絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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二回目

第3話

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——————
今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!
——————

「うわぁ!!」

 何だったんだ今の夢は……
 あまりにもリアルすぎる夢だったな。
 僕は慌てて左わき腹を触ってみる。
 そこには刺されたはずの傷跡もなく、そもそも痛みすらなかい。

「なんだ……よかった……夢か……」

 夢で片付けるには度を過ぎたリアルさだった。
 今でも覚えている。
 夢の中で感じた左わき腹に感じた刃物の感覚。
 その刃物が突き刺さってくる痛み。
 そして手のひらに付いた自分の血の感触
 それらが生々しく感じ取れる。
 正直、本当に夢だったか疑いたくなるレベルのリアルだ。
 思い返していたら、少し気持ちが悪くなってきた。

——————
今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!
——————

 止め忘れた目覚まし時計の繰り返される音に、強い苛立ちを覚る。
 僕はその苛立ちをぶつけるかのように、強めに停止ボタンを押してしまった。
 どうやら強く叩きすぎてしまったらしい。
 壊れてしまったか、目覚ましの音は止まらなくなってしまった。
 しかもどこかくぐもった音声が、なんとも不気味悪い感じがしてしまった……
 なんて考えている間も、ずっと不気味悪い音声が流れ続ける。
 僕はやってしまったことに気が付き、慌てて電池を取り外し音声を止めた。
 後で輝に謝らないとな。
 ほんとごめん輝……

 それにしても、パジャマが汗でベタベタだ。
 そのせいで、身体にまとわりついて気持ちが悪い。
 相当寝苦しい夜だったみたいだ。
 不快感をそのままに、僕はベットから起き上がる。
 カーテンと窓を開けると、夏の朝日が部屋を照らしていく。
 さっきまで薄暗かった部屋が、一気に明るくなる。
 それと共に、部屋に侵入する生温い風。
 否が応でも夏真っ盛りを強制的に教えてくる。
 スマホで確認すると、今日は熱帯夜だったらしい。
 それじゃあ汗かいても不思議じゃないよね。

 それにしても、やたらと今日はサイレンの音が煩いな。
 なんか事件でも起こったんだろうか。
 何もなかったらいいんだけどね。

 僕はふと窓の外を見ていると、こちらを覗く人影が……
 なんてミステリードラマみたいなことは起るはずもない。
 何処からどう見ても、普通の光景が広がていた。
 ランニングをする人、犬の散歩をしている人、早朝出社のサラリーマン。
 黒のフードを目深にかぶった人は……さすがにちょっと珍しいかな?
 まあ、怪しい人がいたとしても、パトカーがこれだけ回っていたらすぐに捕まっちゃうんだろうね。

 外の観察を終えた僕は、寝汗でべたべたになった下着とパジャマを交換する。
 そして軽い身支度を済ませると、1階の洗面所へ向かう。
 
 キッチンでは、いつものように母さんが朝食の準備を進めてくれていた。
 この匂いからして……今日は卵焼きかな?

 洗面所では、妹のルリが鼻歌交じりに身支度を整えていた。
 2個下のルリはいつからかおませさんになり、こうやって身支度に余念がなくなっていった。
 そのせいでこうして待つ羽目になるんだけど、注意したところで反発されるだけなので、僕は終わるのをじっと待つことにした。

「おはよう寝坊助」
「父さん……これ僕のせいじゃないからね?寝坊助はひどくない?」

 リビングではいつものように新聞を広げた父さんが、僕をからかいながらクツクツと肩を震わせて笑いをこらえていた。
 ほんと毎日の事とは言え、さすがにひどいんじゃないかと思うんだよね。

——————
臨時ニュースです。昨夜○○県✕✕市の路上で、男性の遺体が発見されました。
状況から殺人とみて警察が捜査を開始した模様です。
詳細については……
——————

 テレビから流れてきたビックリなニュース。
 ○○県✕✕市は僕たちの住むこの街の事だ。
 通りでさっきからサイレンが鳴っているわけだ。
 って、あれ?なんか聞いたことがある様な……気のせいだよね?
 
「場所が近いな……皆、何かあってもいいように気を付けていくんだぞ?」

 いつもは飄々としている父さんが、いつもと違って真剣な面持ちだった。
 それだけ注意してほしいってことなんだろうけど……正直どう注意していいかなんてわかるはずもない。
 それにこれだけ警察が動いているんだから、それほど心配はないと思うけど……

「僕は輝とだから問題ないけど、ルリは大丈夫なの?」
「私?私は大丈夫だよ?家出てすぐに友達と合流するし。それにお兄ちゃんと違って空手習ってますから!!」

 そう言うと、ハッ!!ホッ!!と空手の型をして見せた。
 危ないから家の中ではやめてほしいかな。
 ルリは小学校3年生の頃から空手を始めていた。
 それもあって、今では腕相撲でルリに勝てる気はしないんだけどね。
 
 そんなこんなしていると、皆の出勤登校時間が迫ってくる。
 僕も準備を進めるけど、ルリはそうも言ってられないみたいだ。
 ルリの様子は、まさに戦場を駆け廻る兵隊の様な鬼の形相をしていた。
 それもそのはず。
 時間になっても、だらだらとリビングでスマホをいじっていたんだから。
 そりゃ身支度する時間が無くなってしまうってものだ。
 そのせいか髪型もうまく整えられないみたいだ。
 鏡の前でモウモウと騒いでいたから。
 仕方がないから、僕はいつものようにルリの髪のセットを手伝う。

 あれ?なんだこの感じ……なんか初めてな気がしない。
 あ、そうか毎日やっていればそうなるよな。
 
 ピンポーン

 いつもと同じ時間に玄関のチャイムが鳴る。
 輝は時間通りに僕のうちへやってくる。
 これは小学校の頃からのお決まりとなていた。 
 
「おはよう輝」
「おはよう悠一。あの目覚まし気に入ってくれたかい?」

 玄関を出ると、親友の輝の姿があった。
 朝日に照らされた薄金色の髪が、淡く光って見える。
 そして後光がさすように影が輝を縁取り、整った容姿も相まって神秘的にさえ思えた……はずもなく、いつもの輝がそこにいた。
 輝の質問に、僕は誤魔化すほかなかった……
 煩すぎて強く叩いたら壊れましたなんて、口が裂けても言えないから。

「それじゃあ行ってきます」

 そしてそのまま追及を逃れるように、僕たちは学校へ向かった。
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