10 / 18
修道院と【水の国ヴリドラ】
しおりを挟む
「ではこちらで、責任を持ってお預かりします…」
「頼んだぞ。大切にしてやってくれ」
「神のご加護のあらんことを…」
あのイカレた『卒業試験』から一週間ほど。
俺は地方の修道院にきていた。
目的はしかばねとなったティナの保護先を確保するためだ。
さびれた味気のない修道院だが、以前の学園のような怪しい感じはしない。
それに女一人を保護する余裕はあるようだ。
「神のご加護のあらんことを…」
「わかったわかった。ティナを頼んだからな」
俺はもともとティナに義理があったわけではない。
何なら昨日今日知り合っただけの仲だ。
だが、ティナの明るさに触れたのも事実だった。
俺のひとりよがりかもしれないが、ティナをあの忌まわしい場所に放置しておくなどどうしても出来なかったんだ。
「こんな結末って…悲しすぎるだろうよ」
「神のご加護のあらんことを…」
「わかったって!」
「神の…」
「?もしや」
なるほどこのシスター。
抜け目だけはないようだな。
世の中タダでは通らない、つまり『寄付』だ。
「神のご加護」を連呼してくるあたり、ティナを保護する見返りを求めているのだろう。
ドサッ!
「…これでいいか?」
「ヒエッ!」
さっきの落ち着いた態度はどこにいった。
シスターは俺の出した金貨袋に、目を丸くして後ろにのけぞった。
「こここここんなに…」
「その代わりティナを頼んだぞ」
「はい!命にかえても」
どうせ使わん金だ。
というのも俺はこの1年間、ある『秘宝』目的で学園にほとんど行かずダンジョン攻略をしていた。
この金は俺が学園にいた1年間、ダンジョンで手に入れた副産物。
金は必要だが『秘宝』が手に入った今、そこまで執着するものでもない。
「ちなみにだが」
「はい?」
「水の国ヴリドラの財政は、良くないのか?ティナも奴隷だったし恐らく他のヤツも。現在、奴隷が非常に多いのでは」
「わかりかねますが、君主のグイン様は独立後、軍事に力をいれておいでです」
「軍事、ねー」
今俺がいる『水の国ヴリドラ』は弱小にして新興国だ。
将軍グインによって近年ムーン帝国から独立した。
強大な帝国から独立した反骨心は買うが、元々軍人だったグインが君主になってもやることは変わらない。
おおかた内政の予算を軍事に回しているのだろう。
もっともその軍事とやらも、死霊術の研究に予算を回しているようじゃ先は見えてるが。
ガチャ!
「じゃあな。ティナ」
「…」
「またくるからな」
「…」
俺は部屋に保護されたティナに挨拶だけして、そして修道院をリリスとともに後にした。
次の目的地は決まっている。
水の国ヴリドラの首都『アクアプラス』。
そこに俺の求める次の秘宝がある。
秘宝については後々話すが、俺の生きる目的といってもいいだろう。
…
しばらく歩いて、ふと気になることがあったのでリリスに聞いた。
といっても、俺が足を棒にして歩いている一方で、リリスは宙に浮遊して移動しているわけだが。
「おいリリス」
「なんだあるじ」
「ティナは既に生きるしかばねと言ったよな?」
「ああ。生きるしかばねだ。これから1000年間、しかばねのように生き、そしてしかばねのように寿命を迎えるだけの存在」
「…」
「不死、だから死ねない。精神がないから、動けない。だから生きるしかばね」
「…しかばねが喋ることは?」
「ありえない」
「いやでもさ…」
俺はティナが一言だけ喋ったのを言った。
「…だとしたら興味深いな。精神が死んでいない可能性がある」
「本当かっ」
「わらわの深淵の治癒≪ダークヒール≫が偉大すぎたのかも…」
「単純に死霊術が未完成だった可能性もあるが?」
リリスの見解を聞き、少し心が軽くなった。
しかばねと化したティナが生きている可能性があるだけ充分だ。
どちらにせよリリスの話では生きていた場合、あとは本人の精神力の問題らしい。
それが何年後、何百年後になるかはわからない。
非常に気の長い話だ。
でも、もしその時俺が生きていたら。
今度はティナのために本当にできることを探そうと思う。
「頼んだぞ。大切にしてやってくれ」
「神のご加護のあらんことを…」
あのイカレた『卒業試験』から一週間ほど。
俺は地方の修道院にきていた。
目的はしかばねとなったティナの保護先を確保するためだ。
さびれた味気のない修道院だが、以前の学園のような怪しい感じはしない。
それに女一人を保護する余裕はあるようだ。
「神のご加護のあらんことを…」
「わかったわかった。ティナを頼んだからな」
俺はもともとティナに義理があったわけではない。
何なら昨日今日知り合っただけの仲だ。
だが、ティナの明るさに触れたのも事実だった。
俺のひとりよがりかもしれないが、ティナをあの忌まわしい場所に放置しておくなどどうしても出来なかったんだ。
「こんな結末って…悲しすぎるだろうよ」
「神のご加護のあらんことを…」
「わかったって!」
「神の…」
「?もしや」
なるほどこのシスター。
抜け目だけはないようだな。
世の中タダでは通らない、つまり『寄付』だ。
「神のご加護」を連呼してくるあたり、ティナを保護する見返りを求めているのだろう。
ドサッ!
「…これでいいか?」
「ヒエッ!」
さっきの落ち着いた態度はどこにいった。
シスターは俺の出した金貨袋に、目を丸くして後ろにのけぞった。
「こここここんなに…」
「その代わりティナを頼んだぞ」
「はい!命にかえても」
どうせ使わん金だ。
というのも俺はこの1年間、ある『秘宝』目的で学園にほとんど行かずダンジョン攻略をしていた。
この金は俺が学園にいた1年間、ダンジョンで手に入れた副産物。
金は必要だが『秘宝』が手に入った今、そこまで執着するものでもない。
「ちなみにだが」
「はい?」
「水の国ヴリドラの財政は、良くないのか?ティナも奴隷だったし恐らく他のヤツも。現在、奴隷が非常に多いのでは」
「わかりかねますが、君主のグイン様は独立後、軍事に力をいれておいでです」
「軍事、ねー」
今俺がいる『水の国ヴリドラ』は弱小にして新興国だ。
将軍グインによって近年ムーン帝国から独立した。
強大な帝国から独立した反骨心は買うが、元々軍人だったグインが君主になってもやることは変わらない。
おおかた内政の予算を軍事に回しているのだろう。
もっともその軍事とやらも、死霊術の研究に予算を回しているようじゃ先は見えてるが。
ガチャ!
「じゃあな。ティナ」
「…」
「またくるからな」
「…」
俺は部屋に保護されたティナに挨拶だけして、そして修道院をリリスとともに後にした。
次の目的地は決まっている。
水の国ヴリドラの首都『アクアプラス』。
そこに俺の求める次の秘宝がある。
秘宝については後々話すが、俺の生きる目的といってもいいだろう。
…
しばらく歩いて、ふと気になることがあったのでリリスに聞いた。
といっても、俺が足を棒にして歩いている一方で、リリスは宙に浮遊して移動しているわけだが。
「おいリリス」
「なんだあるじ」
「ティナは既に生きるしかばねと言ったよな?」
「ああ。生きるしかばねだ。これから1000年間、しかばねのように生き、そしてしかばねのように寿命を迎えるだけの存在」
「…」
「不死、だから死ねない。精神がないから、動けない。だから生きるしかばね」
「…しかばねが喋ることは?」
「ありえない」
「いやでもさ…」
俺はティナが一言だけ喋ったのを言った。
「…だとしたら興味深いな。精神が死んでいない可能性がある」
「本当かっ」
「わらわの深淵の治癒≪ダークヒール≫が偉大すぎたのかも…」
「単純に死霊術が未完成だった可能性もあるが?」
リリスの見解を聞き、少し心が軽くなった。
しかばねと化したティナが生きている可能性があるだけ充分だ。
どちらにせよリリスの話では生きていた場合、あとは本人の精神力の問題らしい。
それが何年後、何百年後になるかはわからない。
非常に気の長い話だ。
でも、もしその時俺が生きていたら。
今度はティナのために本当にできることを探そうと思う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる