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九回目
第23話
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「ここは……」
「ここは病院よ。意識は戻ったようね。先生を呼ぶからちょっと待っててね」
僕は気が付くと、ベッドに横にされていた。
手足は拘束具の様なもので縛られているみたいで、身体の自由が利かない。
看護師さんが僕の意識の回復を確認すると、そのまま部屋を出ていった。
軽く周りを見渡すと、どこかの病院だってことは分かった。
心電図や血圧計が作動する音が静かな病室中に響いている。
「うん、意識は戻ったようだね。これなら拘束具はいらないだろから、外して構わないだろう」
医師と思われる男性がそう指示すると、別の男性看護師さんがすぐに拘束具を外してくれた。
自由になった手足を動かし、少しだけ安堵した。
「あの、僕はいったい……」
「君は警察署に保護された際に、ご家族の事を聞き、錯乱状態に陥ったんだよ。」
なんとなくは覚えているけど、自分の出来事ではないような気がしてしまった。
何かドラマの世界をテレビ越しに見ているような、そんな感じがした。
「それじゃあ、意識も回復したようだし、今日はここで一晩泊って行きなさい。あとのことは警察から報告があるだろうからね。これからについてはその後決めるといい」
医者はそう言うと、僕の部屋を後にした。
それからぞろぞろと数名の警察官が僕の病室へ入ってくる。
そこで説明された話に、僕は茫然としてしまった。
まず火事はすでに鎮火していること。
火は間違いなく放火であること。
家族は全員死亡が確認されたこと。
死因は全員他殺であったこと。
つまりこれは殺人事件であり、放火はその後に行われたという事だった。
夢だったらどれだけいいか……
僕は一瞬にして家族を失い、帰る家を失い、そして残されたのは、犯人への憎悪だけだった。
今すぐにでも犯人を突き止めて、同じ目に合わせたい。
そう願うも、その犯人の手がかりすらない状況。
おそらく僕をずっと殺し続けている奴の犯行に違いないという、なんの根拠もない話だけど、確信はあった。
「そう言うわけだから、君は数日ここで身体を休めなさい。今はきっと心が疲弊してしまっているからね。それから今後については君の親族のが明日見えられるそうだから、そこで相談するといい」
「分かりました……何から何までありがとうございます。」
僕はゆっくりと身体を起こし、警察官に頭を下げる。
警察官もどこか申し訳なさそうにしていた。
僕は去り際の警察官に「よろしくお願いします」とだけ伝えた。
警察官は無言で頭を下げ、病室を後にしたのだった。
カラカラカラと看護師さんがカートを押している音が病院の廊下から微かに聞こえてくる。
警察が去ったあと、病室は静まり返り、どこか無音の世界に閉じ込められたみたいだった。
僕が恐らく眠れないだろうと考えた主治医が、就寝前の服薬として睡眠導入剤を処方してくれた。
それを服用したせいか、今は夢と現実の狭間で、意識が朦朧としていた。
重い瞼の裏で、病室の扉がゆっくりと開く音が聞こえた。
だけど僕は眠気に抗うこともできず、目を開けることさえ叶わなかった。
しかし、その音は確かにそこに存在していた。
チリン……
カラカラとカートが動く音に紛れ、あの鈴の音が再び聞こえてきた。
その冷たく澄んだ鈴の音が、また僕の恐怖を掻き立てる。
まどろむ意識と沸き立つ恐怖に二分された僕の意識は、混乱の極致へと否が応でも追い込まれる。
僕は恐怖に駆られ慌ててナースコールに手を伸ばしたけど、震えた手がそれを邪魔をする。
そしてナースコールは無情にもベッドの下へ落下し、そのカツンと言う床を叩く音が、不安をさらに強くする。
チリン……
病室の薄明かりに浮かび上がるシルエット……
それは冷え冷えとした恐怖で僕の心を縛り付けるには十分すぎた。
逃げようにも逃げ場などどこにもない。
恐怖からか手足が鉛のように重く感じてしまう。
抵抗しようとするも、身体は言う事を聞かず、冷や汗が全身を覆いつくす。
乱れる呼吸を鎮めよと深呼吸を試みるも、空気が喉を通ることを拒否したように、呼吸もままならない。
心臓が狂ったように激しく暴れ出した。
チリン……
シルエットから覗き見えた仮面の下の下品たる笑みが、僕を嘲笑っているかのようだった。
醜く歪んだ口元が僕の最後に見た光景だった。
「ここは病院よ。意識は戻ったようね。先生を呼ぶからちょっと待っててね」
僕は気が付くと、ベッドに横にされていた。
手足は拘束具の様なもので縛られているみたいで、身体の自由が利かない。
看護師さんが僕の意識の回復を確認すると、そのまま部屋を出ていった。
軽く周りを見渡すと、どこかの病院だってことは分かった。
心電図や血圧計が作動する音が静かな病室中に響いている。
「うん、意識は戻ったようだね。これなら拘束具はいらないだろから、外して構わないだろう」
医師と思われる男性がそう指示すると、別の男性看護師さんがすぐに拘束具を外してくれた。
自由になった手足を動かし、少しだけ安堵した。
「あの、僕はいったい……」
「君は警察署に保護された際に、ご家族の事を聞き、錯乱状態に陥ったんだよ。」
なんとなくは覚えているけど、自分の出来事ではないような気がしてしまった。
何かドラマの世界をテレビ越しに見ているような、そんな感じがした。
「それじゃあ、意識も回復したようだし、今日はここで一晩泊って行きなさい。あとのことは警察から報告があるだろうからね。これからについてはその後決めるといい」
医者はそう言うと、僕の部屋を後にした。
それからぞろぞろと数名の警察官が僕の病室へ入ってくる。
そこで説明された話に、僕は茫然としてしまった。
まず火事はすでに鎮火していること。
火は間違いなく放火であること。
家族は全員死亡が確認されたこと。
死因は全員他殺であったこと。
つまりこれは殺人事件であり、放火はその後に行われたという事だった。
夢だったらどれだけいいか……
僕は一瞬にして家族を失い、帰る家を失い、そして残されたのは、犯人への憎悪だけだった。
今すぐにでも犯人を突き止めて、同じ目に合わせたい。
そう願うも、その犯人の手がかりすらない状況。
おそらく僕をずっと殺し続けている奴の犯行に違いないという、なんの根拠もない話だけど、確信はあった。
「そう言うわけだから、君は数日ここで身体を休めなさい。今はきっと心が疲弊してしまっているからね。それから今後については君の親族のが明日見えられるそうだから、そこで相談するといい」
「分かりました……何から何までありがとうございます。」
僕はゆっくりと身体を起こし、警察官に頭を下げる。
警察官もどこか申し訳なさそうにしていた。
僕は去り際の警察官に「よろしくお願いします」とだけ伝えた。
警察官は無言で頭を下げ、病室を後にしたのだった。
カラカラカラと看護師さんがカートを押している音が病院の廊下から微かに聞こえてくる。
警察が去ったあと、病室は静まり返り、どこか無音の世界に閉じ込められたみたいだった。
僕が恐らく眠れないだろうと考えた主治医が、就寝前の服薬として睡眠導入剤を処方してくれた。
それを服用したせいか、今は夢と現実の狭間で、意識が朦朧としていた。
重い瞼の裏で、病室の扉がゆっくりと開く音が聞こえた。
だけど僕は眠気に抗うこともできず、目を開けることさえ叶わなかった。
しかし、その音は確かにそこに存在していた。
チリン……
カラカラとカートが動く音に紛れ、あの鈴の音が再び聞こえてきた。
その冷たく澄んだ鈴の音が、また僕の恐怖を掻き立てる。
まどろむ意識と沸き立つ恐怖に二分された僕の意識は、混乱の極致へと否が応でも追い込まれる。
僕は恐怖に駆られ慌ててナースコールに手を伸ばしたけど、震えた手がそれを邪魔をする。
そしてナースコールは無情にもベッドの下へ落下し、そのカツンと言う床を叩く音が、不安をさらに強くする。
チリン……
病室の薄明かりに浮かび上がるシルエット……
それは冷え冷えとした恐怖で僕の心を縛り付けるには十分すぎた。
逃げようにも逃げ場などどこにもない。
恐怖からか手足が鉛のように重く感じてしまう。
抵抗しようとするも、身体は言う事を聞かず、冷や汗が全身を覆いつくす。
乱れる呼吸を鎮めよと深呼吸を試みるも、空気が喉を通ることを拒否したように、呼吸もままならない。
心臓が狂ったように激しく暴れ出した。
チリン……
シルエットから覗き見えた仮面の下の下品たる笑みが、僕を嘲笑っているかのようだった。
醜く歪んだ口元が僕の最後に見た光景だった。
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