絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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輝編

第44話 ―輝編~転機―

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 さらに季節がうつろい、5年生になった時、俺の運命を決める決定的な出来事が起こった。
 それは母さんと別れたはずの父さんが、姿を現した。
 あとで知ったことだけど、離婚協議は難航し、調停までもつれ込み、ついに決着がついたらしい。
 その時の取り決めで、親権は母さんのものになった。
 そして接見禁止命令も出され、父さんは俺たちに会う事すら禁止されていた。
 それを不服とした父さんは強硬手段に出たみたいだった。
 俺が家に帰ると、母さんに暴力を振るっていた。
 母さんは血まみれで、至る所にあざが出来ていた。
 俺は慌てて止めに入ったけど、子供の力ではどうにもできなかった。
 だから俺は壊すことに決めたんだ。
 母さんが大事にしていた花瓶。
 父さんが昔母さんに送った大事な物らしい。
 俺はそれを振り上げると……
 母さんを襲っていた父さんの頭に振り下ろした。
 手に伝わる衝撃と、倒れ込む父さん。
 俺は無我夢中で母さんに駆け寄る。
 父さんはピクリとも動く気配はなかった。
 良かった……母さんを護れたんだ。

「母さん大丈夫?」
「わ、私は大丈夫……大丈夫だから……輝」
 
 母さんは震える手で俺を抱きしめてくれた。
 そして転がっている父さんを殺した花瓶をてにすると、証拠を消すように持ち手を丁寧に拭いていた。
 その後何を思ったのか、その部分を強く握りしめ……
 もう一度父さんの頭にたたきつけた。
 さすがに大人の力なのか、花瓶はバラバラに砕け散り、周囲に散らばってしまった。
 その砕ける様子は芸術的で、俺はなぜか感動さえ覚えてしまった。

 その後母さんはどこかへ電話すると、どこからかサイレンの音が聞こえてきた。
 そのサイレンは俺が住むアパートの前で止まり、バタバタと人がやってくる音が聞こえる。

 入ってきたのは警察官と救急隊員。
 救急隊員は父さんの様子を見て、首を横に振っている。
 それを見た警察官はどこか困っている様子だった。
 それは当然で、目の前にいる母さんが全身傷だらのあざだらけ。
 どう見ても暴行を受けていたのは明らかだったから。

 母さんと警察官がいくつか話をしていると、警察官は母さんと連れて出ようとしていた。
 俺はなぜ母さんが連れていかれるのかが分からなかった。
 ただ母さんからは、「ごめんなさい」と「すぐ会えるわ」そう言われた。


 その後母さんは父さんを殺したということで、罪に問われることとなった。
 とは言え暴行を受けての正当防衛と言う事が認められての判決となった。
 俺はというと、母方の親族は誰も受け入れ拒否し、受け入れ先のないままついに児童養護施設へと送られたのだった。
 そこにはいろいろな事情で集まった子供たちが集団生活を送っていた。
 だからだろうか、逆の意味で子供たちの中はとてもよかった。
 俺もすぐにその中に入り、少しの不便は有るものの、健康に過ごすことができた。

 学校では噂が噂を呼び、転校当時のように周りから人が減っていった。
 それでも悠一と愛理は変わることなく接してくれた。
 それに、一部の生徒が折れに対して殺人鬼の息子と罵ってきたことに対し、悠一はまた立ち上がり、それに怒りをあらわにしてくれた。
 だからだろうか、俺の悠一に対する感情がどんどん変化していったんだ。
 それは男の子が男の子に向ける感情ではないってわかっていた。
 でもそれを止めることは俺には出来なかった。
 悠一がそばにいるだけで、俺の心が満たされていく……そう感じてしまったんだ。


 父さんが死んだ事件から月日が流れ、俺は高校一年生になった。
 母さんは今だ服役中で、月一の面会が俺の楽しみになっていた。
 その時話すのは、俺がそうしていたかとか、どう感じていたかとか。
 何が楽しかった、何が悔しかった。
 そんな他愛のない家族としての会話だ。
 だけど本当はこの話だってこの面会室の板越しでするようなものじゃない。
 家族が家族として話すのに、この板は邪魔以外ないのに……
 母さんは俺の身代わりとなってここに収容されている。
 本当は何度も警察に言おうと思っていた。
 そのたびに母さんから止められ、絶対に墓場まで持って行くように言われた。
 その表情は般若の如く、険しいものだった。
 だからかな、いつから話変わらないけど、その話を俺はしなくなっていた。

「ところで、悠一君とはうまくいってるの?」
「いってるも何も、悠一と俺は親友だよ?毎日一緒に通学して、くだらない話で盛り上がってるよ」

 俺がそう伝えると、母さんは柔らかな笑みを浮かべて、嬉しそうにしていた。
 俺がこうして学校の話をしていると、いつも嬉しそうに聞いてくれる母さん。
 早く刑期が終わり一緒に暮らせる日が来ることが、今の俺の望みだ。
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