男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第五章 繋がる心

決着のとき

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 雷烈と優の姿をした式神という心強い存在を得た星は、天御門琳子を見つめ、力強く宣言した。

「琳子様、時間がないというのに迷ったりして申し訳ございません。今よりあなた様のお体から九尾の狐を追い祓い、琳子様をお救いいたします」
『良いのだ、星。迷っている状態で術を発動してもうまくいかぬものだから。星、雷烈様、手加減はいりませぬ。どうか一度でとどめをさしてください。今もこの体と心を再び乗っ取ろうと、わたしの中でうごめいている九尾の狐は二度目の時を与えてくれるほど生易しい相手ではございません』

 すべての覚悟を決めた天御門琳子は静かに目を閉じ、手のひらを合わせて祈りを捧げ始めた。体内の九尾の狐の力を抑えるため、琳子もまた星と共に戦おうとしてくれているのだ。その想いが星の決意をさらに後押しする。

「わかりました、一気にいきます。雷烈様、優。どうか力を貸しください」
「もちろんだ。あやつのために庸国の後宮は呪いがうずまく恐ろしい場所となってしまったのだから。皇帝である俺が退治してやらねばならぬ」

 雷烈の母親から受け継いだ鬼の力も、琳淑妃──その正体は天御門琳子の体と心を長年乗っ取っていた九尾の狐──がいなければ、鬼の力は目覚めることなく眠っていたことだろう。雷烈の鬼の力の覚醒という危機は九尾の狐のせいでもあったのだ。
 星は心を落ち着かせるため一呼吸すると、栄貴妃の体の近くで待機していた石の式神人形に命じた。

「天御門星が命ずる。石の式神よ、琳子様の体を抑えよ」

 命令を受けた石の式神人形の体はむくむくと大きくなり、星と同じぐらいの背丈になった。そしてすぐに琳子の体に飛びつき、抱きかかえるようにしてしっかりと抑え込んだ。万が一、九尾の狐が騒ぎ出して琳子の体を再び乗っ取った時の対策だ。

「天御門星が命ずる。式神優よ、琳子様の御体に巣食う邪悪な九尾の狐を追い祓え!」

 小さな優の姿をした式神は命令を聞くなり、疾風のごとく飛び、琳子の前に到着した。手を合わせて祈りを捧げる琳子を見つめ、にこりと微笑むと、同じように手を合わせ祈り始めた。
 無理やり追い祓おうとするのではなく、相手の望みをできるだけ聞いて、納得させたうえで祓っていた優しい優の姿そのものだった。
 星も琳子、優と同じように手を合わせ祈りを捧げ始める。その祈りには邪念も恨みもない。ただ祓い清めたまえと天に向かって祈り続けるのみ。だが清らかな祈りは、悪しき存在にとっては呪いに近い不快感を与える。
 天御門 琳子あまみかど りんこ天御門 優あまみかど ゆうそして天御門 星あまみかど せい
 世代や姿は違えど、天御門家の三人の陰陽師、そして呪封師の力は絶大だ。
 やがて手を合わせ祈りを捧げていた琳子の体が、がたがたと震え始めた。

『うあぁぁ! く、くるしいぃ~』

 かっと目を見開き、白目をむいた琳子が苦しげに叫ぶ。その声は天御門琳子ではなく、九尾の狐のものだ。

『やめろぉぉ! わらわを琳子の体から追い祓えば、琳子の体はすぐに塵と化すのだぞ? 星よ、おまえは優しい子だ。哀れな琳子を救ってやりたいであろう? 死なせたくないと思うならば、今すぐ祈るのをやめろぉぉ!』

 どれだけ情に訴えかけられようと、星はもう迷わなかった。
 天御門琳子の魂を救済すること。それが琳子の何よりの望みなのだから。

『ぐああっ!! お、おのれぇぇ~!』

 琳子の体の中で必死に抵抗していた九尾の狐だったが、ついに耐えられなくなったようだ。
 星はその時を見逃さなかった。衣の一部を破り取ると、すばやく霊符を作り出して叫んだ。

「呪封術星の印・解!」

 霊符を琳子に向けて投げつける。霊符はひらりと飛んで琳子の額に貼りつき、光り輝く五芒星ごぼうせいとなって琳子の体をつつみ込む。五芒星は琳子の肉体に呪封術で封印していた九尾の狐をしっかりと捕らえ、少しずつ引き剥がしていく。琳子が呪封術をかけてから長い年月が経っているが、それでもその封印は強固で、星であってもすぐには九尾の狐を追い祓えないのだ。

(あとすこし……! お願い、もって、私の体)

 散々いたぶられていた星の体は、立っているのもやっとなほどの疲労している。体に感じるあまりの衝撃に、吹き飛ばされそうになった星の体を雷烈がしっかりと支えてくれた。

「星、最期の踏ん張り時だ! 何があっても俺が支えてやるから、思いっきりやれ!」
「はい、雷烈様!」

 星と雷烈、そして星によって造り出された式神の優と石の式神人形。
 それぞれの力が呼応して共鳴し、琳子の体から引き離されまいと抵抗する九尾の狐に最後の攻撃をする。

『ああああああああ!』

 雄叫びをあげながら、九尾の狐がようやく琳子の体から離れた。
 九本の尾をもつ白い狐が、星と雷烈の前に姿を現した。強い妖気を感じるが、琳子の目論見通り、琳子の体から離れたことで力が半減したようだ。最強のあやかしというほどの妖力は感じられない。

『おのれ、おのれ、おのれぇぇ! こうなれば星、おまえの体を支配してやるぅ!』
 
 星に狙いを定め、襲いかかってくる九尾の狐。だが星には、もう向かってくる九尾の狐を相手できるほどの力が残っていなかった。

「下がっていろ、星。ここからは俺の出番だ」

 ふらつく星を守るように、雷烈が九尾の狐の前に立ちはだかる。

『邪魔をするなら、おまえにとりついてやるぞ、雷烈!』
「できるものならやってみるがいい。おまえごときに支配される俺ではない」
『人間ごときが生意気な口をききおって!』

 標的を雷烈に変えた九尾の狐は、ぱくりと大きな口を開けて雷烈に猛進してくる。
 
「ら、雷烈様、にげて……逃げてぇ!」

 雷烈を助けるだけの力が残ってない星は、懸命に叫んだ。

「心配するな、星。俺はこのような卑劣な化け物に負けはしない!」

 九尾の狐がすぐ近くまで来ても、雷烈は決して逃げようとはしなかった。眼前に九尾の狐が来ると、雷烈は誇り高く宣言した。
 
「人の想いを利用して、人間を支配する姑息な化け物よ。ここが貴様の最後だ」
『ほざけ! 人間のようなちっぽけの存在は我ら妖狐に使われるだけありがたいと思え!』
「では来世ではちっぽけな人間に生まれ変わり、地に這いつくばって生きてみるがいい!」

 雷烈は隠し持っていた剣を抜くと、九尾の狐の体めがけて飛びかかった。
 雷烈が剣を持っていると思わなかった九尾の狐は抵抗することさえできず、雷烈に一刀両断にされた。

『ぎゃあああ!』

 のたうち回って苦しむ九尾の狐だが、その場から逃げようとしているのか、よろめきながら立ち上がった。

「逃がしはせぬ! 成敗すると言ったはずた」
 
 雷烈はさらに剣を九尾の狐に向けて振り下ろす。雷烈の目が赤く光っている。雷烈に眠る鬼の力が目覚めているようだ。すると雷烈に斬られた箇所から火が燃え上がった。鬼の力が剣へと注ぎ込まれたことで、雷烈の新しい力、鬼火となったのだ。九尾の狐の体は徐々に炎に包まれていく。

『おのれ、たとえこの体は滅びようと、いつか必ずまた蘇ってやるぅぅ~』

 断末魔の叫びをあげながら、九尾の狐はゆっくりと燃え尽きていった。ついに九尾の狐は星と雷烈によって滅ぼされたのだ。
 

 



 

 

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