追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第三十話 アラスは決める、覚悟を。エミルは流す、悲しい涙を。

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「馬鹿な奴らだったな。身の程をわきまえていない雑魚だった」

 ラリア王専用の席に座っていたエリスは嘆息していた。
 そんなエリスの周りにはエリスのことを殺そうとしていたラリア貴族やガリア人の死体が散らばっていた。
 そんな血だまりの中、エリスは王専用の席に座って俺たちのことをずっと見ていたのだ。

 やはり狂っている。いや、狂いすぎている。そう思う。

「人間じゃないお前よりはましだ」
「そう言うな。私だって、心がいた――」
「戯言はいい!!」

 俺は声を荒げていた。
 そんな俺にエリスは一瞬驚いていたが、すぐにいつものように不気味な笑みを浮かべていた。

「そうか。ならばどうしたい。私を殺すか?」
「そうよ。あなたを殺して、アラスを契約から解放する。全ての痛みを解放する」

 そう答えていたのはリーフェだった。リーフェは俺より一歩前に踏み出すと、エリスの胸ぐらを掴んでいた。

「そうだ。アラスの代わりに、俺も戦う」
「うん。私も。両親のためにも、あなただけは許せない」

 エラルドとユラも俺より前に出ると、俺を守るように横一列になる。

「やれやれ、困った教え子たちだ。私はお前たちをこんなにも馬鹿に育てた覚えはないんだがな」

 エリスはそう言うと、深いため息をつき、リーフェが掴んでいた手を引きはがした。

「いいか。君たちは生き残る側だ。私と無意味に争って、命を捨てることはない」

 エリスはそう言うと、弧を描くように闘技場を指さした。
 そこでは大勢の死体が転がっている。そして戦いはまだ終わっていない。両者は血みどろの戦いを繰り広げている。

「見ろ、王を失ったラリアと、錯乱したガリア人。あいつらは生きるに値しない。いや、生き残れないのだ。そう言う運命なんだ。だから、お前らも人の心は捨てろ。人間による人間同士の淘汰を許せる人間になれ。さあ、ガリアに帰るぞ。やることはまだある」

 そう言うと、エリスは手を俺たちに差し伸べていた。

「ふざけるなっ!! あの人たちはどうなる? 指導者がいないまま、延々と戦っているあの人たちは」
「いずれ選ばれた者だけになるだろう。そうすれば、ガリアに迎え入れる予定だ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺はもう怒りを抑えられなかった。

「ふざけるなぁぁっ!!」

 俺は指を鳴らすと、燃尽火玉を放つ。
 今までに見たこともないほどの大きさを誇っていたその火の塊はエリスめがけて一直線に飛んでいく。

 だが、

「おいおい勘弁してくれないか、アラス。魔法で私に勝とうなんて1年早い」

 エリスは俺の攻撃を素手で防いでいた。いや、正確には手の周りにできた風によって防いでいた。

「ならば! 切り刻むのみ!」

 俺は鬼斬波おにざんぱを放とうとする。

 だが、体が全く動かない。

「すまんな、アラス。あれの力を使うことはもうできない。それが契約の魔法だ」

 エリスはそう言った。
 だけどおかしい。契約によって鬼の力が制限されているならば、使徒を倒すときも、デーモンを倒すときも使えていないとおかしい。
 だけど、俺は使えている。

 つまりはエリスは鬼の力で強化された俺の動きを察知して、契約の魔法を使ったのだ。

「おまえ、人間か? なぜ、俺の動きについてこれる」

 そう言うとエリスは笑い出した。

「私は人間だよ。私の体を観察でもするか?」

 そう言うエリスを俺は睨んだ。

「冗談だ。そう睨むな。私があれじゃないのに、ついていける理由は単純さ」

 そう言うと、深呼吸をし間を置いた。

「努力したからだ! 努力して、誰よりも深くダンジョンに潜った! 知っているか、この世で一番深く潜った人物を? 私だ! だからついていける! 使徒のことも、あれのことも知り尽くしている私だから!」

 声を荒げたてそう言ったエリスのその気迫に俺は、何も言えなかった。

「わかったな。さあ、帰るぞ!」
「そう言うわけにいくか!! 私たちはいかない! そうでしょ、アラス!?」

 リーフェは素早く、指を鳴らすと手を風に乗るように振っていた。

氷風フリージング!!」

 そう言うと、無数の手のひらほどの氷が風に乗って踊るかのように、エリスを囲んでいた。

「ほう。想像以上だ、リーフェ! 氷風フリージングを覚えただけではなく、私だけを囲むその技術力! 流石私の教え子だ」
「よそ見してるんじゃないです! 隙あり! 燃尽火玉フレイム!」

 いつの間にか、エリスの左後方に一度っていたユラはそう言うと、燃尽火玉フレイムを精度よく、エリスの後頭部に向かって放っていた。

「すまない、リーフェ、ユラ! 全氷結!!」

 俺は左手を地面に付ける。

「だが、まだまだだ! 鍛えなおしてやる!」

 俺はそのエリスの声に、思わず顔を上げていた。
 すると、

 風を纏っているだけだというのに、氷風フリージングは風によって粉々に砕かれ、燃尽火玉フレイムはもう存在すらしていない。

「そんな馬鹿な! 無詠唱でどうやって!?」

 リーフェの声が聞こえてくると同時に、俺が放った全氷結フリーズがエリスに迫る。

 過去の記憶から副作用が無くなっていた俺は、立ち上がりガッツポーズをした。

 氷の波がエリスに到達するまで、1メートルもない。

 だが、

「アラス。そんな技で倒せるとでも?」

 エリスはそう言い、地面を軽く踏みつける。
 すると、地面がエリスを中心に波打ち始め、氷の波と相殺していた。

「おい、アラス。分かったぞ! エリスが魔法を使う時には手足を使うはずだ。つまりは4方向から攻撃すればいい」

 エラルドの声が聞こえてくる。

「なるほど! じゃあ、エラルドは右手を頼む、ユラは左手を。リーフェは右足、俺は左足を!」

 そう言うと、皆は頷き、詠唱をし始めた。

 だから俺も詠唱を始めようとした。

 だが、俺の前にはすさまじい風の斬撃がこちらに向かっていた。
 その斬撃は凄まじい威力と速さで、鬼の力で何とか見えているようだ。
 そんなこの攻撃が当たれば、負傷は免れなかった。

 だから、俺は当たらないように横に転がるように飛んだ。

「アラス。契約の魔法だ」

 エリスの声が聞こえてきたと思うと、俺は斬撃によって吹き飛ばされていた。

 俺は再び立ち上がろうと、両手で立ち上がろうとする。
 だが、右手が痛む。
 右手を見ると、右手首からしたは取れていた。

「痛いだろう。だから、もう止めにしよう。今の君たちでは私に勝つことはできない」

 そんなエリスの声と同時に、俺の手首からしたは再び繋がっていた。

 一体全体どうなっている。そう思いながらも、俺は皆のことを見る。
 すると、皆も不思議そうな顔で各々を見ていた。
 だが、やがてそれがどうでもいいことだと、俺たちは頷き合う。
 ここで負けるわけにはいかない、と。

「もう一度だ!」

 俺はそう言うと、手を横に振る、エリスがそうしていたように。
 すると、エリスのものとは比較にならないほどの斬撃が現れていた。それは直径30メートルほどのものだった。

「全く、アラス。君には本当に驚かされる。流石だ。だが、もう手加減などしない!!」

 エリスはそう言うと、俺を恍惚とした表情で見た。

「雷激波!」

 初めてエリスは詠唱していた。エリスは指をパチンと鳴らした瞬間、電撃のビームが風の斬撃とぶつかり合った。

 ほぼ互角なその二つの技は、ぶつかり合ったその場所から動こうとはしない。
 いや、若干エリスの放った魔法の方が威力は上だった。風の斬撃はじわりじわりと押されていた。

 だけどこれでいい。俺がひきつけている間に、エラルドとユラとリーフェの放った技はエリスを倒そうと向かっているのだから。

「エリス! もう終わりです!」

 その言葉と共に、人間の顔ほどの氷の塊がエリスの頭蓋骨をかちわろうとしていた。
 さらには、

「いや、俺の攻撃で終わりだぞ、エリス!」

 エラルドの放った燃尽火玉フレイムはエリスの胸部を直撃しようとしている。

「いえ、私がとどめを刺す!」

 リーフェの放った、回転火車メリーゴーランドは火の馬が何頭も姿を現し、高速で回転しながらエリスを消し炭にしようと迫っていた。

「だから、甘いと言っているだろう!!」

 エリスはそう叫ぶと、鬼のように素早く動き、燃尽火玉フレイムと氷の塊を避け、追尾式の回転火車メリーゴーランドを右手を犠牲にして避けていた。

「アラス。面倒だから、こうさせてもらうぞ」

 避けたエリスは、左腕を振ると、3つの岩が無防備なエラルド達の腹部を直撃していた。

 だが、俺はそんな苦しんでいるエラルド達を見ていることしかできなかった。
 俺自身も副作用で右足が出血していて、素早く動こうにも動けない。

「さて、エラルド、ユラ、リーフェ。私を困らせないでくれ」

 エリスはそう言うと、3人を魔法の縄で縛りあげていた。

「さて、アラス。ここまで頑固だとは思わなかったぞ。だから私も心を鬼にすることにした。もし、反抗したらこの3人は傷つくことになる」

 不思議な魔法で右手を治したエリスはそう言うと、リーフェの胸部にかすり傷をつけた。

「だから大人しくしろ。まぁ、アラス。帰ったとして、また暴れられたら困る。だから、この3人はランダムで一人だけ、部屋に閉じ込めておくがな」
「アラス! こいつの話は聞いちゃダメよ!」
「そうです! 覚悟を。アラスくんなら大丈夫」
「そうだ! 俺たちのことは気にするな。あいつの首を刎ねろ!」

 そんな3人の言葉に俺は頷いた。
 俺は覚悟をしてここまで来た。それはこの3人も同じなはずだ。だから、俺は進まなければならない。

 エラルド、ユラ、リーフェ。すまない。
 俺は心の中でそう言った。

「アラス。止めてくれ。私だって傷つけたくないのだ」

 そう言うエリスを俺は無視して、指を鳴らす。

回転火車メリーゴーランド

 リーフェのよりも3倍に膨れ上がったその火の馬たちは、エリスを追尾対象としている。

「アラス。もう止めろ。無駄だ」

 地面を片足で振んだと思うと、巨大な土の壁が出来上がっていた。
 回転火車メリーゴーランドはそれにぶつかり、消え去っている。

 その間にユラの悲鳴が聞こえ来る。

 だが、俺はエリスに向かって歩むことを止めない。
 俺たちが負ければ、それは人の敗北を意味するから。

「アラス! お前の仲間だぞ! 死なせていいのか! 頭を冷やしてほうがいい!」

 エリスがそう言うと、俺は後ろに跳ね返される。

 だが、俺は歩みを止めるわけにはいかない。

 俺は右足を引きずりながら、進む。

「ならば止むを得まい」

 エリスのその言葉に、エラルドは指を。リーフェは太ももを。ユラは二の腕を深く斬られていた。

 そんな3人の顔は痛みで苦しんでいた。
 リーフェはそれでも痛みに耐えた表情をしていて、ユラは泣いている、エラルドは俺を力強く見て頷いている。

 本当にこれでいいのか? 俺は仲間を死なせてまで、救うべきものがあるのか。
 そんな思いが俺の脳内を支配して、俺は足を止めた。

「おい、アラス!! 止まるんじゃねえぞ! お前が死んだら誰が止めるんだ!」
「そうだよ、アラスくん。アラスくんなら私たちの屍を超えて、必ずエリスを倒せる。だから!!」

 ユラとエラルドは大声で叫んでいた。

「二人の言う通りだわ。冷静に考えて、天秤にかけてほしいの。あなたはその覚悟をしたのでしょ。だったら、やりなさい!!!」

 リーフェは顔をくしゃくしゃにしながら叫んでいた。

 そうだ。俺は誓ったんだ。
 血統主義と実力主義の歪んだこの世界を壊すと。誰も虐げられない平和な世界を作ると。

「みんな、すまない......」

 俺は歩もうと左足を上げた。その先に、なにが待っているとも分からないのに。

「アラス。どうやったら、お前を止められる? 一人殺してしまえばいいか?」

 エリスはそう言うと、リーフェの胸部に剣を突きつけていた。

「リーフェ。すまないな。これも、全ては進化のためだ。許せ」

 エリスはそう言うと、大きく剣を振りかぶっている。リーフェの胸を突き刺すために。

 だけど、俺は進まなければならない。俺は氷風フリージングを詠唱する。

 そうして、エリスの右てから繰り出される剣はリーフェの胸部を貫こうと速度を速めた。

 だが、

「もういいでしょう。姉さん。こんなのおかしい。道徳を捨ててまで、する必要なんてないよ!」

 エミルはエリスの魔法の剣を、弾き飛ばしていた。

「エミル。馬鹿な真似はやめなさい」

 エリスは魔法の剣を構えている、エミルを睨みつけていた。

「やめるわけないじゃない。姉さん。あなたは狂っているなんて言葉じゃ説明できないほどなの。だから、お願い。今からでも、戻れる。止めようよ」

 エミルはそう言うと、俺たちを見る。

「姉さんだって、本当に狂っているわけじゃない。アラスくんの事たちを本当の生徒だと思っていたのでしょう?」

 エミルのその言葉にエリスは、首をゆっくりと横に振った。

「エミル。いいから、その剣を捨てろ」

 エリスのその言葉にエミルは悲し気に首を横に振った。

「姉さん。姉さんの覚悟は分かったわ。でも、私はそれについていけない。ごめんね、姉さん」

 エミルはそう言うと矢継ぎ早に、

「契約解除!」

 そう言っていた。

「エミルゥ!」

 エリスはそう言うと、エミルに対して魔法を放っていた。そして、エミルはそれを受け止めている。

「アラスくん! 今なら、今のあなたならできる。だから、姉さんを、姉さんを楽にしてあげて」

 そんなエミルの瞳は涙で溢れていた。
 だが、俺は止まれない。俺はエミルに頷くと、エリスの前に跳躍する。

「本気の戦いだな、アラス!」

 俺は鬼斬波おにざんぱをエリスに放つ。無数の斬撃が、エリスに向かっている。
 だが、エリスはそれを魔法の剣で受け流していた。

「剣も使えたのですか」
「まあな。色々な国を旅したから、な!!」

 エリスはそう言うと、腕を振り下ろしている。
 頭上からは炎の槍が無数に降り注ごうと待機していた。

 だから俺はそれらを防ぐために、詠唱する。

風壁ウインドウォール!」

 指を鳴らし、そう詠唱しようとした。

「させるわけがないだろう!?」

 そう言うとエリスは、魔法の剣を振りかざしていた。

「甘いですよ、アーニャ先生」

 俺はエリスの振りかざした魔法の剣を、一刀両断すると、素早く魔法の範囲外へと逃れる。

「流石に強いな。私の魔法も初めから避けれたということか」

 エリスは息を切らしながらそう言っていた。

「ええ。だからもう終わりにしましょう。アーニャ先生」
「ふっ! まさか、その名前で呼ばれるとは思わなかったよ」

 エリスは笑っていた。

「アーニャ先生も、きっと何かを背負っていたと思ったから」
「私をそんな風に過大評価するな! ただ、最強に出会いたかった。それだけだ!」

 そう言うとエリスは四方八方から天にも昇るほどの炎の竜巻を展開していた。

 だが、俺はそれを風圧で切り裂く、鬼風おにかぜ

 そうして一気にエリスに近寄る。

「さようなら、アーニャ先生」

 エリスのしたことは許されるようなことじゃない。でも、俺には優しくしてくれた一人であった。
 だから、最後くらいはそう呼びたかった。

 俺はアーニャ先生の前に立つと、再び出現させていた魔法の剣を斬り、アーニャ先生の胸部を突き刺した。

「さようなら、か...... そうだな、さようならだ。アラス。お前は最強になれ。そして全てを守るんだ。アーニャ先生との約束だぞ。それと、エミル。すまなかった。もっとお前の意見を聞いておけばよかったと思っているよ」
「姉さん!」

 エミルはエリスに駆け寄ると、涙を流していた。

「本当に馬鹿だよ、姉さん......」

 俺はそんなエミルに何も言えなかった。殺したのは俺だからだ。

 俺の心には重いがのしかかった気がした。

「アラスくん」

 そんなエミルは、潤んだ瞳で俺を見ていた。

「アラスくんが、悩むことなんてないかな。全ては姉さんがやったこと...... でも、アラスくん。君はもう戻れない。でしょう?」

 俺はエミルの言葉に頷く。

「じゃあ、君が思う優しい世界を一緒に作り上げよう」

 エミルはそう言うと、3本のポーションを差し出していた。
 俺はその意図に気づき、ポーションを受け取ると、エラルド達のところに行くと縄を解きポーションを飲ませる。

「俺たちは、やったんだ」
「ああ、そうだな」
「でも、突き進まなければいけない」
「ええ、そうね」
「一緒に背負ってくれるか?」
「もちろんだよ、アラスくん」

 エラルド、ユラ、リーフェは俺に微笑んだ。

この日、俺たちは、変えようと思っても変えられない、石のように思い何かを背負った。
でも、その重さは決して間違ってなどいない、そう思った。
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