絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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十二回目

第31話

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「眠れない……」

 家族も帰り、病院自体が静けさに包まれていた。
 聞こえてくるのは時計の針が時間を刻む音と、看護師さんのカートの音。
 そして、隣から聞こえる誰かの寝息。
 遠くからは赤ちゃんらしき泣き声がうっすらと聞こえる。
 
 世界は今も回り続けているんだな、とぼんやりと考えてしまった。

 ただ、消灯時間を迎え薄暗い病室は、どこか不気味さを感じさせた。
 窓の外の街灯の明かりが、閉められたカーテンの隙間から差し込み、より一層それを際立たせた。
 気分転換に寝返りを打ちたい気持ちを抑えながら、僕は天井をただ見つめるだけだった。

 あぁ~、こんな時こそスマホいじりたいんだけどな……
 両手ともうまく動かせないから、スマホを触る事すらできない。
 せめて情報くらいは集めたかったな。
 それに、輝や愛理にも大丈夫だと伝えたかった。

チリン……

 え?なんで?なんであの鈴の音が?
 僕は半ばパニックになりそうだった。
 僕の左腕は犯人に負わされたケガじゃないの?

 ケガの出血のせいか、僕の身体はまだ本調子には程遠かった。
 身体すらまともに起こせず、ただ頭を動かしてその音の方へ意識を向ける。

 いつも感じる冷たい鈴の音が、僕に否が応でも恐怖心を植え付ける。

チリン……

 さっきよりもいっそう距離が近く感じる。
 カラカラというカートの音と共に、近づいてくる鈴の音。
 その音が近づくたびに、僕の心臓は鼓動を激しくしていく。
 
 つまり、犯人は病院関係者?
 だけど僕の知り合いにそんな人はいない。
 ましてや、学校関係者という枠組みの中にも僕は知らない。
 じゃあ、犯人はいったい誰なんだ?
 どうやってここに来られたんだ?

 疑問が疑問を呼び、さらに恐怖が僕に襲い掛かる。
 回答無き疑問が、焦燥感に変わっていく。

 せっかく僕は生き残ったはずなのに……

チリン……

 ガラガラと病室のドアが開く。
 カラカラとカートの音が、僕のベッドの傍で止まった。

 僕の脳裏には、今まで殺され続けてきた光景がフラッシュバックしていく。
 そのせいで身体は強張り、うまく身体を動かせ時にいた。

 ダメだ、殺される……
 誰か助けて……
 誰か!!

 そしてカーテンが開けられると……
 そこには昼間の看護師さんの姿が……
 え?

「どうしたのそんなに怯えて?だいじょうぶ?先生にお薬出してもらいましょうか?」
「い、いえ……なんでもありません……ちょっと、怖い夢見ちゃって……」

 どういうことだ……
 この鈴の音の後に犯人が現れるはずじゃ。
 でも現に目の前にいるのは犯人じゃない……はずだ。

「そう?だいじょうぶならいいんだけど……無理はしな……」

 不思議そうな表情を浮かべた看護師さんは、その言葉を言い終ることはなかった。
 僕は突然、真っ赤なシャワーを浴びた。
 生暖かく、鉄臭いシャワー。
 目の前が真っ赤に染まり、首を搔き切られた看護師さんはぐったりと床に倒れ込む。
 
 そしてそこにいたのは……病室に浮かび上がる犯人のシルエット。
 フードを目深にかぶり、また仮面の下から下品たる笑みを浮かべていた。

 そして犯人の右手に握られていたナイフからは、看護師さんの血液がしたたり落ちる。

 僕は逃げることが叶わず、犯人はゆっくりと僕に馬乗りになる。

 じっくりと観察するように……品定めでもするかのように、視線で嬲ってくる。

 そしてナイフを振り上げて恍惚の表情を口元に写した犯人……
 何か納得したのか一つ頷くと、そのままナイフを両手で握り、僕へ振り下ろした。
 何度も振り下ろされ、そのたびに傷口に熱が熱を帯び暑くなる。
 それとは逆に、身体は寒さと痛みに震え、視界がぼやけていく。
 執拗に振り下ろされるナイフの金属的冷たさが、どこまでも残り続けた……
 
 そして最後に僕が見た光景は、仄暗い病室に浮かびあがる、返り血で真っ赤に染まった仮面だった……
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