男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

文字の大きさ
37 / 42
第五章 繋がる心

星と雷烈の決意

しおりを挟む
「私にはできません、琳子様……だってそんなことをしたら、今度こそ本当に琳子様が生きていた証しが何もなくなってしまう……」

 不吉な存在とされ、生まれてからずっと隠されて生きてきた星にとって、始祖ともいうべき琳子を滅ぼすことはどうしてもできなかった。あまりにも自分と似ているからだ。

『何もかも、わたしと兄から始まったことで申し訳ない。だがな、これだけは伝えておきたい。男女の双子の妹を不吉な存在として扱ったのは、おまえが憎かったからではない。その逆なのだ』
「逆? それはどういう意味ですか?」
『それは天御門家の双子の女子を守るためだ。男女の双子が生まれた場合、わたしのように呪封師としての才能に恵まれている可能性が高い。だがそれは同時に、強いあやかしに狙われる可能性が高くなるということだ。だから生まれてすぐに殺したと見せかけて、実際は養子に出すか、隠して育てていたはずだ。体と心を九尾の狐に乗っ取られる前に兄の晴人から聞いたことだから、たぶん間違ってないと思う……』
「守る……? 天御門家が私を?」

 生まれてきたことを家族に喜ばれることなく、その存在をずっと疎まれていたと星は思っていた。だが真実は違ったのだ。

『その証拠に、星の兄だけはずっと優しかったのだろう? 星の双子の兄は家族の、そして天御門家の思いを受けて秘かにずっと星のことを守っていたのだと思う』

 だからこそ星の双子の兄の優は妹に様々な知識を学ばせ、何かあった時に自分を守れるように陰陽師としての知識を星に伝えたのだ。本当に不吉な存在と考えていたなら、何一つ学ばせなかったことだろう。

「私は守られていた……生まれてきても良かったのね、私……」

 星は自らの体をそっと抱きしめた。
 生まれてきて良かった。初めて心からそう思えた。
 楽しいことは少なく、辛いことの多い世の中だが、それでも生きていく意味はある、きっと。
 星は生まれて初めて、辛くとも生きていくことの尊さを感じた。

「大切なことを教えていただきありがとうございます、琳子様。でもだからこそ私にはできません。だって私が琳子様を殺してしまうようなものだもの……」

 愛する人が待つ天に逝きたいと願う琳子の気持ちは痛いほど理解できる。
 だが琳子の体から九尾の狐を追い祓ってしまえば、肉体も魂も滅んでしまうことになる。星にはどうしても決断できなかった。

『天御門琳子が生きてきた歴史も名も完全になくなってしまうことを憂いてくれているのか? 星は優しい子だね。だがな、わたしはもう楽になりたい……。もうこれ以上、わたしの体を九尾の狐に利用されたくないのだ』

 九尾の狐に肉体を乗っ取られ、利用され続ける苦しみはいかほどのものか。想像するだけで胸が苦しくなる。

「で、でも……」

 どうしても決断できない星の背中を押すように、力強い声が響いた。

「天御門琳子を地獄から救ってやれるのはおまえだけだ、星」

 それは星が、死ぬ前にもう一度だけ会いたかった人の声。惹かれては駄目だと思うのに、強靭な精神力と崇高な使命感にあふれた人だと感じるほど、たまらなく好きになってしまった愛しい男性──庸国の若き皇帝。

「雷烈様!」
「星、到着するのが遅くなってすまない。話はある程度聞いていた。星のことをずっと探していたが、おまえが送ってくれたコレのおかげでようやく居所を知ることができた」

「星が送ってくれたコレ」とは、すなわち星が造り出した星だけの式神。双子の兄である優の姿をした、小さな人形のような式神のことだ。
 小さな優の姿をした式神は、雷烈の肩にちょこんと座っている。

(ああ、優が、死んだ兄様が雷烈様と共に私を助けに来てくれた……)

 星にはそうとしか思えなかった。
 いかに兄の姿をしていても、実際は式神でしかないことは星にもよくわかっている。だが衰弱した星には、二人の姿が心が震えるほど嬉しく、頼もしいのもまた事実だ。

「式神です。私が造り、雷烈様にお伝えするよう命じました」
「式神か。なぜ男の姿をしているのか、詳しいことは後で聞こう。それよりも星、天御門琳子の願いを叶えてやれ。それが天御門家の最後のひとりとなった星がすべきことだ」
「私がすべきこと、ですか? 雷烈様」
「そうだ。星にしかできないことだ」
「ですが琳子様の存在がすべて消えてしまうんですよ、そんな哀しいこと私には……」
「消えはしないさ。ここに残る。おまえの心にな」

 星の胸元に向けて、雷烈は指さした。

「私の心……?」
「そうだ。おまえが天御門琳子が確かに生きていたことを胸に刻み込んで、しっかりと残りの人生を生きていけばいい。それが一番の供養にもなる。肉体と魂を乗っ取られた地獄の苦しみから、天御門琳子を救ってやれ、星」

 天御門琳子の体と魂がこの世から抹消されてしまう悲劇ばかり考えていた星だったが、雷烈は琳子の魂を救済することを第一に考えるべきだと教えてくれているのだ。

(そうだ……琳子様の立場があまりに私と似ているから、琳子様を失いたくないと思ってしまったけれど、琳子様を九尾の狐から解放してさしあげなくては。それは天御門家の最後の生き残りである私にかできない!)

「正しき道にお導きいただき感謝いたします、雷烈様。私はもう迷いません! 琳子様のお体から、悪しき九尾の狐を追い祓ってみせます」 
「俺も力を貸すぞ、星」

 衰弱した体を支えるように、雷烈は星にぴたりと寄り添った。

「はい、お願いいたします!」

 すると雷烈の肩に座っている優の姿をした式神が、「僕も!」と言わんばかりに立ち上がった。

「そうだね、優。兄様も一緒だ。みんなで琳子様の魂をお救いしよう!」




 
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...