【完結】辺境の白百合と帝国の黒鷲

もわゆぬ

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黒鷲、シルヴィアの真実

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私はとても困っている。



その元凶は私の…だ、旦那様である

カミーユ=アルディアン辺境伯のせいだ。


今日も彼は、美しく愛らしい笑顔で私を見つめる。




【辺境の白百合】。彼は、とても有名だった。

彼を一目見れば恋に落ちる、そう言われる程の美貌を持ちながら若くして辺境の猛者達を纏め上げ、動かす人物。

二つ年下だと知った時には驚いた物だ。


私は何故か御令嬢に懸想される事が多かったのだが、彼はそれ以上。


数々の女性陣と浮き名を流し、誰もが彼の横を奪い合ったという逸話を持つ。



私の父は帝国軍総隊長。

その一人娘として生まれ、遊びの様に野山を駆け回りながら体術を覚えていった。

跡継ぎとして義弟が養子に来ても、変わらず稽古をした。


剣を選んだ事は自然な事だ。淑女としての教養は身に付けていた為に母は嘆いていたが、父は困りながらも軍に入る事を許してくれた。


みるみる身長は伸びて、鋼の様な肉体に変わる自分がいた。

今では【帝国の黒鷲】等と呼ばれ、女で唯一

隊の隊長になる迄になっていたのだ。







「(今日もお可愛らしいですわ、白百合様~~~~~!!!!!!!)」




これは、その反動である。








繊細なレース、乙女なフリル、華奢なリボン



全て、全て



大好きなのに


似合わない



自分が似合わない反動で可愛らしい、女の子らしい物が大好きになっていった。


だが自分には不釣り合いな気がして、そういう物を集めたとて

着る事も、持つ事も出来なかった。

変だと言われない為に、自分に似合う口調までも徹底した。


剣を握る事に違和感は無かったのだが、私の中はそういった物でいっぱいだった。


それが物に限らず人にも適応されると知ったのは、彼に出会ってからだ。


彼を初めて見たのは、帝王の護衛として配置された時。


透き通る白い肌。

プラチナブロンドの髪はさらりと流れる様に短く切り揃えられ、琥珀色の瞳は蕩ける様に優しく、甘い。

長い睫毛に、紅をしなくても色付く頬や形の良い唇。

まるで精巧なビスクドール。


女性と見間違える程の儚さを持つ中性的な彼は、まさに【白百合】の名に相応しい。



美しく可憐な彼に、私は直ぐに夢中になった。

鑑賞して眺めていたい。そんな事をずっと思っていた。



そして、あの日が訪れたのだ。


最初、彼に言われた事は信じられなかったが、舞い込んで来た幸運に気付かれぬよう食い付いた。

彼を四六時中眺めていられるのだ、なんて素敵な日々だ。


その時に彼の想いは聞いたが

領地に強い者が必要だから、私を娶ろう等と思ったのだと信じて疑わなかった。


それに、初めて異性に嘘でも慕われていたのだ。嬉しくないはずが無い。


それがどうだ?


どうやら彼は、本当に私の事を想っていてくれている様なのだ。

非常に、むず痒い。


アルディアンの帝都の邸は、重厚感溢れるとても素敵な所だった。

部屋に通されると、クローゼットが開けられ何方になさいますか?と聞かれ唖然とした。

そこには所狭しと並べられた衣類が詰まっていた。

系統もバラバラで、私が普段着ているような物からフリルの可愛らしい物まで様々だ。

だが、どれも品よく可愛らしさを忘れていない物ばかりだ。

その中で無難な物を選んでしまったが、心ではとても嬉しかった。つい、ブラウスに琥珀色を見付けてしまい着てしまったくらいには浮かれていた。



初夜では母からも心構えをされていて、ボーデンにも笑顔で説明をされた。

緊張はしていたが、仕様の無い事だと諦めていた。

そうしたら彼は私を抱かないと言う。

拍子抜けてしまったが、安心している私が居た。


朝起きると、何故か自分が彼の腰に巻き付いていた。

戸惑って離れると彼は困った様な顔をして笑いながら冗談を言って、まだ寝てる様に私に伝えると部屋を出てしまった。



「私ったら、白百合様に抱き着くなんて…」



シーツの中に隠れながら呟く。

恥ずかし過ぎて悶えているうちに外が明るくなってしまった。

起きてカミュと一緒に本でも読もうかと隣の部屋を覗くと、ソファで座りながら寝息をたてている彼が居た。



「(す、素晴らしいわ…寝ていると更にお人形感が増すのね…。なんて可憐なのかしら…)」



余りの可憐さに暫く眺めてしまったのだが、流石に悪い気がして起こす事にした。


すると、彼は目を開けて蕩ける様に笑う。



「…私の、黒鷲さん…」


首元を抱き締められた。


心臓が口から飛び出るかと思った程に煩く跳ねる。

私の事だ…と嬉しくなったが、それよりもこの状況は何だ。


とても良い匂いがする。

だが、彼も男性なのだ。私よりも身長は少し小さいが、その腕は力強く感じる。

私の力では解けたのだろうが、考え付かなかった。


だが、直ぐに気付いた彼は手を挙げて離れては謝ってくれる。

恥ずかしくて、直ぐにその部屋を離れて扉を閉めた。


「(………あれは反則だわ!間近で御尊顔を拝見してしまうなんて……なんて事なの…)」


ズルズルと扉を背に座り込んでしまった。


領地までの二週間は本当に、本当に信じられない日々だった。

彼はとても優しく、紳士的だ。

部屋も別の部屋で寝ている。

エスコートもとても慣れていて自然だ。


しかも、彼は何故か行く先々で可愛らしい物を買ってくれる。


最初こそ遠慮したのだが、最初は可愛らしい花だったので断りにくかった。

それから、レースのリボンや小さな小物入れ等…、私が可愛いなと思った物を知っていたかのように買ってはプレゼントしてくれる。

どれも、そんなに大きな物では無い為遠慮出来ずに懐にしまっている。



カミュは素敵な人なのだな、と思った。



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