13 / 70
あかの章 朱里
彼の告白
しおりを挟む
歩きながらスマホを取りだし、震える手で電話をする。
「海斗、お願いだから出て。お願い……」
海斗、海斗に会いたい。いつも話を聞いてくれる照れ屋の少年。今の私が助けを求められる唯一の人。ようやく電話に出た海斗は、のんきな声で返事をした。
『朱里か? なんだよ、どうしたんだよ』
乱暴な言葉に反して、海斗の声は少しだけ嬉しそうだった。
「海斗、会いたい……」
『え?』
「かいとぉ~」
海斗の声を聞いた瞬間、止めたはずの涙がまたあふれ出した。
『朱里? おまえ、泣いてるのか?』
「だって止まんないんだもん、涙。会いたいよ、海斗……」
『わかった、すぐに行く。今いる場所を教えてくれ。そこから動くなよっ!』
近くの公園の場所を教えると、そこで待っているように言われた。止まらない涙を拭いながらしばらく待つと、着の身着のままといった様子の海斗が自転車で現れた。
「朱里っ!」
息も絶え絶えな海斗の様子から、彼がどれだけ必死で自転車を走らせてきたのか伝わってきた。私に会うためだと思うと、とても嬉しくて、また涙がこぼれる。
「海斗……私、『いらない子』だった。もしかしたらそうかも、って頭のどこかにあったけど、本当だった。私が産まれた時にお母さんが死んだんだって。私が産まれてきたせいだよね? だからお父さんは私を殺そうとしたって。私は生まれてきてはダメだったの、存在してたらダメな子だった」
涙ながらの説明だったから、話がよくわからなかったかもしれない。それでも海斗は一言も聞き返すことなく、黙って話を聞いてくれた。海斗は一瞬頭を抱え、「オレのせいだ」と小さく呟いた。彼もまた少し泣きそうな顔だった。たまらないといった様子で両手を広げると、私をそっと抱き寄せた。それはおじさん以外の男性に、初めて抱きしめられた瞬間だった。
「海斗……」
「朱里、ごめんな。オレが背中を押すようなことを言わなければ、朱里は泣かずにすんだのかもしれないのに」
「ちがう、海斗のせいじゃない。私が、私が悪いの。私がいらない子だったから」
「いらない子なんかじゃない!」
悲鳴のような声だった。抱きしめていた両腕をほどくと、私の肩に両手を置き、真っすぐに見つめてきた。切なくなるほど真剣な眼差しだった。
「朱里……オレはおまえが好きだ。最初は変なヤツって思ってたけど、気付いたらいつも朱里のことばかり考えてた。オレにはおまえが必要だ。だから、オレと付き合ってくれっ!」
それが愛の告白だということに気付くのに、しばらく時間が必要だった。だってあまりに突然のことだったから。でも少しも嫌ではなかった。
「なんで? なんで今言うのよぉ……」
「今言わなくて、いつ言うんだよっ。……ってか、言うことそれだけかよ? オレは朱里に出会えて、すごく嬉しいのに。朱里は違うのか?」
必死な海斗の様子が少しおかしくて、告白をさればかりだというのに、なぜだが笑えてしまった。涙は止まらなかったから、まさに泣き笑いだった。
「海斗ってば、おかしいの。そんな必死になって私を好きっていって」
「笑うなよぉ。これでも精一杯ロマンチックにしてるつもりなんだぞ」
ロマンチックの欠片もないのに、彼なりに必死に考えたらしい。無器用な優しさが嬉しかった。
「ありがと、海斗。私もね、海斗が好きだよ。今やっとわかった」
「朱里、本当か?」
「うん。海斗が好き」
「やったぁ! 朱里もオレを好きだって。って今は喜んでる場合じゃないな。ああ、でも嬉しいや。いかんいかん、今は喜ぶときじゃないぞ。しっかりしろ、海斗」
心底嬉しそうに笑ったかと思うと、その表情を急に引き締めたり、へにゃっと崩れたり。クラスで飄々としていた彼の姿からは想像もできない、海斗の百面相だった。その様子がおかしくて、私はまた笑った。ああ、どうして彼と一緒にいると、こんなにも嬉しくなってしまうんだろう?
「また笑ったな、朱里」
「ごめん。でも海斗の様子がおかしくて」
「おまえはそうやって笑っていたほうがいいよ。朱里に涙は似合わない」
「ふふふ、キザな台詞だね。漫画かなんかで見たの?」
「違うって。オレはこれでも真剣なんだぞ」
「ごめん、ごめん」
海斗がいてくれて良かった。彼がいなかったら、私にすぐに会いに来てくれなかったら、私はどうなっていたのかわからない。私も、海斗が好きだ。すごく好き。
「おかげで少し落ち着いた。海斗、ごめんね。また話を聞いてくれる? 今度は落ち着いて話すから」
「ああ、おまえの話ならいつでも聞いてやるよ」
頼もしい彼の言葉が、たまらなく嬉しかった。
「海斗、お願いだから出て。お願い……」
海斗、海斗に会いたい。いつも話を聞いてくれる照れ屋の少年。今の私が助けを求められる唯一の人。ようやく電話に出た海斗は、のんきな声で返事をした。
『朱里か? なんだよ、どうしたんだよ』
乱暴な言葉に反して、海斗の声は少しだけ嬉しそうだった。
「海斗、会いたい……」
『え?』
「かいとぉ~」
海斗の声を聞いた瞬間、止めたはずの涙がまたあふれ出した。
『朱里? おまえ、泣いてるのか?』
「だって止まんないんだもん、涙。会いたいよ、海斗……」
『わかった、すぐに行く。今いる場所を教えてくれ。そこから動くなよっ!』
近くの公園の場所を教えると、そこで待っているように言われた。止まらない涙を拭いながらしばらく待つと、着の身着のままといった様子の海斗が自転車で現れた。
「朱里っ!」
息も絶え絶えな海斗の様子から、彼がどれだけ必死で自転車を走らせてきたのか伝わってきた。私に会うためだと思うと、とても嬉しくて、また涙がこぼれる。
「海斗……私、『いらない子』だった。もしかしたらそうかも、って頭のどこかにあったけど、本当だった。私が産まれた時にお母さんが死んだんだって。私が産まれてきたせいだよね? だからお父さんは私を殺そうとしたって。私は生まれてきてはダメだったの、存在してたらダメな子だった」
涙ながらの説明だったから、話がよくわからなかったかもしれない。それでも海斗は一言も聞き返すことなく、黙って話を聞いてくれた。海斗は一瞬頭を抱え、「オレのせいだ」と小さく呟いた。彼もまた少し泣きそうな顔だった。たまらないといった様子で両手を広げると、私をそっと抱き寄せた。それはおじさん以外の男性に、初めて抱きしめられた瞬間だった。
「海斗……」
「朱里、ごめんな。オレが背中を押すようなことを言わなければ、朱里は泣かずにすんだのかもしれないのに」
「ちがう、海斗のせいじゃない。私が、私が悪いの。私がいらない子だったから」
「いらない子なんかじゃない!」
悲鳴のような声だった。抱きしめていた両腕をほどくと、私の肩に両手を置き、真っすぐに見つめてきた。切なくなるほど真剣な眼差しだった。
「朱里……オレはおまえが好きだ。最初は変なヤツって思ってたけど、気付いたらいつも朱里のことばかり考えてた。オレにはおまえが必要だ。だから、オレと付き合ってくれっ!」
それが愛の告白だということに気付くのに、しばらく時間が必要だった。だってあまりに突然のことだったから。でも少しも嫌ではなかった。
「なんで? なんで今言うのよぉ……」
「今言わなくて、いつ言うんだよっ。……ってか、言うことそれだけかよ? オレは朱里に出会えて、すごく嬉しいのに。朱里は違うのか?」
必死な海斗の様子が少しおかしくて、告白をさればかりだというのに、なぜだが笑えてしまった。涙は止まらなかったから、まさに泣き笑いだった。
「海斗ってば、おかしいの。そんな必死になって私を好きっていって」
「笑うなよぉ。これでも精一杯ロマンチックにしてるつもりなんだぞ」
ロマンチックの欠片もないのに、彼なりに必死に考えたらしい。無器用な優しさが嬉しかった。
「ありがと、海斗。私もね、海斗が好きだよ。今やっとわかった」
「朱里、本当か?」
「うん。海斗が好き」
「やったぁ! 朱里もオレを好きだって。って今は喜んでる場合じゃないな。ああ、でも嬉しいや。いかんいかん、今は喜ぶときじゃないぞ。しっかりしろ、海斗」
心底嬉しそうに笑ったかと思うと、その表情を急に引き締めたり、へにゃっと崩れたり。クラスで飄々としていた彼の姿からは想像もできない、海斗の百面相だった。その様子がおかしくて、私はまた笑った。ああ、どうして彼と一緒にいると、こんなにも嬉しくなってしまうんだろう?
「また笑ったな、朱里」
「ごめん。でも海斗の様子がおかしくて」
「おまえはそうやって笑っていたほうがいいよ。朱里に涙は似合わない」
「ふふふ、キザな台詞だね。漫画かなんかで見たの?」
「違うって。オレはこれでも真剣なんだぞ」
「ごめん、ごめん」
海斗がいてくれて良かった。彼がいなかったら、私にすぐに会いに来てくれなかったら、私はどうなっていたのかわからない。私も、海斗が好きだ。すごく好き。
「おかげで少し落ち着いた。海斗、ごめんね。また話を聞いてくれる? 今度は落ち着いて話すから」
「ああ、おまえの話ならいつでも聞いてやるよ」
頼もしい彼の言葉が、たまらなく嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる