絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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九回目

第21話

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——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

 もう嫌だ……
 こんな死に方なんてもうしたくない……
 
 僕はゆっくりとベッドから立ち上がると、身支度を済ませスマホと財布を手に取って、階段を下りる。
 思い出されるあの衝撃と激痛……
 そして最後に襲ってきたナイフの感触。
 どれもこれも恐怖意外に何もなかった。

「おはよう悠一。って、悠一?おい、悠一!!」

 父さんの声が遠くで聞こえている気がした。
 だけど僕には何も考えられなかった。
 僕が考えていたのは、一刻でも早くこの場から逃げてしまいたい。
 ただそれだけだった。

 父さんの引き留めようとする言葉を無視して僕は家を飛び出した。
 朝早くだったためか、空気がまだ冷たく、僕の心をそのまま写し取っているみたいだった。

 それから先の事は余りよく覚えていない。
 気が付いたら僕は始発の電車に乗り込んでいた。
 そうだ、もっと遠くへ逃げたらいいんだ。
 意識を取り戻した僕は、そのまま終点まで電車で移動する事に決めた。
 
 始発の電車にはそれほど多くの人は乗っていなかった。
 さすがに不審者がいれば気が付かない人は居ないはず。
 周りにはサラリーマンや高校生、お年寄りも載っていた。
 一駅超えるごとに乗客は増えてきたけど、それでも雑多と思えるほどには増えてはいなかった。

 そんな中ふとよぎったのは、ルリの存在だった。
 確か僕が早く学校へ行ったとき、ルリは犯人に襲われたはず……
 そう思うと、僕は居てもたってもいられなかった。
 メールアプリからルリにメッセージを送るも、既読が付かない。
 それが僕の不安に拍車をかける。

 僕は堪らず次の駅で電車を降り、ルリに電話をかける。

『あ、もしもしお兄ちゃん?今どこにいるの?お父さんもお母さんも心配しているよ?』

 電話に出たルリはいつも通りの声だった。
 その声に安心した僕は、なぜか涙があふれてきた。
 安堵と言えばいいのか。それとも別な感情か……
 どう表していいか分からない。

「ごめん……ちょっと気晴らしがしたくなっちゃって。夕方には帰るから。父さんや母さんによろしく言っておいてくれるかな」
『分かった……。ちゃんと帰ってきてよ?』

 ルリとの電話を終えて、僕は次の電車を待つ。
 次の電車10分後。
 都会ならもっとひっきりなしに電車が通るんだろうけど、地方都市ではこれでも走っている方だと思う。
 次の電車を待つ間、僕はスマホでニュースを確認していた。
 僕の住む街で起こった不可解な事件が無いか。
 動物の不審死や殺人事件、傷害事件などいろいろ。
 そうすると、ここ1年くらいこういった類の事件が増えているようだった。
 この辺りも父さんが教えてくれた話に一致する。
 
 同一犯とは言えないけど、あまりにも増え方がおかしかった。
 ニュースベースでの確認だけど、ここ1年で3倍から4倍近くまで膨れ上がっていた。
 特に動物に対する虐待件数が大幅に上昇していた。
 これが何を意味するのかは分からない。
 ただ不気味さを感じてしまったのは間違いなかった。

「だれが何のために……」

 つい漏れ出した声が僕の本音だ。
 何かが動いている、誰かがそれを実行している。
 なんて暗躍説、陰謀論を語るつもりは毛頭ないけど、それすら縋りたくなる気持ちになりそうだった。

「次の電車が来たか」

 ホームには電車の到着音が鳴る。
 僕はその電車に乗ろうとしたが、ふと家の事が気になってしまった。
 このまま次の街までいくのもいいけど、 敢えてここで戻るという選択肢もある。
 幸い戻りの電車があと数分で到着する。

 電車は僕をホームに残し走り去る。
 僕は言えに戻る選択をした。
 戻りの電車は反対ホームだったため、僕はすぐにホームを移動する。
 こちらの電車にはあまり乗る人がいないのか、待合のベンチもスカスカだった。
 僕は次の電車を待つためにベンチに腰をおろし、またスマホで情報収集を始める。
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