追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第二十三話 ゼットンとガリア学院という狂乱なところ

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 翌週。
 ラリアにある、闘技場。

 集まったガリアの生徒は、ガリアの紋章の入った旗やハチマキ、様々楽器等を持ちながら、俺たち選抜メンバーを闘技場のガリア側にて囲んでいた。

 闘技場の8割はラリア側だというのに、ガリアの生徒や一般人たちの応援歌が俺の耳に入ってくる。
 彼等の表情は真剣そのもので、きりっとした視線で一生懸命に応援してくれている。

「まさかガリアにこんなにも熱意があったなんて」
「何言ってるの? ガリアも実力主義を掲げているのよ。トップを目指すのは当たり前だわ」

 いつの間にか、俺たちの前に現れていたアーニャ先生はそう答えていた。
 その素早い行動に驚きつつも、平静を装う。

「アーニャ先生。おはようございます」
「おはよう、アラスくん。それに私の生徒たち!」
「おはよう、アーニャっち。まさかアーニャっちがここに来るなんて思わなかったぜ」
「おはようございます、アーニャ先生」
「おはようアーニャっち!」

 リーフェやユラ、エラルドはそう言う。

「当たり前よ! 私は貴方多たちの先生! たしかに、忙しいからあまり顔出せないけど、今日は特別よ」

 アーニャ先生はそう言うと、周囲を指さす。

「ガリアの生徒はみな、あなた達を必死に応援している。自分の実力を悔やみながらもガリアの代表であるあなたたちを応援しているのよ。聞こえるでしょ、この歌が。あなた達は1年生の代表で、ガリアの代表で、ひいては人類の代表なの。それはガリア学院に入ってから運命づけられたものなのよ」
「言っている意味がわからねーよ、アーニャっち! 俺たちは確かにアーニャっちと契約はした。だけど、俺たちはそこまで強いとは思ってねえ」

 エラルドが後頭部をかきながらそう言っていた。
 ユラも同意見なのかボケっと首を傾げている。
 リーフェはつんとしたいつもの表情で俺をちらりと見てると、下を向いていた。
 そして俺もよくわからないので、俺たちを見て微笑んでいるアーニャ先生の言葉の続きを待つことにしている。

「人類の代表なんてのは今は考えないでいいわ! でもね、私が作り上げた最強のパーティーなの。私のかわいい、かわいい教え子よ。だから、必ず手は抜かない・・・・・・こと。特にアラスくん。本気でかからないとダメよ。そして私の元に帰ってきなさい」

 そう言いながらアーニャ先生は俺にウインクをすると、踵を返した。
 だが、少し歩んだところで、アーニャ先生は俺とリーフェとユラに振り向き、

「ああ、そうそう。ちゃんと約束は守ったでしょ?」

 そう言って再びウインクをしている。

「アーニャ先生。いったいあなたはどこまで、なにをしているのですか!?」

 そう、アーニャ先生は俺やユラやリーフェを見てそう言っていた。
 そしてこの状況で考えられることはアーニャ先生と俺たちとの契約だ。
 ユラとリーフェがアーニャ先生とどんな契約を結んだのか分からないが、ユラは嬉しそうに頷いていて、リーフェは首を傾げていた。

 そして、もう一つある。アーニャ先生が言った「手は抜かないこと」と言う言葉だ。
 その時のアーニャ先生は俺を何か知っているような表情で見ていた。
 きっとアーニャ先生は俺の記憶のことを知っているに違いなかった。

「アラスくん。それはまだ早いわ。まだ早いの。まだ秘密よ。でも、交流が終わったとき、おそらく教えることになると思うわ」

 アーニャ先生は微笑しながらそう言うと、再び生徒の間を縫うように消えていった。

「今日のアーニャっち意味が分からねーぜ」
「そうね。私との契約を果たす? 果たされてなんかないわ」

 リーフェは下唇を噛みながら、自分を両手で強く抱きしめていた。

「リーフェちゃん......」
「リーフェ。俺たちに何か話したいことがあればいつでも話してくれ」
「心配してくれているの? ありがとう。でも、その必要はないわ。それと、ごめんなさい」

 リーフェは俯いきながらそう言うと、どこかに足早に去っていた。

「リーフェちゃんの今のごめんなさいって......」
「ああ、間違いなく家宝の魔道具のことだろう」

 俺がそう言うととエラルドは真剣な表情で俺をみて、

「前に話していた。作戦ってなんなんだ?」

 ついにきたその質問に、否定されること覚悟で、俺は深く深呼吸をすると話した。

「エミル先輩だ。俺たちが戦っている間にエミル先輩はビスマルクを見つけ拘束してもらう」

「なっ!! お前正気か!? あの魔女との出来事を忘れたのか?」

 予想通りにエラルドは慌てた様子でそう言っていた。
 だが、ユラはというと、微笑しながら頷いていた。

「そうだと思ってました! エミル先輩はね! 今回はアラスくんのためだから仕方ないですけど」

 意味わからないことを言いだすと、微笑していたが、何故か俺はその笑みが怖かった。

「アラスのため? 仕方がない? いやいや、アラスのためじゃねーだろ! お前、どんな契約をしたんだ?」
「契約は何もしてない。だから大丈夫だ」
「そうか、なんかお前たくましくなったな」

 エラルドがそういった時、応援歌も丁度終わりを迎えていた。
 するとガリア院長である、男が俺たちの方に歩いてきた。

「実力主義のガリア。その中でも選ばれた優秀な生徒。それが君たちだ。360度見渡してみよ! 君たちが蹴落とした生徒たちがこれだけ大勢いる! そんな中の代表なのだ。ラリアの血統主義などに負けるわけがないのだ!」

 男はそう言うと、俺たちを一人一人の顔を見ている。

「うむ。いい顔だな。いいか、もう一度言う。君たちはこの大衆の中で一番選強い。競い、時には嘘をつきながらも蹴落とし、何でもありのガリアで一番の精鋭だ。ガリアで選ばれた戦士だ。今までのダンジョン生活を思い出せ。血統のみのラリアは2流だ! 我々こそが勝者だ!」

「そうです院長! 我々こそが一番です! 血はいずれ薄くなる。だけど、我々は常に競うことで強くなれる」
「ラリアを捻りつぶせ!」
「ラリアの血統主義を実力主義で薄めてやろう!」

 院長がそう言うと決闘上はラリアが8割を占めるというのに、そんな声でラリア側の演奏や声は聞こえなくなっていた。
 俺はその光景にぞっとした。
 たしかに血統主義は間違っているけど、ここまで偏った実力主義もやはり考え物だ。

「アラスくん。どうだい?この光景は? ああ、気持ちのいいものでしょう?」

 いつの間にか俺の近くに移動していた2年生代表のエミルは恍惚していた。

「エミル。俺はそうは思わない」
「それは残念だなー。でも、それが真実だよアラスくん。私達は選ばれた人々。だから、この件が終わったらどうかな? 私はアラスくんが好ましくて好ましくて」

 エミルは恍惚とした表情で俺の腕に絡んできた。

「エミル先輩! 時と場合を考えてください!」
「ユラちゃん? ユラちゃんも一緒にどう? ユラちゃんも強いのだから。でも、。もちろん、私が一番だよ?」
「そ、それは......」

 ユラがそういった時だ。俺たちとは真逆にいるはずの3年生のうちの一人がこっちにきていた。

「エミル! 時と場合を考えろ! 後で交配でもなんでもすればいいだろう」

 背筋がピンとしていていかにもラリアにいそうなその男はそう言うと、今度は俺を見た。
 俺はその的外れな指摘に嘆息しながらもその男を見た。

「初めまして、アラスくんたち。私は3年生代表のゼットンだ」
「「「はじめまして」」」
「ああ、初めまして。僕たち3年生の試合はもうすぐ始まる。そして事前情報によると、ラリアの薄汚い連中は罠を仕掛けているようだ。だから、僕らの試合を見逃すなよ。なにせ1組でもない君らは代表とは言い難いからな」
「は、はぁ」
「まぁ、そう言うことだから。僕らは控室に向かうとするよ」

 ゼットンは踵を返すと3年生のパーティーメンバーと共に控室に向かっていた。
 俺はぽかんとすることしかできない。

「私の方がゼットン先輩よりも強いのに、アラスくんにあんなことを言うなんて!」

「やれやれだよ。エミル先輩もゼットン先輩もどうかしてるぜ」

 そう言って俺の方を見ながら嘆息するエラルド。

「ところでよ、ユラとエミル先輩は無視するとして、ビスマルク・ライズは本当にきているのか?」

 正直に言えばこの闘技場に着くまで、ビスマルク・ライズがここにきているかどうか確信は持てなかった。
 ビスマルクと言う男がリーフェが苦しんでいるところを見るのが楽しみな屑だからと言う理由で、俺は来ると思ってはいたが。

 だけど、今となってはビスマルク・ライズがここにいるとはっきり言える。
 それはガリア側の応援席の丁度真反対にいくつもの風になびく旗と、沢山の従者と女たちに囲まれている男を見れば明らかだ。

 黄金のように輝く髪と、真っ赤な羽織物を着ている人物の眼光は常人のそれじゃない。
 そう、中央に位置するのはこの国一番の権力者、アーラン・ラリア。
 そしてアーランがここにいるということは、側近貴族のビスマルク・ライズは必ずここにいるはず。
 ライズ家は王の護衛として代々遣えて来た由緒正しい家柄だ。いるに決まっている。

 ただ、問題が一つある。あれだけ大勢の従者に囲まれている中、エミルがビスマルクを拉致監禁するのは無理と言うものだ。

「ああ、丁度真反対にこの国の王アーランがいる。そして側近であるビスマルクは必ずいるはずだ。だけど......」
「だけど?」
「中央に位置するアーランの周りの従者の数を見てくれ。エミルがビスマルクを捕えることは難しい」
「アラスくん。大丈夫だよ。任せてほしいな」
「本当に大丈夫か?」
「もちろんだよ! 全ては終わればわかるよ、アラスくん」

 そう言ってエミルは体をくねくねさせると、矢継ぎ早に、

「アラスくんはゼットン先輩たちが勝てると思う?」

 急に真面目な表情になったエミル。

「そう思いたい」
「アラスくん。ゼットン先輩たちは負ける。それは実力不足によってだよ。ゼットン先輩たちは最弱の世代。甘々で学年全体が運命共同体となり、助け合った結果の世代。学年一のリーダーがああも甘々だと、こういう谷間ができちゃうの」

 エミルは闘技場中央に入場しているゼットン先輩を氷のように冷たい視線を向けていた。

「なぜエミルはそこまでして、助け合いを否定するんだ? それにエミルは俺を助けたじゃないか?」

 するとエミルは笑った。

「アラスくん。あなたを助けたのはいいの。だってあなたが強いから。でも、ゼットン先輩たちはどう? ゼットン先輩たちはいわば食物連鎖の三角形の底辺も助けているんだよ? それじゃあ、弱くなってしまうわけ。事実、あの世代はダンジョン内でも死者は少なかったの。でも、それは逆に強さを犠牲にしてるんだよ、アラスくん」

 そのエミルの視線はやはり氷のように冷たく、いつもの銀髪でふわふわした髪も柔らかな頬すらも冷たく感じた。
 だから俺は否定したかった。そんなことはないと。
 そう言いかけた時だ。

 ゼットン先輩たちの戦いは始まった。
 互いに対面し合った状況のまま両者は動かない。
 そんなにらみ合いが続く中、ゼットン先輩たちのパーティーの一人が強力な魔法を詠唱している。
 それを阻止すべく、4人同時にその男を攻撃しようとしていた。

 だが、それはゼットン先輩と残りの二人によって食い止められている。そう思った。
 そう思ったけど、明らかに押し負けていた。

 そして、詠唱を途中で辞めようと思ったその男の前に二人のラリアの生徒が魔法を放っている。
 それをゼットン先輩は寸前のところで阻止していた。

「アラスくん。分かったかな。ゼットン先輩は推薦パーティーを放棄して、親しい友人とパーティーを組んでいたの。ああ見えて、ゼットン先輩は変人じゃない・・・・・の」

 その言葉は正しかった。ゼットン先輩は何度も何度も傷つきながら敵の魔法や魔道具を食い止めていたが、残りの3人は明らかに実力不足で何もできずにいた。

 やがてゼットン先輩は魔法を防ぐこともできずに、何度も喰らうとその場に立ち尽くしていた。

 そして試合終了の合図が鳴る。ゼットン先輩を囲んでいる大勢の観客席からは鳴りやらぬ拍手の音が聞こえていた。

「アラスくん。私の言いたいことは違うの。そう言うことを言いたかったんじゃないかな?私の言いたいことは、アラスくんもそうならないようにしてね」

 再び柔らかな雰囲気に戻ったエミルは俺の袖を掴んでそう言った。
 俺は思わず身震いしてしまった。

「アラスくんと別れるのは名残惜しいけど、私の番だから。行くね? ちゃんと私を見ててほしいな?」

 頬を赤くさせたエミルはそう言うと、落胆しているガリア生の中を縫うように出て行った。
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