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黒鷲、学ぶ
しおりを挟む「して、シルヴィアちゃん。次はこの、黄金蜜蜂についてじゃ」
「はい、フリーガング様」
私は今、フリーガング様から魔物について教わっている。
本当ならカミュから教わる予定だったのだが、数日後の帝都出発に間に合わせる為にカミュがとても忙しくなってしまったのだ。
事前に分かっていたとはいえ、魔物討伐の後なので色々と忙しいらしい。
私は想いを紙に纏めて、言う練習をしていた。
手紙にしようかとも思ったのだが、相手は面と向かっていつも言ってくれるのでちゃんと言葉で伝えるつもりだ。
その日は頭を使い過ぎたからか先に寝てしまい、次の日にはいつ言えば良いのかタイミングが分からずモジモジしてしまった。
そこからこうして、すれ違う日々が続いている。
ちゃんと事前に伝えてくれたが、カミュは出掛ける頻度も上がり邸に居ても執務室に篭もりっきりで本当に会えない。
私に出来る事ならさせて貰っているが、圧倒的に少ないと分かってしまう。
ベッドで暫く待っていても、私が寝てから来て起きる前に出て行ってしまっている。
何故来たか分かるかというと、朝起きると一言だけメモが残っているからだ。
今日は『おはよう。庭の花が綺麗だよ』と書いてあった。
こうしたマメな所はカミュらしい。
「(でも………会いたいわ。声を、聞きたい)」
授業中に不謹慎だが、少し窓の外を見て彼を探してしまう。ここから見えはしないのに。
「元気が無いようだね、シルヴィアちゃん」
「あ、申し訳御座いません。少し、考え事を……」
「そうか、そうか。で、シルヴィアちゃんはどうして魔物の事を?」
「この間の魔物討伐の時、隊員は戦闘に関しては申し分無いのですが…知識に関してはカミュに頼りきってしまっているのでは無いかと感じたのです。
なので、私も知識を覚えれば色々と対応もしやすくなるのではないかと考えまして」
「成程なぁ。確かに隊員達は勉強が苦手な者が多く、感覚で敵を倒す奴らばかりだ。頭脳戦は全く向いておらん。彼奴らに教えるには努力が必要じゃ、シルヴィアちゃんが覚える事で幅は広がるのぅ」
「はい」
「君は賢く、強い。
実は昔、君の事を遠くからだが見た事が有る。
その頃に比べたらとても柔らかい表情になっているのぅ。
君は、自由を取り戻そうとしているのでは無いのかい?」
フリーガング様はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
心臓が跳ねる。何もかも見透かされている様な気がして、跳ねた胸を抑える。
「……フリーガング様、正直に教えて下さい。私の今の格好は似合っていますか?」
今日は少しフリルが多いブラウスに、真っ赤なスラックスを履いている。
「格好?あぁ、君は脚が長いからね。パンツスタイルが良く似合う。だが、甘やかなブラウスで女らしさも忘れていない感じがとても良い、がのぅ?それがどうかしたのかい?」
「ありがとう御座います。実は、この様な派手なズボンも可愛らしいブラウスも此方に来てから着るようになったのです」
「ほぅ。今迄はどの様な格好を?」
「今迄は隊服か…、母に言われた時だけ落ち着いた色の装飾の少ないドレスを着ていました」
「そうなのか」
「えぇ。私、本当はとても可愛い物が好きなのです。ですが、この様に身体が大きく、筋肉質で顔も鋭い。似合わないとずっと避けていました。
ですが、カミュが私に『好きな物を着て良い』と言ってくれたのです」
「カミーユが…」
「私、とても嬉しいのです。この様に可愛い物に囲まれて過ごす事はずっと夢でした。
私の心を救ってくれた彼の役に立ちたいのです」
「…カミーユを好いてくれているのだな」
お顔をクシャッとさせてフリーガング様は私に言う。
「はい」
私はそれに精一杯の誠意で応えた。
ここで嘘は付けない。
フリーガング様は、にこりと微笑むと頷いた。
「本当にありがとう、シルヴィアちゃん。あの子の傍に居てくれて。
ワシらではあの子の劣等感を煽ってしまうだけだった。何も出来ず見守っていたが、あの子が笑ってるのを見たのも何年振りだろうか…不甲斐ない爺じゃな」
「いいえ、それはきっと彼の支えになっていたのだと思います。
彼はとても優しい。それは、沢山の人に優しくして貰ったからだと私は思うのです」
「そうか……、確かにカミーユは君に優しい。
無駄では……無かったかのぅ」
「えぇ、きっと」
「はははっ。君は良い女じゃのぅ!ワシが若い頃に出会いたかったよ」
「勿体ないお言葉です」
「よし、では続きを始めようではないか」
「はい、宜しくお願い致します」
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