【完結】辺境の白百合と帝国の黒鷲

もわゆぬ

文字の大きさ
12 / 52

黒鷲、籠絡される

しおりを挟む

「ふふふ、お父様から無理矢理行けと言われた剣術大会から帰って来ていきなり『お嫁さんにしたい人を見付けた』と言うものだからびっくりしたのよ?

今思えば
小さい頃、お父様やお爺様の様に成れると信じてやまない頃の顔をしていたわ…。
お父様と私は賢いあの子が考えた領主に成りたい口実だと思ってしまっていたのだけれど…

人と話す事が嫌いだったあの子が人と交流する事を覚え、領民の話しを聞き、知識だけでは無く直接赴く事も大事だとこの領地を豊かにする事を考える様にと走り回っていたわ」

「そうだったのですか…」

「そうなの、貴女のお陰なのよ。
貴女を迎える日の為に、この地を住み良いものにしようと必死だったと後から教えてくれたわ。

あの子は領主としての地盤を固め、領主として何が必要か分かる様になった。
私達も学ぶ事が多くなったの。交代の時期だと、悟ったわ」

「それで、まだお若いのにご領主に」



「その通りだ!!」


バーーーンッと扉が開いたかと思うと、お義父様が入って来た。


「……………あ、な、た?先に言う事が有るでしょう?」

「そうだった!

えーーーっと、この度は!いきなり連れ出して申し訳無かった!」

「いえ、お気になさらず。自分の弱さを実感致しました」

「おお!流石、良い奴だな!
そんな事は無いぞ、中々良い線いっている!」

「あーなーたーーー」

「そう、カリカリしてると皺になるぞっ」

「もう!良いから、シルヴィアちゃんに自己紹介してちょうだい」

「忘れてた!すまないな!

俺は先代の辺境伯、グスタフ。
そして、奥さんのミューシア。

嫁に来てくれてありがとう、黒鷲殿!!」

「申し遅れました。
メルフィン伯爵が娘、シルヴィアと申します」

「よし、手合わせしよう!」

「ちょっと!シルヴィアちゃんは私とお茶してこれからする事が有るのっ!
女同士の事だから、あなた一人で鍛錬して来てね」

「え~~…、じゃあその後に頼む!」

「ありがとう御座います、後程お付き合いさせて下さい」


とても賑やかな家族だ。
ひょんな事からカミュの過去を聞いてしまった。
女性関係の事に関しては疑問のままだが、その内分かるだろう。


お義母様が可愛過ぎて、外面だけは貼り付けているがとても浮かれていた。

あんなに大きな子持ちとは思えない。


「では、シルヴィアちゃん。此方へ来て下さる?」

「はい、伺います。お義父様、後程」

「あぁ!頑張れよ!」



何を頑張るのかは分からないが、元気に送り出された。



此方の邸はもっと可愛らしい。

歩いていると、目に入る色々な物はそれはそれはもう全部コレクションしたいくらいだ。
淡い色合いの物が多く、フリルに囲まれている。

お義母様がこの廊下を歩いて居るだけなのに、私の心は浄化されていく。

可愛い物と、可愛い人の相乗効果はとんでもない。


「ここはカミーユが小さな頃に住んでいた所なのよ」

私が辺りを見渡している事に気付いたのだろう。お母様がニコニコと話し出してくれる。


「それで角の無い家具が多いのですね」

「そうなの~、私の趣味も有るけれどね」

「とても……、素敵です」

「ふふふ、ありがとう。さぁ、此方よ」

先導していた侍女が開けた部屋は、衣装部屋だった。


「こ、ここは……」

「私の趣味よ♪ドレスを作っているの」



「素晴らしいです」

見渡す限り、美しいドレスが並び色事に分けられている。

「んーーーシルヴィアちゃんはこの位の大きさかしら?少し着てみてくれる?」

「え、私がですか?」

「他に誰が居るの?スタイルの良い方に着て頂くのを見るのは初めてだわ♡」

手渡されたのは、光沢のある生地で作られた銀色のドレスだ。
ふんわりとしたドレープが美しい。

然し、だ

「此方は……私には可愛過ぎて…」

「あら?可愛い物はお嫌い?」

「いえ……………大好きなのです」

「では、一度試してみてね♡」


ぐっ、と言葉に詰まる程に可愛らしい笑顔で言われてしまったので仕様がなく着る事にした。

勝てる気がしない。


何処からか出て来た侍女の方々が、ササッと気付けてくれる。

コルセットに殺されるかと思ったが、何とか着られるまで絞る事が出来た。

「まあ!やはり、私の目に狂いは無いわ!
ここと、ここを詰めて…。
皆様、メイクと髪型はこうよ!」

お義母様は詰める所に印を付けて、サラサラとデッサンをして侍女の方々に指示を出す。
私はそれを唖然と見ていた。


「皆様、素晴らしいわ!鏡を!」

お義母様は鼻息荒く鏡を持ってこさせる。


「………これが、私なのですか…?」


ドレスは一見可愛らしい印象を持つが、私の様な身長が有る者が着るとお尻の辺りはドレープでふんわりとしていて
鈴蘭の花の様に足元にかけて少し絞られ、足首の辺りでまたふわりと揺れる。

「此方は身長が有る程に美しく花開くドレスなの。気に入って貰えたかしら?」

「えぇ…、とても素晴らしいドレスです」

「いいえ、素材があってこそよ?美しい黒の髪にとても映えるわ。くるりと回ってみて?」

お義母様の言う通りくるりと回ると、ドレスの花が咲く。

「なんて……素敵なの…」

大人になってからは、初めての体験である。

今まで、『似合わない』と避けて来たようなドレスだ。
だが、私から見てもこのドレスは私に合っている。



「ふふふ♡まだまだ、これからよ?」


お義母様が可愛らしい顔で、だが何だかゾクリと背筋が凍る様な笑顔で微笑んだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

処理中です...