湖だから、耐水装備を準備しないと。カイト持ってないでしょ?」
「え?」

 どういうこと? 
 ………………あっ!! そっか!! 
 ロックワームは水が弱点だから、その装備で行くと……
 丸裸!?
 お婿むこに行けなくなっちゃう。

「カイト……変な妄想もうそうしないでね? いいわね?」
「はい……」

 なぜいつも考えが読まれるんだ!?
 って、また声に出てたのか?

「そこで提案です。まずは岩蠕虫がんぜんちゅう装備で全身を覆います。ただ、リザードマン対策には向きません。なので、一度森の奥の『新緑しんりょくのダンジョン』へ向かいます。そこではオークが多く生息しています。ちなみに、エルフ族の天敵で一匹銅貨三十枚の報酬ほうしゅうが支払われるわ。つまり、オークを倒してその素材で装備を整えるの。ここまではいい?」
「いいんだけど……オークって、あの亜人種的なモンスターだろ? その装備って言ったら……」
「そうね、オークの皮をメインで作成するものになるわね。ちなみに、オーク装備は脱初心者って言われているわ。鍛冶屋にはよく持ち込まれる素材だもの」

 オークか……
 エルフ族の天敵……
 つまり……
 はっ!! あれか!?
 まさかの「くっ!! 殺せ!!」的な!?
 そんなフラグなのか!?

「…………………話を進めていい?」

 エルダの表情から笑みが消えた。
 ものすごくにらまれています……
 エルダの視線がつらいです。

「続けるわ。そしてオーク装備がそろったところで、今度は湿地帯しっちたいにある『湿地しっちのダンジョン』に挑戦ね。ここではマッドフロッグなどの爬虫類系はちゅうるいけいがよく出てくるわ。こいつらはもれなく耐水性質を持っているから、水属性ダンジョンの初期装備としては持って来いよ」
「亜人型モンスターの次は爬虫類はちゅうるい。そして今度は亜竜人。うん、モンスターまみれだな……」
「しかたないわよ。さすがに魔法金属系の装備は買えないもの。剣一本で金貨五百枚は軽く飛ぶわよ?」

 俺はそれを聞いて、一瞬にして心が折れてしまった。
 俺は夢見ていたんだ……
 ファンタジー系金属の存在に。
 そして、必ずこの手で加工してみせるんだって……
 剣で五百枚……無理だ。
 ……って、あれ? 行けるんじゃね? 
 収納箱(簡易)を裏で大量に売りさばけば、あっという間に貯まるんじゃね? 

「あなた……犯罪者になりたいんだったら止めないけど、どうする?」
「いえ、やりません」

 うん、俺はいたって真面目まじめな一庶民としてこの世界を旅したいです!! 
 逃避行なんてごめんこうむりたい。

「まあ、正直なところ、すべての装備品を金属製にすることはお勧めしないわよ? 素材で最高級なのは龍族だもの。堕龍だりゅうの討伐や、龍族と親交ができてがれた龍鱗りゅうりんや抜けた髪なんかを分けてもらうなんて方法で集めるんだけど、現存する装備の中での最高峰は龍鱗系りゅうりんけい装備なのよ」
「わかった……地道にやっていくことにするよ。ありがとうエルダ、道が見えてきたよ」
「ん、どういたしまして」

 エルダと話したことによって、より明確になった方向性は――
 ①岩蠕虫がんぜんちゅう装備。
 ②金属回収。
 ③鉱山跡地ダンジョン第十層のボス部屋の攻略。
 ④新緑のダンジョンでオーク狩り。
 ⑤湿地のダンジョンで爬虫類はちゅうるい狩り。
 ⑥鉱山跡地ダンジョンで第十一層以降のリザードマン狩り。
 うん、こんなところかな? 
 これで、やっと前に進める気がしてきた。
 今までは特に目標とか目的とか決めてなかったけど、こうやって決まると、なんとなく気がまる感じがする。
 これもエルダのおかげかな? 
 そう考えたら、これからが俺の本当の意味での異世界生活ってわけだ。

「そうだ、エルダはマジックバッグみたいなのって持ってるの?」
「持ってないわね。代わりにポーションホルダーを身に着けたり、バックパックを背負ったりしてるわ。ただ、カイトがいればポーションホルダーだけでいいと思ってしまうのよね」
「なるほどね。じゃあ、でき立ての各種ポーションを持っていってもらっていいかな?」

 そう言うと、俺はアイテムボックスから各種ポーションを取り出し、エルダに渡した。
 これで、何かあっても回復ができるはずだ。
 俺しか持ってなかったら、俺に万が一が起こっても対応ができないからね。

「もしかして……このためにポーション系を作成していたの?」
「まあ、そうだな。俺たちには回復役がいないから、アイテムは生命線になるからな」
「そう。ありがとう」

 エルダはそう言うと、俺がテーブルに出したポーションを回収して自室へと戻っていった。
 おそらく明日の準備をするのだろう。
 夜もけてきたことだし、俺も自室に戻ることにした。
 それにしてもここ数日、濃すぎやしませんか? 
 俺一般市民だよ? 
 まったく、この世界はきないな……



  ■二十六日目 買い食いのうまさといらないこと


「ん……んん……朝か……」

 目覚めると、部屋に暖かな日が差し込んでいた。

「ん? これは?」

 そんなすがすがしい朝。ふとベッドを見ておかしな点があった。
 俺の横になんだかへこんだ跡がある……
 おそらく人の形。
 誰か寝ていたかのような、そんな跡だ……
 いや、まさか…………ね? 

「そんなわけはないか……夢……だよな?」

 俺はそんな考えを振り払うかのように頭を振った。
 それから着替えて、リビングへ向かった。
 階段を下りる際に、リビングでくつろぐエルダを発見した。

「おはようエルダ。昨日はごめん。変なことに巻き込んでしまったみたいだ」
「まったくね……でもまあ、仕方ないわね。カイトといるっていうことは、そういうことだから。それより、朝食何にする? これから作るわよ」

 いや、なんか聞き捨てならない言葉が交じっていなかった? 
 ……まあ、いいか。
 それよりもめずらしいことに、エルダがまだ朝食を作っていなかったみたいだ。
 普段だったら、もう作り終わってそうな時間なんだけど。
 体調でも悪いのかな? 少し顔が赤いし。
 少し無理をさせてしまったかな……

「ねえ、エルダ。まだ朝食作ってないなら、今日は外食にしない? たまには朝から屋台飯もありだと思うけど、どうかな?」
「あら、めずらしいわね、カイトから誘うなんて。なにかやましいことでもあったの?」

 ちょっとひどくない? 
 しかも、本気で怪しんでる雰囲気ふんいき出てるし。

「ないないないない。全くないよ。ただ、エルダにいつも作ってもらって無理させてたかなって心配になってさ」

 この気持ちにウソ偽りはない。
 心からのエルダへの感謝だ。
 ただ、よこしまな考えがなかったとは言い切れないけど……
 本当に、朝のあの跡はなんだったんだよ……

「そ。それもありかもね……わかったわ。そのお誘いにのることにしましょうか」
「やった!!」

 こうして俺とエルダは、初めて二人で買い食いをしてみることにした。


 朝から市場は活気にあふれていた。
 ここは北区商店街にある、屋台村だ。
 朝早くからやっているありがたい場所だ。
 それもそのはずで、北区商店街の屋台村は職人街に近い。
 そのためか、屋台村で朝食をとってから仕事に向かう職人が多いようだ。
 見るからに腕っぷしに自信ありげな人たちが、ワイワイと食事をしている。
 そんな屋台村できょろきょろと品定めをしていたエルダは一軒の店舗てんぽに狙いを定めたものの、どのメニューにするか考えあぐねている様子だった。

「いつもながらすごいわね。目移りしちゃうわ……朝から焼き肉か……さすがに重いわよね。でも食べたいし……」

 そんなときは――

「おっちゃん、ごめん。ここで焼き肉を買うからさ、鉄板でこのパンを焼いてもらってもいい?」
「ああいいぜ。ちょっと待ってな」

 エルダが迷っていたので、割り込ませてもらった。
 屋台のおっちゃんに、以前買ってアイテムボックスに仕舞っておいたコッペパンのような白パンを二つ渡して、縦に切り込みを入れて温めてもらった。 
 そして、そのパンの間に焼き肉を挟んでもらう。

「ほらよ、熱いから気をつけな」
「ありがと。お代はここに置いとくね。あと、そこのテーブル借りるから」

 それを受け取った俺は、テーブルを借りて最後の仕上げに取りかかった。
 取り出したるはアイテムボックスからの野菜!! 
 そして、調味料の数々。
 焼き肉を挟んでもらった二つの白パンに、さらに葉物野菜を追加していく。
 味のアクセントに、ウリのような野菜の酢漬すづけを挟み入れて……焼き肉サンドの完成!! 

「カイト……これ何?」

 こういうのは、この世界にはまだないみたいだな。

「これにきちんとした名前はないよ。でもうまそうだし、いいかなって」
「確かにおいしそうなにおいがするけど……おいしいの?」

 小首をかしげているエルダさん。
 しかし、その視線は俺に釘づけだった。
 まあ、正確に言えば、俺の持っている焼き肉サンドにだけど。

「どうだろうね? 俺的にはうまそうに見えるけど? エルダは見えない?」
「見えるわね……」

 じっと見つめられると恥ずかし……くはならないな。
 これ以上待たせるのもかわいそうかな? 
 俺は焼き肉サンドを一つ、エルダに渡した。

「だろ? じゃあ、食べよっか。いただきます」
「いただきます」

 二人とも一斉にかぶりつく……
 うっママッマまままままっまあっまー!! 
 これはやばい。
 うますぎる。
 案の定、食べ終えた後その焼き肉を焼いた店主に捕まり、料理レシピを教える羽目はめになった。
 まあ、これで商売しようとは思ってなかったので、別に問題はない。
 後にこの店は焼き肉サンドの元祖の店として、商店街の一等地に店舗てんぽを構えるようになるが、それはまた別のお話。


 朝食を済ませた俺たちは、冒険者ギルドに向かうため商店街を後にした。
 道中でデザートやらなにやら追加で購入して食べまくってるエルダを見て感心してしまった。
 その食欲もすごいが、あれだけの量が体内に消えていくんだなって。
 そう思っていたら、エルダからにらまれてしまった。
 この件についてはこれ以上詮索せんさくしてはいけないようだ。
 きもめいじておこう。

「あら、エルダさんにカイト君じゃないの。おはようございます」

 不意に後ろからキャサリンさんに声をかけられた。

「おっ!? ……キャサリンさんは遅刻ですか?」

 エルダに気を取られて、俺は後方の確認をしていなかった。
 それどころか、声をかけられるまでわからなかった……
 やはりキャサリンさんが何者か気になって仕方ない……

「ほら二人とも、さっさと行くわよ?」

 結果、キャサリンさんについていくように、ギルド会館へと向かったんだけど、それだけで終わらないのが俺だった……


 ギルド会館に着くと、キャサリンさんとは一旦いったんお別れとなった。
 キャサリンさんは、足早にギルド会館に入っていったんだけど……
 その動きに驚いた。
 なんと、誰ともぶつからなかったのだ。
 ギルド会館は、探索の準備をする冒険者でごった返していた。
 俺はこういった状況で、ぶつからなかったためしがない。
 なのに……
 ただのギルド職員のはずのキャサリンさんは、ぶつかるどころか、相手に自らの存在を気づかれることさえなく、通り抜けていったのだ……
 本当に、キャサリンさんは何者なんだ……
 エルダを見ると、目をそらされてしまった。
 きっとあれだ、知ってはいけない情報なんだ……
 俺はそっと、その疑問にふたをした。
 気を取り直してギルド会館に足を踏み入れる。
 掲示板の前では依頼書の争奪戦が繰り広げられていた。

「俺が先に手にした!!」
「いや!! 俺たちが先だ!!」
「なにおぅ?」
「やるか!!」
「おう!! 上等だ!! 一緒に行くぞ!!」
「おう!!」

 うん、仲良しさんだね……
 そんなやり取りを横目に受付まで行くと、さらに驚いた。
 キャサリンさんがすでに仕事を始めていた。
 しかも同僚より処理速度が速い。
 ほんと、何者ですかあなたは……
 実は双子です的な落ちはないよね? 

「さっきぶりです。キャサリンさんって実はすごい人なんですね?」
「そんなことはないわよ? それで、依頼受けるの?」

 俺が答えるより先に、エルダが首を横に振った。

「いえ、その前にギルマスに用事がありまして、今会えますか? できれば至急案件です」
「わかりました。ライル君!! ギルマスに『カイト案件』って至急伝えてきて!!」

 ライルと呼ばれた職員さんは手にしていた仕事をすぐに中断して、猛ダッシュで奥へと走っていった。
 ちょっと待て。その『カイト案件』について詳しく教えてほしい。
 場合によっては“脱毛剤”を本気で作れるように研究するぞ? おっちゃんの頭髪は元々ほとんどないが、根絶やしにしてやる。
 あわてて戻ってきた職員さんが、キャサリンさんに耳打ちをしていた。

「カイト君、これから大丈夫? 今ならまだ手がいているみたいだけど」
「じゃあ、お願いします。できれば早い方がいいと思うので」
「わかったわ。ついてきて。誰か、ここお願いしますね」
「イエス!! マアム!!」

 ん? なんか気のせいか? 職員さんの敬礼が見えた気がした……
 き、気のせいだ……きっと……


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