絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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一回目

第2話

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「おはよう輝」
「おはよう悠一。あの目覚まし気に入ってくれたかい?」

 玄関を出ると、そこには朝の一幕の元凶である親友の輝の姿があった。
 輝はウクライナ人の血を引いているせいか、日本人離れした顔立ちをしている。
 これは血筋なのか分からないけど、身体の色素が若干薄めだ。
 だからか、明るめの金髪に碧眼という王子様然とした印象を与えるにふさわしいルックスの持ち主だ。
 輝は、僕が小学校3年生の夏休み前に転校してきた。
 当時はそのルックスから、いじめの対象となっていた。
 僕はというと、そんなことを気にする必要ないのにね?って思っていたので、周りの反応を気にすることなく輝に接していた。
 そのせいで自分がいじめの対象になるとは思っていなかったけど。
 それでも僕の隣にいつも輝がいたから、あまり気にしていなかった。
 そして輝との友情を決定づけたものがあった……
 それが同じラノベファンだってことだ。
 高校に入ってからは少しづつファンが増えてはきたけど、やっぱりまだまだ少数派。
 だから、こうやって心置きなく語れる親友は得難いものだと思ってしまう。

「それじゃあ行ってきます」

 そしていつものように、僕たちは学校へ向かう。

 
 「おはよう悠一君、輝君」

 僕たちは通学路にある上り坂……通称心臓破りの急こう配を歩いている。
 正直、学校に行く前に疲れて勉強どころではなくなるくらいにはきつい坂道だ。
 登り始めてすぐの脇道から、一人の少女が声をかけてくる。
 
 彼女の名は愛理あいり
 僕らのもう一人の幼馴染だ。
 愛理は周囲の人に、どこかポワポワした印象を与えるくらいに天然全開の女の子。
 通学中にちょっと気になったからと、ちょうちょを追っかけるほど。
 漫画やアニメの世界でしかいないと思ってたけど……
 現実に存在したんだと、輝と二人で驚愕したのが懐かしい小学生の時の思い出だ。
 愛理とは保育園の頃からの付き合いで、不思議な事の小中高と全て同じクラスだった。
 愛理は冗談めかせて「これは運命かな?運命だよね?うん!!」なんていってくる始末。
 冗談だってわかっていても、その可愛らしさからドキドキしてしまったのがついこの間の話。
 愛理は、僕と輝がいじめを受けていた時、変わらず接してくれていたクラスメイトの一人。
 あと他に、美冬みふゆという女子生徒と、一馬かずまという男子生徒がいる。
 この五人はいつも一緒だった。

「愛理……せめて家出るときには鏡みような?」
「愛理ちゃん……これには俺も同意するよ」

 ここでも天然を発動させる愛理。
 口元に朝食べたであろうケチャップがうっすらとついている。
 僕は鞄にあったウェットティッシュでそれを拭おうとすると、愛理もいつものようにと顔を突き出してくる。
 なんとも無防備な姿に、またドキドキしてしまう。
 顔に出てないといいんだけど。

「あ、ごめん!!施設に忘れ物した!!」
 
 輝は愛理の口元を拭くためにガサゴソと鞄を漁っていた際に、施設に忘れもをしたことに気が付いたらしい。
 その慌てようから、きっと大事なものだって傍から見てもわかるくらいに動揺している。

「何忘れたのさ。宿題だったら見せるけど?」
「いや、あの……」

 輝は僕に近づくとそっと耳打ちでその忘れたものを教えてくれた……
 絶対に愛理には知られたくない物。
 官能小説『乱れ忍法触手変化!!』というタイトルのモノだった。
 ここ一年で目覚めたらしく、ラノベとは違う独特の世界観に引き込まれたんだとか。
 そしてなぜ忘れて慌てたかというと、そう、僕をその道に引きずりこもうと画策していたから。
 さすがに気にはなるけど、そっちの世界にはいかないよって毎回言ってるんだけどね。
 今回も聞き入れてはもらえそうにない……

 無理に取りにいかなくてもいいんじゃないかって言ったら、どうやら机の上に出しっぱなしだったらしい。
 親が部屋に入ったら、間違いなく卒倒するに違いない。
 僕に理由を教えた輝は、一目散にもと来た道を戻っていった。
 親にばれないことを祈ろう。
 
「いこっか」
「だね」

 愛理と短い会話を交わし、僕たちは通学路を学校に向けて歩き始める。

 しばらく歩くと生徒の数も増え、息も絶え絶えで登っていく。
 真夏の暑い日差しが容赦なく生徒の体力を奪っていく。
 誰だよこんな場所に学校建てたの。
 もっと利便性考えてほしかった。
 始業前にヘロヘロで集中できるわけないのに。

チリン

 するとどこからか涼やかな鈴の音が聞こえる。
 夏の暑さに良く似合う、そんな鈴の音。
 どうやらその鈴の音は僕だけに聞こえたみたいだ。
 なんか少し元気が出た気がする。
 隣を見ると、愛理はすでに息も絶え絶えだ。

「大丈夫、愛理?」
「へ、平気だよ……うん、平気……」
 
 疲れと熱さから、心が折れかけているみたいだ。

チリン

 また一つ。
 きっと、この登校する集団の誰かのカバンにでもついてるんだろうな。
 僕は最後の体力を振り絞るように、心臓破りの急こう配を登っていく。
 周りも必死にこの上り坂の先にある校舎を目指す。

チリン

ドスン

「あ、ごめんなさい……」

 僕はあまりの疲れから、左から人が来てることに気が付かなかった。
 そのせいもあり、思いっきり身体ごとぶつかってしまった。
 意識していなかったせいか、ぶつかったところがやけに痛い。
 そんなに強くぶつかってなかったのに。

「裕君?裕君⁈裕君!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 突然愛理が僕の名前を連呼すると、すぐに叫び声をあげた。
 いったい何が……

 そう思った時、突然僕の身体から力が抜けてしまった。
 足の踏ん張りも効かず、そのまま地面に膝を付いてしまう。
 なんで力が入らないんだ……
 冷たい汗が僕の背中を流れ落ちていく。
 徐々に視界もぼやけ、心臓がやけに激しく鼓動していた。
 僕は痛みに耐えながら、原因の場所をさすってみた。
 すると、ぬるりとしたものが手に付着したことを感じた。
 そしてその手を見て初めて気が付いた……血だ……

 え?これ僕の血?
 え?どういうこと?
 どうして?
 どうして?
 そうして?

 頭の中で繰り返される疑問符に、誰も答えてくれることはなかった。
 ただ冷たい血の海が、僕に現実を突きつけてきた。
 薄れゆく意識の中で聞こえたのは、大好きだった愛理の声だった。
 あぁ、僕は死ぬのか……
 ちゃんと愛理に好きだって伝えればよかった……
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