追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第十五話 エミルの誘惑1

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「じゃあ、話そうか。私はアラスくん。あなたが欲しい」

 エミルは真剣な表情でそう言っていた。

 俺は言っている意味が分からず、絶句する。

「まぁ、話は長いから2階層の私の家で話したいな。それと、安心してほしい。リーフェちゃんやエラルドくん、ユラちゃんは私が責任をもって治すよ」

 エミルはそう言うと、リーフェや、エラルド、ユラに近づき、高級なポーションを飲ませる。
 意味が分からずボケっとした表情で集まる皆。

「どういうことですか、エミル先輩」

 リーフェが言う。

「ああ、私の大事なドラゴンが......」

 どうやらエミルはドラゴンを殺されたことが悲しいようだ。
 俯きながらそう言う。

「この子も私は治したい。少し待ってくれないかな?」

 エミルはそう言うと、漆黒のドラゴンの首を胴体に浮遊させながらくっつける。

全治エランテ

 エミルはそう言いながら、祈るように両手を合わせ目を瞑る。
 すると、真っ二つに切り裂かれたはずの首が見る見るうちに接合されていく。

「流石、2階層の魔女だな」
「2階層の魔女って?」

 エラルドは俺の質問に納得したように頷くと、

「ああ、そうか。アラスはしらないよな。まぁ、俺も名前しか知らなかったんだけどな」

 そう言うと一拍おくように息を吸い込む。

「エミル先輩は4大魔法使いのうちの一人。アラン フォールドの孫娘だ。そしてその魔法の才能は2年生にして4大魔法使い級だと言われている。さらに恐ろしいのは、エミル先輩は究極の生命体を生み出すことに必死だ。だから、エネミーを育てたいようだし、よく交配させてる。さらにはな......」

「人間まで育ててるの。ガリアの生徒や他の学院の生徒と契約して、能力を伸ばすって名目でね。でも、噂ではその人たちの種で実験してたり、人体実験もしてるんじゃないかって話よ」

 エラルドが躊躇っていると、リーフェがそう言う。

「おい! リーフェ! 相変わらずせっかちだな! 俺が言おうと思ってたのによ!」
「うるさいわね。あんたはなんでもとろいのよ!」

 俺は二人が言い争っていることなんて目に入らなかった。
 俺はそんなエミルに「アラスくん、あなたが欲しい」と言われたのだ。
 つまり、俺は実験動物のように扱われる可能性があるということ。

 そう考えると全身鳥肌たつ。

「つまりは俺は......」
「ええ、そうね。あんたはエミル先輩の実験動物になる可能性が高い」

 そう堂々と言い放つリーフェ。

「そ、そんな! アラス君が実験動物なんて嫌です! 折角、一緒にいられると思ったのに! 私は嫌です! だから、エミル先輩だろうと戦う!」

 俺をじっと見つめながら涙目でそう言うユラ。

「い、いや、まあ? アラスが実験動物になることは俺も嫌だ。だけどよ、俺は無理かなって」

 そう引きつった笑顔をしながら言うエラルド。

「エラルド、君がそんなに薄情だとは思わなかったよ!!」
「冗談だって! 俺もいざとなれば戦う。まぁ、勝てるかどうかは別としてな」

 更に不穏な言葉を口にするエラルド。俺の体はブルっと震える。

「私はそんなことはしていない!! 断じてしていないって!!」

 エミルはいつの間にか俺たちの前にいた。漆黒のドラゴンもエミルの横にいる。

「そりゃーまあ、事実もあったけど......」

 その言葉に、俺の心臓は止まる、ような感覚になる。

「まぁ、話は私の家で話そうよ」

 エミルはテインポータルを指さす。
 戦うことを諦めたように、3人は言われた通りにポータルに入る。

「さあ、アラス君も入って!」

 満面の笑みで言うエミル。
 俺は恐怖を感じながらポータルに入る。

 すると、目の前には2階層の草原地帯が現れる。目の前には湖があり、3階層に行く途中にあった沢山の家も、ここでは見当たらない。

「さあ、早速本題にってところだけど、リーフェちゃんたちは席を外してくれないかな? なにせ恥ずかしい話なものでね」

 エミルはそう言うと顔を真っ赤にしながら、俯いている。
 俺はその表情を見て、可愛いと、そう思ってしまう。そんな自分が憎らしい。

「わかりました。では、私たちは家の外で待っています」

 なんという態度の変化の速さ。さっきまでエミルと争っていたはずのリーフェは素直にそう言っていた。

「俺も分かりました。ただ、いざとなれば侵入しますよ」

 エラルドはそう言うと、「私は絶対に嫌だ! 話せゴリラエラルド!」というユラを抱えながら、俺の横を通る。

「何かあったら音で知らせろ」

 そう言って。

「さて、アラスくん! 入って」

 エミルはそう言うと、俺を家の中にあるイスに案内する。
 中は沢山の牢屋や調教具なんかが沢山あると思っていたが、案外普通だった。
 女の子らしく、家具や食器などは清潔に保たれていた。
 それに、なんの花かは分からないけど、いい匂いもする。

「それで話って?」

 俺は恐る恐る聞く。

「ちょっと待って欲しいな。流石に茶の一杯も出さずに話すわけにはいかないよ」

 そう言うと、火おこしの魔法で温めたお湯で紅茶を作っていた。

「はい、どうぞ。手作りクッキー」

 エミルはそう言うと、クッキーが4枚ほど乗った皿を俺に出す。

 俺が思っていた怖い印象と真逆のエミルに、拍子抜けする。
 エミルはあまりにも女の子らしかった。

「あ、ありがとう」

 俺はそう言って、出されたクッキーを食べる。
 味はなんてことのない普通のクッキー。もちろん、美味しかった。

「美味しい?」
「美味しいよ」

 俺は何のためにここにきているのか分からなくなった。
 何か重要な話があってこの場所まで来ているというのに、今はほんわかとした雰囲気だ。

「それで、話って?」
「ああ、そうだね。私はね、アラスくんが欲しいんだ。欲しいと言っても、君を束縛する気はないよ。ただ、私は君の子が欲しい」

 驚愕の発言に俺の脳内はフリーズした。

「だって、アラスくん。君は強い、強すぎるよ。私のドラゴンと戦っているとき、君は使ったことのない魔法を1発で成功させたし、威力も桁違いだよ。まぁ、副作用はあるけど、それはいずれなくなるものだし。それに、上空での剣の技。あれは何かな? あんなの見たことがないよ」

 微笑みながら嬉しそうにエミルはそう言っていた。

「だから、最強の子を作ろうよ。私とアラスくんで。そうすれば、世界一優秀な私たちの子供が誕生する」

 微笑みながらそう言うエミルに、俺は唖然とした。
 エミルは俺の子供が欲しいと言った。だけど、何故だ。何か裏があるそう思える。

「何か裏がある、と言うわけですか」
「ないよ!」

 エミルは即答。

「ああ、でも。疑われるのは無理もない。私は印象が悪いからね。じゃあ、全てを話そうと思う。私がエネミーや人間を育ててるのは本当で、強い人間の種を貰って異種配合したり、色々しているのも本当だよ。でも、皆が思っているような、鞭で叩いたり、私の言いなりにしたり、監禁して実験したり、そう言うのはしていないよ!! 本当だよ!」

 俺はその瞬間、それでも恐ろしいと思った。
 異種配合や、勝手に男女の子供を作ったりしているのだ。
 だけどエミルはそうは思わないらしい、身の潔白を示すように熱心に言っていた。

「あ! 強い人間の種って言うのは、私を妊娠させたわけじゃないから。私はまだしたことないよ?」

 照れながらそう言うエミル。
 そして、それを可愛いと思ってしまう。なにせ俺はエミルの顔が、エミルの女の子らしさが好きだった。
 エミルは俺の理想としている女子そのものだった。

 だが、俺は言わなければいけない。

「俺はエミルと付き合うことは出来ない」

 しばしの静寂。
 だが、

「分かっているよ! アラスくんを束縛することなんてしない。もちろん、この家に戻ってきて私たちの子供を育ててほしいというのは譲れないけど、どこで何をしようが私は許すよ。浮気しようが、ダンジョンに潜りっぱなしでも、なにしようと。それに、こんなにもかわいい私と結婚できるし、いいことだってたくさん、望むならば、いつでもさせてあげるから!! だから、アラスくん。アラスくんの子種がほしいの!」

 目をキラキラに輝かせて言うエミルに、俺はいままだにないほどに引いてしまった。

「どうかな?」
「どうかなもなにも、俺たちはまだ知り合ったばかりで......」

 苦し紛れの言い訳。
 こんな話を聞いてもなお、好みのタイプと言うのはそう簡単には変わらないようだ。
 俺は大馬鹿だった。その気になっているのだから。

「分かっているよ、アラスくん。でも、私たちに愛情なんて必要はない。私は貴方が欲しいの。最強の子孫を残すために。もちろん、そのためにアラスくん。あなたに魔法を教えたりもする。なんだってする。アラスくんだって理解できるでしょ?」

 微笑みながら残酷なことを平然と言うエミル。
 俺はそれに酷く傷ついた。俺の予想していた言葉とは大幅に違ったのだ。
 やはりガリア、ということらしい。
 考えてほしい。『あなたの子種だけが欲しい』と言われたときのことを。

「アラスくん。私はね、アラスくんのことはまだ好きじゃない。だって出会って1日でしょ。でも、いいなとは思っている。だから、必ずアラスくんのことも好きになるから! だから、ね? お願いしたいな、アラスくん」

 いつの間にか俺の横にいたエミルは、俺を抱きしめていた。
 エミルからはいい匂いが漂ってきて、おかしくなりそうだ。
 そして、さっきまでの落ち込みも簡単に癒される。

 このまま身を任せてもいいとさえ思ってくる。だってエミルはいずれ俺の事を好きになってくれるようだし、こんなにも俺を必要としてくれる人がいることに居心地の良さを感じてしまう。

「そう、だね。それもいいかもしれない」

 エミルは確かに不気味なところが沢山ある。
 俺たちを俺の強さを知るためだけに攻撃したり、意味の分からないことを言ったりもする。
 でもそれは、ガリアの生徒だからなのだ。ここは変人たちの巣窟。その中で、エミルはむしろましな方だとさえ思う。

 だけど少なくともエミルは、俺の事を必要としてくれている。

「本当? じゃあ、早速しようか!」

 エミルは耳元でそう呟くと、俺の上着のボタンをはずそうと手をかけていた。

「ふふ。絶対に約束は守るよ! 私はそう言う人間だから。だから、私達夫婦の手で最強の子供を育てたいな」
「ああ、そうだね。最強の子供を作ろう。でも、皆は? 俺は皆にも会えるの?」
「アラスがそうしたいのなら、いいよ。言ったでしょ? 約束は守るって」

 俺は安心する言葉を聞いて、ますますその気になっていた。
 仲間にもあえて、何でもできて、好みのタイプの人に言い寄られて、しかも好きにもなってくれるのだ。
 これ以上の幸せはないだろう。

 そう考えている間に、エミルの顔が俺の至近距離にあった。
 エミルは目を瞑っている。

「さあ、きて」

 エミルはそう言う。
 俺は徐々にエミルとの距離を近づける。

 その時だ。扉が勢いよく開け放たれる。

「あんた達何してんのよ!!」

 リーフェの声が聞こえてきた。






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