絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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十三回目

第32話

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——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

 ……なんでだよ……
 なんでなんだよ……
 どうしてこうなるんだ……
 どうして僕が殺されなくちゃいけないんだ……

 なんで……
 なんで……
 なんで……

 何での堂々巡り……
 いくら考えたところで、何も変わらない。
 犯人の思惑なんて、僕に分かるはずもない。
 考えるだけ無駄なんだろうな……

 僕は鳴り続ける目覚ましを無視して、ベッドで丸くなる。

「お兄ちゃん!!目覚まし煩いんだけど!!さっさと止めてよね!!」

 ルリが何度もドアをたたいて、何かを喚いている。
 そんなことなんてどうでもいい……
 僕を助けてくれない人間なんていらない……
 この世界から消えてしまえ……

「ねえ、お兄ちゃんってば!!聞いてるの⁈」

 うるさいな……
 ほっとけって……
 僕を構う暇あったら、さっさと学校へ行けよ……

 僕は鳴り続ける目覚ましを無視して、ベッドで丸くなる。

「ちょっと、お兄ちゃんってば!!もう!!」

 ドスドスという音が階段の方から聞こえてくる。
 やっと行ったみたいだ。
 これで僕の平穏が保たれる。
 どうせ殺されるなら、殺されるまで平穏でいたい。
 そうだ、だったら僕がやりたいことをやればいいのか。
 どうせ何やっても最後は殺されるんだから……
 そうしたらまた次の今日がきて、何もなかったことになるんだから。

 そう思うと、僕の心がなぜか軽くなった気がした。
 さっきまでの無気力感がどこかへ消え失せ、全能感が僕を支配していく。

 そうだ、まず手始めにこの煩い目覚まし時計をどうにかしよう。
 僕はそう思うと、すぐに行動に移してしまった。
 この時何か理性というブレーキが壊れた音が聞こえた気がした。

 中学の修学旅行で輝と一緒にお土産でなぜか意味も分からず買ってしまった木刀を振り上げると、勢いよく目覚まし時計に振り下ろす。
 激しく打ち付けた木刀から伝わる衝撃が腕を伝い、僕の脳を激しく刺激する。
 それは快楽とも痛みとも違う、何か幸福を感じさせる福音の様だった。

「そうか……これが……」

 あぁ、なんて素晴らしいんだ……
 せっかく輝から貰った目覚まし時計が、何度も振り下ろされた木刀によって見るも無残な姿に変わっていく。
 その変わり行く姿が、あまりにも残酷で、あまりにも儚く、あまりにも美しく感じた。
 
「これが……美しいってことなのか……」

 理性が壊れた衝動は、もう僕には止めることができなかった。
 部屋に有るモノを手あたり次第、木刀で殴り付ける。
 今まで頑張って組み立てたプラモデルも、バラバラに砕け散り、破片がキラキラと宙を舞う。
 僕は形がなくなるまで、何度も何度も木刀で叩き続けた。
 次にがんばって集めたフィギュアも同じく壊していく……
 壊すたびにその時の記憶がよみがえり、そのたびにその記憶がモノと一緒に壊れていく。

 大好きだったアーティストのCDも、グッズも全て壊していく。
 棚に並べてあるライトノベルなどの本類はめんどくさかったから、外に投げ捨ててやった。
 そのたびにばらばらと音を立てて地面に落下していく。
 その本の揺らめきは、やはり儚さを思わせる。

 これが壊すという事か……
 壊すことがこれほど美しいなんて……僕は夢にも思わなかった……

 僕は部屋に有るモノを手あたり次第壊した。
 そしてついには壊れていない物がない状況になった。

 そしてその時初めて気が付いた。
 ドアが何度もノックされていることに。
 ドアの外から父さんと母さんの悲痛な叫びが聞こえる。
 でも僕はそんなことどうでもよかった……
 だって、今が気持ちよすぎるから。
 今が一番満たされているから……

 だからそれを邪魔する奴は、誰でも許すつもりはなかった……


「悠一!!悠一!!何をしているんだ!!返事をしてくれ!!悠一!!開けてくれ!!」

 ドアの外で父さんがずっと叫んでいる。
 さすがにもううざったくなってきた。
 僕は木刀を握りしめながら、ドアに近づく。
 何度も何度もたたかれるドアの音が、とても癇に障る……
 どうして僕の邪魔をするだよ……せっかく気持ちよかったのに……
 せっかく僕が生きてるって実感できたのに……
 
「なんでもないから気にしないで」
「なんでもないってわけないだろ⁈いったい何があったんだ!!頼むからここを開けてくれ!!」

 あぁ~もう、うるさいな!!
 少し黙ってろよ。
 僕の中で何かがはじけ飛び、苛立ちが募っていく。
 手にした木刀を強く握ると、壁に向かって思いっきり振り下ろしていた。
 すると僕とは壁の一部を破壊し、一本の筋状の穴を作る。

 ヤバイ……これも気持ちい……

 僕の中で破壊衝動が抑えられなくなってきた。
 手に伝わる衝撃が、脳に伝わるたびに、更なる幸福を僕に呼び込む。
 
「あはははは!!あぁ~~~~~~!!」

 思わず声が漏れ出る。
 あまりの気持ちよさに、今まで抑えつけていた感情が爆発したようだ。
 そうだ、壊したいんだ。
 どうせ壊されるなら、僕の手で壊せばいいんだ。
 そう思うと、全身に稲妻が走ったかのように痺れるほどの喜びが襲い掛かってきた。

 もっと……もっと……
 もっと僕にそれをくれ!!

 僕はいまだに叩かれる部屋のドアを一気に開ける。
 ドアに手をかけていたのか、父さんがつんのめるように僕の部屋に入ってきた。
 バランスが崩れたみたいに、つんのめるものだから、ちょうどよく僕の前に後頭部を晒していた。
 
 あぁ~ここに木刀を振り下ろしたらどうなるんだろう……

 そう思うと同時に、僕はためらいもなく木刀を振り下ろしていた。
 自分でもびっくりするぐらい、ごく自然に振り下ろした木刀は、父さんの後頭部をとらえると、その衝撃を父さんと僕に伝える。
 頭蓋を叩く衝撃は、壁や目覚まし時計なんて目じゃないくらいに、気持ちよかった。
 父さんは激しく打ち付けられた後頭部を抑えて、床に蹲るようにして悶絶していた。
 頭部からは皮膚が割れたのか、だらだらとしたたり落ちる血が、僕の部屋の絨毯を赤く染めていく。
 そのどす黒い血の色と、鉄さび臭い血の匂いに、どこか心が躍っていた。
 
 もっと殴れば、もっときれいに飛び散るんじゃないか?

 僕はためらいもなく、また木刀を振り下ろした。
 何度も何度も……
 頭を、身体を、腕を、足を。
 その部位ごとで違う手に伝わる衝撃と感触が、さらに僕を多幸感で包み込んでいく。

「あ、父さん?とうさぁ~ん?」

 僕は動かなくなった父さんを木刀の先でつついてみた。
 反応する気配もなく、どうやら壊れてしまったらしい。
 どうせ僕が死ねば元通りに治るんだから問題無いよね?
 
 壊れた父さんが邪魔だったから、僕はズルズルと窓際まで引っ張り、窓の外に捨てた。
 どさりと落ちた音が、またゾクリと快楽を僕に届ける。
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