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第三章 初めての戦いと二人の秘密
不気味な宮女
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「この辺りだ。近いぞ」
おぞましい異臭と強い恨みの念が徐々に強まってくるのを感じる。あと少しで憎き悪鬼がいるところへたどり着ける。
「ここだ!」
視線の先は暗い闇につつまれており、敵の鬼がどこにいるのかわからない。闇夜に少しずつ目が慣れてくると、ゆらりと揺れる細い体があった。目を凝らしてよく見てみると、細い体は背の高い女性のものだった。兄を殺した悪鬼の気配は感じるのに、見た目はごく普通の女性だ。おそらくは宮女のひとりだろう。
「にくい……ああ、憎い。どうしてあの女だけ……」
庸国の言葉でぶつぶつと、女官はひたすら恨み言を呟いているようだ。その目はどこを見ているのかわからず、手足はぎくしゃくと壊れた人形のような不自然な動きをしながら、ふらふらと歩いている。
(女の人? 優を殺した悪鬼じゃないの? でも悪鬼の気配は残ってる……)
悪鬼の気配があっても、相手が人間の女性とあっては、すぐに攻撃することはできない。ふらふらと歩く宮女を見つめ、星はどうするか考えていた。
「だれぇ?」
星が近くにいることに気づいたようで、背の高い宮女は誰なのかと問うた。黙っていては狼藉者扱いされてしまうかもしれない。和国から来た天御門星ですと名乗ろうとした時だった。
肩から下は固定したまま、宮女は首だけを反転させ、星のほうへ顔を向けたのである。生きた人間とは思えない不自然な動きに、宮女の体の骨や筋がギシギシと不気味な音をたてている。驚く星の前で、宮女はにたりと笑った。
「にくい女……殺してやるぅぅ!」
背の高い宮女が一瞬で目の前から消えた。宮女は消えたのではない。星に襲いかかるために、人間とは思えない動きで高く跳躍したのだ。ぱっくりと口を開け、よだれをたらしながら星へと飛びかかってくる。憎くくてたまらない別の人間と勘違いしているのか、恐ろしい形相をしている。
襲ってくる宮女を星が咄嗟に避けると、女はうひひひと不気味に笑い始めた。
「ああ、やっぱりわたしから逃げるのねぇぇ。ゆるさないぁぁい。いひひ」
どういう事情で恨んでいるのかはわからないが、よほど憎い相手がいるようだ。宮女の目は文字通り血走り、赤く染まっていく。どろりとした血の涙を流し、口からは猛獣のような牙が生えてきた。正常の人間の姿ではないのは誰の目にも明らかだ。
(この女、呪いのケモノに憑かれてるんだ。そしてかすかだけど、優を殺した悪鬼の匂いも残ってる!)
呪いのケモノに憑かれた人間は心と体を蝕まれ、衰弱して倒れてしまう。呪う相手をじわじわと苦しめ、最終的に死に追いやることが目的だからだ。
だが星に敵意を向けている宮女は体に異変はあるものの、しっかり自分の足で立って歩いている。しかも獲物を狙う猛獣のようなすばやい動きは、とても人間とは思えない。
(呪いのケモノに憑りつかれただけでなく、体を乗っ取られ支配されているんだ。でもなぜ? 呪う相手を苦しめることだけが目的ではないということなの?)
「ああァァ、にくい、いたい。にくいよぉ……」
宮女は恨みをうわ言のように呟きながら、ふらふらと星の周囲をうろついている。
目から血の涙を流す宮女は、ひどく苦しんでいるように感じられた。本当はこんなことしたくないのに、体を乗っ取られた状態ではどうすることもできないのだろう。
(一刻も早く呪いのケモノを祓わなくては。この人は死んでしまう!)
星は和国から持ってきた優の霊符を取りだそうとした。優から教わった祓い術で呪いのケモノを祓おうと思ったのだ。
「しまった、寝所に霊符を置いてきてしまった!」
おぞましい異臭と強い恨みの念が徐々に強まってくるのを感じる。あと少しで憎き悪鬼がいるところへたどり着ける。
「ここだ!」
視線の先は暗い闇につつまれており、敵の鬼がどこにいるのかわからない。闇夜に少しずつ目が慣れてくると、ゆらりと揺れる細い体があった。目を凝らしてよく見てみると、細い体は背の高い女性のものだった。兄を殺した悪鬼の気配は感じるのに、見た目はごく普通の女性だ。おそらくは宮女のひとりだろう。
「にくい……ああ、憎い。どうしてあの女だけ……」
庸国の言葉でぶつぶつと、女官はひたすら恨み言を呟いているようだ。その目はどこを見ているのかわからず、手足はぎくしゃくと壊れた人形のような不自然な動きをしながら、ふらふらと歩いている。
(女の人? 優を殺した悪鬼じゃないの? でも悪鬼の気配は残ってる……)
悪鬼の気配があっても、相手が人間の女性とあっては、すぐに攻撃することはできない。ふらふらと歩く宮女を見つめ、星はどうするか考えていた。
「だれぇ?」
星が近くにいることに気づいたようで、背の高い宮女は誰なのかと問うた。黙っていては狼藉者扱いされてしまうかもしれない。和国から来た天御門星ですと名乗ろうとした時だった。
肩から下は固定したまま、宮女は首だけを反転させ、星のほうへ顔を向けたのである。生きた人間とは思えない不自然な動きに、宮女の体の骨や筋がギシギシと不気味な音をたてている。驚く星の前で、宮女はにたりと笑った。
「にくい女……殺してやるぅぅ!」
背の高い宮女が一瞬で目の前から消えた。宮女は消えたのではない。星に襲いかかるために、人間とは思えない動きで高く跳躍したのだ。ぱっくりと口を開け、よだれをたらしながら星へと飛びかかってくる。憎くくてたまらない別の人間と勘違いしているのか、恐ろしい形相をしている。
襲ってくる宮女を星が咄嗟に避けると、女はうひひひと不気味に笑い始めた。
「ああ、やっぱりわたしから逃げるのねぇぇ。ゆるさないぁぁい。いひひ」
どういう事情で恨んでいるのかはわからないが、よほど憎い相手がいるようだ。宮女の目は文字通り血走り、赤く染まっていく。どろりとした血の涙を流し、口からは猛獣のような牙が生えてきた。正常の人間の姿ではないのは誰の目にも明らかだ。
(この女、呪いのケモノに憑かれてるんだ。そしてかすかだけど、優を殺した悪鬼の匂いも残ってる!)
呪いのケモノに憑かれた人間は心と体を蝕まれ、衰弱して倒れてしまう。呪う相手をじわじわと苦しめ、最終的に死に追いやることが目的だからだ。
だが星に敵意を向けている宮女は体に異変はあるものの、しっかり自分の足で立って歩いている。しかも獲物を狙う猛獣のようなすばやい動きは、とても人間とは思えない。
(呪いのケモノに憑りつかれただけでなく、体を乗っ取られ支配されているんだ。でもなぜ? 呪う相手を苦しめることだけが目的ではないということなの?)
「ああァァ、にくい、いたい。にくいよぉ……」
宮女は恨みをうわ言のように呟きながら、ふらふらと星の周囲をうろついている。
目から血の涙を流す宮女は、ひどく苦しんでいるように感じられた。本当はこんなことしたくないのに、体を乗っ取られた状態ではどうすることもできないのだろう。
(一刻も早く呪いのケモノを祓わなくては。この人は死んでしまう!)
星は和国から持ってきた優の霊符を取りだそうとした。優から教わった祓い術で呪いのケモノを祓おうと思ったのだ。
「しまった、寝所に霊符を置いてきてしまった!」
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