絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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十一回目

第27話

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——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

 ほら見たことか……
 僕は同じ時間に返ってきた。
 僕が死なないのはおかしい世界なんだ。
 僕が死ぬのが正しい世界なんだ。
 僕は死ななきゃいけないんだ……
 僕は殺されるためにここにいるんだ。
 犯人によって何度も何度も何度も何度も……
 
 僕の思考は恐怖で汚染されていく。
 その思考は正しくないと分かっていても、それを否定する事が出来ない。
 否定できないから、次第にそれを受け入れてしまう。
 この強制される死が、僕の心をじわりじわりと蝕んでいくようだ。

 なんでこんな世界に……
 頭にはそれしかなかった。
 死にたくない死にたくない死にたくない……
 誰か助けてよ……

 声をあげようにも誰に話していいのか分からない……
 父さんに?
 母さんに?
 ルリに?
 輝に?
 愛理に?
 一馬に?
 美冬に?
 おじさん?
 ハナ?
 田中さん?
 お隣さん?
 お向かいさん?
 先生?
 警察?
 病院?
 どこにだよ……
 誰が信じるんだよ……
 僕はループ世界に閉じ込められたんだって……

 僕はのそりとベッドから身体を起こし、陰鬱な気持ちで窓を開ける。
 いつものように生温い風が部屋に入り込んでくる。
 窓の外には、いつも見る光景が広がる。
 変わる事のない世界。
 同じようにプログラムされたかの様な人々が、いつもと変わらない日常の行動をとる。
 僕の周りは僕の動きに合わせ、プログラムが書き換えられていくみたいだ。
 まるでAIが自動生成しているみたいな無機質感を感じてしまう。
 確かにみんな生きてるのに、生を感じられない……
 僕は今を生きているはずなのに、今しか生きていない……

 もうヤダよ……

 ふと窓の外にある電柱が目に留まる。
 特に何かあるわけでは……
 何かがいる……確かにそこに何かがいた。
 それは何かわからない。
 人影らしきものがそこに確かにあった。
 何かがそこにいるという確信が、僕をより不安にさせていく。
 もしここで確かめなければ、この不安感で僕は押しつぶされてしまう。
 そう思うと居てもたってもいられず、僕は慌てて上着を羽織り、外へと飛び出した。
 
 さっき見た電柱は……確かここだ。

 慌てて来てみたものの、そこには誰もいなかった。
 誰かがいた痕跡も見当たらない。
 僕の見間違え?
 いや、確か気ここに誰かがいた気がする。
 いつも感じていた視線も、きっとそいつのものに違いない。
 根拠はという根拠はないけど、僕の心がそう囁いていた。

 結局僕は何の収穫もないまま、家に戻った。


「どうしたんだ悠一。突然飛び出して。何かあったのか?」

 リビングで新聞を読む父さんが、心配そうに尋ねてきた。
 まあ、当たり前と言えば当たり前なんだけどね。

「いや、何もなかった。さっき部屋の窓を開けあら、電柱の傍に人影が見えたから、誰かと思って見に行ったんだけど、誰もいなかった」

——————臨時ニュースです。昨夜○○県✕✕市の路上で、男性の遺体が発見されました。状況から殺人とみて警察が捜査を開始した模様です。詳細については……——————

 タイミングの悪いニュースだな。
 これを見た父さんの表情が強張っていた。

「悠一……お前が正義感が強いのは分かった。でも、もし万が一事件に巻き込まれでもしたら、父さんたちはとてもとても正気ではいられない。だから無理だけは絶対にしないと約束してくれ」 
 「分かったよ父さん。絶対に無理はしなし、自分から首を突っ込むことはしないから」

 僕の言葉に少し安堵したのか、父さんの表情が和らいで見えた。
 こうやって言葉を交わすと、やっぱり生きていることを強く感じられる。
 僕は一人じゃないんだって……
 だけどそれとは反対に、孤独感も強くなってくる。
 僕一人だけ繰り返される今日という日。
 今まであった皆は、きっとすべてその先に進んでいるんだから。
 どれだけ僕が殺されたとしても。
 そう考えると、より寂しさが強くなってしまった。

「お兄ちゃん?やっぱり変だよ。どうしたの?」
「ルリ……なんでもないから心配しないで」

 ルリが心配そうに僕を覗き込んでくる。
 ソファーに座る僕の膝に顔を載せ、ラグの上に座っていた。
 僕は心配そうにするルリの頭を優しくなでつける。
 ルリはどこかくすぐったそうにして、少しだけ表情が和らいでいた。

 父さんもルリも僕を心配してくれる。
 とてもありがたい存在だ……
 だから話しても言いのかな……
 この世界について。
 
「なぁ、父さん……死んで同じ朝に戻る世界ってあると思う?」
「どうした、藪から棒に……。そうだなぁ、父さんが若いころにそう言ったアニメ映画があったなぁ。なんていったかな、母さん?」
「タイトルは忘れちゃったわねぇ。内容は確かぁ……そうそう、女子高生が何度も何度も親友の未来を変えるたびに過去に戻るって話だったわよね」
 
 二人が懐かしそうにしている話は、僕もなんとなく知っている。
 スマホで死に戻りについて調べた時に出てきたから。
 それでも創作物の領域の話でしかない。
 僕が好きなライトノベルの中にだって似たような話は多々ある。
 それがどれも未来を変えるための死に戻りだった。
 じゃあ僕がいる今は何なんだ?
 創作物の世界なのか?
 考えれば考えるだけ分からなくなってくる。

「でも、どうしてそんな話になったんだ?」

 父さんの疑問は当然のことだと思う。
 僕からこんな話をいきなりされたらびっくりするから。

「いや、昨日読んだ小説の話だよ。そんな世界がリアルであったらどうなんだろうなって……」
「そうだなぁ、それでも父さんは母さんと出会う未来を探し続けるかな?」

 いや、そうじゃないんだけどなぁ……
 照れているのか、母さんもまんざらじゃない雰囲気で、父さんとじゃれついていた。
 出来れば子供がいない場所でやってほしいものだよね。
 ご近所さんからよく〝オシドリ夫婦〟って言われているけど、こういったところからもにじみ出てくるんだよね。

 ……考えても無駄だ……
 どうせ僕はこの世界で必ず殺される運命なんだから……
 だったらそれを受け入れるしかない。
 何度だって繰り返されるんだろうし……
 もしかしたらいつかはこの運命から出られるかもしれないけど、そんな未来なんて願ったとしても、きっと苦しいだけだから……

 僕は沈んだ空気を抱えたまま、学校へ行く準備を始める。
 重たくのしかかる心を、引きづりながら。
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