あおとみずいろと、あかいろと

蒼真まこ

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あかの章 朱里

わたしとおじさん

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 私には、顔が同じ父親が二人いる。
 正しくは顔は似ているだけで同じではない。実の父もひとりだけだ(当然だけれど)

 でも幼い頃は「お父さんが二人いる」と思ってしまっていた。わりと本気で。だってふたりは、それほどそっくりだったから。
 正確には写真でしか見たことがない男が、実の父親だ。父の双子の兄である青葉おじさんが私を育ててくれた。
 父とおじさんの顔がとてもよく似ていたので、「お父さんは二人いる」と思ってしまったのだ。

 実の父親と、育ててくれた人が違うだけの話だ。けれどふたりが一卵性の双子兄弟で、顔立ちがよく似ていたから混乱してしまったのだと思う。幼い頃のことだから、少々複雑な家族環境なんて理解できないもの。
 実の父とは会ったことがないから尚更だ。
 父だけでなく、私は実の母親にも会ったことがない。私が生まれたすぐに亡くなってしまったそうだ。
 
 そんな生い立ちだからか、私の境遇を知った友達や周囲の大人たちは複雑な顔をする。

「ごめんね。何も知らなくて」
「大変だね」
「苦労してるのね……」

 同情なのか、哀れみなのか、悲しげな顔をされるのだ。
 どうやら、「かわいそう」と思われているらしい。私には理解できなかった。だって青葉おじさんとの生活はとても快適で、私は幸せだったから。おじさんは優しくて料理が上手で、おまけにカッコイイ。おじさんとの生活は満ち足りていて、私の生活に何ひとつ不満はない。
 友達にどれだけ自分が幸せかをアピールしても、「無理しなくていいよ」と言われてしまう。自分を理解してくれない友達への不満が増していった私は、ひとつの計画を立ち上げた。
 友達の親も来る小学校の授業参観で、『家族』というテーマの作文を読む。タイトルは、「わたしとおじさん」だ。
 おじさんとの生活がどれだけ幸せかを、先生やクラスの子に教えてあげたかった。今思えば、子供らしい自慢話をしたかっただけなのだけれど、この時の私は妙な使命感に燃えていた。

「わたしとおじさん。わたしの本当のお父さんは海の向こうにいて、会ったことがありません。わたしはお父さんの双子の兄である青葉おじさんと一緒に暮らしています。おじさんは優しくて、料理上手で、おじさんとの毎日はとても楽しいです。わたしは、と~っても、幸せです」

 「と~っても」に特に力を入れ、いかにわたしが幸せかをみんなに話して聞かせた。羨望の眼差しで見てくれるものと信じて疑わなかった私は、作文を読み終え、得意満面にクラスを見渡した。

 しかし。クラスの子たちは、どう反応していいのかわからない様子だった。授業参観に来た保護者たちは、親同士でひそひそと話し合うだけで羨望の眼差しなんて、ひとかけらもない。若い担任の先生は、ざわつく教室をおろおろと見つめるばかりだった。

 あれ? わたし、何かまちがえた?

 急に不安になったわたしは、おじさんを探した。おじさんなら、きっと助けてくれる。そう思ったとき、震える私の肩を大きくて温かな手が包みこんだ。おじさんだ!
 顔をあげると、おじさんはわたしの後ろに立っていた。「もう、大丈夫」と言わんばかりに、わたしの頭を優しく撫でる。

「先生、保護者の皆様。少しだけお時間をいただいてよろしいでしょうか?」

 おじさんがにっこりと、先生と保護者のお母さんたちに微笑んだ。
 当時のおじさんは、子供たちから見ても若くて美形だった。スタイルも良くて、かっこよかったのだ。おまけに今日は粋なスーツで、びしっとキメている。
 美形の微笑みに、先生も保護者のお母さんたちも、一瞬見惚れてしまった。

芹沢朱里せりざわ あかりの叔父、芹沢青葉せりざわ あおばです。朱里の父は、私の双子の弟です。弟は海外を飛び回る仕事をしております。子供を連れ歩くには危険を伴いますので、弟に代わり私が朱里を養育しています。朱里と私、ふたりでささやかに暮らしておりますので、ご理解いただけますと幸いです。よろしくお願い致します」

 深々と頭を下げ、顔をあげた瞬間、またにっこりと微笑む。
 ほぅ……というため息が聞こえてくる。
 うん、やっぱりおじさんの微笑みは無敵なんだ。大人たちは特におじさんの微笑に弱いのだ。

 こうして先生やクラスの子たち、そして保護者たちの理解を得ることに成功したおじさんは、優しくわたしの頭をなでて、「よかったな、朱里」と微笑む。

 おじさんはやっぱりカッコいい。見てよ、これがわたしのおじさんだよ? イケメンでしょ? 鼻息荒く、周囲を見渡す。クラスの女子たちが、私の狙い通り、おじさんをうっとりと見つめている。

 おじさんの手助けで皆の憧れを手にしたように思えた当時の私は、「おじさん大好き」がさらに加熱することになるのだった。

 おじさんのことが大好きで、ちょっぴりおバカだった幼い私の恥ずかしい記憶。けれど大切な思い出でもあった。
 
 
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