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黒鷲、籠絡される
しおりを挟む「ふふふ、お父様から無理矢理行けと言われた剣術大会から帰って来ていきなり『お嫁さんにしたい人を見付けた』と言うものだからびっくりしたのよ?
今思えば
小さい頃、お父様やお爺様の様に成れると信じてやまない頃の顔をしていたわ…。
お父様と私は賢いあの子が考えた領主に成りたい口実だと思ってしまっていたのだけれど…
人と話す事が嫌いだったあの子が人と交流する事を覚え、領民の話しを聞き、知識だけでは無く直接赴く事も大事だとこの領地を豊かにする事を考える様にと走り回っていたわ」
「そうだったのですか…」
「そうなの、貴女のお陰なのよ。
貴女を迎える日の為に、この地を住み良いものにしようと必死だったと後から教えてくれたわ。
あの子は領主としての地盤を固め、領主として何が必要か分かる様になった。
私達も学ぶ事が多くなったの。交代の時期だと、悟ったわ」
「それで、まだお若いのにご領主に」
「その通りだ!!」
バーーーンッと扉が開いたかと思うと、お義父様が入って来た。
「……………あ、な、た?先に言う事が有るでしょう?」
「そうだった!
えーーーっと、この度は!いきなり連れ出して申し訳無かった!」
「いえ、お気になさらず。自分の弱さを実感致しました」
「おお!流石、良い奴だな!
そんな事は無いぞ、中々良い線いっている!」
「あーなーたーーー」
「そう、カリカリしてると皺になるぞっ」
「もう!良いから、シルヴィアちゃんに自己紹介してちょうだい」
「忘れてた!すまないな!
俺は先代の辺境伯、グスタフ。
そして、奥さんのミューシア。
嫁に来てくれてありがとう、黒鷲殿!!」
「申し遅れました。
メルフィン伯爵が娘、シルヴィアと申します」
「よし、手合わせしよう!」
「ちょっと!シルヴィアちゃんは私とお茶してこれからする事が有るのっ!
女同士の事だから、あなた一人で鍛錬して来てね」
「え~~…、じゃあその後に頼む!」
「ありがとう御座います、後程お付き合いさせて下さい」
とても賑やかな家族だ。
ひょんな事からカミュの過去を聞いてしまった。
女性関係の事に関しては疑問のままだが、その内分かるだろう。
お義母様が可愛過ぎて、外面だけは貼り付けているがとても浮かれていた。
あんなに大きな子持ちとは思えない。
「では、シルヴィアちゃん。此方へ来て下さる?」
「はい、伺います。お義父様、後程」
「あぁ!頑張れよ!」
何を頑張るのかは分からないが、元気に送り出された。
此方の邸はもっと可愛らしい。
歩いていると、目に入る色々な物はそれはそれはもう全部コレクションしたいくらいだ。
淡い色合いの物が多く、フリルに囲まれている。
お義母様がこの廊下を歩いて居るだけなのに、私の心は浄化されていく。
可愛い物と、可愛い人の相乗効果はとんでもない。
「ここはカミーユが小さな頃に住んでいた所なのよ」
私が辺りを見渡している事に気付いたのだろう。お母様がニコニコと話し出してくれる。
「それで角の無い家具が多いのですね」
「そうなの~、私の趣味も有るけれどね」
「とても……、素敵です」
「ふふふ、ありがとう。さぁ、此方よ」
先導していた侍女が開けた部屋は、衣装部屋だった。
「こ、ここは……」
「私の趣味よ♪ドレスを作っているの」
「素晴らしいです」
見渡す限り、美しいドレスが並び色事に分けられている。
「んーーーシルヴィアちゃんはこの位の大きさかしら?少し着てみてくれる?」
「え、私がですか?」
「他に誰が居るの?スタイルの良い方に着て頂くのを見るのは初めてだわ♡」
手渡されたのは、光沢のある生地で作られた銀色のドレスだ。
ふんわりとしたドレープが美しい。
然し、だ
「此方は……私には可愛過ぎて…」
「あら?可愛い物はお嫌い?」
「いえ……………大好きなのです」
「では、一度試してみてね♡」
ぐっ、と言葉に詰まる程に可愛らしい笑顔で言われてしまったので仕様がなく着る事にした。
勝てる気がしない。
何処からか出て来た侍女の方々が、ササッと気付けてくれる。
コルセットに殺されるかと思ったが、何とか着られるまで絞る事が出来た。
「まあ!やはり、私の目に狂いは無いわ!
ここと、ここを詰めて…。
皆様、メイクと髪型はこうよ!」
お義母様は詰める所に印を付けて、サラサラとデッサンをして侍女の方々に指示を出す。
私はそれを唖然と見ていた。
「皆様、素晴らしいわ!鏡を!」
お義母様は鼻息荒く鏡を持ってこさせる。
「………これが、私なのですか…?」
ドレスは一見可愛らしい印象を持つが、私の様な身長が有る者が着るとお尻の辺りはドレープでふんわりとしていて
鈴蘭の花の様に足元にかけて少し絞られ、足首の辺りでまたふわりと揺れる。
「此方は身長が有る程に美しく花開くドレスなの。気に入って貰えたかしら?」
「えぇ…、とても素晴らしいドレスです」
「いいえ、素材があってこそよ?美しい黒の髪にとても映えるわ。くるりと回ってみて?」
お義母様の言う通りくるりと回ると、ドレスの花が咲く。
「なんて……素敵なの…」
大人になってからは、初めての体験である。
今まで、『似合わない』と避けて来たようなドレスだ。
だが、私から見てもこのドレスは私に合っている。
「ふふふ♡まだまだ、これからよ?」
お義母様が可愛らしい顔で、だが何だかゾクリと背筋が凍る様な笑顔で微笑んだ。
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