絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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輝編

第43話 -輝編~友-

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 悠一が俺を守ってくれた日を境に、悠一の様子が少しずつだけど変わっていった。
 何が変わったかなんて変わらない。
 だけど確かにわかっていた。

「悠一……なんかあったの?」
「輝か……何にもないよ。ただ本読む時間が欲しかっただけだから」

 そう言って悠一は俺に一冊の本を手にしていた。
 それは学校の図書館に置いてある貸し出し用の本。
 いわゆるライトノベルと呼ばれる、冒険ファンタジー世界の物語。
 悠一曰、その世界ではすべての人が自由で、自分が主人公となって世界を救ったり、自由に暮らしたりしているんだとか。
 困難にぶつかってそれを乗り越える。
 大切な人を守る戦いをする。
 領地を広げて戦国無双!!なんて話もあるみたいだ。
 
 それから俺も本を読むようになった。
 悠一には言っていないけど、俺も図書館で本を借りていた。
 読めば読む程世界に引き込まれ、心が躍るようだった。

 だけどこの時俺は気が付いていなかった。
 実は俺の代わりに悠一がいじめのターゲットになっていることに。


 
 それに気が付いたのは、学年が上がった時の事だった。
 4年生になり、心機一転がんばろうって思いでいっぱいだった。
 だからと言う訳じゃないけど悠一に真っ先に声をかけようとした時、一人の生徒にそれを阻まれた。

「ねぇねぇ、輝君ってかっこいいよね!!みんなであそぼ?」
「え、いや、その……」

 その子の誘いを断った方が良いのは分かっていた。
 だけど思いのほか強い押しと、周りからの同調圧力に負けて、俺はそのままその輪に加わってしまった。
 それから俺の周りには人が集まるようになった。
 いろんな話が飛び交うようになり、俺はそれに合わせるようにいろいろな事を覚えた。
 だけどずっと引っかかっている。
 悠一が一人でいることに。
 誰も声をかけることもなく、誰とも話すこともなく。
 悠一はずっと一人で本を読んでいたんだ。
 
 それからかな……悠一の事が気になって、ずっと視界で追いかけていた。
 今何をやっているのかとか、何を考えているのかとか。
 周りでその他大勢が何かを話しているけど、そんなのはどうでもよかった。
 俺には一ミリも価値が無かったから。
 ただ俺は悠一の傍にいたいだけだった。

 俺は意を決して悠一のもとへ行った。
 悠一は一瞬視線をあげたけど、すぐに本に視線を戻した。
 俺はその本のタイトルを見て、少しだけ嬉しくなった。
 何せ今俺がはまっているラノベだったから。
 それがうれしくてうれしくて。
 感情が爆発しそうで、今すぐ悠一を抱きしめたくなった。

「ねえ、輝君。そんな根暗と一緒にいてもしょうがないよ。輝君まで根暗になっちゃうよ?」
 
 俺は呆れて言葉も出なかった。
 なんで君に俺の交友関係を指図されなきゃいけないんだって。
 俺は君の所有物じゃないぞって。

「俺の友達は俺が決める。君がなんで決めるの?」
「え?」

 その子は俺がそんなことを言うとは思わなかったんだろうな。
 思わず固まったまま動かなくなってしまった。

「俺が悠一と話したいと思うことがそんなに変なの?」
「え、いや、そんな……ね……」

 困り顔のその子に何ら興味を持つことはなかった。
 ただ、その時の感情を表すのなら、苛立ちと蔑み。
 それが今思えば適切な感想だったと思う。

「輝……女の子を困らせる王子様がどこにいるよ。」
「王子さまって……俺はそんなんじゃない。俺はただの輝だ。髪の色も目の色も違うけど、皆と同じ小学生だ」

 今思えばなんともませた二人だったんだろうな。
 二人とも顔を見合わせて、思わず吹き出してしまった。
 ライトノベルを読んでいるせいか、他の子たちよりは少しだけ大人びた発言をしてしまっていたみたいだ。
 シンと静まり返っていた教室に、俺と悠一の笑い声が響く。
 それが一種異様な雰囲気だとは思ってもいなかった。

「あれ?なんか楽しそうだね悠君。」
「あ、愛理か……愛理のクラスは隣の隣だろ?もうすぐ休憩が終わるよ?」

 変な雰囲気のクラスに、別のクラスの女の子が姿を現した。
 これが愛理との初めての出会いだった。
 愛理はどこかふんわりとした印象の女の子で、おっとりとした口調が、その見た目にマッチしていた。
 そして俺の顔がみるみる赤くなっているのが自分でもよく分かった。
 ようは一目ぼれだったんだと思う。
 だけど同時に分かったことがあった。
 悠一もまた愛理のことあ好きだってこと。
 そして愛理もまた、悠一が好きだってことを。
 どうしていいか分からない感情が俺の中でぐるぐるとめぐりめぐっていた。
 だから俺はこの感情に蓋をすることに決めた。
 悠一との関係性を壊したくなかったから。

 それから悠一と愛理と一緒にいることが増えていった。
 クラスメイトとの関係も悪くはなっていないけど、特段深く付き合うと言う訳ではない距離感に収まった。
 むしろそれがちょうどよく思えた。
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