男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第三章 初めての戦いと二人の秘密

皇帝は鬼だ

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 星はすぐに状況を理解できなかった。
 大国の皇帝ともあろう方が臣下も従者も連れず、闇夜に剣を持って闊歩しているものだろうか。息抜きに散歩することはあるかもしれないが、尊い御方であるだけに、真夜中にたったひとりで歩き回ることは考えられない気がした。

「『俺』が誰なのかわかるということは、そなたやはり、和国の天御門星か」

 皇帝陛下の一人称は、『ちん』だったはずだ。少なくとも星の前ではそうだった。
 だが星の目の前に立っている皇帝雷烈は、自身を『俺』と呼んでいる。皇帝という立場から離れた時は自分の呼び方を変えているのかもしれないが、それがかえって星の頭の中を混乱させていた。
 皇帝に謁見するときは御挨拶が必要であり、許可なく顔をあげることは許されないことも忘れ、雷烈の美しい顔を呆然と見つめることしかできない。

「うん? そなた……本当は女なのか?」

 少しばかり驚いた様子で、雷烈は星が男性ではなく、女性であることを指摘した。
 眼が飛び出んばかりに驚愕したのは星のほうだ。女であることがわからないように髪も切ったし、服装や匂いも十分に気をつけたつもりだったからだ。

「ええっ! ど、どうして」

 雷烈が剣の切っ先を、星の胸部に向けた。ここを見ろと言われているのだと思い、星は自分の体を改めて見下ろした。
 さらしを厳重に巻いたはずの星の胸元が見えていたのだ。呪封術を使うため、袖を無理やり破いたことで、胸元が少しはだけてしまったらしい。さらしを巻いて圧し潰してはいるが、さらしの下に豊かな乳房があることはごまかしきれない状態だった。

「きゃあっ!」

 男装していたことも忘れ、星は甲高い悲鳴を発してしまった。両手で必死に胸元を隠したが、すでに時遅し。星が男装した女性であることが明らかとなってしまった。

「男であると偽り、入国したわけか。我が国と皇帝である俺をだますとはいい度胸をしている。露見ろけんすれば大罪だが、わかっているのか?」

 男と偽って入国すれば罪人として処罰されるだろうことは、星もよく理解していた。
 だが女の身で長い船旅は危険だと思ったし、天御門あまみかど家は女では陰陽師と名乗ることが許されないため、男装するしか方法がなかったのだ。
 また兄の優の姿を借りていれば、優は自分のことを守ってくれる気がしたからでもある。事実、先程も優が着ていた衣を呪封術に使うことができたのだから、兄が守ってくれたことは真実だといえるだろう。

「男だと偽るのが罪なのは理解しており、ましゅる。ですがこれには事情がありまして」
「事情があろうがなかろうが、嘘をついたのが事実ならば、そなたは罪人だ。さて、そなたをどうしたものか」

 雷烈は星の処遇を決めかねている様子だが、罪人と言われた星は顔面蒼白となってしまった。

(優を殺した悪鬼が近くにいるとわかったのに、今ここで罪人にされるわけにはいかない! なんとしてもこの場を切り抜けなくては)

 星は必死に考えたが、良い案が浮かばなかった。女であることを気づかれたのが武官や宮女であれば金銭等を口止め料として渡し、秘密にしてもらうことができたかもしれない。
 だが相手が皇帝陛下とあってはそれも無理な話だ。しかも目の前の皇帝が星を大罪人として扱えば、即日斬首されることもありえる。言葉もまだ不自由な国で、たったひとり処刑される自分を想像するだけで体が震えてくる。

(そんなの嫌だ。優を殺した悪鬼に復讐するまでは絶対に死ねない!)

 悲壮な決意を心の中で叫んだ星の肩に、雷烈の手が触れた。その瞬間、雷烈からふわりと鬼の気配が漂った。優を殺した悪鬼のものとは違う鬼の気配だと今ならわかるが、それでも皇帝が鬼であることは星だけが知っている。

「まずは立て。くわしい話を……」

 雷列が話し始めたところで、咄嗟に星は叫んでしまった。

「陛下こそ、鬼ではありませんか!」

 ぞっとするほど冷たい眼差しで、雷烈が星を見下ろしている。雷烈が鬼であることを隠しておきたかったなら、今ここで鬼と指摘したのは危険すぎる発言だ。向けられている剣でざっくり切られても文句は言えない。

(つい言ってしまった。でも今はこれに賭けるしかない)!

 星は覚悟を決めると、胸元を隠したまま雷烈を下から睨みつけた。

「陛下が鬼であることはわかって、ましゅ。でも私が女であることを秘密にしてくださるなら、私も陛下が鬼だと誰にも言いま、しぇん」

 雷烈が星を無言で凝視している。何を考えているのか、星にはさっぱりわからなかった。しばしの沈黙ののちに、雷烈は突然声をあげて笑い始めたのだ。

(な、なんで笑うの?)

「天御門星よ。やはりそなたは俺の鬼の気配に気づいておったか。嬉しいぞ。ようやく俺のことをわかる者が現れた。しかも皇帝である俺と取引しようとは実に良い度胸をしている」



 
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