勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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3巻

3-2

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 薬師ギルド会館へ入ると、少し気の抜けた元気な声が聞こえてきた。
 受付カウンターから聞こえた声の主はエイミーだ。
 ちょうど彼女が客を見送ったところなので、俺は彼女のところへ行く。

「こんにちは、エイミーさん」
「あ、お兄さんいらっしゃ~い。それとエイミーでいいよ。さん付けされるとなんだかむずがゆくなるしね。それで、今日は何をご用命かな?」

 彼女はどうやら俺を気に入ったらしく、ニンマリと笑っている。

「今日は素材を買いに。ヒール草とスライムゼリー……あとは、弱毒草をもらいに。あ、そうだ、他にも何か薬草類入ってる?」

 そう、ここは薬師ギルド。
 きっと俺の知らない薬草が集まっているはず!! 
 って、当たり前すぎるんだけどね。
 はじめからここに来ていれば、いろいろ覚えられたかもしれないな。
 ああ、今更だけどね。

「そうだね……ちょっと待って、在庫リスト確認するから。あ、あと、ギルドランクによって販売できるものも変わるから気をつけてね」

 エイミーがそう言って裏に引っ込んでしまったせいで、手持ち無沙汰ぶさたになってしまった。
 どうにも落ち着かず、そわそわしていると、後ろから声をかけられた。

「あれ? 確かこの前来てくれた……カイトさん……でしたっけ? 今日も買いものですか?」

 声をかけてきたのは、エイミーと同じ受付嬢のミオさんだった。
 なんというか、大和撫子やまとなでしこ(?)的な印象を受ける。
 俺からしたら和装って感じなんだけど、この世界で和装という表現が通用するかわからないから、あえて言う必要はないだろうね。
 それと、ミオさんはエルダとはまた違う美人だ。
 きりりとした面立おもだちにりんとしたたたずまいがその美人度を上昇させている。

「ええ。薬の素材を仕入れに来ました」
「そうでしたか。エイミーは……っと、今確認作業中ですね。では、今しばらくお待ちください」
「あ、ミオ。おかえり~」

 奥から在庫の確認作業を終えたエイミーが顔を出した。
 手には何やら目録的なものを持っている。

「ただいま帰りました。きちんと店番できましたか?」
「もぉ~!! 子ども扱いはやめてよね!!」

 ふくれっつらのエイミーもまたチャーミングだった。
 なんていうか……そう、小動物的な? 
 それを見たミオさんはくすくすと笑っていて、なんだかほっとする一場面だった。

「もう。えっと、お兄さんに今おろせるのはヒール草と弱毒草とスライムゼリーとパラライの実とねむごけかな? 今最低ランクだから、強い薬効の薬草はおろしてあげられないんだよね。あと、パラライの実とねむごけはどちらも銅貨二十枚ね」
「そっか、じゃあヒール草を百とスライムゼリーが五十。あと、弱毒草とパラライの実とねむごけをそれぞれ十もらえるか?」
「「えっ?」」

 なぜか二人が驚いて硬直してしまった。
 別に驚く数じゃないと思うんだけどな。
 回復ポーションが五十本作れる量でしかないんだから。

「どうしたの? なんかまずかった?」
「いや~、お兄さんが太っ腹だと思ってさ。正直窓口で大口購入する人は少ないんだよね。大口顧客は契約して窓口を経由せずに直接おろしちゃうからここに来ないんだ」
「なるほど。それって俺でもできるの?」
「ごめんなさい。カイトさんはまだ最低ランクだし、そもそも契約できるのは店舗てんぽを持っている薬師と錬金術師に限られてしまうのです」

 エイミーが理由を説明してくれた。
 ここに来るのは、駆け出しの薬師、錬金術師とか、あとは店舗てんぽを持たない人などが大半で、彼らにおろすのは回復ポーションでも十本作る程度の量が関の山なんだそうだ。

「そっか、教えてくれてありがとう。それで、数は準備できそう?」
「それはOKだよ~。じゃあ、料金は全部込々こみこみで金貨七枚と銀貨二枚」
「何が込々こみこみなんだかわからないけど、銅貨でもいいかい?」
「OK、銅貨なら七百二十枚ね」

 俺は袋七つと二十枚の銅貨を取り出して、カウンターに置いた。
 エイミーが物を取りに行っている間に、ミオさんが銅貨を数えていた。

「はい、確かにいただきました。じゃあ、領収証を発行しますね…………お待たせしました。これがあれば、品質に問題あったとき交換などができますので、なくさないでくださいね」
「あれ? 前はもらわなかったよね?」
「これだけの数ですから、チェックがれた商品が入っている場合があるので。そのためのものです」

 なるほど、商売に対して誠実だな。
 勉強になる。
 エイミーの準備が終わるまで、ミオさんと他愛たあいのないおしゃべりをしていた。
 ミオさんはこの国の出身ではなく、この大陸より東に位置する島国“東武国とうぶこく”の出身なんだとか。
 そこでは米に似た穀物も取れるらしく、米に似た穀物をいたものに合うようにと、また賢者様によって納豆が伝えられたとか。
 一度は行ってみたいな東武国に。
 それと、びっくりだったのは、ミオさんのお姉さんが、魔道具ギルドのギルマスのマイ・ウエマツさんだってことだ。
 どうりで似た雰囲気ふんいきを持ってるわけだ。
 しばらくすると、奥から商品を持ってエイミーが戻ってきた。
 ものすごく重そうだったけど……

「お、お、重たかった~」

 ドンとカウンターに荷物を置いたエイミーは、息も絶え絶えで額の汗をぬぐった。
 目の前には袋が四つ。
 それぞれ薬草が分けて入れられていた。

「ねえ、エイミー。台車を使えば楽だったんじゃない?」
「それが聞いてよミオ~。私が使おうとした台車を、ラッセルが無理やり持っていっちゃったんだよ~。伯爵様の納品に使うから寄越せって言って無理やりだよ~。ひどくない? こんなか弱い子に手で運ばせるなんてさぁ~」

 どこにでもいるもんだなあ……
 そういうやつには、いつか天罰がくだるといいんだけどね。

「またラッセルさんですか……わかったわ、ギルマスにはきちんと報告させてもらいます」

 なんだかミオさんからただならぬ気配がする……
 黒いオーラが見える!?
 もしかして、ミオさんって武芸とかできる人? 
 ひょっとして俺より強いんじゃ……ってくらいの殺気を感じてしまった。
 話はそれてしまったけど、持ってきてもらった薬草類を確認したら、品質が高いことがわかった。
 正直言うと、どんないい素材を使っても、俺が作ると必ず品質が(低)になってしまうから、素材自体もここまでいいものでなくてもいいんだが。
 むしろ低い品質でも同じく(低)になるあたり、俺の作り方は異質なんだと改めて実感した。
 エイミーたちもそれを察しているだろうに、それでもいいものを用意してくれたのは、薬師ギルドとしての矜持きょうじなんだろうな。

「確かに。数量も問題ないね。ありがとうエイミー、重かったでしょ?」

 ミオさんが、ヨシヨシとエイミーの頭をでてねぎらう。

「ほんといやんなっちゃう!! あとで絶対ラッセルに悪戯いたずらしてやるんだから!!」

 そう言うと、エイミーの目が“キラーン!! ”ってなった気がした。
 口元なんて小悪魔のようにニンマリとさせているし。
 これ絶対、どんな悪戯いたずらしかけるか考えてる顔だ。
 うん、この子もこの子で大概たいがいだな。

「じゃあ、これで失礼するね。また何かあったら来ます」
「バイバ~イ。そのときはよろしくね~」
「カイトさん、お気をつけて」

 俺がもらった袋をそのまま持ち上げたらびっくりされた。
 これでも一応冒険者だからね。
 これくらいは……って、俺は本当に冒険者なんだろうか。
 冒険者って、薬師ギルドで素材を買わないよね、普通。
 まいっか、俺は俺だし。
 あと、買ったものは薬師ギルド会館を出たら物陰で全部アイテムボックスにしまうんだけどね。
 買いものが終わり、薬師ギルド会館を後にした俺は自宅へと向かった。
 途中変な気配らしきものを感じたけど、よくわからなかった。
 一応警戒して歩いたものの、経験不足の俺はそれが何かまでは把握はあくすることができなかった。
 まあ、きっと閣下の密偵が見張ってるからなんとかなるかなって楽観視していたのは事実だけど。


「ただいま」

 自宅に着くと、誰もいなかった。
 エルダはまだ買いものの途中らしい。
 よくよく考えると、エルダの行動って新妻みたいだよな……
 新妻……手料理……えぷろん……
 ~~~~~~~~っ!!!!
 いかん!! よこしまな考えを浮かべてはいけない!! 
 そう、エルダは同居人であり、パーティーメンバーだ。バディだ。
 邪念を振りほどいた俺は、作業室に急いで移動した。
 それにしても、ものが増えて作業室がどんどん手狭になっていくな。
 そのうち改築しなきゃいけなくなるかも。
 まあ、そのときはそのときか。
 今はこの生活を安定させることを考えよう。
 さてさて、取り出したるは買ってきた薬草!! 
 まずは初お目見えのパラライの実とねむごけだな。
 とりあえず鑑定してみよう。
 スキル【鑑定】!!


 パラライの実:果実で味は甘くておいしい。食べるとそのまましびれて数分動けなくなる。レッサーマンイーターの果実
 ねむごけ:湿地に生えるこけ。動くものが近づくと胞子を飛ばす。胞子を吸い込むと急激な睡魔すいまに襲われる


 おっと、どっちも危ないものだったな。
 下手に口にしなくて正解だ。
 ピコン!!

『スキル:DIYのレシピが増えました』

 やっぱり増えたか。
 どれどれ。まあおおよその予想はつくけど……


 技能:DIY レベル2……低級アイテムの作成
    ▲薬(NEW)
      みんポーション(低)(NEW)……ヒール草1+ねむごけ1+スライムゼリー1+精製水1で1本作成。睡眠状態の回復。SP:5
      ポーション(低)(NEW)……ヒール草1+パラライの実1+スライムゼリー1+精製水1で1本作成。麻痺まひ状態の回復。SP:5


 よし来た。
 これで、状態異常に対応できそうだ。
 問題は、これを今持ってる素材でどれだけ作れるかってことなんだけどね。
 回復ポーションと解毒げどくポーションも作らないといけないから、計算がメンドクサイ。
 まあ、とりあえず二種類のポーションが作ればいいかな。


 どれから順番に行くか……
 俺は目の前に用意した薬草類の前で腕を組んで思案していた。
 結局のところ、どれからスタートしても同じことなんだけどね……
 うん、ここはまだ作ったことないポーションから作ればいいかな。
 回復ポーションの在庫はまだあるし。
 というわけで、解痺げひポーション(低)から作ろう。
 俺の今のSPが37で、これから作るポーションは大体消費SPが5か。
 まあ、簡易薬物作業台で作るから問題ないでしょ。
解痺げひポーション(低)」×5。
 目の前に準備していた薬草類のうち、解痺ポーションの素材となるものが光に飲み込まれていった。
 ほんと、この現象はいつ見ても不思議でならないな。

解痺げひポーション(低)作成中。残り時間:10分。予約枠5/5』

 ディスプレイに無事製薬を開始したと表示されていた。
 あとは順次進める感じかな。


 カツカツカツカツ。
 そんなこんなで作業を進めていると、部屋の外から足音が聞こえてきた。
 コンコンコンと、扉がノックされた。

「カイトいる?」

 扉の外からエルダの声が聞こえてきた。
 どうやら帰ってきたみたいだ。
 って、もうこんな時間か……時間が経つのは早いものだね。

「いるよ~。入っておいでよ」

 ガチャリと、扉が開かれる。

「うわぁ~」

 エルダの第一声があきれ返った声だった。
 せぬ!! 

「ねえ、前より物が増えてない? 気のせい?」
「ほら、簡易薬物作業台とか精製水蒸留装置とか増えたからね。今はポーション系を量産中だよ」

 そう言って簡易薬物作業台の上を指差すと、さらにあきれた顔になっていた。
 簡易薬物作業台の上には解痺ポーション(低)が十本に、解眠ポーション(低)が十本。さらに、解毒ポーション(低)が五本載っていた。

「ねえ、カイト。あなたお店でも始めるの? それより、この材料費っていくらかかったの?」
「え? これは自分たちで使う分だからね。材料費は金貨七枚強?」

 あれ? エルダの目からハイライトが消えただと!?
 なんか嫌な予感しかしないんですが……

「ねえ、カイト君。金貨七枚ってどんな金額かわかるかな? かな?」
「えっと……」
「金貨七枚あれば、一家族が余裕で一か月は暮らせる金額なんだよ? それが、なんで一瞬でなくなってるのかな? かな?」

 やばい。真面目まじめにやばい。こ、これを切り抜けねば殺される!! 
 ピコン!!

『解毒ポーション(低)×5が作成完了しました』

 このタイミングじゃないだろ!! 
 って、そうだ!! これだ!! エルダも巻き込めばいいんだ!! 

「エルダさんや、ちょっと実験を手伝ってくれないかな? これが成功すれば、きっと今よりかせぎが増えるはずだから」
「本当に?」

 エルダの顔色がみるみる戻っていく。
 どうやらピンチを乗り切ったらしい。

「そうそう、前に俺の作った設備が他の人が使えるかわからないって言ったでしょ? エルダが使用可能なら、この設備を貸し出しできるんじゃないかと思って。あくまで貸し出しで、半永久的にお金が舞い込む的な?」

 エルダの表情が明るくなっていく……
 なんだろう……
 エルダのキャラがわからなくなってきた。
 今朝の可愛かわいいエルダはどこにいっ……ひぃっ!! 

「何か言ったカイト?」

 どうして殺気を込めて名前を呼ぶのかな? 
 とりあえず、残っているのは回復ポーション(低)の材料だったので、エルダには回復ポーション(低)を作ってもらうことにした。

「じゃあ、その簡易薬物作業台に触れて、作成するってイメージしてみて」
「こう?」

 するとエルダのイメージに反応して、いつもの透明な板が浮かび上がった。

「なにこれすごい!! カイト!! これすごいんだけど、どうなってるの!?」
「それは俺もよくわかってないんだ。じゃあ、次にこの素材を作業台の上に置いてもらっていい?」

 エルダは興奮しながら回復ポーション(低)五本分の材料を簡易薬物作業台の上に置いた。

「じゃあ、その透明な板に『回復ポーション(低)』ってレシピがあるか確認してもらってもいい?」
「ちょっと待ってて……あった、これね」
「よかった。あとは簡単。声に出してアイテム名を読めばOKだよ」
「わかったやってみる。回復ポーション(低)」

 エルダの声に反応して簡易薬物作業台が光を放った。
 簡易薬物作業台の上の材料はその光に吸い込まれていく。

「カイト!! これどういうこと!? なんかいきなりSPが持っていかれて気持ちが悪かったわよ!!」
「じゃあ、またさっきの透明な板を呼び出してみて」

 エルダが簡易薬物作業台に手を置いて、透明な板を呼び出した。

「あ、作業中になってる」
「よし!! エルダ成功だよ!!」


 俺は大声を上げてから、エルダの両肩をつかんだ。

「エルダ、これで君も俺と一蓮托生いちれんたくしょうになったよ……」
「え?」

 エルダから頓狂とんきょうな声が返ってきて面白かった。
 これで確定してしまった。
 俺を起点に、産業革命を起こすことができる。
 俺が作る作業台で、なんの知識もない一般人がポーションを作成可能。
 SPさえあれば〝誰でも〟作れる。
 今はまだ低品質のものしか作れないけど、いずれは最高品質だって作れる可能性がある。
 それができなくとも一定品質のものを一般人が作れる。
 逆に言えば、これまで手を抜いていた職人たちは淘汰とうたされてしまうだろう。
 うん、これはかなり難しい問題だな。
 さすがに、俺の手に余る。
 本来であればおっちゃんを巻き込みたいところだけど、このところ負担をかけまくっているから言いづらいんだよな。
 うん、ここはひとつ……

「エルダさんや、ものは相談なんだが……この話は秘密にしてもらえるかい?」
「なんのことですか? わたしはだいじょうぶ。わたしはなにもみていない。ワタシハナニモシラナイ」

 あ、だめだ……完全に現実逃避しちゃったよ。
 もう一度エルダの肩を掴んで何度か揺さぶってみたけど、こちらに戻ってくる気配はないようだ……
 ホントこれ、どうしたらいいんだ……

「エルダさ~ん。エルダさんや~。こっち戻っといで~」

 さてどうしたものか……
 ずっと呼びかけても全くこっちを見るそぶりすらない。
 なんかブツブツ言ってるし。
 仕方ない……これはやりたくなかったんだけどな。
 最後の手段に頼らざるを得ないか。
 エルダ、ごめん。
 俺は意を決して、いまだ現実逃避しながら椅子いすにもたれかかっているエルダの顔に近づく。
 もう少しでエルダのくちびるに触れそうになる……
 そして俺は……
 むぎゅっ!! 
 エルダの鼻を全力でつまんだ。

「痛ぁ~~~~~い!! 何するのよ、カイト!! 痛いじゃないの!!」
「やっと正気に戻ったみたいだね。お帰り、エルダ」
「ほんと、カイトのせいだからね? 私をこれ以上厄介事やっかいごとに巻き込まないでほしいわ!!」

 本当にごめんなさい。
 巻き込んだっていうか、なんというか……
 そうなってしまったわけです、はい。

「そうだ、エルダってどうしてここに来たんだ?」
「あ、忘れてた!! 晩ご飯ができたから呼びに来たのよ」
「それ先に言おうか……」
「ごめんなさい」

 俺たちはダイニングに移動し、遅い夕食をとることになった。
 冷めてもうまいエルダの料理に感謝。


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