絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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十四回目

第35話

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——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

「よく寝た……」

 僕は目を覚ますと、速攻で不愉快な目覚まし時計を止めた。
 ベッドから起き上がると、前回の破壊行動がウソのように、まっさらな状態に戻っていた。
 ほらやっぱり……僕の仮説は正しかったんだ。
 何をやったって、僕は許されるんだ。
 僕の死をもって償えば。
 そう考えると、僕はこの世界で最強なんじゃないのか?
 僕がいくら犯罪を犯したところで、僕は裁かれることはないから。
 だって、死んでしまえばすべてが元通りになるんだから。

 それにしても……あの感触は最高だったな……

 僕は両手をじっと見つめて、その手に残っている感触を思い出していた。

 何かが破壊されるたびに、僕の心が満たされるような。
 
 でも何か違う気がする……
 言葉に出来ないけど、その違いが違和感になって、のどに棘が刺さったみたいに、不快感を僕に与える。

 とは言え、考えたところで堂々巡りになるに決まっている。
 今までだってそうだったんだから。
 それにしても最後、見事に犯人に出し抜かれちゃったな。
 警察が周りにいるから、殺されないと思ったんだけど……無理だったか。
 犯人の行動力に脱帽だな。
 だって、僕を殺したとこで、現行犯逮捕されちゃうんだから。
 いい度胸しているよ。
 むしろそれを楽しんでいたりして。
 まあ、今までの犯人の行動からすれあ、あからさまにサイコパスだろうから、ありえなくもないな。

 さて、今回の〝家族ガチャ〟は上手くいってるといいけど……

 僕はそう思いながら、一階のリビングに向かう
 リビングではいつも通り父さんは日課の新聞に目を通していた。
 その記事は変わり映えもなく、いろいろな事件記事やスキャンダル、地方ニュースを伝える。
 とは言え、そんなのスマホで見たら簡単なのになって思わなくもないけど、父さんのルーティーンだから、邪魔する理由もない。

「おはよう父さん。今日は調子いいみたいだね?」
「おはよう悠一。今日はってなんだ今日はって。父さんはいつだって調子はいいぞ?」

 そんなわけないのにね。
 前回なんて全然ダメダメのポンコツだったじゃないか。
 でもまあ、今回はハズレじゃないだけましかな?

 父さんは何か訝しがっては居たけど、そんなのどうだっていい話で、僕の邪魔さえしなければ、そこにいていい存在なんだから。

 母さんはキッチンにいるみたいだ。
 トントントンと小気味いいまな板の音と、ジュウっていうベーコンを焼く音が食欲をそそられる。
 
「母さんおはよう。調子よさそうで安心したよ」
「おはよう。何を安心したか分からないけど、まずは顔を洗ってらっしゃい。あと、テーブルの準備をお願いね。」

 うん、母さんはいつも通りで良かった。
 母さんはああじゃなきゃダメだよね。
 ガタガタ震えるしか機能がついてない母さんなんて、母さんじゃないし。

 僕は母さんに言われた通り、洗面所に向かう。
 洗面所ではルリが朝の髪が決まらないと悪戦苦闘していた。
 ルリは決まって前髪が気に入らないと、ずっといじり続ける習性がある。
 正直上げてしまえば?って思うけど、本人曰く、『おでこが広くみられるのが嫌!!』だそうな。
 うん、全力でどうでもいい情報をありがとう。

「ルリ……そろそろソコ空けてくれる?」
「あ、お兄ちゃんいいところに来た!!早く直して!!」

 やっぱりこうなるよな。
 ルリが自分できちんとセットできるって思ってないからね。
 というか、制服に着替えた時点で髪型はぐちゃぐちゃになるんだから、今セットしても意味ないと思うんだけどな。
 そんなことを考えながら、僕はルリの髪を梳いていく。
 きれいにまとめ上げた黒いつややかな髪は、何気に僕が育て上げた自慢の一品だ。


——————臨時ニュースです。昨夜○○県✕✕市の路上で、男性の遺体が発見されました。状況から殺人とみて警察が捜査を開始した模様です。詳細については……——————

 朝食が開始されると、決まって流れるこのニュース。
 犯人はどうやって男性を殺したんだろうな?
 詳細についてはいつも報道はされないから、気になってはいたんだ。
 もしかしたら、犯人もいらないからって廃棄処分したのかな?
 それだったらちゃんと分別処分しないから、こうやって警察に怒られるんだよ。
 そのせいでパトカーがいっぱい走って、ずっとうるさかったんだから。
 近所迷惑って言うのを考えてほしいもんだな。

 そんなどうでもいいことを考えていると、母さんが深刻そうな表情を浮かべていた。
 何か不安な事でもあるのかと思ったら、いつも通りの町内会の話だった。

「野良猫とか野良犬の死体が最近増えているって……困ったわね……」

 何を困るんだ?
 いらないから処分したんじゃないの?
 あ、これもそうか、ごみの分別問題なのか。
 マナー悪い奴がいるからこんなに騒がれるんだよなと。

「そんなに増えてるの?あまりそんな話聞かないけど」
「町内会では前から話が出てたのよ。でも犯人も分からないから、町内会でも手の打ちようがなくて……だからこうやって事件が起こると、邪推する人が出てくるのよね……」

 なるほど、それで〝困った〟なのか。
 母さんがめんどくさがってる理由は、母さんの時間を奪っていく、〝マナーのない住人〟ってわけだ。
 そんな奴こそ処分したらいいのにな。
 警察だってさっさと処分してしまえば、後処理するだけで良いのにな。

「母さん、その犯人って目星ついてるの?」
「そうね……私には分からないわ。だから早く解決してほしいって思うわね」

 ふぅ~ん。
 そんなもんなのかな?
 まあ、僕の邪魔さえしなければ問題ないからいいか。
 それにしても野生動物を処分している犯人てどんな奴なんだろうな?
 ちょっと会ってみたい気もするけど……あったところで別に何かあるわけじゃないしね。

 テレビでは訳知り顔のコメンテーターが、何か犯人の分析みたいなことをしていたけど、それだって的外れかもしれないのにね。
 父さんも母さんも食い入るようにテレビを見ていた。

 僕は食べ終えた朝食の食器を台所に片付けると、自分の部屋に戻る。
 
 今日もどうせ殺されるだろうし、何しようかな……
 そう考えると、なんだか腹が立って仕方がないな。
 だったら僕が犯人を処分してもいい気がしてきた。

 そうしたら僕は死なずに済むかもしれない……
 それならカッターナイフをポケットに入れておけば、良いのかな?
 どうせ犯人は左から来るんだろうし……ってあれ?何か見落としている?
 そんな気がしたけど、失敗したら失敗したで何度でもやり直せばいいだけだしね。
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