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輝編
第45話 ー輝編~やり直し―
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俺はバイトの給料日……いつものようにお金をおろすと、ふと街中のサイネージに目が行った。
そこには冬の衣料品メーカーCMが流れ、そこに映し出されたアイドル達の躍動が目に入った。
キラキラとした笑顔と、懸命に踊り歌う姿に、俺はときめきを覚えてしまった。
俺は食い入るようにそのCMを見続けた。
そして手にしたお金をもって、CDショップへと駆け込んだ。
そこにはさっき見ていたアイドルたちのCDがたくさん並んでいて、店員さんに今聞くならどれがいいか教えてもらった。
俺は急いで施設に戻り、職員さんからCDプレーヤーを借りた。
再生するや否や、稲妻が走るように俺の心を一気に揺さぶってくる。
あのサイネージに映し出された少女たちが躍動する様子が目に浮かぶみたいだった。
それから俺はことある毎にグッズを買いそろえ、施設の自室はグッズで埋め尽くされてしまった。
さすがにやり過ぎ感はあったけど、意外と後悔は無かった。
そして次に考えたのか……悠一もこの世界に引きづり込もうって思いだった。
とは言え、すぐにってわけにもいかないので、それに見合うグッズを見つけてからと、自分に言い聞かせた。
そしてもう一つ、俺の人生を変えたものがあった……
それはふと手にした一冊の小説だった。
街に古くからある本屋。
俺はこの本屋が気に入っていた。
大きな本屋も確かにあるけど、俺はこの本屋での本との出会いを楽しみにしていた。
その時であった本が、官能小説という世界だった。
それは俺にとって衝撃的だった。
ラノベの様な冒険やスローライフなんてものはなく、愛を伝えるというもの。
ただその愛の伝え方が一つではなかった。
その幾千にもよる及ぶ愛の形に、俺は魅了されていた。
言葉えらび一つとっても、今までの表現の比ではなかった。
その日から俺はラノベと官能小説をむさぼるように読みふけった。
その違いと、その可能性を読み解くように。
そして理解したんだ。
俺の気持ちは否定される物じゃないって。
それからだろうか、俺は悠一を、そして愛理を、自分だけのものにしたいって思い出したのは。
だけどそれは許されることじゃないことは百も承知だ。
それでもその気持ちは止まることはなかった。
そして俺はついに悠一に気持ちを伝える決心をしたんだ。
それは愛理にも告白し、そして相談に乗ってもらったから。
愛理は自分に向けられる俺の思いも受け止めてくれた。
愛し合うことはできないとしても、友として、幼馴染として、何より親友として、共に生きようと言ってくれた。
だからあとは悠一次第だって。
運命のその日……俺が悠一に助けてもらったあの8月5日。
俺は悠一にすべてを打ち明けた。
あの日の感謝も、愛理への思いも。
そして何より悠一への思いも。
だけど悠一は受け入れてくれはしなかった。
否定をしたわけじゃない。
俺という存在を否定したいのではなく、愛理への思いを貫きたかったのだから。
それ自体俺は否定するつもりもない。
だから俺どこかすっきりとした気持ちになっていた。
それと同時に、どこか抜け殻のようにも思えた。
そのあと俺はどうやってここに来たかは分からない。
この場所はかつて母さんと一緒に暮らしていたアパート。
あの事件以降誰も住んでおらず、今では廃墟同然だった。
あの住んでいた部屋に向かうと、鍵が朽ちていたのか問題なく部屋に入ることができた。
中にはあの当時を思わせる家具の成れの果てが転がっていた。
柱にはあの時の俺が貼ったシールの後もあった。
とは言えボロボロで何を貼っていたかは分からないけど。
ここへくれば何かが変わるかなって思った。
だけど何も変わらなかった。
変わらないどころか、悠一への思いが膨れ上がってしまった。
あの時悠一に救われていなかったら、俺はどうなっていたか分からない。
あの時から俺は悠一に敬愛を持っていたんだと思う。
そして時が過ぎ、敬愛が愛情へ変わってしまった。
そう、俺が変わってしまったんだ。
悠一は何も変わっていない。
あの頃からずっと俺の親友でい続けてくれたんだ。
なのに俺は……
「輝君……どうしたの?」
「愛理か……どうしてここに?」
なぜか愛理がそばに来ていた。
ここに来るって言ってなかったはずなのに……
「どうしてって……輝君が何だか寂しそうだったから……かな?」
愛理はこてんと小首をかしげる。
そのしぐさの愛らしさが、愛理の魅力とも言えた。
俺はそれに恋心を募らせていたんだと思う。
「で、俺に何か用か?」
「ようって程じゃないんだけどね……あ、そうか、悠君に振られちゃった?」
俺は愛理の言葉にドキリと心臓がはねた気がした。
その様子を見ていた愛理はどこか面白げに笑みをこぼしている。
いつもと違う表情にどちらが本当の愛理なのか分からなくなってきた。
すると愛理はそっと俺のもとへやってくると、膝を付いていた俺の肩に後ろから顔を載せてくる。
「大丈夫だよ輝君……失敗したらやり直せばいいんだから。何度でも何度でも……ほら、失敗は成功の基って言うでしょ?だったらやり直そうか?」
俺にはその意味が分からなかった……
愛理が何を考えているのか……
だけど愛理の声には温度が全く感じられなかった。
むしろ冷ややかささえ感じさせる。
心が凍り付く、そんな思いがした。
「やり直すって……どうやって……」
これは悪魔の囁き……
頭ではわかっているけど、心がそれを許さなかった。
願わくば悠一に受け入れてほしい……そう思ってしまったんだ。
「そう、分かった……それじゃあおやすみなさい……輝君……」
その言葉を最後に、俺の首から大量の血が溢れていた。
真っ赤に染まった愛理を美しいとさえ思ってしまったのは不思議だった……
そこには冬の衣料品メーカーCMが流れ、そこに映し出されたアイドル達の躍動が目に入った。
キラキラとした笑顔と、懸命に踊り歌う姿に、俺はときめきを覚えてしまった。
俺は食い入るようにそのCMを見続けた。
そして手にしたお金をもって、CDショップへと駆け込んだ。
そこにはさっき見ていたアイドルたちのCDがたくさん並んでいて、店員さんに今聞くならどれがいいか教えてもらった。
俺は急いで施設に戻り、職員さんからCDプレーヤーを借りた。
再生するや否や、稲妻が走るように俺の心を一気に揺さぶってくる。
あのサイネージに映し出された少女たちが躍動する様子が目に浮かぶみたいだった。
それから俺はことある毎にグッズを買いそろえ、施設の自室はグッズで埋め尽くされてしまった。
さすがにやり過ぎ感はあったけど、意外と後悔は無かった。
そして次に考えたのか……悠一もこの世界に引きづり込もうって思いだった。
とは言え、すぐにってわけにもいかないので、それに見合うグッズを見つけてからと、自分に言い聞かせた。
そしてもう一つ、俺の人生を変えたものがあった……
それはふと手にした一冊の小説だった。
街に古くからある本屋。
俺はこの本屋が気に入っていた。
大きな本屋も確かにあるけど、俺はこの本屋での本との出会いを楽しみにしていた。
その時であった本が、官能小説という世界だった。
それは俺にとって衝撃的だった。
ラノベの様な冒険やスローライフなんてものはなく、愛を伝えるというもの。
ただその愛の伝え方が一つではなかった。
その幾千にもよる及ぶ愛の形に、俺は魅了されていた。
言葉えらび一つとっても、今までの表現の比ではなかった。
その日から俺はラノベと官能小説をむさぼるように読みふけった。
その違いと、その可能性を読み解くように。
そして理解したんだ。
俺の気持ちは否定される物じゃないって。
それからだろうか、俺は悠一を、そして愛理を、自分だけのものにしたいって思い出したのは。
だけどそれは許されることじゃないことは百も承知だ。
それでもその気持ちは止まることはなかった。
そして俺はついに悠一に気持ちを伝える決心をしたんだ。
それは愛理にも告白し、そして相談に乗ってもらったから。
愛理は自分に向けられる俺の思いも受け止めてくれた。
愛し合うことはできないとしても、友として、幼馴染として、何より親友として、共に生きようと言ってくれた。
だからあとは悠一次第だって。
運命のその日……俺が悠一に助けてもらったあの8月5日。
俺は悠一にすべてを打ち明けた。
あの日の感謝も、愛理への思いも。
そして何より悠一への思いも。
だけど悠一は受け入れてくれはしなかった。
否定をしたわけじゃない。
俺という存在を否定したいのではなく、愛理への思いを貫きたかったのだから。
それ自体俺は否定するつもりもない。
だから俺どこかすっきりとした気持ちになっていた。
それと同時に、どこか抜け殻のようにも思えた。
そのあと俺はどうやってここに来たかは分からない。
この場所はかつて母さんと一緒に暮らしていたアパート。
あの事件以降誰も住んでおらず、今では廃墟同然だった。
あの住んでいた部屋に向かうと、鍵が朽ちていたのか問題なく部屋に入ることができた。
中にはあの当時を思わせる家具の成れの果てが転がっていた。
柱にはあの時の俺が貼ったシールの後もあった。
とは言えボロボロで何を貼っていたかは分からないけど。
ここへくれば何かが変わるかなって思った。
だけど何も変わらなかった。
変わらないどころか、悠一への思いが膨れ上がってしまった。
あの時悠一に救われていなかったら、俺はどうなっていたか分からない。
あの時から俺は悠一に敬愛を持っていたんだと思う。
そして時が過ぎ、敬愛が愛情へ変わってしまった。
そう、俺が変わってしまったんだ。
悠一は何も変わっていない。
あの頃からずっと俺の親友でい続けてくれたんだ。
なのに俺は……
「輝君……どうしたの?」
「愛理か……どうしてここに?」
なぜか愛理がそばに来ていた。
ここに来るって言ってなかったはずなのに……
「どうしてって……輝君が何だか寂しそうだったから……かな?」
愛理はこてんと小首をかしげる。
そのしぐさの愛らしさが、愛理の魅力とも言えた。
俺はそれに恋心を募らせていたんだと思う。
「で、俺に何か用か?」
「ようって程じゃないんだけどね……あ、そうか、悠君に振られちゃった?」
俺は愛理の言葉にドキリと心臓がはねた気がした。
その様子を見ていた愛理はどこか面白げに笑みをこぼしている。
いつもと違う表情にどちらが本当の愛理なのか分からなくなってきた。
すると愛理はそっと俺のもとへやってくると、膝を付いていた俺の肩に後ろから顔を載せてくる。
「大丈夫だよ輝君……失敗したらやり直せばいいんだから。何度でも何度でも……ほら、失敗は成功の基って言うでしょ?だったらやり直そうか?」
俺にはその意味が分からなかった……
愛理が何を考えているのか……
だけど愛理の声には温度が全く感じられなかった。
むしろ冷ややかささえ感じさせる。
心が凍り付く、そんな思いがした。
「やり直すって……どうやって……」
これは悪魔の囁き……
頭ではわかっているけど、心がそれを許さなかった。
願わくば悠一に受け入れてほしい……そう思ってしまったんだ。
「そう、分かった……それじゃあおやすみなさい……輝君……」
その言葉を最後に、俺の首から大量の血が溢れていた。
真っ赤に染まった愛理を美しいとさえ思ってしまったのは不思議だった……
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