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第二章
趣味を探しましょう①
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「あの、美冬さん」
「なぁに? 草太くん」
二人は今日も残業していた。草太と二人きりなので、リラックスモードに突入している美冬は、すでにろくろ首状態だ。長く伸びた首がメトロノームのように機嫌良く揺れている。そんな姿を可愛らしく思ってしまう草太だった。
「美冬さんの趣味って何ですか?」
「趣味……」
美冬から笑顔が消えた。揺れていた長い首もぴたりと止まっている。「しゅみ、しゅみ……」と呟きながら、必死に考えを巡らせているようだ。
「趣味……ないわ、私」
自分で自分の回答にショックを受けているらしく、その顔は強張っている。
「ちょっと質問が悪かったですね。趣味ってほど立派なものじゃなくてもいいですよ。仕事以外で楽しいものって、ありますよね?」
長い首をぐりんと傾け、再び熟考する美冬。
「ないわ。何もない。ずっと勉強と仕事しかしてこなかった」
毎日仕事に奮闘している美冬は、仕事から離れると何をしているのか気になって聞いてみた。まさか何もないとは思わなかったのだ。それだけ努力してきたということではあるが、仕事から離れて自分を開放する場所や物は必要に思えた。
「草太くんと一緒にいる時が一番楽しいわ。それが趣味じゃダメ?」
長く伸びた首をくねらせ、草太の顔色を伺うように聞いてくる。頬はほんのり赤く、白い首は艶やかさを増している。胸が高鳴るのを必死に堪えながら、草太は質問に答えた。
「ぼ、僕と一緒にいるのが楽しいっていってもらえて嬉しいですよ。でもね。ひとりでいるときでも楽しいことがあったほうが、人生は楽しいですよ」
「人生が楽しい。そんなこと、考えたこともなかったわ」
初めて知った言葉なのか、美冬は不思議そうな顔をしている。その顔は少女のようで、自分より年上の女性とは思えない。
「何か見つけてみませんか? 美冬さんの趣味」
美冬はしばし考え込み、やがて遠慮がちに答えた。
「草太くんも助けてくれる? 私はたぶん何も知らないから」
「僕にできることなら、お手伝いしますよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
美冬は満足そうに笑った。その可愛らしさに、何でもしてあげたくなる草太だった。ひとりで楽しめる趣味を探しましょうと言いつつ、草太と美冬、二人の時間になってしまうことに気付いていない草太だった。
「草太くん、定義がよくわからないから聞くけど、趣味って何かしら?」
「えーっと。仕事や職業としてではなく、個人が楽しみとしていること。ですかね?」
スマホで得た情報を、さも自分の知識のように語る。
「それで趣味というのは、一般的にどんなものを指すのかしら?」
「読書や映画、音楽、スポーツなどですかね?」
趣味を作りましょう、などと偉そうに語ったものの、草太も一般的な知識しか知らないのだった。
「読書はするわよ。仕事の情報収集にいいもの。音楽はそうね、話題の曲を聴くぐらいかしら。職場の皆とのコミュニケーションに役立つから。スポーツはジムで少しするわよ。体力維持に努めないと仕事に差し支えがでるから」
なんでも仕事に繋がっていく美冬である。わかっていたつもりだったが想像以上の真面目さだ。
「美冬さん、仕事も大事です。でも全てを仕事に繋げて考えてたら疲れませんか?」
「全く疲れないわ」
美冬にとって仕事は何より大事らしい。想像以上に手強いようだ。
「あの、でもですね。趣味を持つと仕事もさらに充実しますよ。心がリフレッシュできますから」
「草太くんといればリフレッシュできるわ」
屈託のない笑顔で話す美冬。その愛らしさに眩暈がしそうだ。
「そ、そういうことじゃなくて。美冬さんひとりで楽しめるものをもったほうがいいってことですよ」
「そうね、ひとりで楽しむことも大事よね、ひとりでね」
先程までの笑顔が消え去り、しゅんとした美冬がかわいそうになる。
「わかりました。最初はふたりでしてみませんか?映画はこの間見たから、今度はスポーツでも」
瞬時に顔に輝きが戻る美冬である。よほど嬉しいのか、長い首ごとこくこくと何度も頷いている。ふたりで出来るのが嬉しくて仕方ないようだ。
「そうね、スポーツいいわね。ふたりで出来て、ひとりでも楽しめそうなスポーツってある?」
「そうですね……気軽に始めやすいところでボーリングなんてどうですか? ボーリング場に行けば全部ありますし。テニスもいいですね。道具を揃える必要はありますけどハマれば一生の趣味になりますよ」
「いいわね、ふたりでしてみましょう」
こうして『美冬の趣味探し』という名目のデートが成立した。美冬が実に嬉しそうに笑っているのを、微笑ましく見守る草太だった。
「なぁに? 草太くん」
二人は今日も残業していた。草太と二人きりなので、リラックスモードに突入している美冬は、すでにろくろ首状態だ。長く伸びた首がメトロノームのように機嫌良く揺れている。そんな姿を可愛らしく思ってしまう草太だった。
「美冬さんの趣味って何ですか?」
「趣味……」
美冬から笑顔が消えた。揺れていた長い首もぴたりと止まっている。「しゅみ、しゅみ……」と呟きながら、必死に考えを巡らせているようだ。
「趣味……ないわ、私」
自分で自分の回答にショックを受けているらしく、その顔は強張っている。
「ちょっと質問が悪かったですね。趣味ってほど立派なものじゃなくてもいいですよ。仕事以外で楽しいものって、ありますよね?」
長い首をぐりんと傾け、再び熟考する美冬。
「ないわ。何もない。ずっと勉強と仕事しかしてこなかった」
毎日仕事に奮闘している美冬は、仕事から離れると何をしているのか気になって聞いてみた。まさか何もないとは思わなかったのだ。それだけ努力してきたということではあるが、仕事から離れて自分を開放する場所や物は必要に思えた。
「草太くんと一緒にいる時が一番楽しいわ。それが趣味じゃダメ?」
長く伸びた首をくねらせ、草太の顔色を伺うように聞いてくる。頬はほんのり赤く、白い首は艶やかさを増している。胸が高鳴るのを必死に堪えながら、草太は質問に答えた。
「ぼ、僕と一緒にいるのが楽しいっていってもらえて嬉しいですよ。でもね。ひとりでいるときでも楽しいことがあったほうが、人生は楽しいですよ」
「人生が楽しい。そんなこと、考えたこともなかったわ」
初めて知った言葉なのか、美冬は不思議そうな顔をしている。その顔は少女のようで、自分より年上の女性とは思えない。
「何か見つけてみませんか? 美冬さんの趣味」
美冬はしばし考え込み、やがて遠慮がちに答えた。
「草太くんも助けてくれる? 私はたぶん何も知らないから」
「僕にできることなら、お手伝いしますよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
美冬は満足そうに笑った。その可愛らしさに、何でもしてあげたくなる草太だった。ひとりで楽しめる趣味を探しましょうと言いつつ、草太と美冬、二人の時間になってしまうことに気付いていない草太だった。
「草太くん、定義がよくわからないから聞くけど、趣味って何かしら?」
「えーっと。仕事や職業としてではなく、個人が楽しみとしていること。ですかね?」
スマホで得た情報を、さも自分の知識のように語る。
「それで趣味というのは、一般的にどんなものを指すのかしら?」
「読書や映画、音楽、スポーツなどですかね?」
趣味を作りましょう、などと偉そうに語ったものの、草太も一般的な知識しか知らないのだった。
「読書はするわよ。仕事の情報収集にいいもの。音楽はそうね、話題の曲を聴くぐらいかしら。職場の皆とのコミュニケーションに役立つから。スポーツはジムで少しするわよ。体力維持に努めないと仕事に差し支えがでるから」
なんでも仕事に繋がっていく美冬である。わかっていたつもりだったが想像以上の真面目さだ。
「美冬さん、仕事も大事です。でも全てを仕事に繋げて考えてたら疲れませんか?」
「全く疲れないわ」
美冬にとって仕事は何より大事らしい。想像以上に手強いようだ。
「あの、でもですね。趣味を持つと仕事もさらに充実しますよ。心がリフレッシュできますから」
「草太くんといればリフレッシュできるわ」
屈託のない笑顔で話す美冬。その愛らしさに眩暈がしそうだ。
「そ、そういうことじゃなくて。美冬さんひとりで楽しめるものをもったほうがいいってことですよ」
「そうね、ひとりで楽しむことも大事よね、ひとりでね」
先程までの笑顔が消え去り、しゅんとした美冬がかわいそうになる。
「わかりました。最初はふたりでしてみませんか?映画はこの間見たから、今度はスポーツでも」
瞬時に顔に輝きが戻る美冬である。よほど嬉しいのか、長い首ごとこくこくと何度も頷いている。ふたりで出来るのが嬉しくて仕方ないようだ。
「そうね、スポーツいいわね。ふたりで出来て、ひとりでも楽しめそうなスポーツってある?」
「そうですね……気軽に始めやすいところでボーリングなんてどうですか? ボーリング場に行けば全部ありますし。テニスもいいですね。道具を揃える必要はありますけどハマれば一生の趣味になりますよ」
「いいわね、ふたりでしてみましょう」
こうして『美冬の趣味探し』という名目のデートが成立した。美冬が実に嬉しそうに笑っているのを、微笑ましく見守る草太だった。
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