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第二十話 過去を思い出す
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エラルドとユラとガリアのレストランで別れた俺は学院に戻り、ダンジョン直通の場所に急いで乗った。
ガリアとラリアの交流が行われるのは今日じゃないというのに、俺は急いでいた。
今日行われることは絶対にない。それは間違いないけど、体が勝手に動く。
脳が早く言わなければいけない、そう命令している。冷静に考えれば日曜とはいえ、エミルが昼過ぎにいる可能性は少ない。でも、俺は早くいかなきゃいけない気がした。
駅に着き、森に囲まれたゴブリンの里を早足で抜け、それから2階層へ転移する。そして、エミルの家だけに続く道を行く。
辺りは草原とちょっとした川。見慣れたレンガ造りのエミルの家がやっと見えた。
だが、おかしい。エミルは俺をみて外のガーデンテーブルに茶と魔法書を置き、手を振っていた。
「アラスくん! 早かったね。やっぱり私が恋しくてたまらないのかな?」
「冗談を言っている場合じゃない。なんで俺が来ることを?」
するとエミルは自らの人差し指を唇に当て、もう片方の手で器用に紅茶と手作りケーキを俺に差し出していた。
「私には情報提供者が何人かいる。そして今日提供してくれた人は教えられない。前にも言ったけど、言いたくても言えないの。特にその人はこわいからね」
「エミルが言うってことは相当だね」
「そうだよ! あの人は私なんか比べ物にならない位残酷だよ。でも、私ももう無関係じゃないからね、度が過ぎた行動には待ったをかけるよ」
エミルはやれやれと嘆息していた。
「それでアラスくん。今日来たのは学院交流でのことだよね?」
エミルは驚くことにガリアとラリアが交流することまで知っていた。いや、それくらい知っているのかもしれない、恵まれた実力を持ち、教師よりも遥かに強く権力を持っているエミルなら。
「エミルがどこまで知っているか分からないけど、そのことで来たんだ。実は、リーフェはラリアの貴族、ビスマルク・ライズと繋がっている」
俺はさっきまでのことを事細かにエミルに伝える。
「うんうん。アラスくんが言ったことは全て知ってるよ」
やはり俺を待っていただけあって、エミルはさっきのことを全部知っていた。
そしてこのことを知っている人物は、魔法メディア部のオースだ。
だからエミルが言っていた人物とはオースのことだったのだろう。
そんなオースは確かに素晴らしい情報力を持っている。
だが、エミルに「怖い」と言わせるような人物か、と思う。人は見かけによらないらしい。
「そこまで知っていたとはやはりその人は怖い人だね。それと、本題だけどエミルに力を貸してほしいんだ。俺が頼れるのはエミルくらいしかいないし、お願いだ」
俺は頭を下げる。
エミルの反応は何となく想像できた。
1.引き受けるけど、結婚を条件に引き受ける。
2.6階層での借りを返すために、引き受ける。
3.拒否する。
そんな三択が思い浮かんだが、1と2が9割を占め、3はほぼないだろう。
そう思っていけど、エミルは即答した。
「もちろん。というか、助けたいよ、アラスくんのこと!」
「え? いいのか?」
俺のさっきまでの焦りはどこに行ったのか、肩の力が抜けた気がした。
「もちろんだよ。アラスくんを助けることは私にとって一番大事なことだからね。むしろ助けないなんて選択肢はないよ。あなたほど重要な人はいないんだから。あ! でも、今すぐしてくれるなら、そうして欲しいけどね?」
エミルは微笑みながらそう言うと、俺の耳をペロリと舐めた。
体中がぞくぞくする。
「それはやめときます」
「残念だなぁ...... 私は欲しくて欲しくてたまらないのに」
エミルはそう言い、自らの下腹部を撫でる。
俺はそんなエミルを見て、耐性がついたのか苦笑いもすることはなくなったので、話を本題に戻す。
「作戦だけど、エミルにしか頼めそうもない役割なんだ」
「嬉しいなアラスくん! それで、どういう作戦?」
今までは微笑んでいたエミルは真剣な表情になっていた。
「俺たちがガリス達と戦っている間に、ビスマルクを捕まえてほしい。リーフェの任務の成り行きを見るために必ず訪れると思うんだ」
「アラスくん。相当な無茶を言っているってわかってる?」
「ああ、分かっているよ。近くに側近がいるかもしれないし、会場には沢山の人がいる。そんな中で、バレずにビスマルクを捕えるなんて無謀だ。でも、エミルならできると思ったからここに来た。もちろん、無理なら素直に言って欲しいけど」
「嬉しいなアラス君がそう思っているなんて......」
そう言いながらエミルは体をくねくねさせていたが、次第に笑みが不敵になっていた。
「アラスくん、普通の魔術師ができなくても、私にならできるよ。だって、私は強いから。だから、その任務任せて」
「う、うん。お願いするよ......」
本気モードのエミルに俺は苦笑いすることしかできなかった。
エミルを怒らせたくはない、そう思う。
「アラスくん、ライズ家の家宝の魔道具はおそらくそこらの魔道具じゃないよ。そっちも手を貸そうか?」
いつも通りの微笑に戻ると、エミルは首を傾げていた。
「いや、そっちは俺たちだけでやりたいんだ」
そう、ガリス達より強いと証明できるチャンス。だから俺はエミルの手を借りたくはなかった。
自らの腕で、ガリス達よりも上だと証明がしたい。
「あの技もう一度見てみたいな私。私のドラゴンを空中で斬り倒したときの!」
エミルは顔を火照らせると、興奮しているのか目がいつもと違っていた。
「鬼斬波のことかな?」
鬼斬波。それは光の速さで何度も斬波を放つ技。俺にしかできない技。
でもなんで、俺にしかできなくて、俺はそれを使ってはいけないのだろう。
「うっ.....」
突然、嫌な目眩がする。それはくらくらとしていて、徐々に大きくなる。
「どうしたのアラスくん!?」
目の前ではエミルが心配そうに俺に近づき、俺に何か話しかけている。
でもわからない。エミルは何を話しているのだろう。
「アラスくん!?」
「アラス。あと少しでお前は10になる。そこで、お前に話したいことがある」
「父上、どうしたの急に」
目の前には見たこともない剣を携えた親子が、外だというのに地べたに座っていた。
これは夢だろうか? 話しかけても全く反応がない。
「アラス。いいか、よく聞きなさい。私達には鬼の血が流れている。だから、鬼斬波も使えることができる。あの、とてつもない技を」
髪を後ろで束ねた父親と思しき男はそう言うと、子をきりっとした目で見つめた。
「いいか、アラス。鬼斬波や他の剣技を使うのはなるべくやめなさい。使ってしまえば悪鬼になる。それが理由だ」
「何回使えばなるの?」
小さい少年もまた髪を束ねていた。そして、不安そうに手で服を握りながらそう言っている。
「それは父さんも分からない。だが、10回も使えばなると先祖代々受け継がれてはいる。だが、あくまでも目安だぞ、アラス。6回で悪鬼に変化した先祖様もいた。逆にならなかったた先祖様もいた。だからな、なるべく使うのはやめなさい。使うのは、国や仲間が危ないとき。自分が守りたいと思った時に使いなさい」
「わかったよ、父上」
少年はその父の言葉を真剣に聞き頷いていた。まるでこれから死地に向かう時のように真剣に。
「よし! この話は終わりにしよう。今日は母さんの手料理だ。アラスの大好きなラリア料理らしいぞ!」
「父上! 早く行きましょう!」
そういって、二人は闇に消えていく。
その瞬間、俺の瞳からは涙が流れた、そんな気がした。目頭が熱い。
俺は今まで大事にしてきたはずの記憶を俺は忘れていた。
理由は分からないが、知ってしまえば暖かいものが心を満たしていく。
そう、これは俺だ。
でもどうして今まで忘れていたんだろう。大事な、大事な記憶なのに。
「アラスくん!? 大丈夫かな?」
「うっ......」
そうだ。思い出した。少年は俺で、物静かなで髪を後ろで結わえている人は俺の父。
俺は、アラス・鬼神。
母はミレーヌ・鬼神。ラリアの貴族の生まれだ。
父は数四季・鬼神。この場所から遥か東にあるプラウドの将軍。
だが、俺はなぜここにいる。
父は? 母は? 一体どこにいる?
「アラスくん!」
「ああ、すまない。ちょっと頭が痛くなってしまった」
俺はまだくらくらする頭で心配してくれていたエミルを見る。
すると、エミルは何故か驚いた表情で俺を見ていた。
「アラスくん、言葉遣いがちょっと変わった?」
見るからに動揺している。
だが、俺は何一つ変わってはいない。いや、記憶を失っている間とその前。
それらが交わり合っているような変な感覚は自分でもあった。
エミルが言うようにそれは言葉遣いとしても現れているのだろう。
「心配かけてすまない。ちょっと過去を思い出しただけだ。だからだろう」
そう、思い出しただけだ。現在は何も変わらない。
両親の居場所だってすぐには分かりはしないだろう。
俺はくらくらする頭で、既に状況を把握できた。
それはきっとエミルがそばにいてくれたからだろう。
そして、俺は今すぐに謝りに行かなければいけない人物がいる事にも気づけた。
「乙女な私には今のアラスくんはちょっと刺激が......」
「エミル。言っている意味が分からない」
「え、ああ、ごめんね」
エミルはハッとしている。
「それより、エミル。すまないが、例の件任せたよ」
「ああ、うん。交流試合での件は任せて」
「ああ、じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「え? もう帰っちゃうの? せめて詳細な話とか聞きたいな。アラスくんがどう戦うのか、とか!」
エミルは酷く慌てていた。だけど、俺にはその理由は分からなかった。
エミルは俺の知恵を借りずとも、必ず成功できる。そんな一流の人物だ、今回の頼みも易々解決してくれるだろう。
もちろん、エミルに対し感謝の気持ちとか、そういうのはちゃんとしなければならない。
でも、それは今じゃない。今やるべきことは、謝罪とまだ思い出せない俺の記憶の欠片の回収だ。
「俺なら大丈夫。エミルに教わった魔法の知識もあるし、剣だってある。だから大丈夫だ」
「流石はアラスくん! 私が選んだ人だよ、君は。だけどもう少しいてくれてもよかったんじゃないかな......」
エミルの後半の言葉は小声すぎて聞き取れなかったが、気にしない。
そんなエミルは俺に手を振っていたので、俺も手を振り2階層を出る。
2層や1層を空歩というプラウドに伝わる技で邪魔なく駆け抜け、学院の寮に難なく戻れた。
そして中に入る。するとその人物は微笑みながら俺を出迎えてくれた。
「アラスくん! お帰り!」
ユラは微笑んでいた。
ガリアとラリアの交流が行われるのは今日じゃないというのに、俺は急いでいた。
今日行われることは絶対にない。それは間違いないけど、体が勝手に動く。
脳が早く言わなければいけない、そう命令している。冷静に考えれば日曜とはいえ、エミルが昼過ぎにいる可能性は少ない。でも、俺は早くいかなきゃいけない気がした。
駅に着き、森に囲まれたゴブリンの里を早足で抜け、それから2階層へ転移する。そして、エミルの家だけに続く道を行く。
辺りは草原とちょっとした川。見慣れたレンガ造りのエミルの家がやっと見えた。
だが、おかしい。エミルは俺をみて外のガーデンテーブルに茶と魔法書を置き、手を振っていた。
「アラスくん! 早かったね。やっぱり私が恋しくてたまらないのかな?」
「冗談を言っている場合じゃない。なんで俺が来ることを?」
するとエミルは自らの人差し指を唇に当て、もう片方の手で器用に紅茶と手作りケーキを俺に差し出していた。
「私には情報提供者が何人かいる。そして今日提供してくれた人は教えられない。前にも言ったけど、言いたくても言えないの。特にその人はこわいからね」
「エミルが言うってことは相当だね」
「そうだよ! あの人は私なんか比べ物にならない位残酷だよ。でも、私ももう無関係じゃないからね、度が過ぎた行動には待ったをかけるよ」
エミルはやれやれと嘆息していた。
「それでアラスくん。今日来たのは学院交流でのことだよね?」
エミルは驚くことにガリアとラリアが交流することまで知っていた。いや、それくらい知っているのかもしれない、恵まれた実力を持ち、教師よりも遥かに強く権力を持っているエミルなら。
「エミルがどこまで知っているか分からないけど、そのことで来たんだ。実は、リーフェはラリアの貴族、ビスマルク・ライズと繋がっている」
俺はさっきまでのことを事細かにエミルに伝える。
「うんうん。アラスくんが言ったことは全て知ってるよ」
やはり俺を待っていただけあって、エミルはさっきのことを全部知っていた。
そしてこのことを知っている人物は、魔法メディア部のオースだ。
だからエミルが言っていた人物とはオースのことだったのだろう。
そんなオースは確かに素晴らしい情報力を持っている。
だが、エミルに「怖い」と言わせるような人物か、と思う。人は見かけによらないらしい。
「そこまで知っていたとはやはりその人は怖い人だね。それと、本題だけどエミルに力を貸してほしいんだ。俺が頼れるのはエミルくらいしかいないし、お願いだ」
俺は頭を下げる。
エミルの反応は何となく想像できた。
1.引き受けるけど、結婚を条件に引き受ける。
2.6階層での借りを返すために、引き受ける。
3.拒否する。
そんな三択が思い浮かんだが、1と2が9割を占め、3はほぼないだろう。
そう思っていけど、エミルは即答した。
「もちろん。というか、助けたいよ、アラスくんのこと!」
「え? いいのか?」
俺のさっきまでの焦りはどこに行ったのか、肩の力が抜けた気がした。
「もちろんだよ。アラスくんを助けることは私にとって一番大事なことだからね。むしろ助けないなんて選択肢はないよ。あなたほど重要な人はいないんだから。あ! でも、今すぐしてくれるなら、そうして欲しいけどね?」
エミルは微笑みながらそう言うと、俺の耳をペロリと舐めた。
体中がぞくぞくする。
「それはやめときます」
「残念だなぁ...... 私は欲しくて欲しくてたまらないのに」
エミルはそう言い、自らの下腹部を撫でる。
俺はそんなエミルを見て、耐性がついたのか苦笑いもすることはなくなったので、話を本題に戻す。
「作戦だけど、エミルにしか頼めそうもない役割なんだ」
「嬉しいなアラスくん! それで、どういう作戦?」
今までは微笑んでいたエミルは真剣な表情になっていた。
「俺たちがガリス達と戦っている間に、ビスマルクを捕まえてほしい。リーフェの任務の成り行きを見るために必ず訪れると思うんだ」
「アラスくん。相当な無茶を言っているってわかってる?」
「ああ、分かっているよ。近くに側近がいるかもしれないし、会場には沢山の人がいる。そんな中で、バレずにビスマルクを捕えるなんて無謀だ。でも、エミルならできると思ったからここに来た。もちろん、無理なら素直に言って欲しいけど」
「嬉しいなアラス君がそう思っているなんて......」
そう言いながらエミルは体をくねくねさせていたが、次第に笑みが不敵になっていた。
「アラスくん、普通の魔術師ができなくても、私にならできるよ。だって、私は強いから。だから、その任務任せて」
「う、うん。お願いするよ......」
本気モードのエミルに俺は苦笑いすることしかできなかった。
エミルを怒らせたくはない、そう思う。
「アラスくん、ライズ家の家宝の魔道具はおそらくそこらの魔道具じゃないよ。そっちも手を貸そうか?」
いつも通りの微笑に戻ると、エミルは首を傾げていた。
「いや、そっちは俺たちだけでやりたいんだ」
そう、ガリス達より強いと証明できるチャンス。だから俺はエミルの手を借りたくはなかった。
自らの腕で、ガリス達よりも上だと証明がしたい。
「あの技もう一度見てみたいな私。私のドラゴンを空中で斬り倒したときの!」
エミルは顔を火照らせると、興奮しているのか目がいつもと違っていた。
「鬼斬波のことかな?」
鬼斬波。それは光の速さで何度も斬波を放つ技。俺にしかできない技。
でもなんで、俺にしかできなくて、俺はそれを使ってはいけないのだろう。
「うっ.....」
突然、嫌な目眩がする。それはくらくらとしていて、徐々に大きくなる。
「どうしたのアラスくん!?」
目の前ではエミルが心配そうに俺に近づき、俺に何か話しかけている。
でもわからない。エミルは何を話しているのだろう。
「アラスくん!?」
「アラス。あと少しでお前は10になる。そこで、お前に話したいことがある」
「父上、どうしたの急に」
目の前には見たこともない剣を携えた親子が、外だというのに地べたに座っていた。
これは夢だろうか? 話しかけても全く反応がない。
「アラス。いいか、よく聞きなさい。私達には鬼の血が流れている。だから、鬼斬波も使えることができる。あの、とてつもない技を」
髪を後ろで束ねた父親と思しき男はそう言うと、子をきりっとした目で見つめた。
「いいか、アラス。鬼斬波や他の剣技を使うのはなるべくやめなさい。使ってしまえば悪鬼になる。それが理由だ」
「何回使えばなるの?」
小さい少年もまた髪を束ねていた。そして、不安そうに手で服を握りながらそう言っている。
「それは父さんも分からない。だが、10回も使えばなると先祖代々受け継がれてはいる。だが、あくまでも目安だぞ、アラス。6回で悪鬼に変化した先祖様もいた。逆にならなかったた先祖様もいた。だからな、なるべく使うのはやめなさい。使うのは、国や仲間が危ないとき。自分が守りたいと思った時に使いなさい」
「わかったよ、父上」
少年はその父の言葉を真剣に聞き頷いていた。まるでこれから死地に向かう時のように真剣に。
「よし! この話は終わりにしよう。今日は母さんの手料理だ。アラスの大好きなラリア料理らしいぞ!」
「父上! 早く行きましょう!」
そういって、二人は闇に消えていく。
その瞬間、俺の瞳からは涙が流れた、そんな気がした。目頭が熱い。
俺は今まで大事にしてきたはずの記憶を俺は忘れていた。
理由は分からないが、知ってしまえば暖かいものが心を満たしていく。
そう、これは俺だ。
でもどうして今まで忘れていたんだろう。大事な、大事な記憶なのに。
「アラスくん!? 大丈夫かな?」
「うっ......」
そうだ。思い出した。少年は俺で、物静かなで髪を後ろで結わえている人は俺の父。
俺は、アラス・鬼神。
母はミレーヌ・鬼神。ラリアの貴族の生まれだ。
父は数四季・鬼神。この場所から遥か東にあるプラウドの将軍。
だが、俺はなぜここにいる。
父は? 母は? 一体どこにいる?
「アラスくん!」
「ああ、すまない。ちょっと頭が痛くなってしまった」
俺はまだくらくらする頭で心配してくれていたエミルを見る。
すると、エミルは何故か驚いた表情で俺を見ていた。
「アラスくん、言葉遣いがちょっと変わった?」
見るからに動揺している。
だが、俺は何一つ変わってはいない。いや、記憶を失っている間とその前。
それらが交わり合っているような変な感覚は自分でもあった。
エミルが言うようにそれは言葉遣いとしても現れているのだろう。
「心配かけてすまない。ちょっと過去を思い出しただけだ。だからだろう」
そう、思い出しただけだ。現在は何も変わらない。
両親の居場所だってすぐには分かりはしないだろう。
俺はくらくらする頭で、既に状況を把握できた。
それはきっとエミルがそばにいてくれたからだろう。
そして、俺は今すぐに謝りに行かなければいけない人物がいる事にも気づけた。
「乙女な私には今のアラスくんはちょっと刺激が......」
「エミル。言っている意味が分からない」
「え、ああ、ごめんね」
エミルはハッとしている。
「それより、エミル。すまないが、例の件任せたよ」
「ああ、うん。交流試合での件は任せて」
「ああ、じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「え? もう帰っちゃうの? せめて詳細な話とか聞きたいな。アラスくんがどう戦うのか、とか!」
エミルは酷く慌てていた。だけど、俺にはその理由は分からなかった。
エミルは俺の知恵を借りずとも、必ず成功できる。そんな一流の人物だ、今回の頼みも易々解決してくれるだろう。
もちろん、エミルに対し感謝の気持ちとか、そういうのはちゃんとしなければならない。
でも、それは今じゃない。今やるべきことは、謝罪とまだ思い出せない俺の記憶の欠片の回収だ。
「俺なら大丈夫。エミルに教わった魔法の知識もあるし、剣だってある。だから大丈夫だ」
「流石はアラスくん! 私が選んだ人だよ、君は。だけどもう少しいてくれてもよかったんじゃないかな......」
エミルの後半の言葉は小声すぎて聞き取れなかったが、気にしない。
そんなエミルは俺に手を振っていたので、俺も手を振り2階層を出る。
2層や1層を空歩というプラウドに伝わる技で邪魔なく駆け抜け、学院の寮に難なく戻れた。
そして中に入る。するとその人物は微笑みながら俺を出迎えてくれた。
「アラスくん! お帰り!」
ユラは微笑んでいた。
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