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第五章 繋がる心
星と雷烈の決意
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「私にはできません、琳子様……だってそんなことをしたら、今度こそ本当に琳子様が生きていた証しが何もなくなってしまう……」
不吉な存在とされ、生まれてからずっと隠されて生きてきた星にとって、始祖ともいうべき琳子を滅ぼすことはどうしてもできなかった。あまりにも自分と似ているからだ。
『何もかも、わたしと兄から始まったことで申し訳ない。だがな、これだけは伝えておきたい。男女の双子の妹を不吉な存在として扱ったのは、おまえが憎かったからではない。その逆なのだ』
「逆? それはどういう意味ですか?」
『それは天御門家の双子の女子を守るためだ。男女の双子が生まれた場合、わたしのように呪封師としての才能に恵まれている可能性が高い。だがそれは同時に、強いあやかしに狙われる可能性が高くなるということだ。だから生まれてすぐに殺したと見せかけて、実際は養子に出すか、隠して育てていたはずだ。体と心を九尾の狐に乗っ取られる前に兄の晴人から聞いたことだから、たぶん間違ってないと思う……』
「守る……? 天御門家が私を?」
生まれてきたことを家族に喜ばれることなく、その存在をずっと疎まれていたと星は思っていた。だが真実は違ったのだ。
『その証拠に、星の兄だけはずっと優しかったのだろう? 星の双子の兄は家族の、そして天御門家の思いを受けて秘かにずっと星のことを守っていたのだと思う』
だからこそ星の双子の兄の優は妹に様々な知識を学ばせ、何かあった時に自分を守れるように陰陽師としての知識を星に伝えたのだ。本当に不吉な存在と考えていたなら、何一つ学ばせなかったことだろう。
「私は守られていた……生まれてきても良かったのね、私……」
星は自らの体をそっと抱きしめた。
生まれてきて良かった。初めて心からそう思えた。
楽しいことは少なく、辛いことの多い世の中だが、それでも生きていく意味はある、きっと。
星は生まれて初めて、辛くとも生きていくことの尊さを感じた。
「大切なことを教えていただきありがとうございます、琳子様。でもだからこそ私にはできません。だって私が琳子様を殺してしまうようなものだもの……」
愛する人が待つ天に逝きたいと願う琳子の気持ちは痛いほど理解できる。
だが琳子の体から九尾の狐を追い祓ってしまえば、肉体も魂も滅んでしまうことになる。星にはどうしても決断できなかった。
『天御門琳子が生きてきた歴史も名も完全になくなってしまうことを憂いてくれているのか? 星は優しい子だね。だがな、わたしはもう楽になりたい……。もうこれ以上、わたしの体を九尾の狐に利用されたくないのだ』
九尾の狐に肉体を乗っ取られ、利用され続ける苦しみはいかほどのものか。想像するだけで胸が苦しくなる。
「で、でも……」
どうしても決断できない星の背中を押すように、力強い声が響いた。
「天御門琳子を地獄から救ってやれるのはおまえだけだ、星」
それは星が、死ぬ前にもう一度だけ会いたかった人の声。惹かれては駄目だと思うのに、強靭な精神力と崇高な使命感にあふれた人だと感じるほど、たまらなく好きになってしまった愛しい男性──庸国の若き皇帝。
「雷烈様!」
「星、到着するのが遅くなってすまない。話はある程度聞いていた。星のことをずっと探していたが、おまえが送ってくれたコレのおかげでようやく居所を知ることができた」
「星が送ってくれたコレ」とは、すなわち星が造り出した星だけの式神。双子の兄である優の姿をした、小さな人形のような式神のことだ。
小さな優の姿をした式神は、雷烈の肩にちょこんと座っている。
(ああ、優が、死んだ兄様が雷烈様と共に私を助けに来てくれた……)
星にはそうとしか思えなかった。
いかに兄の姿をしていても、実際は式神でしかないことは星にもよくわかっている。だが衰弱した星には、二人の姿が心が震えるほど嬉しく、頼もしいのもまた事実だ。
「式神です。私が造り、雷烈様にお伝えするよう命じました」
「式神か。なぜ男の姿をしているのか、詳しいことは後で聞こう。それよりも星、天御門琳子の願いを叶えてやれ。それが天御門家の最後のひとりとなった星がすべきことだ」
「私がすべきこと、ですか? 雷烈様」
「そうだ。星にしかできないことだ」
「ですが琳子様の存在がすべて消えてしまうんですよ、そんな哀しいこと私には……」
「消えはしないさ。ここに残る。おまえの心にな」
星の胸元に向けて、雷烈は指さした。
「私の心……?」
「そうだ。おまえが天御門琳子が確かに生きていたことを胸に刻み込んで、しっかりと残りの人生を生きていけばいい。それが一番の供養にもなる。肉体と魂を乗っ取られた地獄の苦しみから、天御門琳子を救ってやれ、星」
天御門琳子の体と魂がこの世から抹消されてしまう悲劇ばかり考えていた星だったが、雷烈は琳子の魂を救済することを第一に考えるべきだと教えてくれているのだ。
(そうだ……琳子様の立場があまりに私と似ているから、琳子様を失いたくないと思ってしまったけれど、琳子様を九尾の狐から解放してさしあげなくては。それは天御門家の最後の生き残りである私にかできない!)
「正しき道にお導きいただき感謝いたします、雷烈様。私はもう迷いません! 琳子様のお体から、悪しき九尾の狐を追い祓ってみせます」
「俺も力を貸すぞ、星」
衰弱した体を支えるように、雷烈は星にぴたりと寄り添った。
「はい、お願いいたします!」
すると雷烈の肩に座っている優の姿をした式神が、「僕も!」と言わんばかりに立ち上がった。
「そうだね、優。兄様も一緒だ。みんなで琳子様の魂をお救いしよう!」
不吉な存在とされ、生まれてからずっと隠されて生きてきた星にとって、始祖ともいうべき琳子を滅ぼすことはどうしてもできなかった。あまりにも自分と似ているからだ。
『何もかも、わたしと兄から始まったことで申し訳ない。だがな、これだけは伝えておきたい。男女の双子の妹を不吉な存在として扱ったのは、おまえが憎かったからではない。その逆なのだ』
「逆? それはどういう意味ですか?」
『それは天御門家の双子の女子を守るためだ。男女の双子が生まれた場合、わたしのように呪封師としての才能に恵まれている可能性が高い。だがそれは同時に、強いあやかしに狙われる可能性が高くなるということだ。だから生まれてすぐに殺したと見せかけて、実際は養子に出すか、隠して育てていたはずだ。体と心を九尾の狐に乗っ取られる前に兄の晴人から聞いたことだから、たぶん間違ってないと思う……』
「守る……? 天御門家が私を?」
生まれてきたことを家族に喜ばれることなく、その存在をずっと疎まれていたと星は思っていた。だが真実は違ったのだ。
『その証拠に、星の兄だけはずっと優しかったのだろう? 星の双子の兄は家族の、そして天御門家の思いを受けて秘かにずっと星のことを守っていたのだと思う』
だからこそ星の双子の兄の優は妹に様々な知識を学ばせ、何かあった時に自分を守れるように陰陽師としての知識を星に伝えたのだ。本当に不吉な存在と考えていたなら、何一つ学ばせなかったことだろう。
「私は守られていた……生まれてきても良かったのね、私……」
星は自らの体をそっと抱きしめた。
生まれてきて良かった。初めて心からそう思えた。
楽しいことは少なく、辛いことの多い世の中だが、それでも生きていく意味はある、きっと。
星は生まれて初めて、辛くとも生きていくことの尊さを感じた。
「大切なことを教えていただきありがとうございます、琳子様。でもだからこそ私にはできません。だって私が琳子様を殺してしまうようなものだもの……」
愛する人が待つ天に逝きたいと願う琳子の気持ちは痛いほど理解できる。
だが琳子の体から九尾の狐を追い祓ってしまえば、肉体も魂も滅んでしまうことになる。星にはどうしても決断できなかった。
『天御門琳子が生きてきた歴史も名も完全になくなってしまうことを憂いてくれているのか? 星は優しい子だね。だがな、わたしはもう楽になりたい……。もうこれ以上、わたしの体を九尾の狐に利用されたくないのだ』
九尾の狐に肉体を乗っ取られ、利用され続ける苦しみはいかほどのものか。想像するだけで胸が苦しくなる。
「で、でも……」
どうしても決断できない星の背中を押すように、力強い声が響いた。
「天御門琳子を地獄から救ってやれるのはおまえだけだ、星」
それは星が、死ぬ前にもう一度だけ会いたかった人の声。惹かれては駄目だと思うのに、強靭な精神力と崇高な使命感にあふれた人だと感じるほど、たまらなく好きになってしまった愛しい男性──庸国の若き皇帝。
「雷烈様!」
「星、到着するのが遅くなってすまない。話はある程度聞いていた。星のことをずっと探していたが、おまえが送ってくれたコレのおかげでようやく居所を知ることができた」
「星が送ってくれたコレ」とは、すなわち星が造り出した星だけの式神。双子の兄である優の姿をした、小さな人形のような式神のことだ。
小さな優の姿をした式神は、雷烈の肩にちょこんと座っている。
(ああ、優が、死んだ兄様が雷烈様と共に私を助けに来てくれた……)
星にはそうとしか思えなかった。
いかに兄の姿をしていても、実際は式神でしかないことは星にもよくわかっている。だが衰弱した星には、二人の姿が心が震えるほど嬉しく、頼もしいのもまた事実だ。
「式神です。私が造り、雷烈様にお伝えするよう命じました」
「式神か。なぜ男の姿をしているのか、詳しいことは後で聞こう。それよりも星、天御門琳子の願いを叶えてやれ。それが天御門家の最後のひとりとなった星がすべきことだ」
「私がすべきこと、ですか? 雷烈様」
「そうだ。星にしかできないことだ」
「ですが琳子様の存在がすべて消えてしまうんですよ、そんな哀しいこと私には……」
「消えはしないさ。ここに残る。おまえの心にな」
星の胸元に向けて、雷烈は指さした。
「私の心……?」
「そうだ。おまえが天御門琳子が確かに生きていたことを胸に刻み込んで、しっかりと残りの人生を生きていけばいい。それが一番の供養にもなる。肉体と魂を乗っ取られた地獄の苦しみから、天御門琳子を救ってやれ、星」
天御門琳子の体と魂がこの世から抹消されてしまう悲劇ばかり考えていた星だったが、雷烈は琳子の魂を救済することを第一に考えるべきだと教えてくれているのだ。
(そうだ……琳子様の立場があまりに私と似ているから、琳子様を失いたくないと思ってしまったけれど、琳子様を九尾の狐から解放してさしあげなくては。それは天御門家の最後の生き残りである私にかできない!)
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「俺も力を貸すぞ、星」
衰弱した体を支えるように、雷烈は星にぴたりと寄り添った。
「はい、お願いいたします!」
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