男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第五章 繋がる心

仕組まれた出会い

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 兄の優の姿をした式神を飛ばしたことで、もてる力を使い果たした星はその場でしばし意識を失ってしまった。倒れている場合ではないことは頭では理解できているのだが、体が動いてくれないのだ。
 
(お願い、動いて……私のからだ……)

 懸命に指先を動かすが、石のように体が重く感じられる。出血のせいで貧血状態に陥っているのだろう。
 そんな星の耳に、かすかな話し声が響いてきた。忍び込んだ建物の上で誰かが会話しているようだ。

「……さま、あの男のなりをした女の陰陽師を散々いたぶってやりました。御命令どおりに」
「そうか。ならば良い」
「ですが、とどめを刺さなくてよろしいのですか?」
「かまわぬ。放置しておけば、いずれは皇帝自ら女の陰陽師……いや、呪封師を救いに来るだろう。その時を待つ」

 女の陰陽師とは自分のことだろうと、星は朦朧とした意識の中で思った。

(まって……今、私のことを『呪封師』って言い直した。なぜ私が呪封師だと知っているの?)

 庸国で星が天御門家の呪封師であることを知っているのは、星を庸国に招いた皇帝雷烈だけだ。雷烈以外の人間には、星は「和国の陰陽師」ということになっており、呪封師の存在すら知らないはずなのだ。

(呪封師の存在を知っている……それはきっと後宮と雷烈様にかけらえた呪いのことを知っている存在だ)

 図らずも盗み聞きする形となった幸運に感謝しながら、星は静かに耳を澄ませた。

「それにしても、なぜこれほど回りくどい方法で……いえ、用意周到に女の呪封師を追い込まなくてはいけないのでございますか? せっかく捕らえたのですから、拷問でいたぶって我々の命令にのみ従う人形にしてやればよろしいかと」
「それでは意味がない。天御門家では女が呪封師になることを禁じているが、それがなぜかわかるか? 男たちが女を見下しているからではない。その逆なのだ。女こそ、最も力のある呪封師になれるからだ」

(女こそ、最も力のある呪封師になれる? それってどういう意味?)

 星が生まれた天御門家のことまで知っている存在は誰なのか。顔が気になるが、今は動かないほうがいいと星は判断した。自分がここにいることを気づかれたら、話を聞けなくなってしまう。

「女こそ最も力のある呪封師になれるとは……意外でございます」
「そう思われるよう、天御門家が仕向けていたからな。天御門家は女という存在を見下している……と見せかけて、実際は女たちを危険な呪封師の仕事に就かせないようにするため、女を守っていたからだ」
「女を守る? なぜその必要が? 女どもを呪封師にさせればよろしいのに」
「女には重大な任務があるだろう。一族の血を受け継ぐ子を授かり、育てていく大事な役目が。女が呪封師になれば、子を産む者が一族にいなくなる」
「なるほど。女を守りつつ、天御門家の血脈を絶やさないようにするためだったのですね」

 天御門家に限らず、一族の血を守るためには女性が必要であることはどこの家門も同じだ。星もそこは理解できなくはない気がした。

「女の呪封師は、自らの体を使って呪いを封印する。胎で子を育むようにな。むろん簡単な話ではない。だが女は愛を知ると、その愛を守るために自らの体を犠牲にすることもいとわなくなる。愛を知った女は強い」
「ああ、なるほど! ですからあの星とかいう女をあえて生かし、若くて美しい皇帝と出会わせたのですね」
「そうだ。愛を知り、最強の呪封師になってもらうために」

(そんな……! 私が雷烈様に出会い、あの方を愛してしまったことは、すべて仕組まれていたというの?)

「まもなく若き皇帝が血相を変えてここに来るだろう。愛しく思っている女がいたぶられ捕らえられている姿を目撃したら、どうなると思う? 怒り狂って鬼の力に目覚め、本物の鬼となることだろう。その時こそあの星の出番だ。その身を使って、鬼を封印してもらう。鬼の力がなくなれば、人間でしかない皇帝など恐れるにたらぬ」

 すべては皇帝雷烈を陥れるためだったのだ。そのためだけに、天御門家の人間はすべて虐殺され、兄の優も殺された。星だけを生き残らせ、庸国へ向かわせるために。

(すべて仕組まれていたのだとしても……雷烈様だけは私が守る。あの方を陥れさせはしない)

 最期の力を振り絞るように体に力を込め、建物の下から這い出た。すくりと立ち上がり、腹の底から叫んだ。

「呪封師 天御門星はここにいる! おまえたちの思いどおりにはさせない!」

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