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悪魔、召喚いたしました
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「悪魔を召喚してみよう」
さしたる理由はなかった。
この世はいつだって不条理で、不平等で。
神様なんて、いるはずがない。
いたらもっとまともな世の中になってるはずだ。
けれど、悪魔ならいそうな気がする。
人間を誘惑して陥落させ、罪へと陥れる悪魔なら。
だって、悪い人間はこの世にいくらでもいるんだもの。
悪魔の召喚儀式はネットですぐに検索できた。
悪魔の名前や位によって召喚方法は違うらしいが、この際どうでもいい。
悪魔を呼び出す魔方陣と呪文を付録につけた、怪しげな本を
中古で買い取り、それをそのまま使うことにした。
「えっと、あとは動物の死骸や処女の血など悪魔の好物を用意するとよい。
……そんなのないなぁ。血は痛いからイヤだし」
周囲を見回すと、洋服タンスの上に土産物の饅頭を発見した。
なんとか賞味期限内だ。
「これで、いいや。中には甘党の悪魔もいるかもしれないしね」
饅頭をひとつ取り出すと、魔方陣の前に置いた。
「あとは、呪文ね。えっーと。
『悪魔よ、いでよ。我が願いを叶えよ!』」
魔方陣を見つめた。なにもおこらない。
「なんだ、やっぱりデタラメか……」
そう思った時だった。
もくもくと煙が魔方陣から現れ始めた。火元なんて、あるはずないのに。
もしや本当に悪魔が……?
煙が少しずつ晴れ始め、私は息を呑んで魔方陣があるほうを見つめた。
まず見えたのは小さな黒い角。そしてコウモリのようなまがまがしい羽。
ふくふくとした白い腕とむっちりとした太もも。そして黒いショートパンツ。
…………んっ??
「はーい、あくまです!! デビルくんってよんでね!」
現れたのは子供の悪魔だった。
しかも3、4歳ぐらいの幼児。たぶん男の子。
いや、性別なんてどうでもいい。なんで幼児なの?!
「あっ、これお供えですね。もらっていいですか?」
チビッ子悪魔、もといデビルくんは、魔方陣の前に置いた饅頭に気付くと
両手でそっとすくいあけた。
「ど、どうぞ」
咄嗟に答えてしまった。
「ありがとうございます」
妙に礼儀正しい悪魔っ子デビルくんは、饅頭にかぶりついた。
「おいしい! こんなにおいしいの初めて食べました」
いや、こんなのどこでも売ってますが。
あ、でも悪魔界にはないのかな?
デビルくんは饅頭をゆっくりと味わうと、名残惜しそうに最後の
一口を口の中へ。
「ごちそうさまでした!」
満面の笑み。
ぷっくりすべすべのほっぺたにはあんこが一粒。
か、かわいい……。
デビルくんの思わぬ愛らしさにすっかり度肝を抜かれてしまったが
ひょっとして、これが悪魔の作戦なの?
「えっと、君は本当に悪魔……なの?」
「はい、あくまです。デビルくんってよんでね」
邪気のない笑顔で答えるデビルくん。とても悪魔とは思えない。
「悪魔なら、私の願いを叶えてくれる……?」
「はい、そういう契約ですから」
チビッ子悪魔にそんな力があるのかわからないが、とりあえず
悪魔であることは確からしい。
「私ね……幸せになりたいの。そして私をあざ笑う奴を見返してやりたい」
デビルくんから微笑みが消えた。
「わかりました。その代わり死後はあなたの魂をもらいますが
よろしいですか? 2度と生まれ変わることはできません」
先ほどの愛らしさは消え、冷ややかな眼差しで淡々と告げる。
「かまわないわ」
死後のことなんてどうでもいいし、生まれ変わったって
きっとろくな人生にならない。
「では、これで契約成立ですね。これからよろしくです」
ぺこりと頭を下げるデビルくん。丁寧なお辞儀だ。
「こ、こちらこそよろしく」
つられて私も頭を下げる。
顔をあげたデビルくんは、照れくさそうな笑顔をうかべた。
「あのですね、ぼく、お腹が空きました。
何か食べさせてください!」
……はい?
「あとぼくの部屋はどこですか?」
あどけない笑顔でキョロキョロと見回すデビルくん。
「ちょ、ちょっと待って。お腹空いたって、さっき饅頭食べたでしょ?
それに部屋って。まさかここで暮らすつもり?」
冗談じゃない。チビッ子とはいえ悪魔だ。
「嫌よ、同居なんて」
「あなたを幸せにするのが、ぼくの役目です。
なら、まずは一緒に暮らしてあなたのことを知らないと。
じゃないとあなたにとって何が幸せなのか、わからないでしょ?」
理屈は通ってる。嫌味なぐらいに。
おまけに可愛らしい笑顔で話すものだから、妙に説得感がある。
「あのですね、ぼく、お腹空きすぎると泣いちゃいます。
それでもいいですか?」
「えっ、ちょっと待って」
「うわーん、お腹空きました~!!」
止める間もなく、デビルくんはおいおいと泣き始めた。
その泣き声は凄まじく、キンキンと頭に響いた。
「わかった、何か作ってあげるから。
だからお願い、泣き止んで!」
慌ててキッチンに突進すると、冷蔵庫にあった卵と冷凍ご飯で
手早くオムライスを作った。
「はい、どうぞ!」
「『デビルくん』って、ケチャップで描いてくれたらうれしいです」
「なんで、私がそこまで!?」
デビルくんの顔はみるみる泣き顔に。
「わ、わかった。描くから。うまくできなくても知らないよ!」
ケチャップでゆっくりと絞りだして、少々いびつではあるが
なんとか『デビルくん』と描いた。
「わーい、いただきます!」
スプーンでオムライスをすくいとると、小さなお口の中へ。
もぐもぐと咀嚼すると満面の笑みを浮かべた。
「おいしい! おばさんは料理が上手ですね」
「だれがおばさんよ。お姉さんと呼びなさい。たしかに料理は得意だけどね」
オムライスは私の自慢のメニューだ。
これを食べると皆が喜んでくれた。
ぺろりとオムライスを食べ終えると、今度は目をこすり始めた。
食欲が満たされたら、今度は眠気か来たらしい。
これだから幼児ってやつは。
「ああ、もう。テーブルで寝ちゃダメ。
寝るならベットいきなさい。私のベットで寝ていいから」
ふらふらしながらベットまで行くと、そのままかくんと寝落ち。
顔を布団に押し付けたまま、すやすや眠ってる。
「まったく……」
体を仰向けに直して、布団をかけ直してあげると
なにやらむにゃむにゃ呟いている。
「お腹いっぱいれふ。もう、たべられましぇん……」
私の分まで平らげたのだから、そりやお腹いっぱいだろう。
平和そうな寝顔で眠りこけるデビルくんを見ていたら
なんだか私まで眠くなってきた。
布団に潜り込むと、デビルくんを抱えるように横になった。
ほこほこに温かいデビルくんの体は極上の抱き枕のようで
なんとも心地いい。
久しぶりに私はぐっすりと眠ったのだった。
それからデビルくんとの同居は毎日大変だった。
なんせ相手は悪魔とはいえ幼児。
食事はもちろん、お風呂や着替えまで手伝ってやらねばならないのだ。
「こら、好き嫌いせずに食べなさい」
「お風呂では遊ばない! 空中に浮かんじゃダメ」
「寝る前は歯を磨く!」
「遊んだら片付けしなさい。あー魔力で家具飛ばさないで!」
もうドタバタ。疲れきってソファに沈みこむと
デビルくんがとことこやってきて、私の腕の中へ。
私の指を数えるようにもてあそびながら、にこにこと笑い
そのまま寝てしまう。
その寝顔で私まで眠くなる。
体で感じるデビルくんの温もり。気持ちいい。
「こういうのを、幸せっていうのかな……」
温かなデビルくんの体をそっと抱きしめながら眠った。
♦
「ごめんなさい、ぼく、悪魔界に帰らないといけなくなりました」
ある日のこと、デビルくんは唐突に告げた。
「……えっ?」
「悪魔界から連絡があったのです。一度戻ってこい、と」
デビルくんが私の側からいなくなる。
あの温もりも笑顔も、もう感じられないし、見られないのだ。
…………そんなのイヤだ!!
「そんなのないよ、デビルくん。
私はまだ幸せになってないよ?」
デビルくんは少しだけ辛そうに微笑んだ。
「そんなことないです。お姉さんは。
本当はもう、幸せでしょう……?」
言葉につまった。そうかもしれない。
でもそれはデビルくんがいるからこその幸せだ。
「デビルくんがいないとダメなの、私。お願い、側にいて」
デビルくんの目から涙がこぼれた。
「ぼくも、お姉さんと一緒にいたい、です」
はらはらと涙をこぼすデビルくんを見て、たまらず
私は胸にかき抱いた。
「どうしても行かなきゃいけないなら。
私も一緒にいくわ。連れてって、デビルくん」
そうだ、私が行けばいいのだ。そうすれば一緒にいられる。
「ほ、本当ですか……? 一緒に来てくれるのですか?」
「うん、行く。ずっーと一緒だよ」
なおも泣き続けるデビルくんの頭を撫でる。
やわらかな頭髪にはもう、小さな角は消えていた。
「よしよし。もう大丈夫だよ。私が守ってあげるからね」
それが私の幸せ。
「ありがとう……いっしょに逝こう、ママ…………」
その背中にはコウモリの羽ではなく、純白の可愛らしい羽が
静かに羽ばたいていた。
♦
柔らかな日差しを受けた清潔な病室は、白く輝いて見える。
「さぁ、早く片付けましょう。次の患者さんが使うのだから」
「この部屋の患者さん、お気の毒でしたね……。
お子さんとご主人を事故で亡くして、ひとりだけ生き残って
心を病んでここに来ましたけど」
「そうね、お気の毒だったわね……。でも最後はなんだか幸せそうだったじゃない?
なんでも『小さな悪魔がいるのよ』って楽しそうに笑ってた」
「悪魔にでも祈らずにはいられなかったんでしょうね……」
「そうね。でも亡くなった時の顔はとても安らかで幸せそうだった。
きっと、幸せをくれる優しい悪魔だったのよ」
了
さしたる理由はなかった。
この世はいつだって不条理で、不平等で。
神様なんて、いるはずがない。
いたらもっとまともな世の中になってるはずだ。
けれど、悪魔ならいそうな気がする。
人間を誘惑して陥落させ、罪へと陥れる悪魔なら。
だって、悪い人間はこの世にいくらでもいるんだもの。
悪魔の召喚儀式はネットですぐに検索できた。
悪魔の名前や位によって召喚方法は違うらしいが、この際どうでもいい。
悪魔を呼び出す魔方陣と呪文を付録につけた、怪しげな本を
中古で買い取り、それをそのまま使うことにした。
「えっと、あとは動物の死骸や処女の血など悪魔の好物を用意するとよい。
……そんなのないなぁ。血は痛いからイヤだし」
周囲を見回すと、洋服タンスの上に土産物の饅頭を発見した。
なんとか賞味期限内だ。
「これで、いいや。中には甘党の悪魔もいるかもしれないしね」
饅頭をひとつ取り出すと、魔方陣の前に置いた。
「あとは、呪文ね。えっーと。
『悪魔よ、いでよ。我が願いを叶えよ!』」
魔方陣を見つめた。なにもおこらない。
「なんだ、やっぱりデタラメか……」
そう思った時だった。
もくもくと煙が魔方陣から現れ始めた。火元なんて、あるはずないのに。
もしや本当に悪魔が……?
煙が少しずつ晴れ始め、私は息を呑んで魔方陣があるほうを見つめた。
まず見えたのは小さな黒い角。そしてコウモリのようなまがまがしい羽。
ふくふくとした白い腕とむっちりとした太もも。そして黒いショートパンツ。
…………んっ??
「はーい、あくまです!! デビルくんってよんでね!」
現れたのは子供の悪魔だった。
しかも3、4歳ぐらいの幼児。たぶん男の子。
いや、性別なんてどうでもいい。なんで幼児なの?!
「あっ、これお供えですね。もらっていいですか?」
チビッ子悪魔、もといデビルくんは、魔方陣の前に置いた饅頭に気付くと
両手でそっとすくいあけた。
「ど、どうぞ」
咄嗟に答えてしまった。
「ありがとうございます」
妙に礼儀正しい悪魔っ子デビルくんは、饅頭にかぶりついた。
「おいしい! こんなにおいしいの初めて食べました」
いや、こんなのどこでも売ってますが。
あ、でも悪魔界にはないのかな?
デビルくんは饅頭をゆっくりと味わうと、名残惜しそうに最後の
一口を口の中へ。
「ごちそうさまでした!」
満面の笑み。
ぷっくりすべすべのほっぺたにはあんこが一粒。
か、かわいい……。
デビルくんの思わぬ愛らしさにすっかり度肝を抜かれてしまったが
ひょっとして、これが悪魔の作戦なの?
「えっと、君は本当に悪魔……なの?」
「はい、あくまです。デビルくんってよんでね」
邪気のない笑顔で答えるデビルくん。とても悪魔とは思えない。
「悪魔なら、私の願いを叶えてくれる……?」
「はい、そういう契約ですから」
チビッ子悪魔にそんな力があるのかわからないが、とりあえず
悪魔であることは確からしい。
「私ね……幸せになりたいの。そして私をあざ笑う奴を見返してやりたい」
デビルくんから微笑みが消えた。
「わかりました。その代わり死後はあなたの魂をもらいますが
よろしいですか? 2度と生まれ変わることはできません」
先ほどの愛らしさは消え、冷ややかな眼差しで淡々と告げる。
「かまわないわ」
死後のことなんてどうでもいいし、生まれ変わったって
きっとろくな人生にならない。
「では、これで契約成立ですね。これからよろしくです」
ぺこりと頭を下げるデビルくん。丁寧なお辞儀だ。
「こ、こちらこそよろしく」
つられて私も頭を下げる。
顔をあげたデビルくんは、照れくさそうな笑顔をうかべた。
「あのですね、ぼく、お腹が空きました。
何か食べさせてください!」
……はい?
「あとぼくの部屋はどこですか?」
あどけない笑顔でキョロキョロと見回すデビルくん。
「ちょ、ちょっと待って。お腹空いたって、さっき饅頭食べたでしょ?
それに部屋って。まさかここで暮らすつもり?」
冗談じゃない。チビッ子とはいえ悪魔だ。
「嫌よ、同居なんて」
「あなたを幸せにするのが、ぼくの役目です。
なら、まずは一緒に暮らしてあなたのことを知らないと。
じゃないとあなたにとって何が幸せなのか、わからないでしょ?」
理屈は通ってる。嫌味なぐらいに。
おまけに可愛らしい笑顔で話すものだから、妙に説得感がある。
「あのですね、ぼく、お腹空きすぎると泣いちゃいます。
それでもいいですか?」
「えっ、ちょっと待って」
「うわーん、お腹空きました~!!」
止める間もなく、デビルくんはおいおいと泣き始めた。
その泣き声は凄まじく、キンキンと頭に響いた。
「わかった、何か作ってあげるから。
だからお願い、泣き止んで!」
慌ててキッチンに突進すると、冷蔵庫にあった卵と冷凍ご飯で
手早くオムライスを作った。
「はい、どうぞ!」
「『デビルくん』って、ケチャップで描いてくれたらうれしいです」
「なんで、私がそこまで!?」
デビルくんの顔はみるみる泣き顔に。
「わ、わかった。描くから。うまくできなくても知らないよ!」
ケチャップでゆっくりと絞りだして、少々いびつではあるが
なんとか『デビルくん』と描いた。
「わーい、いただきます!」
スプーンでオムライスをすくいとると、小さなお口の中へ。
もぐもぐと咀嚼すると満面の笑みを浮かべた。
「おいしい! おばさんは料理が上手ですね」
「だれがおばさんよ。お姉さんと呼びなさい。たしかに料理は得意だけどね」
オムライスは私の自慢のメニューだ。
これを食べると皆が喜んでくれた。
ぺろりとオムライスを食べ終えると、今度は目をこすり始めた。
食欲が満たされたら、今度は眠気か来たらしい。
これだから幼児ってやつは。
「ああ、もう。テーブルで寝ちゃダメ。
寝るならベットいきなさい。私のベットで寝ていいから」
ふらふらしながらベットまで行くと、そのままかくんと寝落ち。
顔を布団に押し付けたまま、すやすや眠ってる。
「まったく……」
体を仰向けに直して、布団をかけ直してあげると
なにやらむにゃむにゃ呟いている。
「お腹いっぱいれふ。もう、たべられましぇん……」
私の分まで平らげたのだから、そりやお腹いっぱいだろう。
平和そうな寝顔で眠りこけるデビルくんを見ていたら
なんだか私まで眠くなってきた。
布団に潜り込むと、デビルくんを抱えるように横になった。
ほこほこに温かいデビルくんの体は極上の抱き枕のようで
なんとも心地いい。
久しぶりに私はぐっすりと眠ったのだった。
それからデビルくんとの同居は毎日大変だった。
なんせ相手は悪魔とはいえ幼児。
食事はもちろん、お風呂や着替えまで手伝ってやらねばならないのだ。
「こら、好き嫌いせずに食べなさい」
「お風呂では遊ばない! 空中に浮かんじゃダメ」
「寝る前は歯を磨く!」
「遊んだら片付けしなさい。あー魔力で家具飛ばさないで!」
もうドタバタ。疲れきってソファに沈みこむと
デビルくんがとことこやってきて、私の腕の中へ。
私の指を数えるようにもてあそびながら、にこにこと笑い
そのまま寝てしまう。
その寝顔で私まで眠くなる。
体で感じるデビルくんの温もり。気持ちいい。
「こういうのを、幸せっていうのかな……」
温かなデビルくんの体をそっと抱きしめながら眠った。
♦
「ごめんなさい、ぼく、悪魔界に帰らないといけなくなりました」
ある日のこと、デビルくんは唐突に告げた。
「……えっ?」
「悪魔界から連絡があったのです。一度戻ってこい、と」
デビルくんが私の側からいなくなる。
あの温もりも笑顔も、もう感じられないし、見られないのだ。
…………そんなのイヤだ!!
「そんなのないよ、デビルくん。
私はまだ幸せになってないよ?」
デビルくんは少しだけ辛そうに微笑んだ。
「そんなことないです。お姉さんは。
本当はもう、幸せでしょう……?」
言葉につまった。そうかもしれない。
でもそれはデビルくんがいるからこその幸せだ。
「デビルくんがいないとダメなの、私。お願い、側にいて」
デビルくんの目から涙がこぼれた。
「ぼくも、お姉さんと一緒にいたい、です」
はらはらと涙をこぼすデビルくんを見て、たまらず
私は胸にかき抱いた。
「どうしても行かなきゃいけないなら。
私も一緒にいくわ。連れてって、デビルくん」
そうだ、私が行けばいいのだ。そうすれば一緒にいられる。
「ほ、本当ですか……? 一緒に来てくれるのですか?」
「うん、行く。ずっーと一緒だよ」
なおも泣き続けるデビルくんの頭を撫でる。
やわらかな頭髪にはもう、小さな角は消えていた。
「よしよし。もう大丈夫だよ。私が守ってあげるからね」
それが私の幸せ。
「ありがとう……いっしょに逝こう、ママ…………」
その背中にはコウモリの羽ではなく、純白の可愛らしい羽が
静かに羽ばたいていた。
♦
柔らかな日差しを受けた清潔な病室は、白く輝いて見える。
「さぁ、早く片付けましょう。次の患者さんが使うのだから」
「この部屋の患者さん、お気の毒でしたね……。
お子さんとご主人を事故で亡くして、ひとりだけ生き残って
心を病んでここに来ましたけど」
「そうね、お気の毒だったわね……。でも最後はなんだか幸せそうだったじゃない?
なんでも『小さな悪魔がいるのよ』って楽しそうに笑ってた」
「悪魔にでも祈らずにはいられなかったんでしょうね……」
「そうね。でも亡くなった時の顔はとても安らかで幸せそうだった。
きっと、幸せをくれる優しい悪魔だったのよ」
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