追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第十六話 エミルの誘惑2

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「リーフェちゃん、勝手に愛の巣に入ってこないでくれないかな? 恥ずかしいよ」
「なっ!」

 リーフェは顔を真っ赤にすると、ちらり、ちらりとこちらを見ていた。

「さあ、用がないならしばらく外にいてくれないかな?」
「んんん!!!」

 リーフェは何かが爆発する前の時のような溜めを作っていたが、やがてそれは弾けたようで、

「別にそのことはどうでもいいの! 今日一日、私はエミル先輩に拘束されていたから。だから、私は先に行くと言いに来ただけ」

 俺はその時、『なるほど』と思った。
 思えば、『待ってます』なんて言ったちょっと前がおかしいのだ。
 エラルドもリーフェは変なところで気を遣うと言っていたし、リーフェは意外に常識人的なところがあるのかもしれない。

 そんなリーフェは依然としてちらちらと上目遣いで恥ずかしいものを見るようにこちらを見ていたけど、足元を見ればトントンとリズムよく片足で絨毯を踏んでいる。
 リーフェはきっと自分の修練と社会性を天秤にかけ、自分をとったらしい。
 たぶん、待つことに限界が来たのだろう。

 というか、俺は何をしていたのだろう。
 リーフェとエミルが何やら話をしていたが、俺は聞かずに目の前にいるはだけたエミルを見る。

『ああ、そうだった......』

 俺の頭は急に理性的になる。目の前に、はだけたエミルがいた。

「まぁ、エミル先輩と言い合っても平行線なんで。ただ私が実験動物対象じゃなくてホッとしてますけど」
「私はエミルちゃんもいいなって思ってるよ? 今すぐにでも強くしたい。アラスくんほどじゃないけど、リーフェちゃんも強いし」
「勘弁してください!」
「本気だよ? でも今はアラスくん一筋かな。だって、子供を育てなきゃいけないしね......」

 そう言うと目の前にいるエミルは顔を赤くし、顔を埋めてくる。

「なっ! そういうことは私の前でやらないでください! それとね、アラス」

 急に真剣な表情になったリーフェは続けた。

「あんた、やっぱり騙されてると思うわよ? 女性の体が欲しくて堪らなくてもね」
「それは完全に誤解だ! 俺はエミルが好みで.....」

 俺は途中で言うことを止めた。俺は今素晴らしく恥ずかしいことを堂々と言おうとしていたのだ。

 だが、リーフェはどうでもいいようで、再び口を開く。エミルは俺を嬉しそうに見ていた。


「これは一応警告だわ。エミル先輩、上級生のクラウス先輩を誘惑したはずですよね?」

 俺に忠告するはずがリーフェはエミルに話しかけていた。

「うん、覚えてるよ。誘惑と言う言い方はどうかと思うけどね」
「言い方はどうでもいいのです。言いたいことはクラウス先輩がダンジョンから帰ってきてないことですよ! ということは死んだという事です。噂ではエミル先輩は破廉恥なことで男を誘惑し、不利な魔術契約をさせると聞いています。一体どういう契約をしたんですか」

 リーフェの話が事実だとしたら、これは大変なことだ。
 俺の全身から血が半分くらい無くなっていく感覚がする。

「やっぱり私は誤解されているなぁ」

 エミルはそう言って嘆息すると、

「たしかにクラウス先輩がダンジョン内で行方不明になったのは事実。でも、私は何もしていない。強くないと私は貴方に惹かれないと言っただけだし、私とクラウス先輩の契約は種の提供だけだもん。それにね、破廉恥な事なんてしていないよ? 膝枕しながらクラウス先輩の種が欲しいのって言っただけだもん。嘘なんて言っていないもん」

 むっとした表情でそう言うエミル。
 だけど俺は思った、思わせぶりな態度で誘惑したのは事実ではと。
 でも、エミルはそう思っていないようで。

「わかりました。まぁ、そう言うことにしましょう。次に――」
「本当だよ!? 何一つ嘘なんて言っていないから!」

 頬をぷくっと膨らませながら言うエミル。

「わかりましたって!! じゃあ次です。一年生のシーラという女の子がいましたよね。あの子から直接話を聞いたことがあるんです。彼女曰く、過酷な魔法の鍛錬とダンジョン潜り。それに、部屋に帰ったら男が半裸でいたなんてことがあったらしいですね?」

「シーラちゃんね。あの子との契約も嘘はついていないよ。強くなりたいって言うから、過酷な魔法の鍛錬とダンジョン潜りに付き合ってあげてたの。それは素質があるから私も付き合っていたことだし、なによりきついなら減らしてもよかったのに」

「エミル。部屋に帰ったら男が半裸でいたというのは?」

 俺は知りたかった。

「もちろん本当のことだよ。だって契約ではあなたの体が欲しい。だから、他の男の子と融合するかもしれないって条件があったからね。でも、あの子契約を破ったの!! 酷いよ!」

 むっとすると横のテーブルにあった紅茶を一気に飲み干していた。
 俺はその瞬間思う。エミルと言う人間は容姿端麗で魔法の腕だって超一流だ。
 でも、ガリアに入学するくらいの変人。俺はそれに気づいていたはずなのに認識が甘かったと思う。

 エミルは紅茶を飲みながら俺に熱心に一生懸命に、俺の子種が欲しいと沢山話していた。
 俺が聞き洩らした話なんて沢山あるだろう。

 ということは、ことを致した後に魔術契約なんてものがあったら、俺の未来はどうなっていたのかと思うと全身鳥肌がたつ。

「まぁ、そういう事ねアラス。でも私の話が本当だとは思わないでよね? 私はただ警告しただけで。あんたの仲間でも親友でもなんでもない、ただのガリアの同級・・・・・・せいなんだから」

 リーフェはそう言うと綺麗な銀髪をふわりと風に乗らせると、去っていた。
 俺はその対応に唖然とする。リーフェはここまで言っておいて、後は何も知らない俺に判断を任せると言っているようなものだ。


「さあ! 続きをしましょう?」

 エミルの切り替えの速さに驚く。
 だが、もはや俺はそう言う気にはなれなかった。
 もちろんエミルは今でも俺の好みではあるのだけど、あまりにも恐ろしい。ガリアと言うところが。
 それに、リーフェの話が事実かどうかは置いておいて、こういうことは1日で成すべきことじゃないのだ。
 じっくりと時間をかけて、徐々に成り立っていくものだと思う。
 リーフェが来てくれたおかげで、俺の理性はそう言っている。

「考えさせてくれないかな...... 俺は正式な契約なんて聞いていないし、それに今の話を聞いていると......」

「ああ、大丈夫だよ、アラスくん。私は嘘は絶対につかない」

 エミルは優しく微笑むと、再び口を開いた。

「アラスくんと私の魔術契約なんてものは最初からない予定だったの。でも、強いてあげるなら...... うーん。私達は夫婦、子供は責任もって強くすること、何でもしてあげること、いずれ好きになること」

「本当にそれだけですか?」

「うん、そうだよ。私は魔術契約を絶対に守る。嘘だと思うなら、アリアという2年生の女の子に聞いてみて。まぁ、彼女は私以上に、ガリア屈指の変態さんだけどね。だから命の保証はしないけど」

 エミルはそう言って微笑む。その狂乱さに俺は再び驚く。
 もうガリアで何があっても驚かないと思っていたのに。
 だから俺は苦笑いすることしかできなかった。

「あーあ、残念だなあ。私はアラスくんのことどちらかと言えば好きだし、何より私とアラスくんの子供ができれば、それはそれは優秀な魔術師になる。それに、剣の腕も! それほど優秀な生物ができるのはいいことでしょ?」

 最初はすごく共感できた。でも後の『優秀な生物』という表現は別だ。
 平凡な俺にはその感覚が分からない。例えこの学院の3年生になったとしても、俺には理解できない、そう思える。

「エミル――」

 ――エミルは俺の唇に人差し指をのせる。

「聞きたくないかな? それにね、私はアラスくんを諦めたくないの。だから、ずっと待つ。そう言うことでいい?」

 唇が触れそうなほどの至近距離でエミルはにこりと微笑みながらそう言う。
 エミルが動いたからか、女の子独特の甘い匂いが俺の鼻を刺激する。

 俺は頷くしかなかった。

「ありがとう、アラスくん。それと、もう一つ。魔法の習得のお手伝いをさせて欲しいの」
「なぜそこまで?」
「それはね! そうすればアラス君といる時間が増えるから好きにもなれるし、アラスくんも強くなれる! それって私の願いと言うか!」

 エミルはそう言うと顔を真っ赤にしながら体をくねくねさせている。
 そんなエミルと俺は視線が合わず、エミルは俺の下腹部辺りを見ていた。

「もちろん。俺からもお願いしたいよ」

 もしかして俺と言う人間は変人が好きなのかもしれない。というか、自分も変人なのかもしれない。
 その気づきたくもない事実に気づいてしまった。
 俺は変人の狂気さに惹かれている節がある。そう思ったからだ。


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