【完結】辺境の白百合と帝国の黒鷲

もわゆぬ

文字の大きさ
37 / 52

白百合、帝都へ

しおりを挟む

仕事は出発ギリギリまで掛かってしまったが、何とか終える事が出来た。
シルヴィとの時間を取り戻す為に、帝都迄の二週間は常に傍に居た。
やはり何だかモジモジしている。それに、触れると直ぐに紅くなる。
でも、笑顔が増えている気がするので良い変化なのだろう。

理性を保つ事が大変だったけど、幸せな二週間だった。

私は満足気に馬車から降り、シルヴィをエスコートした。


「「お帰りなさいませ」」

「只今、皆。お疲れ様、シルヴィ」

「あぁ。何だか久々の帝都だな」

「そうだね。さぁ、中に入ろう」

「分かった」


「ボーデン」

「此方に。お二人共お元気そうで何よりです」

「ありがとう。少し休憩したい、お茶を入れてね」

「畏まりました」


シルヴィは一度着替えたいと言うので、侍女に任せて私は先に休憩する事にする。


「カミーユ様」

「なにかな、ボーデン」

「その後は如何ですかな?」

「……………見ての通りだよ」

「成程……。ですが、良い雰囲気になられましたな」

「ふふ、そう見える?なら、お節介は必要無いよ。シルヴィのペースに合わせたいんだ」

「それは、それは。畏まりました」


「それより、ボーデン。帝都はどうだい?」

「嵐の前の静けさ……と言った所でしょうか。頻繁に領地へ赴いていた姫の影も見当たりませんな」

「ほぅ…。諦めたと言うよりは影に見放されたかな?」

「その筋が濃厚かと…。親がアレでは性格も曲がるというものです」

「重いと見せ掛けて、愛が薄い人だよね~」



ボーデンから報告を受けていると、扉が叩かれシルヴィがやって来た。
ボーデンを下がらせて、招き入れる。


「待たせた」

「いや、待っていないよ」

「すまない、今日は私の実家に行く予定だったのに」

「うんうん、何回も謝って貰ったよ?本当に気にしないで」


そう。実はこのままあちらのご実家に向かう予定だったのだが、お義父様が忙しいらしくお伺い出来なかったのだ。
シルヴィは悪くないのに馬車で何度も謝られた。


「ありがとう…」

「さぁ、疲れているだろう?お茶を入れたんだ、今日はここで休もうね」

「そうだな。カミュに入れて貰うのも何だか久々だ」

「ふふ、どうぞ」

「頂こう」


二人でゆっくりとお茶を飲む。

この時間が私は本当に好きだ。


「私もだ」


「ん?」

「ん?」

「あ、声に出てたかな?」

「心の中で言っていると思っていたのか?」

「ははっ、そうだよ。でも、シルヴィもそう思ってくれているなんて嬉しいな」

「あ、あぁ。その事なんだが……」




バンッ!!!



「カミーユ様!!失礼します!」


シルヴィが何かを言いかけた時、ノエルが勢い良く部屋に入って来た。

「……どうした、そんなに急いで。内容によってはシメる」

「申し訳御座いません。ですが、緊急事態で御座います」

「何?」

「帝都に魔物が現れました。鉄鱗竜です」

「何だと!?」

「子竜の様で…、親と逸れ迷って此方迄来てしまったのでは無いかと…」

「何故ここまで分からなかったんだ!子竜なんて余計ややこしいじゃないか…、直ぐに向かおう」

「カミュ、私も行く」

「有難う、助かる。ノエル、此方に父と母も向かっている。其方にも連絡を」

「畏まりました」



駆け出し、各自準備を始める。

鉄鱗竜は熱さに強く、その名の通り鉄の鱗を持ち火を吐く。
竜は比較的穏やかな種族なのだが、子を成しにくい為に子に最大限の愛情を注ぐのだ。

子は親を呼ぶ。

キレた鉄鱗竜はそれはもう厄介だ。
親が来る前に領地の方へと軌道修正させねば大変な事になる。

筈だ。私はまだ竜とは戦った経験が無い。
爺様や父上も片手で数える程だと言っていた。

竜は賢い生き物だ、人間の言葉もある程度理解出来ると聞く。
道さえ示してやれば何とかなる筈……、子竜という事が懸念事項だが。


「……間に合うかどうかだな。親も必死で探しているだろうし…」

何故、子竜が此処に居るのかはとりあえず考え無いでおこう。

多分相当厄介な案件だ。
【人の手】が噛んでいる可能性が高い。



そんな事をごちゃごちゃと考えながら馬小屋へ向かう。

そこには既に準備を済ませた二人が居た。

「お待たせ。行こう」

一つ頷くと、馬の首を撫でた。


「信じている。行ける所までで良いよ」

ブルルッと鼻を鳴らし、機嫌良く擦り寄って来る。
竜相手では馬は怖がって近付け無いかもしれない。
近く迄行けたらそれで良い。


「では、行くよ」


私の合図で馬が駆け出す。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

処理中です...