12 / 70
あかの章 朱里
たすけて
しおりを挟む
私は本当にいらない子だった。だから父は私を捨てて海外に行ってしまったんだ。
私が父を誤解しているだけで、本当は違うと思いたかった。けれど理由を聞かされたことで、誤解ではなくすべて真実だとわかってしまった。
こんなの、あんまりだ。真実を知りたいなんて思った自分がバカだった。
「朱里? どうした、何かあったのか?!」
私の叫び声を聞いてしまったのか、おじさんが菜箸を持ったまま、居間へと飛び込んできた。心配そうに私を見ている。ずっと私の傍にいて、私を守り続けてくれた人。その顔を見た途端、せきを切ったように涙があふれ出した。
「おじさぁんっ!」
幼子が親に助けを求めるように、おじさんの胸に飛び込んでいった。おじさんは菜箸を投げ捨て、両手で私をしっかりと受け止めてくれた。大きな手と逞しい胸元は切なくなるほど暖かい。
「水樹、おまえ、朱里に何をした!?」
私の頭を撫でながら、おじさんが父に問うた。
「話したんだ、朱里に」
「何を? 何をだ、水樹」
おじさんが珍しく苛立っているのを感じる。私を守るように、その腕に力がこもる。
「朱里が産まれたときに桃子が死んで、だから俺はおまえを殺そうとしたって」
私を抱くおじさんの体が、息をのむのがわかった。
「水樹っ!! おまえ、なんて馬鹿なことを。朱里にはまだ早すぎる。もっと大人になってから、いや、違う。一生秘密にしておくべきことだったのに」
おじさんの叫び声が、私の頭の中でこだまする。
え、ちょっと待って。ひょっとして、おじさんも……?
「おじさんも、知ってたの?」
おじさんの腕の中から、そっと顔を起こし、おじさんの顔を見つめる。
「朱里……」
おじさんが戸惑ったような表情を見せる。考えてみれば、あたりまえのことだ。父が私を殺そうとしたから、やむなく私を引き取ったんだ。父を人殺しにさせないように、姪である私が死なないように。全てを知っているからこそ、これまで私を優しく守ってきてくれたんだ。
「おじさん、全部知ってたのね? 知っていたのに、この人を家に招き入れたの? 私を殺そうとした人なのにっ!」
私を包み込むおじさんの両腕を振り払うと、涙をこぼしながらおじさんをにらみつけた。これまでただの一度も、おじさんを怒りの眼差しで見つめたことはない。
「朱里、それは違う、違うんだ」
荒れ狂う私を抱きしめて落ち着かせようと、おじさんが両腕を広げて近づいてくる。けれどもう私は、おじさんさえ信じられなかった。いつもみたいに、おじさんの腕にすがりつくことができない。
「朱里、お願いだから少し落ち着いて」
諭すように話すおじさんが、まったく知らない人に思える。私にとって、この世で一番信頼できる人だったのに。おじさんの横に立ち尽くし、悲しい眼差しで見つめることしかできない父のように、見知らぬ他人に思えた。
「近づかないで!」
ゆっくり私に近づこうとしていたおじさんの体が、ぴたりと止まった。
「朱里……」
酷く辛そうな顔をしている。おじさんにこんな顔をさせたくなかったのに。大好きなおじさんを少しでも喜ばせたくて、父と思ったこともない男と仲良くしようと思ったのに。どうして、こんなことになってしまったのだろう?
「ひとりにさせて、おじさん。私、出かけてくる」
「朱里、そんな状態で外出して、もしも何かあったら」
「お願いだから、ひとりにさせてよっ!」
たまらず怒鳴ってしまった。おじさんに声を荒げたことなんてなかったのに。
「出かけてくる……」
とめどなくこぼれ落ちる涙をぬぐい取ると、スマホが入ったリュックをひっつかみ、外へ飛び出していった。外の風は冷たく、上着を忘れた私の体を容赦なく冷やしていく。
(だれか、助けて。お願い、誰か私の傍にいて)
心の中に浮かんだのは、ひとりの少年の姿だった。
私が父を誤解しているだけで、本当は違うと思いたかった。けれど理由を聞かされたことで、誤解ではなくすべて真実だとわかってしまった。
こんなの、あんまりだ。真実を知りたいなんて思った自分がバカだった。
「朱里? どうした、何かあったのか?!」
私の叫び声を聞いてしまったのか、おじさんが菜箸を持ったまま、居間へと飛び込んできた。心配そうに私を見ている。ずっと私の傍にいて、私を守り続けてくれた人。その顔を見た途端、せきを切ったように涙があふれ出した。
「おじさぁんっ!」
幼子が親に助けを求めるように、おじさんの胸に飛び込んでいった。おじさんは菜箸を投げ捨て、両手で私をしっかりと受け止めてくれた。大きな手と逞しい胸元は切なくなるほど暖かい。
「水樹、おまえ、朱里に何をした!?」
私の頭を撫でながら、おじさんが父に問うた。
「話したんだ、朱里に」
「何を? 何をだ、水樹」
おじさんが珍しく苛立っているのを感じる。私を守るように、その腕に力がこもる。
「朱里が産まれたときに桃子が死んで、だから俺はおまえを殺そうとしたって」
私を抱くおじさんの体が、息をのむのがわかった。
「水樹っ!! おまえ、なんて馬鹿なことを。朱里にはまだ早すぎる。もっと大人になってから、いや、違う。一生秘密にしておくべきことだったのに」
おじさんの叫び声が、私の頭の中でこだまする。
え、ちょっと待って。ひょっとして、おじさんも……?
「おじさんも、知ってたの?」
おじさんの腕の中から、そっと顔を起こし、おじさんの顔を見つめる。
「朱里……」
おじさんが戸惑ったような表情を見せる。考えてみれば、あたりまえのことだ。父が私を殺そうとしたから、やむなく私を引き取ったんだ。父を人殺しにさせないように、姪である私が死なないように。全てを知っているからこそ、これまで私を優しく守ってきてくれたんだ。
「おじさん、全部知ってたのね? 知っていたのに、この人を家に招き入れたの? 私を殺そうとした人なのにっ!」
私を包み込むおじさんの両腕を振り払うと、涙をこぼしながらおじさんをにらみつけた。これまでただの一度も、おじさんを怒りの眼差しで見つめたことはない。
「朱里、それは違う、違うんだ」
荒れ狂う私を抱きしめて落ち着かせようと、おじさんが両腕を広げて近づいてくる。けれどもう私は、おじさんさえ信じられなかった。いつもみたいに、おじさんの腕にすがりつくことができない。
「朱里、お願いだから少し落ち着いて」
諭すように話すおじさんが、まったく知らない人に思える。私にとって、この世で一番信頼できる人だったのに。おじさんの横に立ち尽くし、悲しい眼差しで見つめることしかできない父のように、見知らぬ他人に思えた。
「近づかないで!」
ゆっくり私に近づこうとしていたおじさんの体が、ぴたりと止まった。
「朱里……」
酷く辛そうな顔をしている。おじさんにこんな顔をさせたくなかったのに。大好きなおじさんを少しでも喜ばせたくて、父と思ったこともない男と仲良くしようと思ったのに。どうして、こんなことになってしまったのだろう?
「ひとりにさせて、おじさん。私、出かけてくる」
「朱里、そんな状態で外出して、もしも何かあったら」
「お願いだから、ひとりにさせてよっ!」
たまらず怒鳴ってしまった。おじさんに声を荒げたことなんてなかったのに。
「出かけてくる……」
とめどなくこぼれ落ちる涙をぬぐい取ると、スマホが入ったリュックをひっつかみ、外へ飛び出していった。外の風は冷たく、上着を忘れた私の体を容赦なく冷やしていく。
(だれか、助けて。お願い、誰か私の傍にいて)
心の中に浮かんだのは、ひとりの少年の姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
【完結】黒の花嫁/白の花嫁
あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。
だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。
しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。
それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。
そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。
秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。
絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
彼もまた、龍神――黒龍だった。
★ザマァは軽めです!
★後半にバトル描写が若干あります!
★他サイト様にも投稿しています!
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる