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白百合、帝都へ
しおりを挟む仕事は出発ギリギリまで掛かってしまったが、何とか終える事が出来た。
シルヴィとの時間を取り戻す為に、帝都迄の二週間は常に傍に居た。
やはり何だかモジモジしている。それに、触れると直ぐに紅くなる。
でも、笑顔が増えている気がするので良い変化なのだろう。
理性を保つ事が大変だったけど、幸せな二週間だった。
私は満足気に馬車から降り、シルヴィをエスコートした。
「「お帰りなさいませ」」
「只今、皆。お疲れ様、シルヴィ」
「あぁ。何だか久々の帝都だな」
「そうだね。さぁ、中に入ろう」
「分かった」
「ボーデン」
「此方に。お二人共お元気そうで何よりです」
「ありがとう。少し休憩したい、お茶を入れてね」
「畏まりました」
シルヴィは一度着替えたいと言うので、侍女に任せて私は先に休憩する事にする。
「カミーユ様」
「なにかな、ボーデン」
「その後は如何ですかな?」
「……………見ての通りだよ」
「成程……。ですが、良い雰囲気になられましたな」
「ふふ、そう見える?なら、お節介は必要無いよ。シルヴィのペースに合わせたいんだ」
「それは、それは。畏まりました」
「それより、ボーデン。帝都はどうだい?」
「嵐の前の静けさ……と言った所でしょうか。頻繁に領地へ赴いていた姫の影も見当たりませんな」
「ほぅ…。諦めたと言うよりは影に見放されたかな?」
「その筋が濃厚かと…。親がアレでは性格も曲がるというものです」
「重いと見せ掛けて、愛が薄い人だよね~」
ボーデンから報告を受けていると、扉が叩かれシルヴィがやって来た。
ボーデンを下がらせて、招き入れる。
「待たせた」
「いや、待っていないよ」
「すまない、今日は私の実家に行く予定だったのに」
「うんうん、何回も謝って貰ったよ?本当に気にしないで」
そう。実はこのままあちらのご実家に向かう予定だったのだが、お義父様が忙しいらしくお伺い出来なかったのだ。
シルヴィは悪くないのに馬車で何度も謝られた。
「ありがとう…」
「さぁ、疲れているだろう?お茶を入れたんだ、今日はここで休もうね」
「そうだな。カミュに入れて貰うのも何だか久々だ」
「ふふ、どうぞ」
「頂こう」
二人でゆっくりとお茶を飲む。
この時間が私は本当に好きだ。
「私もだ」
「ん?」
「ん?」
「あ、声に出てたかな?」
「心の中で言っていると思っていたのか?」
「ははっ、そうだよ。でも、シルヴィもそう思ってくれているなんて嬉しいな」
「あ、あぁ。その事なんだが……」
バンッ!!!
「カミーユ様!!失礼します!」
シルヴィが何かを言いかけた時、ノエルが勢い良く部屋に入って来た。
「……どうした、そんなに急いで。内容によってはシメる」
「申し訳御座いません。ですが、緊急事態で御座います」
「何?」
「帝都に魔物が現れました。鉄鱗竜です」
「何だと!?」
「子竜の様で…、親と逸れ迷って此方迄来てしまったのでは無いかと…」
「何故ここまで分からなかったんだ!子竜なんて余計ややこしいじゃないか…、直ぐに向かおう」
「カミュ、私も行く」
「有難う、助かる。ノエル、此方に父と母も向かっている。其方にも連絡を」
「畏まりました」
駆け出し、各自準備を始める。
鉄鱗竜は熱さに強く、その名の通り鉄の鱗を持ち火を吐く。
竜は比較的穏やかな種族なのだが、子を成しにくい為に子に最大限の愛情を注ぐのだ。
子は親を呼ぶ。
キレた鉄鱗竜はそれはもう厄介だ。
親が来る前に領地の方へと軌道修正させねば大変な事になる。
筈だ。私はまだ竜とは戦った経験が無い。
爺様や父上も片手で数える程だと言っていた。
竜は賢い生き物だ、人間の言葉もある程度理解出来ると聞く。
道さえ示してやれば何とかなる筈……、子竜という事が懸念事項だが。
「……間に合うかどうかだな。親も必死で探しているだろうし…」
何故、子竜が此処に居るのかはとりあえず考え無いでおこう。
多分相当厄介な案件だ。
【人の手】が噛んでいる可能性が高い。
そんな事をごちゃごちゃと考えながら馬小屋へ向かう。
そこには既に準備を済ませた二人が居た。
「お待たせ。行こう」
一つ頷くと、馬の首を撫でた。
「信じている。行ける所までで良いよ」
ブルルッと鼻を鳴らし、機嫌良く擦り寄って来る。
竜相手では馬は怖がって近付け無いかもしれない。
近く迄行けたらそれで良い。
「では、行くよ」
私の合図で馬が駆け出す。
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