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第二十一話 アラスとユラの過去
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「アラスくん! お帰り!」
「ああ、ただいま。それとユラ。ダンジョンは好きか?」
ただいまの場所は玄関よりのホール。ユラの人差し指は胸元で何度も触れ合っていて、何か言いたげに目をキョロキョロ左右に動いている。
俺はその光景を懐かしく感じる。ユラは何か困ったときや、言いづらいときは人差し指を絡め、挙動不審になる。
分かりやすい態度だから流石に変わったと思ってはいたが、変わってはいなかった。
「好きだよ? 特に階層を重ねるごとに背筋がこうるような雰囲気が味わえるから。でも、急にどうしたの?」
ホールは響くというのに、ユラの声は全く響かなかった。
「小さい頃、俺が初めてラリアに来た時、ユラは異国のハーフである俺に対しても優しくしてくれた。そんなある日、ユラは唐突に『ダンジョンは好き?』って言ったよな。それを聞いた小さい頃の俺は、何言っているか分からなかったよ」
ユラはちらりちらりと様子を伺うように俺を見ている。だから俺は続けた。
「それで俺がどう答えようか迷って『危険な場所だ』そう答えたら、ユラはさっきの言葉を返した。当時の俺も苦笑いしかできなかったことを覚えている。でもユラは続けてこういったよな、『それは単に私の趣味だけど、アラスくんに私の過去を知ってほしいと思ったの』。だから俺は頷いた。そしてユラは言った、『ダンジョンの最深部にはね、願いをかなえてくれる秘宝があるの。だから、アラスくん私を守ってほしいな。だって約束したでしょ、ずっと一緒だよって』。すまん、俺は今までずっと忘れていた」
俺は深々と頭を下げた。
母上の実家であるラリアに遊びに行くたびに、ユラだけは俺に暖かく接してくれた。
毎日遊びに誘ってくれて、魔法の稽古もできない俺に魔法を教えてくれ、いつも笑顔だった。
俺はそんなユラが好きだった。ユラだけが俺の癒しだった。
そんな大事な人だというのに、俺は今まで忘れていたのだ。8年近く忘れていた。
そんな俺をユラは許してはくれないのかもしれない。
だけど、精一杯態度で伝えたい、もう一度ユラとの約束を果たしたいと。
「頭を上げてアラスくん。別に小さい頃の話だよ、忘れてても仕方がないよ。それにね、そんな大した話じゃない。私が勝手にアラス君に押し付けただけ」
ユラは小さい子をあやすときのように、しゃがみ込んで俺の肩に両手を置いていた。
俺は「そうじゃない」と言いたくて頭を上げると、ユラのふんわりとした頬に何度も涙が伝っているのが見えた。瞳を見れば涙で潤んでいる。
俺は再び後悔にさいなまれる。なんで忘れていたのかは分からない。でも6年間も忘れていたのだ。
でもユラは違う。ユラはずっと覚えていた。俺がユラの前に姿を現すことがなくても、俺をずっと待ち続けたのだ。
それがどんなに苦しいことなのか、経験せずともわかる。心臓が掴まれえたように痛む感覚。
それに俺がガリアに来てからもユラはそれを黙っていたのだ。それがどんなに苦しいことか。
「ユラ、本当にすまない。忘れていたことは謝る。その間にどれほど苦痛だったことか。だけど、俺はやっぱりユラと共にダンジョン最深部を目指したい。俺は出来るならそうしたいんだ。ユラは俺にとって大事な人だ。そんな人が困っているなら俺も手伝いたい。いや! もう一度手伝わせてくれ!」
俺はもう一度頭を下げる。
するとか細い声が聞こえてくる。
「本当にいいの? それでアラスくんは」
ユラは下を向いていた。
「ああ、もちろんだ。『俺に任せておけ、ダンジョンなんて余裕だ』なんて今の俺には言えないが、手伝わせてほしい。約束したからな」
俺がそう言うとさっきまでのユラの不安な表情はなくなっていた。ユラは涙を浮かべながら微笑んでいる。
「全く! アラス君は優しすぎます! だからエミル先輩も契約しなかったんです! これはリードでもつけなきゃですね! それと! 大事な発言が抜けてるよ、アラスくん!」
「なにがだ?」
ユラのその言葉を聞いてホッとしたのか、肩の力は抜け、まるで脱力状態だ。
そのためかリードとエミルとの契約と言う重要なワードに突っ込むことを忘れていたが、いいだろう。今重要なのは、ユラとのことだ。
「私の過去! 私は小さい頃両親を亡くして孤児になった。きっとそれは私がラリアとガリアのハーフだからって! ガリア出身のお父さんがよく言っていたんだ。「こんなラリアだけど、まだ希望が持てる」って。だから私はお父さんのやれなかったことを引き継ぎたい。小さい頃、そう言ったの!」
「ああそうだったな。ちゃんと覚えているぞ。ただ、夢中で言うのを忘れていただけだ」
俺がそう言うとユラは頬を風船のように膨らませている。
「本当かな?」
「ああ、嘘なんて言っていない」
すると、ユラはすーっと深呼吸をする。
「アラスくんの記憶が戻ってよかったです! 私たちの大事な記憶だから!」
「ああ、そうだな」
本当にそう思う。ユラは大事な人だ。
と同時に、俺はユラに聞かなければいけないことを思い出す。
両親のことと、何故記憶を失ったのか、そして未だに記憶に空白があること。
後者についてはユラの反応を見る限り、知っていることは少なそうだが、聞かなければいけない。
俺は涙を指でこするユラを見てそう思った。
「ああ、ただいま。それとユラ。ダンジョンは好きか?」
ただいまの場所は玄関よりのホール。ユラの人差し指は胸元で何度も触れ合っていて、何か言いたげに目をキョロキョロ左右に動いている。
俺はその光景を懐かしく感じる。ユラは何か困ったときや、言いづらいときは人差し指を絡め、挙動不審になる。
分かりやすい態度だから流石に変わったと思ってはいたが、変わってはいなかった。
「好きだよ? 特に階層を重ねるごとに背筋がこうるような雰囲気が味わえるから。でも、急にどうしたの?」
ホールは響くというのに、ユラの声は全く響かなかった。
「小さい頃、俺が初めてラリアに来た時、ユラは異国のハーフである俺に対しても優しくしてくれた。そんなある日、ユラは唐突に『ダンジョンは好き?』って言ったよな。それを聞いた小さい頃の俺は、何言っているか分からなかったよ」
ユラはちらりちらりと様子を伺うように俺を見ている。だから俺は続けた。
「それで俺がどう答えようか迷って『危険な場所だ』そう答えたら、ユラはさっきの言葉を返した。当時の俺も苦笑いしかできなかったことを覚えている。でもユラは続けてこういったよな、『それは単に私の趣味だけど、アラスくんに私の過去を知ってほしいと思ったの』。だから俺は頷いた。そしてユラは言った、『ダンジョンの最深部にはね、願いをかなえてくれる秘宝があるの。だから、アラスくん私を守ってほしいな。だって約束したでしょ、ずっと一緒だよって』。すまん、俺は今までずっと忘れていた」
俺は深々と頭を下げた。
母上の実家であるラリアに遊びに行くたびに、ユラだけは俺に暖かく接してくれた。
毎日遊びに誘ってくれて、魔法の稽古もできない俺に魔法を教えてくれ、いつも笑顔だった。
俺はそんなユラが好きだった。ユラだけが俺の癒しだった。
そんな大事な人だというのに、俺は今まで忘れていたのだ。8年近く忘れていた。
そんな俺をユラは許してはくれないのかもしれない。
だけど、精一杯態度で伝えたい、もう一度ユラとの約束を果たしたいと。
「頭を上げてアラスくん。別に小さい頃の話だよ、忘れてても仕方がないよ。それにね、そんな大した話じゃない。私が勝手にアラス君に押し付けただけ」
ユラは小さい子をあやすときのように、しゃがみ込んで俺の肩に両手を置いていた。
俺は「そうじゃない」と言いたくて頭を上げると、ユラのふんわりとした頬に何度も涙が伝っているのが見えた。瞳を見れば涙で潤んでいる。
俺は再び後悔にさいなまれる。なんで忘れていたのかは分からない。でも6年間も忘れていたのだ。
でもユラは違う。ユラはずっと覚えていた。俺がユラの前に姿を現すことがなくても、俺をずっと待ち続けたのだ。
それがどんなに苦しいことなのか、経験せずともわかる。心臓が掴まれえたように痛む感覚。
それに俺がガリアに来てからもユラはそれを黙っていたのだ。それがどんなに苦しいことか。
「ユラ、本当にすまない。忘れていたことは謝る。その間にどれほど苦痛だったことか。だけど、俺はやっぱりユラと共にダンジョン最深部を目指したい。俺は出来るならそうしたいんだ。ユラは俺にとって大事な人だ。そんな人が困っているなら俺も手伝いたい。いや! もう一度手伝わせてくれ!」
俺はもう一度頭を下げる。
するとか細い声が聞こえてくる。
「本当にいいの? それでアラスくんは」
ユラは下を向いていた。
「ああ、もちろんだ。『俺に任せておけ、ダンジョンなんて余裕だ』なんて今の俺には言えないが、手伝わせてほしい。約束したからな」
俺がそう言うとさっきまでのユラの不安な表情はなくなっていた。ユラは涙を浮かべながら微笑んでいる。
「全く! アラス君は優しすぎます! だからエミル先輩も契約しなかったんです! これはリードでもつけなきゃですね! それと! 大事な発言が抜けてるよ、アラスくん!」
「なにがだ?」
ユラのその言葉を聞いてホッとしたのか、肩の力は抜け、まるで脱力状態だ。
そのためかリードとエミルとの契約と言う重要なワードに突っ込むことを忘れていたが、いいだろう。今重要なのは、ユラとのことだ。
「私の過去! 私は小さい頃両親を亡くして孤児になった。きっとそれは私がラリアとガリアのハーフだからって! ガリア出身のお父さんがよく言っていたんだ。「こんなラリアだけど、まだ希望が持てる」って。だから私はお父さんのやれなかったことを引き継ぎたい。小さい頃、そう言ったの!」
「ああそうだったな。ちゃんと覚えているぞ。ただ、夢中で言うのを忘れていただけだ」
俺がそう言うとユラは頬を風船のように膨らませている。
「本当かな?」
「ああ、嘘なんて言っていない」
すると、ユラはすーっと深呼吸をする。
「アラスくんの記憶が戻ってよかったです! 私たちの大事な記憶だから!」
「ああ、そうだな」
本当にそう思う。ユラは大事な人だ。
と同時に、俺はユラに聞かなければいけないことを思い出す。
両親のことと、何故記憶を失ったのか、そして未だに記憶に空白があること。
後者についてはユラの反応を見る限り、知っていることは少なそうだが、聞かなければいけない。
俺は涙を指でこするユラを見てそう思った。
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