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最終章 あおとみずいろと、あかいろと
愛と希望と戸惑いと
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自分の部屋でひとりになると、ベッドにごろんと横たわった。
眠かったわけではない。混乱している気持ちを、どうにか落ち着けたかった。
「私、どうしたらいいんだろう……」
おじさんと父の過去の話を聞いたからだろうか。話を聞く前のように、むやみやたらに父を責める気にはなれなかった。私が生まれ、そしておじさんに育てられるまで、いろんな事情があったことがわかったから。
かといって、ずっと離れて暮らしていた父を「お父さん」と呼び、懐く気にはなれない気がした。
理由があったにせよ、十五年もの間、私と会おうとはしなかったのだから。
「私の心が狭いのかな……」
私を実の娘のように可愛がってくれたおじさんの気持ちを思えば、父と和解すべきなんだろう。私と父の間に立たされ、微妙な立場となってしまったおじさんの気持ちを考えると、申し訳なく思ってしまう。
「でもそれって、私の本当の気持ちなの?」
「おじさんのために」って考えることは悪いことじゃない。おじさんのことは今でも大好きだし、育ててくれたことに感謝してるもの。
でもそのために自分の本当の気持ちを押し殺していたら、意味がないんじゃないだろうか? 心の奥底に押し込めた感情は、いつかどこかで爆発してしまうと思うから。
「まず大事なのは私の気持ちだよね」
おじさんと父はすべて話してくれたけど、私に決断を迫ったりはしなかった。それはきっと、私のことを大切に思ってくれているからだ。ふたりの気遣いが嬉しかった。
「考えよう。私はどうしたいのか」
自問自答をくり返しながら、私はゆっくりと目を閉じる。
まぶたに浮かぶのは、おじさんとの穏やかな生活。おじさんに愛されて幸せだったと思う。不満なんて何もない。
けれど心の中では常に感じていた。
「ねぇ、おじさん。私のお母さんはどんな人だったの?」
幼い頃、おじさんに聞いたこともあった。おじさんは少し悲しげな顔をして、こう答えるのだ。
「朱里のお母さんは、明るくて優しい人だったよ。詳しいことは、朱里のお父さんが帰ってきてから聞こうね」
当時は「そうなんだ」としか思わなかった。
けれど、今ならわかる。
おじさんは弟である父の水樹から、娘の私に話をさせたかったのだ。それが私の母である桃子の願いでもあったから。
「お母さんって、どういう人だったんだろう……」
目を開けた私は、ふと呟いた。
おじさんと父の過去の話から、母の桃子は愛情深い人だったことはわかった。それだけわかれば十分かもしれないけど、私はもっと知りたかった。お母さんの思いを。
おじさんや父から見た桃子ではなくて、できることなら母の言葉を聞きたい。
「でも無理だよね。お母さんはもう天国にいるわけだし」
せめておじさんと父以外の人から、お母さんの話を聞けたら……。
だれか、いないだろうか。母のことを知る人が。
「そうだ、おじいちゃんはどうだろう?」
おじさんと父の母親である、おばあちゃんから話を聞けたら一番いいけれど、祖母は私が小学校入学の頃に亡くなってしまった。でもおじいちゃんは生きていて、今は介護施設に暮らしている。
おばあちゃんが亡くなってしばらく経った頃、おじいちゃんは脳梗塞を発症してしまった。なんとか命はとりとめたけど、足腰が不自由になり、施設に入所することになったのだ。
青葉おじさんは、「僕が面倒をみるよ」と伝えたそうだ。でもおじいちゃんが断ったらしい。
「貯えもまだあるし、おれは施設に入ることにするよ。孫の朱里をおまえに託したままで申し訳ないが、どうかよろしく頼む」
おじいちゃんはおじさんに何度も頭を下げ、施設へ入所した。
小学校卒業までは度々面会に行っていたけれど、中学生になってからはあまり会えてなかった。
「お見舞いも兼ねて、おじいちゃんに会いにいこう。お母さんの話が聞けたら嬉しいし」
この先どうすればいいのか、答えはまだ出ていない。
このまま悶々とひとりで考え込むより、少しでも行動したほうがきっといい。
「そうだ、海斗にも話さなきゃ。私のこと、心配してるよね」
本当はすぐにでも海斗に話を聞いてほしかった。
でもまずは自分で考えないといけないって思ったのだ。
私の家族のことなんだもの。父のことはまだ受け入れられてはいないけど。
スマホの画面をタップすると、時刻はすでに10時を回っていた。
「こんな時間に電話したら迷惑かな?」
SNSで電話してもいいかどうか連絡すると、すぐに海斗から電話がかかってきた。
『朱里か? 話し合いはどうだった?』
「うん、あのね。また話が長くなるけど、聞いてくれる?」
『聞くよ、朱里の話ならいくらでも』
海斗の優しさに胸がきゅんと締めつけられながら、ゆっくりと話し始めた。
青葉おじさんと父の水樹、そして母である桃子。三人の不思議な縁と、私の生まれた経緯を。
眠かったわけではない。混乱している気持ちを、どうにか落ち着けたかった。
「私、どうしたらいいんだろう……」
おじさんと父の過去の話を聞いたからだろうか。話を聞く前のように、むやみやたらに父を責める気にはなれなかった。私が生まれ、そしておじさんに育てられるまで、いろんな事情があったことがわかったから。
かといって、ずっと離れて暮らしていた父を「お父さん」と呼び、懐く気にはなれない気がした。
理由があったにせよ、十五年もの間、私と会おうとはしなかったのだから。
「私の心が狭いのかな……」
私を実の娘のように可愛がってくれたおじさんの気持ちを思えば、父と和解すべきなんだろう。私と父の間に立たされ、微妙な立場となってしまったおじさんの気持ちを考えると、申し訳なく思ってしまう。
「でもそれって、私の本当の気持ちなの?」
「おじさんのために」って考えることは悪いことじゃない。おじさんのことは今でも大好きだし、育ててくれたことに感謝してるもの。
でもそのために自分の本当の気持ちを押し殺していたら、意味がないんじゃないだろうか? 心の奥底に押し込めた感情は、いつかどこかで爆発してしまうと思うから。
「まず大事なのは私の気持ちだよね」
おじさんと父はすべて話してくれたけど、私に決断を迫ったりはしなかった。それはきっと、私のことを大切に思ってくれているからだ。ふたりの気遣いが嬉しかった。
「考えよう。私はどうしたいのか」
自問自答をくり返しながら、私はゆっくりと目を閉じる。
まぶたに浮かぶのは、おじさんとの穏やかな生活。おじさんに愛されて幸せだったと思う。不満なんて何もない。
けれど心の中では常に感じていた。
「ねぇ、おじさん。私のお母さんはどんな人だったの?」
幼い頃、おじさんに聞いたこともあった。おじさんは少し悲しげな顔をして、こう答えるのだ。
「朱里のお母さんは、明るくて優しい人だったよ。詳しいことは、朱里のお父さんが帰ってきてから聞こうね」
当時は「そうなんだ」としか思わなかった。
けれど、今ならわかる。
おじさんは弟である父の水樹から、娘の私に話をさせたかったのだ。それが私の母である桃子の願いでもあったから。
「お母さんって、どういう人だったんだろう……」
目を開けた私は、ふと呟いた。
おじさんと父の過去の話から、母の桃子は愛情深い人だったことはわかった。それだけわかれば十分かもしれないけど、私はもっと知りたかった。お母さんの思いを。
おじさんや父から見た桃子ではなくて、できることなら母の言葉を聞きたい。
「でも無理だよね。お母さんはもう天国にいるわけだし」
せめておじさんと父以外の人から、お母さんの話を聞けたら……。
だれか、いないだろうか。母のことを知る人が。
「そうだ、おじいちゃんはどうだろう?」
おじさんと父の母親である、おばあちゃんから話を聞けたら一番いいけれど、祖母は私が小学校入学の頃に亡くなってしまった。でもおじいちゃんは生きていて、今は介護施設に暮らしている。
おばあちゃんが亡くなってしばらく経った頃、おじいちゃんは脳梗塞を発症してしまった。なんとか命はとりとめたけど、足腰が不自由になり、施設に入所することになったのだ。
青葉おじさんは、「僕が面倒をみるよ」と伝えたそうだ。でもおじいちゃんが断ったらしい。
「貯えもまだあるし、おれは施設に入ることにするよ。孫の朱里をおまえに託したままで申し訳ないが、どうかよろしく頼む」
おじいちゃんはおじさんに何度も頭を下げ、施設へ入所した。
小学校卒業までは度々面会に行っていたけれど、中学生になってからはあまり会えてなかった。
「お見舞いも兼ねて、おじいちゃんに会いにいこう。お母さんの話が聞けたら嬉しいし」
この先どうすればいいのか、答えはまだ出ていない。
このまま悶々とひとりで考え込むより、少しでも行動したほうがきっといい。
「そうだ、海斗にも話さなきゃ。私のこと、心配してるよね」
本当はすぐにでも海斗に話を聞いてほしかった。
でもまずは自分で考えないといけないって思ったのだ。
私の家族のことなんだもの。父のことはまだ受け入れられてはいないけど。
スマホの画面をタップすると、時刻はすでに10時を回っていた。
「こんな時間に電話したら迷惑かな?」
SNSで電話してもいいかどうか連絡すると、すぐに海斗から電話がかかってきた。
『朱里か? 話し合いはどうだった?』
「うん、あのね。また話が長くなるけど、聞いてくれる?」
『聞くよ、朱里の話ならいくらでも』
海斗の優しさに胸がきゅんと締めつけられながら、ゆっくりと話し始めた。
青葉おじさんと父の水樹、そして母である桃子。三人の不思議な縁と、私の生まれた経緯を。
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