追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第十一話 普通の感覚

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「リーフェはさらわれたらしい」

 エラルドは額に汗を流しながらそう言っていた。
 俺たちはそのことを知っていたので頷く。

「エラルド、無事でよかった」
「転移ポータルの近くに行っただけだからな」

 額から汗を滴り落としながら言うエラルドは続けて、

「ただ、いなかったもんでよ。近くにいる人に聞いたんだ。当然、ガリアの生徒なんていなかったし、いたのは他校の上級生ばかりだ」

 俺は頷く。
 するとエラルドは一呼吸置く。
 息をすーっと吸い込むと深刻な表情で口を開いた。

「リーフェは真っ黒なドラゴンに連れていかれたらしい。ガリアの生徒じゃないそいつらはのほほんとした表情で言うんだ。『でもそれも大分前のことだから、今はもう教師か生徒会がそのドラゴンを片付けたんだろ。きっと今頃保健室か病院で寝てるんじゃないか』って」

 するとエラルドは狂ったように急に笑い出す。

「いや、俺たちって軽い自殺志願者だよな! 何が起こるか分からないダンジョンに、命綱なしで潜り込んでるんだ」

 声こそ明朗だったが、エラルドの表情はこわばっていた。

 俺はその言葉に返すことなんてできなかった。
 実際に俺も、誰も辿り着いたことのない階層に行きたい、最深部は何階層なんだろうということが知りたかったから学院に入学した。
 ラリア入学当初は自分はまるで無敵というような感覚だったが、ラリア時代や、強くなった今だって、死の恐怖は常に感じている。

 今回みたいに不規則な出来事や、頭が逝かれて、ダンジョンに魅了されたおかしい奴らが襲ってくるかもしれない。

 そう言う不安は常にあるからだ。
 だが、ユラには分からないようできょとんとしている。まるでその表情はそれがいいんじゃない?と言いたげだった。

 俺はそれを見てエラルドにさらに同情する。
 これは普通の感覚を持っている、狂乱なガリア生と違った感覚を持っているからこそ感じることだ。

 だから俺は急に言いたくなった。

「エラルド、俺も同じだ。俺だって怖いさ」
「私も怖いと思ってるよ! でも、それがいいんだけどね......」

 俺がそう言うとユラも同じと言うようにそう言っていた。ユラはどうやら、何でも俺と同じがいいようだ。
 まぁ、後の方は気にしないようにしよう。

「ユラのぼそっと呟いた言葉は無視するとして、お前らでもやっぱり怖いのか」

 エラルドは何故か嬉しそうにそう言っている。

「ああ、そうだよ」

 俺がそう言うとエラルドは自分の頬を力強く何度も叩く。

「よし! 決めたぞ! 俺は普通でいる! ガリアの常識に汚染されるもんか! お前らだって怖いんだ、普通の感覚を持った俺が怖くないわけがない!」

 エラルドはそう言うと、何度も頷き、

「俺はリーフェを助けに行く。仲間を助けるってのはガリアでは常識じゃないかもしれねーが、それが普通だって思ってる」
「俺も行くよ」

 そう、俺はエラルドと話しているうちに自分は行くべきだ、助けたい、そう思っていた。
 命を落とすかもしれない、リーフェを助けられないかもしれない、皆は俺の事を仲間だと思っていないかもしれない、助けたとして裏切られるかもしれない。

 でも違うのだ。
 俺が助けたいから助ける、仲間だと思っているなら仲間なんだ。

 そしてそれは俺と同じ普通の感覚を持っているエラルドが教えてくれた。
 エラルドは「俺は普通でいる」そう言っていた。
 じゃあ、俺も俺の感情や意志を素直に伝えてもいいんじゃないか?そう思えてきたのだ。

 つまりは普通な俺は普通なエラルドに感化されていた。

 エラルドのことを悪く言いたくはないが、エラルドはあまり強くはない。
 それは学院の生徒としては、あまり誇れることではないだろう。

 それにガリアの生徒は俺が知っている限り、みんなどこか狂っている。その中で普通でいると言うことがどれほど難しいことか、と思う。

 だけどエラルドは決めたのだ。普通でいることを。
 じゃあ、今度は俺の番だ。

 俺も俺の過去を清算し、自分の意志を伝えていく。仲間であるエラルドと共に。

「アラスくん! 絶対に行っちゃダメ! 行ったら死んじゃうかもしれないんだよ?」

 だが、ユラは俺の袖を引っ張りながら、潤んだ瞳でそう言っていた。

「大丈夫。俺は死なないし、負けない」

 本当のところ俺にもどうなるか分からない。運が悪ければ本当に死ぬのかもしれない。
 でも、俺はそう言わなければいけない気がした。

「じゃあ、私も行く!」

 ユラは俺を見つめていたが、やがて諦めるように、潤んだ涙を指で拭き取るとそう言っている。

「死ぬかもしれないんだよ?」

 俺のその問いかけに、ユラは微笑んでいた。

「リーフェは仲間。アラスくんはそう言ったでしょ? だったら、私にとっても仲間です!」

 ユラはそう言うと、手を伸ばしている。

「ユラ、これは?」
「仲間として気合を入れる儀式だよ! アラスくんもエラルドも手の甲を私の手に重ねて」

 ユラのやりたいことがようやくわかり、手を重ねる。
 エラルドも恥ずかしそうに手を重ねる。

「さあ、アラスくん! 何か言葉を!」

 ユラは手を重ねるなりそう言っていた。

 ユラのその言葉に俺でいいのかと思う。
 俺は再びエラルドを見ると、エラルドは、

「お前がいなかったら、俺たちはきっと豚小屋暮らしだ。そりゃー間違いねえ。ここまで団結させたのはアラスだ」

 と少し照れ臭そうに言っていた。

「じゃ、じゃあ」

 俺もなんだか照れくさくなる。
 それを吹き飛ばすためにも、気合を入れるためにも俺は深呼吸をする。

「リーフェは僕らの仲間だ。そんなリーフェが6階層に現れるはずがないドラゴンに捕らえられている。でも、俺たちならできるはずだ。エラルドは魔道具による支援と敵の観察、ユラは精度を生かした攻撃でドラゴンの弱点を突く。俺は火力で敵をひきつける。そうすればきっとドラゴン相手にだって負けないはずだ。さあ、リーフェを助けに行こう!」

 その瞬間、俺たちは手を押し込むと空高くに上げる。

「一つ言い忘れていることがある」

 するとエラルドはそう言う。

「なにかな?」
「副作用は俺に任せておけ」

 エラルドはいつものように苦笑いをする。だが、その笑顔は逆に頼もしかった。

「ありがとう。エラルドがそうしてくれるなら、俺は火力に集中できる」

 俺がそう言うと、エラルドは満面の笑みで親指を立てた。
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