43 / 70
みずいろの章 水樹
思いを告げて、心とけて
しおりを挟む
「桃子、好きだ。俺とつきあってほしい」
何のひねりもない、実にストレートな告白だった。
どう告白するか考えに考えたが、桃子に笑顔を向けられたとたん、全て吹き飛んでしまった。
我ながらなんとも情けない。結局、ごくありふれた言葉しか出てこなかったというわけだ。それでも逃げることなく告白できたことだけは、自分で自分をほめてやりたい気分だ。
「水樹が私を好き……? それって女の子として、って意味?」
「あ、あたりまえだろ。でなきゃ、『つきあってほしい』なんて言うかよ」
「そ、そっか……」
桃子の顔が、ぱっと赤くなった。自分でもそれがわかるのか、顔を手で覆い隠している。
ああ、可愛いな、桃子は。
「あ、あのね、水樹。返事は少し待ってくれる? 突然だったから少し考えたいの」
「お、おぅ。待つよ。返事はいつでもいいから」
「いつでもいい」とは言ったものの、本音はすぐにでも返事をもらいたい気分だ。けれど、ここで彼女を急かすわけにはいかない。俺は待つしかないんだ、男らしく。
それから数日間、桃子は俺の顔を見ると、はずかしそうに顔を背けるようになってしまった。可愛い仕草だとは思うけど、桃子がどんな答えを出すのか不安でたまらない。思い切って声をかけても、早々に離れていってしまう。
ダメなんだろうか? 俺、桃子にフラれるのかなぁ……。
待つと言った以上、どうなんだと迫るわけにもいかず、じりじり待ち続けるしかない。指折り数えながら、桃子の返事を待ち、ようやく彼女から声をかけてもらえたのは、告白から一週間が経っていた。
一週間ぶりに一緒に帰ることになったが、いつものように会話が弾はずまず、沈黙だけが流れていく。
やっぱりフラれるんだろうか?
「水樹、遅くなってごめんね。この前の返事なんだけど……」
桃子の足がぴたりと止まり、俺のほうに体を向ける。普段は見られない、桃子の真剣な眼差しだった。破滅へのカウントダウンのように、心臓が激しく音を立てている。
ああ、これはまちがいなく、ダメだ。きっとそうだ。
「あ、あのね……」
「いいんだ、気にすんな」
できるだけ男らしく、静かに立ち去ろうと思った。意地でもそれぐらいはやってやる。そんで、ひとりになったら泣くんだ……。
「? 私、まだ何も言ってないけど?」
「俺、フラれるんだろ?」
「誰に?」
「だから、桃子が俺を」
「あのねぇ。私、まだ何も言ってないよ? 本当に水樹は見かけによらず小心者ものなんだから」
「あっ、いつもの桃子だ」
皮肉っぽいことをさらりと口にする。まちがいなく、普段通りの桃子だった。
「私で良かったらお願いします」
すぐには意味がわからなかった。お願いします? 何を?
「ごめん、桃子。もう一回言って」
「もう! はずかしいんだから、何度も言わせないでよ。私で良かったら、おつきあいしてもいいよ、って言ってるの!」
腰に両手をそえ、ぷんと頬をふくらませる彼女。その仕草が、たまらなく愛らしい。
「それって、つまり。お断わりってことじゃなくて、桃子が俺とつきあうってこと……?」
桃子の頬が、みるみる赤く染まっていく。さすがに恥ずかしくなったのか、ぷいっと顔を横に向けた。
「だから、そうだって言ってるでしょ!」
「や……」
「や? 水樹、なに?」
俺の声を聞き取ろうと、桃子が耳を寄せた瞬間。
「や、やった~~!!! マジ、マジで俺と? うわぁぁぁ、ど、どうしょ! あああ、うれしいぃぃぃ!」
「ちょ、水樹。日本語になってないよ? 何言ってるのか全然わかんない」
「桃子、ありがとう! うわぁぁぁ、おまえが女神に思えるぅぅ! いや、ちがう、天使だ!」
どうしよう? うれしすぎて言葉にならない。決め台詞をいっぱい考えてたのに、全部吹っ飛んでしまった。
「ちょっと落ち着きなさいってば!」
桃子に背中をさすられ、ようやくこれは現実なんだと実感する。そう感じたとたん、今度は目に涙がたまってきた。これまでの緊張が一気に溶けていくのを感じる。
「俺、うれしすぎて泣けてくる……」
「今度は泣くの!?」
「だって、だってさ。絶対フラれるって思ってたもん……」
「もぉ! 水樹ってば叫んだり、笑ったり、泣いたりして、まるで子どもみたいね。かわいい」
「かわいいとか言うなよぉ。これでも男なんだってぇ」
「泣くのか、男らしさを主張するのか、どっちかにしてよ」
「そう言われてもぉ……」
一度あふれ出した涙は止まらず、小さな子どものように泣きじゃくる。ああ、情けねぇなぁ。ちっとも男らしくないよ。
「しょうがないなぁ。これなら少しは泣き止める?」
桃子は俺に寄りそうように体を寄せると、さっと俺の手を握った。柔らかくて、少し小さい手。温もりがゆっくりと伝わり、今度は体がかぁっと熱くなる。
「つ、つないでる。俺と桃子の手が! 恋人みたい!」
「だから私と水樹、恋人になるんでしょ? ちがうの?」
「ち、ちがわない! 俺と桃子、こいびと!」
「わかった、わかった。もう話さなくていいよ、水樹。時間はたっぷりあるんだもの。ゆっくりと、おつきあいしていこうよ。ね?」
幼子の手をひく母親のように、桃子は俺を手を握りしめたまま、ゆっくりと歩きだした。
ああ、桃子は俺を選んでくれたんだ。手の温もりが、これは夢じゃない、現実なんだって教えてくれる。
「俺、桃子、大事にする。ぜったい、泣かさない」
「泣いてる水樹に言われてもねぇ。でも嬉しいよ。そこまで喜んでくれると思わなかったから。これからよろしくね、水樹」
「うん、うん、うん」
「もう、いつまで泣いてるのよ? まるで私が、いじめてるみたいじゃない」
桃子は困ったように笑いながら、俺の涙をハンカチで拭いてくれた。
ごめんな、桃子。こんな情けない俺で。でも今だけは泣かせてくれ。うれしくて、うれしくて涙が止まらないんだよ。
こんなに幸せな涙があったのだと喜びにひたりながら、桃子と共に歩いた。
この道が永遠に続きますように、と願いながら。
何のひねりもない、実にストレートな告白だった。
どう告白するか考えに考えたが、桃子に笑顔を向けられたとたん、全て吹き飛んでしまった。
我ながらなんとも情けない。結局、ごくありふれた言葉しか出てこなかったというわけだ。それでも逃げることなく告白できたことだけは、自分で自分をほめてやりたい気分だ。
「水樹が私を好き……? それって女の子として、って意味?」
「あ、あたりまえだろ。でなきゃ、『つきあってほしい』なんて言うかよ」
「そ、そっか……」
桃子の顔が、ぱっと赤くなった。自分でもそれがわかるのか、顔を手で覆い隠している。
ああ、可愛いな、桃子は。
「あ、あのね、水樹。返事は少し待ってくれる? 突然だったから少し考えたいの」
「お、おぅ。待つよ。返事はいつでもいいから」
「いつでもいい」とは言ったものの、本音はすぐにでも返事をもらいたい気分だ。けれど、ここで彼女を急かすわけにはいかない。俺は待つしかないんだ、男らしく。
それから数日間、桃子は俺の顔を見ると、はずかしそうに顔を背けるようになってしまった。可愛い仕草だとは思うけど、桃子がどんな答えを出すのか不安でたまらない。思い切って声をかけても、早々に離れていってしまう。
ダメなんだろうか? 俺、桃子にフラれるのかなぁ……。
待つと言った以上、どうなんだと迫るわけにもいかず、じりじり待ち続けるしかない。指折り数えながら、桃子の返事を待ち、ようやく彼女から声をかけてもらえたのは、告白から一週間が経っていた。
一週間ぶりに一緒に帰ることになったが、いつものように会話が弾はずまず、沈黙だけが流れていく。
やっぱりフラれるんだろうか?
「水樹、遅くなってごめんね。この前の返事なんだけど……」
桃子の足がぴたりと止まり、俺のほうに体を向ける。普段は見られない、桃子の真剣な眼差しだった。破滅へのカウントダウンのように、心臓が激しく音を立てている。
ああ、これはまちがいなく、ダメだ。きっとそうだ。
「あ、あのね……」
「いいんだ、気にすんな」
できるだけ男らしく、静かに立ち去ろうと思った。意地でもそれぐらいはやってやる。そんで、ひとりになったら泣くんだ……。
「? 私、まだ何も言ってないけど?」
「俺、フラれるんだろ?」
「誰に?」
「だから、桃子が俺を」
「あのねぇ。私、まだ何も言ってないよ? 本当に水樹は見かけによらず小心者ものなんだから」
「あっ、いつもの桃子だ」
皮肉っぽいことをさらりと口にする。まちがいなく、普段通りの桃子だった。
「私で良かったらお願いします」
すぐには意味がわからなかった。お願いします? 何を?
「ごめん、桃子。もう一回言って」
「もう! はずかしいんだから、何度も言わせないでよ。私で良かったら、おつきあいしてもいいよ、って言ってるの!」
腰に両手をそえ、ぷんと頬をふくらませる彼女。その仕草が、たまらなく愛らしい。
「それって、つまり。お断わりってことじゃなくて、桃子が俺とつきあうってこと……?」
桃子の頬が、みるみる赤く染まっていく。さすがに恥ずかしくなったのか、ぷいっと顔を横に向けた。
「だから、そうだって言ってるでしょ!」
「や……」
「や? 水樹、なに?」
俺の声を聞き取ろうと、桃子が耳を寄せた瞬間。
「や、やった~~!!! マジ、マジで俺と? うわぁぁぁ、ど、どうしょ! あああ、うれしいぃぃぃ!」
「ちょ、水樹。日本語になってないよ? 何言ってるのか全然わかんない」
「桃子、ありがとう! うわぁぁぁ、おまえが女神に思えるぅぅ! いや、ちがう、天使だ!」
どうしよう? うれしすぎて言葉にならない。決め台詞をいっぱい考えてたのに、全部吹っ飛んでしまった。
「ちょっと落ち着きなさいってば!」
桃子に背中をさすられ、ようやくこれは現実なんだと実感する。そう感じたとたん、今度は目に涙がたまってきた。これまでの緊張が一気に溶けていくのを感じる。
「俺、うれしすぎて泣けてくる……」
「今度は泣くの!?」
「だって、だってさ。絶対フラれるって思ってたもん……」
「もぉ! 水樹ってば叫んだり、笑ったり、泣いたりして、まるで子どもみたいね。かわいい」
「かわいいとか言うなよぉ。これでも男なんだってぇ」
「泣くのか、男らしさを主張するのか、どっちかにしてよ」
「そう言われてもぉ……」
一度あふれ出した涙は止まらず、小さな子どものように泣きじゃくる。ああ、情けねぇなぁ。ちっとも男らしくないよ。
「しょうがないなぁ。これなら少しは泣き止める?」
桃子は俺に寄りそうように体を寄せると、さっと俺の手を握った。柔らかくて、少し小さい手。温もりがゆっくりと伝わり、今度は体がかぁっと熱くなる。
「つ、つないでる。俺と桃子の手が! 恋人みたい!」
「だから私と水樹、恋人になるんでしょ? ちがうの?」
「ち、ちがわない! 俺と桃子、こいびと!」
「わかった、わかった。もう話さなくていいよ、水樹。時間はたっぷりあるんだもの。ゆっくりと、おつきあいしていこうよ。ね?」
幼子の手をひく母親のように、桃子は俺を手を握りしめたまま、ゆっくりと歩きだした。
ああ、桃子は俺を選んでくれたんだ。手の温もりが、これは夢じゃない、現実なんだって教えてくれる。
「俺、桃子、大事にする。ぜったい、泣かさない」
「泣いてる水樹に言われてもねぇ。でも嬉しいよ。そこまで喜んでくれると思わなかったから。これからよろしくね、水樹」
「うん、うん、うん」
「もう、いつまで泣いてるのよ? まるで私が、いじめてるみたいじゃない」
桃子は困ったように笑いながら、俺の涙をハンカチで拭いてくれた。
ごめんな、桃子。こんな情けない俺で。でも今だけは泣かせてくれ。うれしくて、うれしくて涙が止まらないんだよ。
こんなに幸せな涙があったのだと喜びにひたりながら、桃子と共に歩いた。
この道が永遠に続きますように、と願いながら。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる