絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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十五回目

第39話

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ピンポーン

 それからしばらくすると、いつものようにチャイムが鳴る。
 輝が迎えに来たみたいだ。
 僕たちは学校の準備を済ませ、玄関の扉を開ける。
 そこにはいつものように、王子様スマイルを浮かべる輝の姿があった。

「おはよう悠一。ルリちゃんもおはよう」
「おはよう輝」
「おはようございます!!」

 ルリがどこか緊張した面持ちで、輝と挨拶を交わしていた。
 輝もそれに気が付いたのか、どことなく困り顔だ。
 ルリの表情はどこか恋する乙女を思わせる、そんな感じがした。

「ほら二人とも、早くいかないと学校に遅刻するぞ?」

 僕は少し呆れながら、うちの玄関の前に固まる二人を急かす。
 なんだかねぇ~


「そう言えばさ輝。今朝のニュースみた?まさかこの街で殺人事件が起こるなんてびっくりだよね」
「そうだな。本当にまさかって思ったよ。思ったより大事になってるみたいだし」

 輝も不安なんだろうか、どこかこの話題について焦りが見え隠れする。
 まあ、誰だって怖いと思うよね。
 自分の街に殺人鬼が隠れているかもしれないんだから。

「母さんが、ものすごく心配してたしね。早く捕まってほしいよ」
「そう、だな。そうあってほしいね」

 どこか輝の様子がおかしい気がする。
 何か隠しているのか?
 もしかして犯人に心当たりが?
 犯行現場を目撃したとか?
 なんてさすがに考え過ぎか。

 それからしばらくすると、ハナの家の傍に到着する。
 相変わらずハナの行方は分からないのかな?
 おじさんが項垂れていた。

「動物の虐待とかもあったみたいだし、なんかいきなり物騒になってないか?」

 僕はふと、そう輝に話を振ると輝は一瞬びくりとしていた。
 やっぱり輝に何かあったんだ……
 そうじゃなきゃ、そんなに驚いたりはしないし……

「なあ輝……僕に何か隠してないか?」
「何のことだい?俺が悠一に隠し事?するわけないだろ?」

 慌てる輝がやはり心配になってくる。
 いつもならこんなことで慌てるはずないのに。
 もしかして犯人に脅されているとか……
 ってさすがにドラマの見過ぎかな?

「そっか……ならいいんだけど……何かあったら必ず言ってほしいかな……僕たちは幼馴染で親友だろ?親友が困っているけど助けられないって一番つらいから……」
「分かった。その時は助けを求めるよ。とりあえず今は何もないから安心してほしい」

 僕としてはまだ納得はいかないけど、そこは輝が自分から話してくれるのを待つしかないかな。
 とりあえずハナについては見つかったらおじさんに声をかけよう。

「大丈夫ですよ輝さん!!お兄ちゃんがダメなら、私が護りますから!!」
「ありがとうルリちゃん。頼りにしているよ」

 輝の笑顔がどこかよそよそしく感じてしまう。
 これも僕の考えすぎだと思うんだけど……
 考えてみれば、ここ一か月くらい輝が本当に笑ってるの見てないかもしれない。
 僕といてもどこか違う世界を見ているような、そんな目をしていると気が有る。
 きっと気のせいだ……って思うには違う気がする。

「ルリ……少しは場所をわきまえろって。こんなところで空手披露してどうするんだよ」
「お、お兄ちゃんは黙ってて!!ほ、ほら!!輝さんに笑われちゃったじゃない!!」

 僕たちのやり取りを見て少しだけ笑みを浮かべる輝。
 うん、これなら大丈夫そうだ。
 僕はそう思うことにした。


「おはよう輝君、悠一君。それとルリちゃんもおはよう!!」
「あ、愛理さん!!おはようございます!!」

 いつもの合流地点から、愛理がやってくる。
 僕らがあいさつしようとすると、ルリがかぶせるように愛理に抱き着いた。
 なんだかんだでルリは愛理にベタベタ見たいだ。
 先輩として尊敬しているってより、姉的立ち位置なのかもしれないな。

 その後ルリの同級生も合流し、いつにもまして賑やかな集団になっていた。
 
「なんかこう言うのもいいよね輝」
「そうだな……こういうのが続くといいんだけど……」

 これ以上は聞かない方がいいみたいだ。
 輝の影が次第に濃くなっていっている気がする。
 僕に話せない何か黒いものが、輝に絡みついているのかもしれない。
 それを解いてあげられればいいんだけど、今の僕には難しいようだ。

「あれ?そう言えば輝君……忘れ物してないの?」
「「え?」」

 なぜか僕と輝の声が被る。
 むしろなんで愛理がそんなこと思ったんだ?
 愛理自身何か考えていってるわけじゃないと思う。
 ただ漠然とそう思った……そんな感じに思えた。
 そもそも、輝が本を忘れてきていることを知っているのは僕以外居ないはず……
 それに今回も忘れているかなんてわからない。
 だけど愛理は〝輝が忘れ物をする〟と言う事象について話をしてきている。
 これはどういうことだ?
 何か変化が起こりかけているのか?
 このループ世界の綻び?

 分からないことだらけで、混乱していく。
 輝はというと、驚きのあまりどこか感情が抜けたような表情を見せていた。

「どうして愛理はそう思ったの?」

 輝の質問はもっともだ。
 僕が輝だったら同じ質問をしていたと思うから。
 とうの本人は小首をかしげながら、何かひらめいた的な感じを見せていた。

「どうして……って言われてもなぁ。うん、なんとなくだね。なんとなく輝君が忘れ物してるんじゃないかって思ったの」

 うん、本当に勘だった。
 これはどうしたものかな……
 すると輝が僕に近づくと、何やら耳打ちを始める。

「悠一……どうしよう。確かに俺……忘れ物したんだ。悠一に渡そうと思って準備してた小説。取りに戻った方がいいかな?」
「小説ってまさか……官能?もしかして、机の上に出しっぱなしってことはないよね?」

 僕の言葉にも驚きを見せる輝。
 もしかして朝から上の空だったのはそれが原因だったのか?
 輝にそれを問いただすと、小さく頷き返してきた。
 僕の朝からの心配を返せ!!
 そりゃ浮かない顔をするはずだ。
 親がもし自分の部屋に入ったら、机の上に官能小説がどんと置いてあるんだから。
 卒倒してもおかしくはないよね。
 それに最近の輝の読書傾向が日々エスカレートしているのも知ってる。
 それを考えれば心ここにあらずはうなずける。

「ごめん、俺一回施設に帰るから!!先生に言われたら適当に返しておいて!!」

 輝はそう言うと、一目散に自宅へ戻っていった。
 しかもかなり慌てるように、猛ダッシュで。

「それにしてもよくわかったな」
「それがね、おかしいんだ。なんだか見たことがある光景だなって。あれかな?デジャブ?的な?」

 愛理も半信半疑といった具合だ。
 だけど僕にはその経験があった。
 僕がこの世界に囚われた違和感がそれだったから。
 まさか……ね。

「なあ愛理……鈴の音って覚えてる?」
「鈴の音?う~ん、ちょっとわかんないかな?」

 記憶から引き出そうと必死に考えてくれているみたいだけど、やっぱり覚えていないらしい。
 それはそれで僕としては一つのヒントになるからありがたい。
 とりあえず愛理はこの世界に囚われてはいない可能性が高い。
 だけど何かしらの影響を受け始めている。
 そう考えるのが妥当だろうな。
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