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白百合、到着する
しおりを挟む私は今、やっと別荘の扉に手を掛けている。
が、息切れ中である。
「はぁ、はぁ………っ、………息子を殺す気か…」
敷地に入ってからは、物凄い数の罠や仕掛けがあって逃げ惑ってやっとここまで来た。
だから、ここには来たくなかったんだ。
暇なのか。
とりあえず、衣服を整え呼び鈴を鳴らす。
「待ってたぞ!」
そう言って勢い良く扉が開かれて、来ると予測したハグを目一杯避けた。
するとズサーーーっと滑り、地面に手を付き回転して飛び跳ねるとそのままドカリと此方を向いて床に座った。
「相変わらずだなっ!
久しぶり!元気だったか?」
「………父上、お戯れが過ぎます。
シルヴィは何処ですか?」
「おぅ、元気そうだな!黒鷲殿だったら先程ミューシアに連れて行かれた!」
「…成程。では、着いたとご連絡下さい」
「おうよ!」
父にはそう言ったが、不安なので自分からも傍に居た侍女に伝え
時間がかかると判断して、湯浴みをする事にした。
湯浴みを終えて、別室にてシルヴィを待つ。
席に座り、お茶を飲んでいると扉を叩く音がする。
『奥様とシルヴィア様が参られました』
「どうぞ」
「カミーユ久しぶりね♪」
「母上お久しぶりです。シルヴィは?」
「もうっ、せっかちな男は嫌われるわよっ。
さぁ、シルヴィアちゃん。貴女はとっても素敵よ?」
母が手を添えて、中に促す。
女神が居る。
蜂蜜色の柔らかな光沢のある生地が、呂色の髪に映える。
厭らしく無い甘やかなフリルが手首を飾り、プリーツが施されドレスの様に見えるがズボンになっている。
それは、身長が有るシルヴィにとても良く似合っていた。
「シルヴィアちゃんったら、カミーユの前に出るならズボンじゃないと嫌だって言うから前々から着せる人に悩んでいた物を着せてみたの♡」
「………とても、綺麗だよ。シルヴィ、よく見せて?」
もじもじと恥ずかしそうに俯いている彼女の手を取る。
驚いて肩が揺れたが、私を見てくれた。
高く纏められた髪。素材を生かした化粧。
流石、我が母は分かっている。
「そ、その………迎えに来てくれてありがとう……」
頬を染めながら言うシルヴィ。
今すぐ抱き締めたい衝動に駆られたが、母の前なのでグッと堪えた。頑張れ、私。
「うちの両親が申し訳無かった…早く気付いてあげられなくてごめんね?」
「いや…、自分の弱さを実感した。
是非ともお義父様に色々教わりたい。」
「ん~それは何とも複雑だけど…、父上はとても喜ぶと思うからシルヴィから言ってあげて?」
「分かった」
「……………ほう。普段はそんな感じなのね」
ボソリと言うので、母を見るとニヤニヤしていた。
「ゴホンッ………母上。この度の事、説明願います」
「ごめんなさいね?あの人が耐えきれなくなっちゃって、先にシルヴィアちゃんを招いてしまったの。
それに、貴方が幸せそうで良かったわ」
そう言って母は嬉しそうに笑う。
どうやら、心配を掛けていた様だ。
「大丈夫ですよ、母上。やっとシルヴィが私の元に来てくれたのです。
大切にします」
「ふふふ、その様ね。
どうやら心配をし過ぎてしまっていたようね。
ね、あなた?」
母はそう言うと扉の方に視線を向ける。
「ば、バレたか……」
「息子の新たな一面を見たからって、動揺しないのっ。いい加減、子離れしなさいっ」
「そんな事言ったって…、ほら!パパにはあんな目をする!!」
「次、同じ事をシルヴィにしたら絶縁です」
「それは、すまなかった!!」
勢い良く謝る父にはあぁ言ったが、全部私を心配しての事だとは分かっている。
親には素直になれないものだ。
だが、シルヴィにした事は別だ。絶対許さない。
「さ、少し離れただけだけれど折角会えたんだもの。二人きりにしてあげましょ」
母は父を押しやりウインクして部屋の外に出ていった。
流石、我が母分かっている。
パタンと扉が閉められ、聞かれていない事も確認してからシルヴィに向き直す。
「シルヴィ、大丈夫だった?」
「ああ、何ともない。こんなに素敵な物まで頂いてしまった」
「ふふ、貰ってやって。着せ替え人形にされたんでしょ?そのお代だと思って」
「……お代が高すぎる」
「良いんだよ。母もとても喜んでいた」
「私も楽しかった」
「それは、良かった。お待たせしました、私のレディ」
手を取り、そこに口付けをする。
みるみる内に赤くなってしまうシルヴィはとても可愛い。
ここは余り知らない場所だ。
違う部屋に逃げ込むなんて事は出来ない。
ニコッと微笑んで、彼女を席へと誘う。
「…カミュ、狡い」
「ん?何が?」
「逃げられないと知っていてやってる」
「ふふ、ごめんね。昨日も結局余り会えなかったからね。
会いたかった」
真面目な顔をして言うとシルヴィは俯いてしまった。
「……逃げてばかりですまない」
「いいよ、何度だって捕まえる」
「……どうして、そんなに想ってくれるの?」
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