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エルドラの聖母

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『エルドラの聖母』として勝手に祀り上げられた私は、その後も
半ば強制的に代理母出産をさせられた。

 激しく抵抗したこともあった。しかし屈強な兵たちに囲まれたら、私にはなす術がない。
 王は笑いながら告げるのだ。


「貴女様の本当のお子様は、さぞ可愛らしいことでしょうね。
無事に成長してほしいでしょう……?」


 ぞっとした。脅しだとわかっていたが、彼らが私の娘に何もしない保証はどこにもなかった。
 生まれたばかりの娘と愛する夫に、手出しさせるものか。それだけが私の唯一の望むだった。

「……わかりました。お望み通り、代理母出産は続けます」

 
 受け入れるしかなかった。

「その代わり、私の家族には何もしないで。そして役目を終えたら私を家族の元に返して」


 王はにっこりと笑った。神官たちも微笑んでいる。


「わかっていただけて嬉しいです。約束通り出産のたびに、お望みの褒美はさしあげますから御安心ください、聖母様」


 報奨のつもりなのだろうか? 褒美なんていらなかったが、拒否すれば何をされるかわからない。私は当たり障りのないものから少しずつ、報奨として要求することにした。
 まずは異世界エルドラの食事や菓子類、衣服、そして本だ。
 今の私には、自らを守るものが何ひとつない。かといって、いきなり盾やら剣やらといった武器を要求すれば警戒されるし、使いこなす自信もない。

 食事や菓子類でどんな食文化がある世界なのか感じ取ることができるし、質問しながらエルドラの衣服をいろいろ着てみることで、エルドラの身分制度を知る手かがりになる。

 エルドラの本の文字は私には読めなかったが、神官たちに教えを乞うて少しずつ学んでいった。
 すっかり従順になった私に油断したのだろう、神官たちは丁寧に教えてくれた。

 代理出産をしながら学ぶことは、正直体が辛かった。全てはこの世界から脱出し、愛する家族の元へ帰るため。そのためにはどんな努力も苦労も苦にはならなかった。
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