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最終章 あおとみずいろと、あかいろと
わたしの思い
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青葉おじさんと、父の水樹。
ふたりそれぞれの話が終わった。
私を捨てた父と、私を育ててくれたおじさん。
二人には言いたいことはたくさんあったはずなのに、すぐには言葉が出てこなかった。
私は軽く目を閉じ、考えてみた。私もまた自分自身の感情と向き合うことにしたのだ。
考えてみればあたりまえのことだけれど、おじさんと父にも子ども時代や青春期があり、それぞれの人生があったのだ。
私から見れば二人は立派な大人で、特に青葉おじさんは私を守り育ててくれた人だから、昔からずっとおじさんは大人という立派な人間だったんじゃないかという感覚だった。
けれどそんなおじさんにも、悩みや葛藤を抱えた時期があり、過ちや失恋など様々な経験を通して今がある。昔からずっと大人だったというわけでは当然なくて、数々の苦悩を経験してきたのだ。
おじさんにとっては辛い記憶でもあった過去のことを、すべて私に話してくれた。それは私への愛情の証でもあると思う。
おじさんの大きな愛を感じ、改めて胸が熱くなった。
そしておじさんはなぜ私に「お父さん」と呼ばせてくれなかったのかも、やっとわかった気がした。
私が父である水樹と、母である桃子の娘だったからだ。
この世でたったひとりの双子の兄弟である水樹と、初恋の人である桃子。青葉おじさんにとってかけがえのない二人が私の両親であるということを、忘れてほしくなかったのだと思う。それほどおじさんにとって、私の両親は大切な存在だったということなのだろう。
兄妹のいない私には想像でしかないけれど、おじさんらしいなと思った。私を含めた家族を、何より大切にしてくれている人だから。
そんな青葉おじさんと見えない絆でずっと結ばれていたのが、父である水樹だ。
青葉おじさんにずっとコンプレックスを抱えて秘かに悩んでいたけれど、桃子という最愛の女性に出会ったことで水樹の運命は大きく変わっていった。
桃子を青葉に取られたくなくて、少々ずるい手段を使ったりしたようだけれど、それでも私の母である桃子は水樹を選んだ。優しい青葉おじさんではなくて。
母はなぜ水樹を生涯の伴侶に選んだのだろう。今は写真家として活躍してはいるけれど、昔は無名だったわけだから。できることなら、母にその思いを聞いてみたいと思った。けれど母はもうこの世にいない。私を産んで、すぐに亡くなってしまったから。
一度でいいから、桃子お母さんに会ってみたかった……。
これだけは神様を恨みたい気持ちになる。
青葉おじさんと、父である水樹に愛された女性、桃子。
母の思いは聞くことはできないけれど、きっといろんな感情を抱えていたと思う。
そして娘である私の誕生を誰より喜んでくれていたようだ。
母の桃子に愛された男性、それが父である水樹だ。
父は私のことがいらなくなって捨てたのだとずっと思っていたけれど、真相は少し違っていた。
最愛の妻である桃子を突然失い、自暴自棄になってしまった。精神的に病んで心が追い詰められていき、ついにはまだ赤ん坊だった私の首を絞めた。娘の私を天国の母に会わせたかったから、という理由で。
あくまで衝動的な行動だったということは、理解できる気がする。
頭ではわかるけれど、それでも父を許せるかどうかはまた別の話であるように思えた。
亡き妻桃子の願いを叶えるため、父である水樹は写真家になるべく海外に行った。私の養育費を稼ぐためにも、必要なことだったのかもしれない。
それでも私に会いに来たり、手紙や電話で連絡したりすることはできたはずだ。
けれど父は、一度も連絡してこなかった。父と名乗る資格がないからだと思っていたとしても、さすがに薄情すぎる気がする。
青葉おじさんと共に、自分の過去をすべて話してくれた父の思いは嬉しく思う。双子の兄弟である青葉おじさんへの複雑な感情や妻への愛情など、話しにくいこともきちんと伝えてくれた。娘の私を、父なりに想っていてくれたことも知ることができた。
だからこそ、今すぐには父を受け入れらないように思えた。
ゆっくりと目を開くと、私は青葉おじさんと父水樹を見つめた。
「正直にすべて話してくれてありがとう。でも、ごめんなさい。すぐには感情を整理できないです。少し時間をください」
今の私の、正直な思いだった。
私と食卓に向かい合わせの形で座っている父とおじさんが、じっと見つめている。ちょうど横に並んだ形となった青葉おじさんと父は、顔立ちや雰囲気までよく似ていて、やっぱり双子なんだと実感した。
かつての母も、今の私と同じように二人を見ていたのだろう。きっと様々な思いを感じながら。
「長い話を聞かせて悪かったね、朱里。今日は早めに休んで、ゆっくり考えなさい」
青葉おじさんは私を気遣い、優しく声をかけてくれた。
「俺はおまえに許されようとは思ってないよ、朱里。それだけのことをしたからね。でもな、せめて桃子の思いだけは受け入れてほしい。おまえの幸せを誰より願っていたから」
母である桃子の愛情だけは知っておいてほしい。
父はきっとそう伝えたいのだろう。
「私は望まれて生まれてきたのね。それがわかっただけでも嬉しい。話してくれてありがとう」
父の目が大きく見開かれ、やがて少しずつ潤み、そのままうつむいてしまった。
「こっちこそ話を聞いてくれてありがとう、朱里。じっくりゆっくり考えてくれ。俺はまた仕事でこの家を離れるけど、気持ちが落ち着いたら連絡をくれると嬉しい」
「わかった」
本当は、「お父さん」と呼んであげるべきなのかもしれない。
けれども今は、話してくれたことのお礼を伝えるだけで精一杯だった。
ふたりそれぞれの話が終わった。
私を捨てた父と、私を育ててくれたおじさん。
二人には言いたいことはたくさんあったはずなのに、すぐには言葉が出てこなかった。
私は軽く目を閉じ、考えてみた。私もまた自分自身の感情と向き合うことにしたのだ。
考えてみればあたりまえのことだけれど、おじさんと父にも子ども時代や青春期があり、それぞれの人生があったのだ。
私から見れば二人は立派な大人で、特に青葉おじさんは私を守り育ててくれた人だから、昔からずっとおじさんは大人という立派な人間だったんじゃないかという感覚だった。
けれどそんなおじさんにも、悩みや葛藤を抱えた時期があり、過ちや失恋など様々な経験を通して今がある。昔からずっと大人だったというわけでは当然なくて、数々の苦悩を経験してきたのだ。
おじさんにとっては辛い記憶でもあった過去のことを、すべて私に話してくれた。それは私への愛情の証でもあると思う。
おじさんの大きな愛を感じ、改めて胸が熱くなった。
そしておじさんはなぜ私に「お父さん」と呼ばせてくれなかったのかも、やっとわかった気がした。
私が父である水樹と、母である桃子の娘だったからだ。
この世でたったひとりの双子の兄弟である水樹と、初恋の人である桃子。青葉おじさんにとってかけがえのない二人が私の両親であるということを、忘れてほしくなかったのだと思う。それほどおじさんにとって、私の両親は大切な存在だったということなのだろう。
兄妹のいない私には想像でしかないけれど、おじさんらしいなと思った。私を含めた家族を、何より大切にしてくれている人だから。
そんな青葉おじさんと見えない絆でずっと結ばれていたのが、父である水樹だ。
青葉おじさんにずっとコンプレックスを抱えて秘かに悩んでいたけれど、桃子という最愛の女性に出会ったことで水樹の運命は大きく変わっていった。
桃子を青葉に取られたくなくて、少々ずるい手段を使ったりしたようだけれど、それでも私の母である桃子は水樹を選んだ。優しい青葉おじさんではなくて。
母はなぜ水樹を生涯の伴侶に選んだのだろう。今は写真家として活躍してはいるけれど、昔は無名だったわけだから。できることなら、母にその思いを聞いてみたいと思った。けれど母はもうこの世にいない。私を産んで、すぐに亡くなってしまったから。
一度でいいから、桃子お母さんに会ってみたかった……。
これだけは神様を恨みたい気持ちになる。
青葉おじさんと、父である水樹に愛された女性、桃子。
母の思いは聞くことはできないけれど、きっといろんな感情を抱えていたと思う。
そして娘である私の誕生を誰より喜んでくれていたようだ。
母の桃子に愛された男性、それが父である水樹だ。
父は私のことがいらなくなって捨てたのだとずっと思っていたけれど、真相は少し違っていた。
最愛の妻である桃子を突然失い、自暴自棄になってしまった。精神的に病んで心が追い詰められていき、ついにはまだ赤ん坊だった私の首を絞めた。娘の私を天国の母に会わせたかったから、という理由で。
あくまで衝動的な行動だったということは、理解できる気がする。
頭ではわかるけれど、それでも父を許せるかどうかはまた別の話であるように思えた。
亡き妻桃子の願いを叶えるため、父である水樹は写真家になるべく海外に行った。私の養育費を稼ぐためにも、必要なことだったのかもしれない。
それでも私に会いに来たり、手紙や電話で連絡したりすることはできたはずだ。
けれど父は、一度も連絡してこなかった。父と名乗る資格がないからだと思っていたとしても、さすがに薄情すぎる気がする。
青葉おじさんと共に、自分の過去をすべて話してくれた父の思いは嬉しく思う。双子の兄弟である青葉おじさんへの複雑な感情や妻への愛情など、話しにくいこともきちんと伝えてくれた。娘の私を、父なりに想っていてくれたことも知ることができた。
だからこそ、今すぐには父を受け入れらないように思えた。
ゆっくりと目を開くと、私は青葉おじさんと父水樹を見つめた。
「正直にすべて話してくれてありがとう。でも、ごめんなさい。すぐには感情を整理できないです。少し時間をください」
今の私の、正直な思いだった。
私と食卓に向かい合わせの形で座っている父とおじさんが、じっと見つめている。ちょうど横に並んだ形となった青葉おじさんと父は、顔立ちや雰囲気までよく似ていて、やっぱり双子なんだと実感した。
かつての母も、今の私と同じように二人を見ていたのだろう。きっと様々な思いを感じながら。
「長い話を聞かせて悪かったね、朱里。今日は早めに休んで、ゆっくり考えなさい」
青葉おじさんは私を気遣い、優しく声をかけてくれた。
「俺はおまえに許されようとは思ってないよ、朱里。それだけのことをしたからね。でもな、せめて桃子の思いだけは受け入れてほしい。おまえの幸せを誰より願っていたから」
母である桃子の愛情だけは知っておいてほしい。
父はきっとそう伝えたいのだろう。
「私は望まれて生まれてきたのね。それがわかっただけでも嬉しい。話してくれてありがとう」
父の目が大きく見開かれ、やがて少しずつ潤み、そのままうつむいてしまった。
「こっちこそ話を聞いてくれてありがとう、朱里。じっくりゆっくり考えてくれ。俺はまた仕事でこの家を離れるけど、気持ちが落ち着いたら連絡をくれると嬉しい」
「わかった」
本当は、「お父さん」と呼んであげるべきなのかもしれない。
けれども今は、話してくれたことのお礼を伝えるだけで精一杯だった。
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