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輝編
第47話 ―輝編~始まりの時―
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ピピピッ
ピピピッ
ピピピピピピピピッ
「朝か……」
俺は目覚ましを止めて、時計を確認する……
8月1日午前5時00分
いつも通りの起床時間。
本当であれば、カーテンを開けて晴れ晴れしく起きるのだけど、今日はどこか心が曇っているように思えた。
勉強机の引き出しには、昨日愛理から渡されたナイフが眠っている。
『これは願いが叶うナイフなんだ。これでその人を殺すと、その人と何度でも人生をやり直せるの。素晴らしいナイフでしょ?』
愛理の言葉が俺の脳裏をよぎる。
まさか本当なのか……そう疑いたくなるが、これは現実だ。
俺がそれに巻き込まれているんだから。
だけど、どうしてこれを俺に?
俺に誰を殺せっていうんだ……
愛理はそこは何も言わなかった。
ただ、〝その人〟とだけ言っていた。
違う……俺はそれが誰か分かってる。
そして俺は、それを実行する……
きっとではない……確実にだ。
俺は鬱屈とした思いを胸に秘め、食堂へと向かう。
食堂ではみんながいつものようにワイワイと騒がしくしている。
普通の家庭からしたら起きるのが早いように思えるけど、ここの施設ではこれが当たり前だ。
皆で早く起きて、施設の掃除をする。
食堂をはじめとした、皆が使う場所をだ。
もちろん、浴場もきれいに洗う。
独り立ちしたときに困らないようにするためと、昔から行っている習慣らしい。
掃除が終わるタイミングで、台所での食事の準備が終わる。
それを上の者が率先して並べていく。
下の者は上の者を手伝い、何をするのか学んでいく。
そうやって子供たちは社会性を身に着けていく。
本当であればこれは親から子へ受け継がれていくものだと思う。
だがここにはその親なる存在がいない。
だから上の者たちがその代わりを行っている。
朝食を済ませ、下の子たちの学校の準備を手伝う。
今ここにいる子供たちで一番小さい子は幼稚園に通っている。
一番上は俺ともう一人の女子。
その子はとても面倒見もよく、下の子からはお母さん扱いされてまんざらでもなさそうだ。
本人曰く、ここを出たら自力で大学を出て幼稚園の先生になりたいそうだ。
未来を見据えた彼女の瞳が、とてもかっこよく見えた。
じゃあ俺は……って考えると、そういったものは無かった……
ただ漠然と今を生きている、そんな気がしてしまった。
それからの日々はただ単調なものだ。
いつものように施設を出て、いつものように悠一の家に向かう。
それからあの坂を上り、愛理と合流。
それから学校へ向かい、授業を受ける。
それから学校が終わると短いけどバイトに向かう。
施設の近くのコンビニの店長さんがここの出身者で、今までもバイトとして受け入れてくれている。
俺も高校に入ってからはずっと雇ってもらっている。
たまにこっそりと廃棄弁当やデザートをくれたりする、俺たちの良い兄貴分だ。
デザートについては持って帰って、下の子たちにあげたりしている。
弁当については食べ盛りの男子に配って、腹を満たす。
さすがに施設のご飯だけでは足りない子もいるから、先生たちも黙認しているのが現状だ。
俺がバイトする理由は、高校を出た時に自活できるようにするためだ。
母さんが出所したときに、返る場所を作りたいから。
俺の代わりに自分の人生を棒に振ってくれた母さん。
そんな母さんを護りたいと思っているから。
だけどそれと同時に、悠一への思いが強くなっていっている。
わかってる……これがおかしなことだと。
それでもなお、強い思いが俺の心を焦がしていく。
恋焦がれる……まさに今の俺にぴったりな言葉だ。
そしてまた運命のこの日……8月5日がやってくる。
俺はまた悠一をあの場所へ呼び出した。
昨日近くの神社へお参りに行ってきた。
この願いが叶わなくとも構わない……だけど悠一との関係が壊れませんようにと。
その帰り道、その時ふいに社務所に視線が向かった。
そこで売っていたのが、澄んだ音の鳴る鈴が付いたお守り。
いくつも可愛いお守りが並んでいた。
その中で目を引いたのが〝恋愛成就〟。
恋愛とは言えないだろうけど、この思いに一番近いものはきっとこれだと思う。
だから俺はこのお守りを一つ買うことにした。
待ち合わせ場所にはすでに悠一が来ていた。
朝早く呼び出したのに、悪いことをしてしまったな。
俺ははやる気持ちを抑えるために、胸にかけたお守りを握りしめる。
チリン
俺の鼓動を感じ取ったかのように、お守りの鈴の音が、早朝の夏の空に静かに響く。
坂を上り、近づくほどの、鼓動が跳ねる。
チリン
本当にこれでいいんだろうか……
これが正解なんだろうか……
これから行う行為は正しいのだろうか……
俺に不安が襲い掛かってくる。
チリン
朝に届いた一通のメール。
愛理からの甘言が、俺の心に深く刺さっていく……
『悠君と一緒に回ろうよ。私が教えてあげたでしょ?輝君ならわかるよね?』
あぁ、俺は許されない行為をしようとしているんだ……
そう、これをしなければ悠一は助かるのに……
「おはよう悠一……待たせてごめん」
「いや、今さっき着いたところだから。で、大事な話ってなんだよ。こんなところに呼び出しって」
朝日を背にした悠一が、いつも以上に眩しく感じた。
これはやっぱり恋なんだろうな……
俺は愛理に恋をし……そして悠一に恋をした。
だからきっと罰が当たったんだ。
でも俺は……その罰をこの手で壊すことにした。
俺はベルトに挟んだナイフの柄に手をかけ、悠一に近づく。
「悠一……あのさ……人を好きになるのって難しいんだな……」
「いきなりどうしたのさ?輝らしくないね?」
俺らしく……ない?
俺の何を知ってるんだよ……
どうしてそんなに笑ってられるんだよ……
「輝?」
「悠一……なんで……どうしてわかってくれないんだ……」
俺はどうしたらいいんだ……
この感情をどこにぶつければいいんだ……
『悠君と一緒に回ろうよ。私が教えてあげたでしょ?輝君ならわかるよね?』
そうか、愛理は分かってたのか……
それが分かっててこれを俺に……
俺は悠一に近づくと、手にしたナイフを悠一の腹部へと深く差し込む。
その感触は妙に生々しく、それ以上に……気持ちよかった……
あぁ、俺が悠一の中に入っていく……そう思ってしまった。
『追伸、あのナイフね、使ったと人の思いが乗るの……つまり、輝君がどうしたいか、強くイメージするといいよ。がんばってね。』
「ひか……る?」
「悠一……」
愛理の言葉に従い、俺は望みを叶える……
〝悠一に振り返ってもらえるまで、何度でも何度でもこの日を繰り返す〟
「悠一……愛してる……」
俺は手にしたナイフで、自分の首を搔き切った。
さあ始めよう……俺と悠一の〝8月5日〟を。
ピピピッ
ピピピピピピピピッ
「朝か……」
俺は目覚ましを止めて、時計を確認する……
8月1日午前5時00分
いつも通りの起床時間。
本当であれば、カーテンを開けて晴れ晴れしく起きるのだけど、今日はどこか心が曇っているように思えた。
勉強机の引き出しには、昨日愛理から渡されたナイフが眠っている。
『これは願いが叶うナイフなんだ。これでその人を殺すと、その人と何度でも人生をやり直せるの。素晴らしいナイフでしょ?』
愛理の言葉が俺の脳裏をよぎる。
まさか本当なのか……そう疑いたくなるが、これは現実だ。
俺がそれに巻き込まれているんだから。
だけど、どうしてこれを俺に?
俺に誰を殺せっていうんだ……
愛理はそこは何も言わなかった。
ただ、〝その人〟とだけ言っていた。
違う……俺はそれが誰か分かってる。
そして俺は、それを実行する……
きっとではない……確実にだ。
俺は鬱屈とした思いを胸に秘め、食堂へと向かう。
食堂ではみんながいつものようにワイワイと騒がしくしている。
普通の家庭からしたら起きるのが早いように思えるけど、ここの施設ではこれが当たり前だ。
皆で早く起きて、施設の掃除をする。
食堂をはじめとした、皆が使う場所をだ。
もちろん、浴場もきれいに洗う。
独り立ちしたときに困らないようにするためと、昔から行っている習慣らしい。
掃除が終わるタイミングで、台所での食事の準備が終わる。
それを上の者が率先して並べていく。
下の者は上の者を手伝い、何をするのか学んでいく。
そうやって子供たちは社会性を身に着けていく。
本当であればこれは親から子へ受け継がれていくものだと思う。
だがここにはその親なる存在がいない。
だから上の者たちがその代わりを行っている。
朝食を済ませ、下の子たちの学校の準備を手伝う。
今ここにいる子供たちで一番小さい子は幼稚園に通っている。
一番上は俺ともう一人の女子。
その子はとても面倒見もよく、下の子からはお母さん扱いされてまんざらでもなさそうだ。
本人曰く、ここを出たら自力で大学を出て幼稚園の先生になりたいそうだ。
未来を見据えた彼女の瞳が、とてもかっこよく見えた。
じゃあ俺は……って考えると、そういったものは無かった……
ただ漠然と今を生きている、そんな気がしてしまった。
それからの日々はただ単調なものだ。
いつものように施設を出て、いつものように悠一の家に向かう。
それからあの坂を上り、愛理と合流。
それから学校へ向かい、授業を受ける。
それから学校が終わると短いけどバイトに向かう。
施設の近くのコンビニの店長さんがここの出身者で、今までもバイトとして受け入れてくれている。
俺も高校に入ってからはずっと雇ってもらっている。
たまにこっそりと廃棄弁当やデザートをくれたりする、俺たちの良い兄貴分だ。
デザートについては持って帰って、下の子たちにあげたりしている。
弁当については食べ盛りの男子に配って、腹を満たす。
さすがに施設のご飯だけでは足りない子もいるから、先生たちも黙認しているのが現状だ。
俺がバイトする理由は、高校を出た時に自活できるようにするためだ。
母さんが出所したときに、返る場所を作りたいから。
俺の代わりに自分の人生を棒に振ってくれた母さん。
そんな母さんを護りたいと思っているから。
だけどそれと同時に、悠一への思いが強くなっていっている。
わかってる……これがおかしなことだと。
それでもなお、強い思いが俺の心を焦がしていく。
恋焦がれる……まさに今の俺にぴったりな言葉だ。
そしてまた運命のこの日……8月5日がやってくる。
俺はまた悠一をあの場所へ呼び出した。
昨日近くの神社へお参りに行ってきた。
この願いが叶わなくとも構わない……だけど悠一との関係が壊れませんようにと。
その帰り道、その時ふいに社務所に視線が向かった。
そこで売っていたのが、澄んだ音の鳴る鈴が付いたお守り。
いくつも可愛いお守りが並んでいた。
その中で目を引いたのが〝恋愛成就〟。
恋愛とは言えないだろうけど、この思いに一番近いものはきっとこれだと思う。
だから俺はこのお守りを一つ買うことにした。
待ち合わせ場所にはすでに悠一が来ていた。
朝早く呼び出したのに、悪いことをしてしまったな。
俺ははやる気持ちを抑えるために、胸にかけたお守りを握りしめる。
チリン
俺の鼓動を感じ取ったかのように、お守りの鈴の音が、早朝の夏の空に静かに響く。
坂を上り、近づくほどの、鼓動が跳ねる。
チリン
本当にこれでいいんだろうか……
これが正解なんだろうか……
これから行う行為は正しいのだろうか……
俺に不安が襲い掛かってくる。
チリン
朝に届いた一通のメール。
愛理からの甘言が、俺の心に深く刺さっていく……
『悠君と一緒に回ろうよ。私が教えてあげたでしょ?輝君ならわかるよね?』
あぁ、俺は許されない行為をしようとしているんだ……
そう、これをしなければ悠一は助かるのに……
「おはよう悠一……待たせてごめん」
「いや、今さっき着いたところだから。で、大事な話ってなんだよ。こんなところに呼び出しって」
朝日を背にした悠一が、いつも以上に眩しく感じた。
これはやっぱり恋なんだろうな……
俺は愛理に恋をし……そして悠一に恋をした。
だからきっと罰が当たったんだ。
でも俺は……その罰をこの手で壊すことにした。
俺はベルトに挟んだナイフの柄に手をかけ、悠一に近づく。
「悠一……あのさ……人を好きになるのって難しいんだな……」
「いきなりどうしたのさ?輝らしくないね?」
俺らしく……ない?
俺の何を知ってるんだよ……
どうしてそんなに笑ってられるんだよ……
「輝?」
「悠一……なんで……どうしてわかってくれないんだ……」
俺はどうしたらいいんだ……
この感情をどこにぶつければいいんだ……
『悠君と一緒に回ろうよ。私が教えてあげたでしょ?輝君ならわかるよね?』
そうか、愛理は分かってたのか……
それが分かっててこれを俺に……
俺は悠一に近づくと、手にしたナイフを悠一の腹部へと深く差し込む。
その感触は妙に生々しく、それ以上に……気持ちよかった……
あぁ、俺が悠一の中に入っていく……そう思ってしまった。
『追伸、あのナイフね、使ったと人の思いが乗るの……つまり、輝君がどうしたいか、強くイメージするといいよ。がんばってね。』
「ひか……る?」
「悠一……」
愛理の言葉に従い、俺は望みを叶える……
〝悠一に振り返ってもらえるまで、何度でも何度でもこの日を繰り返す〟
「悠一……愛してる……」
俺は手にしたナイフで、自分の首を搔き切った。
さあ始めよう……俺と悠一の〝8月5日〟を。
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