ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ

文字の大きさ
20 / 44
第二章 新たな生活とじゃがいも料理あらかると

さちの美しき変身

しおりを挟む
「『じゃが芋のサラド』って、結構大変でやんすねぇ」

 さちの料理作りを手伝っていた一つ目小僧が、ふぅとため息をついた。

「一つ目ちゃん、疲れちゃった? ごめんね」
「ごちそうになってばかりでは申し訳ないでやんすから。でもこれは材料をそれぞれ用意するだけでも、なかなか面倒でやんすね」

 料理をしたことのない一つ目小僧は、野菜を刻んだり、潰したり、ボイルド・マヨネーズ・ソースを別に作ったりと、作業が分担されることに慣れていないようだ。

「作り方は難しくないけど、細々と用意しないといけないものね」
「あとは潰したじゃが芋と刻んだ野菜に、マヨネーズソースとやらを合わせれば、できあがりでやんすね」
「そうよ。混ざり具合をみながら、少しずつ混ぜていくの」
「そしたら、できあがり?」
「ええ。味見して塩と胡椒をふったら、できあがりよ」
「やっと休めるでやんすねぇ」
「一つ目ちゃんは休んでいて。私はあとはコロッケとスープを作るから」
「ええっ! ま、まだ作るでやんすか?」

 よほど驚いたのか、一つしかない大きな目がこぼれ落ちそうだ。

「コロッケはぬらりひょん様や一つ目ちゃん、油すましさんに初めて食べていただいた思い出の料理だもの。喜んでもらえるなら、私はいくらでもお作りするわ」
「さち姐さん……」

 休むことなく、さちは次のコロッケとスープ作りにとりかかる。

「わかりやした。おいらも手伝うでやんす。じゃがいもを潰すのは、おいらに任せてくだせぇ!」
「ありがとう、一つ目ちゃん」

 じゃがいも料理のフルコースであったが、さちは思いを込めて料理を作っていく。それが大切な方へ気持ちを伝える、たったひとつの方法だと、さちは思うからだ。




「おやびん、今日はごちそうでやんすよ!」

 すべての料理ができあがったところで、一つ目小僧がぬらりひょんを呼びに行くと、いつの間にか油すましも来ていた。

「あれ、油すましの旦那も来ていたでやんすか。美味いものの匂いに敏感でやんすねぇ」
「おまえに言われたくないぞ、一つ目小僧。美味いものに目がないのはおまえだろう?」
「おいらはちゃ~んと、さち姐さんの手伝いをしやしたから! ごちそうを食べる権利がありますぜ」
「ふん、何をえらそうに」

 一つ目小僧と油すましが言い合いをしている横で、ぬらりひょんはきょろきょろと周囲を見渡している。

「ところで、一つ目。さちはどこへ行ったのだ?」
「さち姐さんなら、おりんさんに呼ばれてますぜ。なんでもさち姐さんを、『おめかし』させるって』
「おめかし?」

 一つ目小僧が軽く頷いた時だった。

「はーい、お待たせでーす」

 おりんの軽やかな声が響いた。おりんはにこやかに笑いながら、ぬらりひょんの元へ近づいてくる。

「おりん、さちはどこへ連れていった?」
「さちなら、ここにいますよ」
「ここ? どこだ?」

 おりんはちらりと横を見る。さちはすぐ隣の部屋にいるらしい。

「ほら、恥ずかしがってないで出ておいでよ。隠れてたら、ぬらりひょん様にごちそうをお出しできないだろ?」
「で、でも」
「ああ、もう! しょうがない子だねぇ。ほら、さっさと出ておいで!」
「あっ!」

 おりんは隣の部屋に顔をつっこむと、隠れて出てこないさちの腕を引っ張った。おずおずと姿を見せたさちが顔をあげた瞬間、おりん以外の者は息をのんだ。

「さち、おまえ……」

 ぬらりひょんはそこまで呟くのがやっとだった。

 ようやく姿を見せたさちは、これまでのさちとはまるで違っていた。
 いままでのさちは、動きやすい簡素な着物に、髪は紐で結わえただけという、九桜院家で働いていた頃と変わらない服装だった。それで困ったことはないし、他の着物を求めたこともなかった。華やかな着物を、自分ごときが求めてはいけないとさえ思っていた。

 今、ぬらりひょんの目の前にいるさちは、可憐で美しかった。信じられないほどに。
 あでやかな真紅の着物がよく似合っている。髪もおろし、着物と同じ色のリボンで結わえていた。化粧もしているようで、おしろいの香りがほのかに感じられ、唇はさくら色だ。少女の愛らしさと女性のあでやかさを合わせ持ち、胸に秘める熱い想いが、さちの美しさを華麗に彩る。

 その場にいる全員が、言葉を失っていた。それほどにさちは美しかったのだ。素朴な少女でしかなかったさちが、恋によって美しさを開花させ、しとやかな大人の女へと成長しつつあった。

「あ、あの、ぬらりひょん様……? 私、そんなに変ですか……?」

 頬を赤く染め、おずおずと尋ねる。

「ん? あ、ああ。そ、そんなことはないぞ、よく似合っている」

 呆けた顔でさちを見つめていたぬらりひょんだったが、さちの問いに慌てて返事をした。

「本当ですか?」

 頬に手を当てたさちは花が咲くがごとく、優雅に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

処理中です...