絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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六回目

第14話

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 それから僕たちは、いつものように学校に向かって歩き出す。
 夏真っ盛りの朝の空気は、やはりどこか湿気を含んでいて、まだそれほど日は高くないのに、すでに蒸し暑さを感じさせる。
 時折聞こえるセミの鳴き声が、その暑さに拍車をかける。
 
 そう言えば、前回ハナは行方不明になってたんだっけ。
 そう思っておじさんに気を向けると、やっぱりハナの行方を捜していた。
 どうやら今回も、ハナは行方不明みたいだ……
 おじさんの話では昨日からって言ってたな……
 もしかして、今朝母さんが言っていた犬の死体ってまさか……ね。

「ん?どうしたんだ悠一……って、あの人ハナの飼い主さんだよね?なんだか元気ない気がするけど……」
「いや、ハナが昨日から行方不明らしいんだ。だからおじさん大丈夫かなって……」

 輝は「へぇ~そうなんだ……」って言って黙ってしまった。
 輝も実はハナが大好きで、ハナも輝に良く懐いていた。
 登校中に出会うと、いつもハナから寄ってきて撫でてほしいとお腹を見せるほどに。
 僕には見せてくれたことはない……

「心配だよな……見かけたら声をかけてあげるくらいしか俺たちに出来ることはないか……」
「それが僕たちに出来る精一杯ってやつだね」

 僕は輝の言葉に同意するしかできない。
 これについてどうにもできないもどかしさで、居た堪れない感情になってしまう。
 これから向かう先に、自分の死が待っているのに。


「それじゃお兄ちゃん、私友達と行くね」
「おう、気負つけてな。それと一人で行動しないようにな。それと、知らない人について行かないように。それから……」

 前回の事もあり、ルリには余計気を付けてほしいと思ってしまう。
 むしろもっと注意してもし足りないとさえ思ってしまう。
 ルリからも、「お兄ちゃんうざいよ?」って返ってくる始末で……
 流石にショックが大きかったけど、兄として心配なんだから仕方がないじゃないか。

 それから坂を上り始めると、いつものように愛理と合流する。
 特に何かあるわけではなく、いつものように挨拶を交わし、またいつものように坂道を登り続ける。
 やっぱり最初にここに学校を建てようとした人に、文句を言ってやりたいと思ってしまっても不思議じゃないよね?

 坂道を上るたびに、この先で起こる惨劇が僕の脳裏に蘇る。
 そのたびに胸の奥が何かざわめくのを感じている。
 遠くで聞こえる生徒たちの会話や足音がやけに耳に残る。
 空を見上げれば、いつもと同じ青空がそこに有る。
 なのに、僕の足取りは、いつにもまして重いものになっていた。

 それから少しして最初と同様に、輝が忘れ物をしたと帰ろうとした。
 こそこそと話を聞くと、やはり官能小説だった……安定の輝ワールドだ。

「それって必要なの?あとで僕が輝の施設に取りに行けばいいでしょう?」
「……そっか。確かにそうだね。ごめん、やっぱりいいや」

 一瞬考えるそぶりを見せた輝だったけど、僕の提案に納得したのか、結局3人で坂を上り始めた。


ドクン……

 来た……またここにきてしまった……
 僕の心臓の鼓動が速度を上げていく。
 僕の呼吸もそれに合わせて荒くなっていく。
 深く吸い込むことができず、浅い呼吸を繰り返す。
 うまく呼吸ができない……

ドクン……

 もうすぐそこだ……
 ここで僕は左側から来た犯人に刺される。
 だけど今は左に輝、右に愛理。
 この二人を避けて僕を刺してきたのなら、犯人の目的は僕で間違いなくなる。
 しかも犯人の行動は徐々にエスカレートしている気がしてならない。

ドクン……

 ついにこの場所に来た。
 犯人は……いない?
 周囲を見回しても、それらしき人影は見当たらない。
 さらに心臓の鼓動が加速していく。
 それに合わせるかのように、手に冷や汗が滲んでいた。

「大丈夫か悠一……顔色が悪いぞ?」
「大丈夫?悠一君……つらいなら休んだ方がいいんじゃない?」

 二人は心配そうに僕を見てきたけど、今はそれどころじゃない。
 犯人がどこから来るか分からないんだから。
 そして次の一歩を踏み出した時、僕から安堵のため息が漏れる。
 緊張のあまり、肺に目いっぱい空気をため込んでしまったらしい。
 そのせいで呼吸も荒くなってしまったみたいだ。

「ごめん……大丈夫だから。心配させたね」

 二人とも「そっか」というと、一応の納得を示してくれた。
 まずは第一歩……次は学校の廊下。
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